11 地球温暖化現象と森林
 
    地球温暖化現象と森林(抜粋)       資料:林業技術ハンドブック
                        (森林総合研究所 井上敞雄氏)
                                       
T 炭酸ガス濃度の上昇と気象変動予測
                                       
 ハワイのマウナロアで観測されている大気炭酸ガス(CO2)濃度が最近では年1.3ppm
増加していることが明らかとなり(下図),地球環境での温暖化が指摘されている。
                                       
    大気炭酸ガス濃度の経年推移
  ppm                                    
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   1958   1961   1964   1967   1970   1973   1976   1979   1982   1985   1988年
                                       
 1986年のCO2濃度は345ppmで工業化以前(前世紀)の濃度は約280ppmと推定され,こ
れまでの濃度の増加は約25%とみられている。気温上昇はCO2の温室効果によるが,温
室効果に関与するガスは他にメタン,亜酸化窒素,フロン,オゾンがあり,これらを総
称して温室効果ガスと呼んでいる。温室効果への寄与率は量的に多いCO2が最も大き
い。CO2濃度の上昇は化石燃料の大量消費とともに森林の消失による。現在のCO2放
出が進めば2000年の半ばころにはCO2濃度は工業化前の2倍になると予測されている。
温室効果ガスが現在と同じ増加率で増えつづくことを前提として気候モデルによる気候
変動予測によれば,気温は2030年代に現在より1.5〜3.5℃程度上昇し,上昇の程度は高
緯度ほど大きい。中緯度の多雨帯は北半球で極方向に移動する。海面水位は20〜110p上
昇するとみられている。
                                       
2 炭素のソース・シンクと森林
                                       
 緑色植物は光合成によってCO2を吸収・固定することによってバイオマス量を増やし
て生長する。地球の陸上植物の全バイオマス量は炭素量で約6500億t,その内森林が約
90%を占めている。土壌中の炭素量は約1兆5千億tあり,合わせて生物圏で2兆億t余
りの炭素蓄積量である。この量は大気圏の炭素量が約7千億tなので約3倍となる。海洋
圏は大気圏の約60倍の炭素を貯留している。生物圏と大気圏の間の炭素収支については,
生物圏は光合成によって年500億tの炭素を固定し,吸収と土壌有機物の分解に伴って固
定量とほぼ同じ量の炭素を大気に放出している。ところが最近の研究から,森林が炭素
の放出源(ソース)となっていることが明らかとなってきた。その主な原因が熱帯地域
で進行している森林の消失と考えられている。FAOとUNEPの報告(1981)によれ
ば,毎年1130万haノ熱帯林が消えているという(下表)。
                                       
   熱帯林の年平均減少面積及び減少率 (単位:千ha)
                                       
          国数  閉鎖林  疎 林   合 計
                                       
   熱帯アメリカ 23  4,339  1,272   5,611
             (0.61)  (0.59)     (0.63)
                                       
   熱帯アフリカ 37  1,331  2,345   3,676
             (0.61)   (0.48)     (0.52)
                                       
   熱帯アジア  16  1,826    190   2,016
             (0.60)   (0.61)     (0.60)
                                       
   合計     76  7,496  3,807   11,303
             (0.62)   (0.52)     (0.58)
                                       
 このうち二次林として再生する地域もあるが,無秩序な焼畑耕作や過放牧,燃材採取
などによって農地や放牧地に転用される地域が多い。こうした熱帯林の消失に伴って森
林から放出される炭素量が計算されている。その量は熱帯林の資源量情報に関する不正
確さのために学者によってかなりの幅があるが,おおよそ年間9〜25億tと見積もられて
いる。一方,化石燃料の燃焼によって放出される炭素量は年間50億t余りで,森林と合わ
せて少なくとも60億tの放出量となる。このうち約半量が大気圏のCO2濃度の増分に相
当する。海洋圏における炭素循環については不明な点が多いが,海洋圏が残りの炭素量
をすべて吸収しているとは考えられないことから不明な吸収源(シンク)として大きな
問題となっている。いずれにしても森林は大気CO2濃度上昇にかかわるソースであり,
温暖化をもたらす要因の一つとなっている。
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