08a 森林機能保全:環境保全林
(3)都市周辺地域のゾーニング作業
既存諸計画諸制度を図化し,これに周辺林の機能別分級図を合わせ,さらに各種
参照資料を加えてオーバーレイ(重ね合わせ)作業を行い,類似的な地理的ひろが
りとしてのゾーンを区画する。これは土地類型化区分である。このゾーンは周辺林
の配置ならびに整備に関する諸計画をうけとめる具体的な器であり,そのためのゾ
ーニングである。前述した各種参照資料としては次の各資料の利用が有効であると
思われる。
@土地傾斜区分図
A標高分布図
B植生図(自然・現況)
C人家密集度図
D道路図(現況・計画)
E森林所有形態図
オーバーレイ作業は多種多項目の重合であるために,どうしても作業者の主観が
その結果に反映することが避けられないが,出来得る限り客観的な結果が得られる
ように努力すべきである。
(4)ゾーン周辺林配置整備方針の指定
都市周辺林の配置計画は,ゾーンを区域単位とし,既存諸計画諸制度等これまで
に検討してきた諸資料によって,ゾーン別に周辺林の配置と整備の方針を支持する
までの段階にとどめ,具体的な林分配置地点の指定は地域住民の組織的合意形成,
すなわち話し合いの結果にゆだねられることが現実的である。もちろん,地域住民
の行動と意向調査の結果に基づき周辺林配置の地点を,計画の内容として具体的に
指摘提言することは,話し合いのきっかけを提供する上で有意義である。
(5)周辺林及び緑環境に関する地域住民の行動と意向の調査
周辺林と緑環境に関する地域住民の要望を知るために,住民が日常行っている戸
外レクリエーション行動を調べたり,アンケートにより緑環境意向調査を実施する
等の手法がこれまで行われて,それぞれに成果をあげているが問題がないわけでは
ない。
問題になるのは戸外レクリエーション行動の現況が前述の周辺林配置整備計画に
示された方針と相反するごとき場合である。総合的見地からはレク利用を制限すべ
きであると判断される林分に対し,現在多数のレク利用者が認められるような場合,
現況を是認するのか,それとも,利用制限強化を打ち出すのかと言うことである。
この点については,後者の立場をとりたいと思う。行動調査の結果は周辺林の配置
整備に関して細部にわたり具体的提言を可能にするであろうが,その際,計画の総
合的性格を重視する立場からはゾーン別配置整備方針の大枠を逸脱した提言であっ
てはならないと考えられるからである。
アンケートによる意向調査の場合はその結果の信頼性が問題になることがある。
回答者は彼がおかれている条件(与件)と知り得た諸情報の制約の範囲内で意向を
示すものであるから,おかれた立場と得られた情報が変化すれば回答も変えること
が予想されるのである。以上の諸考察からみて,行動意向調査は周辺林配置整備計
画を補完する意味での役割を果たし得るものと考えられる。
3 森林に関する既存意向調査の諸結果から
森林及び戸外レクリエーションに関する意向調査について,これまでに得られた諸結
果を参照することは有意義であろう。総理府広報室55年7月実施の「森林・林業に対す
る国民の意識調査」のなかから都市周辺林に関係する調査結果をぬきだしてみると以下
の各調査結果が興味をひく。
@居住周辺の森林に対する住民の充足感は,都市規模が小さいところほど高くなる。
すなわち,周辺の緑に住民が満足していることになる。
A森林レクリエーションの目的としては,景観や風景を楽しむという回答が最も多い。
B森林管理の費用を地元が負担している実状は住民に十分に知られているとはいえな
い。
C住民は森林管理費用の一部を受益者として負担しようという気持ちは十分に持って
いるが,自ら森林づくりに参加しようという意向を示す住民は森林所有者を除けば
少ない。
別のアンケート調査結果によれば,都市周辺林を維持管理するため必要な労力と費用
は,行政当局が支持する確実な組織のもとであれば,住民の参加と負担が期待できると
推察されている。
都市周辺林のレクリエーション的利用に関する諸調査は従来,小中学校の父兄を対象
としたものが多いので,その点での限界はあるが,得られた結果から住民の意向をうか
がい知ることができる。これらのアンケート調査結果によれば,住民がレクリエーショ
ン利用のために求める周辺の森林とは,散歩やサイクリングのできるところであり,自
動が安心して遊ぶことのできる場所であり,大きな樹木があって小鳥や昆虫が数多くす
み,清流もみられる自然教育の場としても有用なところであると推定される。
都市周辺林については,以前は他人の所有林であっても遠慮せずに入れたが最近では
とかく所有者の眼が気になって入りにくくなってきているとの声が聞かれる。地域の住
民が入りたいときは誰にも気がねせずに周辺の山林に入れるようにあってほしいもので
ある。
U 環境保全林の管理
(森林総合研究所 谷本丈夫氏)
1 環境保全機能の高い森林とその成立過程
森林の環境保全機能は,その森林を構成している高木性樹種が,多様な場合よりもそ
れぞれの樹種が大きいこと,言い換えれば樹齢が高いこと,ある程度密度を高くし,中
下層の低木,草本類がよく発達して存在すること,そしてこの状態を常に維持するよう
な森林の取り扱いが行われることで高められる。
この意味において頻繁に短伐期皆伐一斉造林による森林造成,あるいは林床に植生の
まったくなくなるような間伐のおくれたヒノキ人工林は,環境保全機能が低くなる。
過密な若・壮齢人工林,おなじく風倒などで一斉更新した天然生林では,しばしば極
端な林冠閉鎖により林床植生が欠除する。しかし,十分に発達した森林の林冠は,樹冠
と樹冠同士は互いに重ならず,風倒などによる枯損で樹冠に穴があくなどして,林内へ
の透過する光が多くなる。こうして林内植生の生育環境が整い,環境保全機能の高い森
林の特徴である樹齢の高い,階層構造の発達した森林が成立する。一方,林冠を形成す
る高木性の樹種が健全な間は,後継樹の発達が悪く,大規模な風倒などによって林冠が
破壊されてはじめて後継樹が育っていく。
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