『ディベートにおけるパラレリズムの重要性』

文責:倉島

パラレリズムとは「物事を並列するときには、同じ種類のものを同じ形で並べる」という修辞上の規則です。たとえば、牛丼の吉野屋のキャッチフレーズである「早い。安い。うまい。」が好例です。このパラレリズムを守ると、ディベーターの考えを効果的に伝達することができます。逆に守らなければ、ジャッジがディベーターの考えを理解しきれず、勝てる試合を落とすことになりかねません。

パラレリズムを守らなければならない理由は主に2つあります。1つ目の理由は記憶のためです。吉野屋の例に見るように、印象が強く頭に残りやすいのです。このため広告のコピーなどではパラレリズムが重要となります。2つ目の理由は理解のためです。話が聞き手の予想通りに進行し、理解しやすいのです。このため、相手に自分の考えを理解してもらうディベートなどではパラレリズムが重要となります。ここでは理解のためのパラレリズムについて説明します。

人は並列されているものを見ると、無意識のうちにパラレリズムを意識して、共通項を探して次に来るものを予測します。その予測と話の展開が一致すると、つまり話の先が読めると、理解しやすいと感じるわけです。しかし、パラレリズムが守られないと、聞き手は予想を裏切られ、一瞬戸惑い、パラレリズムが守られていないことに気づき、自分なりに話を組み立てなければなりません。この一連の思考が、話の流れを阻害し、聴き手の理解を邪魔することになります。

このパラレリズムの効果を、ディベートの立論を例に見てみましょう。日本ディベート評議会(JDA)が主催した1995年第1回JDA日本語ディベート大会決勝戦(論題は「日本の司法制度に陪審制度を導入すべし」)の肯定側第1立論を題材とします。ここで肯定側第1立論を採用したのは、肯定側第1立論はアドリブの部分がほとんどなく、前もって構成を練ってきているはずだからです。つまり、パラレリズムは守られていなければならないからです。

肯定側第1立論をまとめると、以下のようになります。

論点1(現状分析)

A 検察官が自白を強要する

B 裁判官が有罪へ動く

C 多くの免罪がある

D 裁判所の人権保護機能が動作していない

論点2(深刻性)

1 犯罪を守るより冤罪を守るほうが重要である

2 警察が自白を迫ることが問題である

計画

1 日本は刑事裁判に陪審性を導入する

2 陪審員は隔離し、名前を公表しない

3 評決は陪審員12人全員の合意とする

論点3(解決性)

A.1 でっちあげの自白は通用しない

A.2 ミスがあっても裁判官よりましである

A.3 検察官が自白強要をやめる

B 裁判官の考えが変わる

C マスコミの態度が変わる

D すべてを比較して免罪は減る

JDAのディベートでは、フローチャートが取りやすいようにディベータが話の要所ごとに番号を付けるのが習慣のようです。しかし、この番号がパラレリズムを考慮せずに付けられているため、聞いてるほうは混乱してしまいます。

まず論点1ですが、Aの「検察官が自白を強要している」と、Bの「裁判官が有罪へ動く」は並列しますが、この2つと残りの2つ、つまりCの「免罪が多発している」と、Dの「人権が保護されていない」は並列しません。なぜなら、AとBは原因であり、Cは過程であり、Dは結果だからです。聞き手は、最初に原因が2つ来ると、残りも原因だろうと予測するため、3つめ(つまりC)が原因でないことに気づくのが遅れ、Cが何について述べているか一瞬わからなくなります。

論点1では、原因,過程,結果をそれぞれA, B, Cとし、原因をA.1とA.2に分けるのがよいでしょう。つまり下記のような構成になります。

論点1(現状分析)

A.1 検察官が自白を強要する

A.2 裁判官が有罪へ動く

B 多くの免罪がある

C 裁判所の人権保護機能が動作していない

あるいは、「多くの免罪がある」を結果とし、「裁判所の人権保護機能が動作していない」をその言い換えと取って、以下のような構成にすることも可能でしょう。

論点1(現状分析)

A.1 検察官が自白を強要する

A.2 裁判官が有罪へ動く

B 多くの免罪がある:裁判所の人権保護機能が動作していない

次に論点2ですが、1の「犯罪を守るより冤罪を守るほうが重要である」は引用例から何となく深刻性について述べていますが、2の「警察が自白を迫ることが問題である」は深刻性とは無関係で、1と並列することは出来ません。

ここでは「多くの免罪がある:裁判所の人権保護機能が動作していない」ということがいかに深刻であるかを述べなくてはなりません。しかし、オリジナルではこの点について明確に述べていないため、オリジナルをベースにした修正ができません。そこで、仮に以下のように再構成してみました。

論点2(深刻性)

A 犯罪に対する恐怖より冤罪に対する恐怖のほうが大きい

B 冤罪は数多く発生している

次に計画ですが、これは論点1(現状分析),2(深刻性),3(解決性)と並列するものですから、論点3とすべきでしょう。(したがって、解決性が論点4になります。)また、計画の1「日本は刑事裁判に陪審性を導入する」は計画の総論であり、2「陪審員は隔離し、名前を公表しない」と3「評決は陪審員12人全員の合意とする」は各論なので並列できません。つまり2と3はどういう陪審性かを述べているのであり、概要を述べている1とは一緒には述べられないのです。もし、2と3が「大統領性を導入します」というような内容であれば、1と並列できます。以上を考慮すると、以下のように再構成するのがよいでしょう。

論点3(計画)

日本は刑事裁判に陪審性を導入する

A 陪審員は隔離し、名前を公表しない

B 評決は陪審員12人全員の合意とする

つぎにオリジナルで言う論点3(上述のように計画を論点3としたので、以後、オリジナルの論点3は論点4と呼びます)ですが、A.1の「でっちあげの自白は通用しない」とA.2「ミスがあっても裁判官よりまし」とA.3の「検察官が自白強要をやめる」は並列しません。なぜなら、A.2とA.3は陪審性により免罪が減少する根拠ですが、A.1はA.3の理由であり、A.1とA.2は無関係だからです。聞き手はA.1とA.2を聞いた段階で、両者の関連性が見いだせず、Aという分類でディベーターが何を言おうとしているのか分からなくなります。

一方、Bの「裁判官の考えが変わる」とCの「マスコミの態度が変わる」は、免罪が減少する根拠であり、A.2やA.3と並列するものです。しかし、Dの「すべてを比較して免罪は減る」は論点4の総論ですから他のものとは並列しません。

以上、論点4をまとめると、並列するのはA.2,A.3,B,Cですから、以下のように改良するとよいでしょう。

論点4(解決性)

陪審性を導入すれば、以下の4つの理由から免罪は減る

A ミスがあっても裁判官よりましである

B (でっちあげの自白は通用しないので)検察官が自白強要をやめる

C 裁判官の考えが変わる

D マスコミの態度が変わる

最後に細かい話ですが、ナンバリングも混乱を防ぐため「論点(数字) (アルファベット).(数字)」の形で統一しました。

以上のように、パラレリズムを守ると立論が整然と整理でき、理解しやすくなります。特に気をつけなければならないのは、最初の複数は同種類なのにそれ以降が異なる場合です。なぜなら、上述の例でも説明したように、聞き手は最初の部分を聞いて、その後に何が来るか予想してしまい、その予想が外れると自分の頭の中を修正するのに時間と労力がかかり、これが理解を妨げるからです。

皆さんもパラレリズムを守った立論を心掛けるようにしましょう。