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種による攻撃性の違い

|種による攻撃性の違い刺傷被害の発生時期とその原因スズメバチによる集団刺傷被害ハチ刺されと死亡事故

スズメバチの巣では,警戒行動として常に門番(見張り役)のハチが巣穴から周囲を警戒しています.比較的攻撃性が弱いコガタスズメバチでは,静かに巣に接近すれば,1〜2mまで近づいても攻撃してくることはありません.

一方,攻撃性が強いオオスズメバチやキイロスズメバチでは,静かに巣に接近した場合でも,数m〜10m以内に近づくと働きバチによる威嚇や警戒の行動が見られます.

巣に近づきすぎたり軽い刺激を与えると,巣内から多数の働きバチが外に出てきて外皮上に止まり,触角をやや開き,翅を開き気味にした威嚇のポーズをとって歩き回ります.もう少し接近したり強い刺激を与えると,ハチは外皮上や付近を走り回ったり,周辺を飛び回りますが,静かに巣から離れれば興奮もしだいに収まり,2〜5分後には順次巣内に戻ります.

更に巣に近づくと巣から飛び立った働きバチが相手に接近し,体にまとわりつくように周囲を飛び回ったり,相手に狙いをつけて空中で停止(ホバリング)します.その際には”ブンブン”という大きな羽音の他に,大顎を噛み合わせて出す”カチカチ”という大きな威嚇音を出します.

この段階でも静かに巣から離れれば,攻撃を受けずにすみますが,さらに巣に近づいたり,手で払うなど急に体を動かしたりすると一斉に攻撃してきます.ただし,巣へ急に近づいたり,直接強い刺激を加えたような場合には,警戒や威嚇の段階を通り越して,いきなり攻撃してくることがあるので注意が必要です.

スズメバチの巣に対する防御強度(攻撃性の強さ)は種により大きく異なっていますが,いずれの種も巣を刺激しない限り,いきなり攻撃してくることは稀です.オオスズメバチとキイロスズメバチは攻撃性が強く,巣の付近を知らずに通行しただけでも,しばしば刺傷被害が発生しています.秋口に集団刺傷被害の原因となるのも主にこの2種です.

攻撃性の強さは営巣規模と一致しており,一般に営巣規模が大きな種ほど危険です.攻撃性は強い方から,オオスズメバチ ≧ キイロスズメバチ ≧ チャイロスズメバチ ≧ モンスズメバチ ≧ クロスズメバチ > コガタスズメバチ > ヒメスズメバチの順になっています.

オオスズメバチやキイロスズメバチでは,巣に10m程度まで近づくと威嚇行動が見られます.性質が比較的温和なコガタスズメバチでは,2m程度まで近づいても威嚇されることは稀です.

また,巣を刺激した場合の追跡距離は,攻撃性の強い種ほど長く,オオスズメバチとキイロスズメバチでは30m程度,他の種ではそれ以下となっています.スズメバチの飛行速度は種により異なっていますが,通常25〜30Km程度(100mを15秒から12秒で飛ぶ)とされていますが,攻撃時はさらに早いと考えられます.たとえ追跡距離が短い種であっても,走って追跡から逃げ切るのは難しいので,くれぐれも巣を刺激しないよう注意する必要があります.


名古屋市におけるデータでも,刺傷被害の発生率(それぞれの駆除件数に対する被害の発生件数の割合)は,オオスズメバチ 23.7%,キイロスズメバチ 23.6%といずれも高い割合であるのに対して,コガタスズメバチ 7.2%,モンスズメバチ 5.4%,と低く,ヒメスズメバチは 1.8%とさらに低くなっています.

コガタスズメバチは比較的攻撃性が弱く,通常は巣に振動を与えたりして刺激しなければ1〜2m程度まで近づいても攻撃されることはありません.しかし,ひとたび刺激を加えると一斉に攻撃してくるので注意が必要です.ヒメスズメバチは巣を直接刺激しても刺すことはほとんどありませんが,威嚇性が強く体にまとわりつくように周囲を飛び回る習性があります.

ただし,同じ種であっても,コロニーの発達段階,巣への干渉(いたずらなどで投石を受けたり,何らかの理由で刺激を受けた巣),オオスズメバチの飛来(秋口にオオスズメバチが飛来すると,オオスズメバチの集団攻撃に対する警戒心が強まる),女王バチの有無(女王バチが死亡するとしばらくの間巣内の緊張が高まる)などによっては警戒や反撃する行動が高まり,素早い攻撃を加えてくることがあるので注意が必要です.攻撃性の強弱に関与する要因についてまとめると以下のようになります.

いずれの種も巣に物理的な刺激を加えなければ,かなり近くを繰り返し通行してもハチは人間に関心を示さないばかりか,逆に反応を示さなくなることが知られており,営巣場所の状況次第ではハチとの共存も可能です.


● 巣を刺激した場合のコガタスズメバチの反応 ●

2009年10月19日(名古屋市千種区)

巣から1m位の距離から防護服なしで撮影.巣を刺激しないように静かに接近すれば, 攻撃を受ける心配はない. 巣の近くの細枝を1本折ると,振動が巣に 伝わり10頭ほどの働き蜂が警戒のため 巣穴から出てきて外壁に止まっている. さらにはさみを使って枝を取り除くと,多数の 働きバチが 巣穴から 出てきて外壁上を 歩き回ったり,巣の周辺を 飛び回った.

2014年8月6日(愛知県稲沢市)

巣を刺激する前(9時17分)

巣を刺激した状態:多数の働きバチが巣の表面を歩き回る(9時18分) ほとんどの蜂が巣の内部に戻った(9時21分)