『ワクモ考(2)…(薬剤耐性の見直し)』



今のところ鳥フル問題は影を潜めて居る。人間の居るところ、そして鶏の居るところ、病気の絶える事はないが、噂だけでは<羹にこりて膾を吹く>類いの情報もないではない。しかし茨城事件では文字通り日本中が懲りた。サーベイランスも各地方に特定の検査抗原を配っただけでは、無数に存在するとみられる自然株の動向に対応出来るものではない。九牛の一毛に大騒ぎする愚は茨城だけで沢山である。問題の《3点セット》も、家禽の斃死をともなう疾病は無数に存在するから、そこにそのウイルスが介在しただけで発症は別物かも分からない。摘発しようにも抜け道は幾らでもあるわけで、届けがあっても地方家保の段階までで、そこでシークェンスを論じても仕方がない。そんなわけで我が国の清浄国論も当分存続するのだろう。

ワクモの問題が各地に拡がり皆対策に困惑している。大量に吸血するワクモは、鶏を貧血させ生産を減じ、死に至らしめるだけでなく、いつかの話題のリケッチャーなどの伝播者としても危険視されかねないからその対策は現場の急務でもある。基本的にワクモに対する薬剤は残効性のあるものでなくては効かない。その点が隠れ場所の多い現場と実験室内の試験結果が大違いになる所以である。

例えは違うが人間のほうでも、過去の遺物とみられたマクロライドなどの古い抗生物質が見直されて来て居る。どこの医院でもニューキノロンやセフェムなどの新型の抗菌剤は備えて居るが、テトラサイクリンやクロラムフェニコールなどは処方してくれない。それで死亡率1%未満のツツガムシやオーム病にやられてしまうことがある。

害虫の薬剤耐性は常に現場でみられるが同じように10年も経つとまた効き出す例が多いので一度試して見る必要がある。植木に群がる小蝿に全く効かなくなった筈のDDVPがまた効き出して驚いたことがある。  有効な殺虫剤に耐過した少数のワクモはケージのCリングの間などに潜り込みなかなか発見されない。外国の文献などではダンボール片を置いて誘引して調べるとあるが、それよりもガムテープを至るところに<軽く>張り付けて置くのが良い。誘引効果は抜群であり、虫卵も同時に数えることが出来る。

具体例を一つ。1000羽位の解放ケージ舎にワクモが大発生した。天敵とおぼしき蜘蛛は無数にいる。一見不潔そのものの蜘蛛の巣の中にワクモは見られない。木造の隙間部分も蝿取り蜘蛛類のテリトリーだ。餌箱や内壁に張ったマーカーのガムテープ1平方センチあたり平均20匹程度の捕虫数だからやはり大発生である。内壁のいたるところに直径数センチのコロニーを作り白い粘液を出してバリアーを築いて天敵と殺虫剤を防いで居る。

直ちに給餌と集卵を中止、鶏群は軽い強換状態として床に消石灰を散布してバリゾン(カーバメイト)を動墳で噴霧し翌朝調査。Cリング、コロニーの中には薬剤は全く浸透していない。ワクモは真っ赤に吸血している。そこで一時全く効かなくなったネグホンに界面活性剤を加えて粘着性を出し、200倍の溶液で肩掛け噴霧器で、Cリングとコロニーを重点的に噴霧、これを数日置きに繰り返すことで、モニター内のワクモも殆ど見られなくなった。無論これは少羽数の農家向け対策であってウインドーレスなどでは通用しない。しかし基本的な考え方としては通じる部分もあると思われる。それが表題の薬剤耐性の見直しについてだ。国内でも鳥飼い病といわれるオーム熱やマラリアなどこれから増えていくだろうし旧式の抗生剤や、一旦耐性の出来たピリメサミン、キニーネなどの見直しも大切である。<人→人>のない感染症4類だって馬鹿には出来ない。鳥フルだけではないだろう。

H18,9,14 篠原養鶏場  篠原一郎



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