感覚統合訓練

お子さんが、「感覚統合訓練」を実際に受けたことがある人は、結構いるのではないでしょうか。アメリカのエアーズという人が創始者なのですが、「学習障害」研究の流れの中で、"感覚"に着目したのは素晴らしいことだと思います。障害児の訓練施設には、必ずこの施設があるはずです。

対象となるのは、次のような子ども達です。

  1. ことばの遅れた子ども
  2. 体の不自由な子ども
  3. 自閉的な子ども

感覚の訓練だから、は当然です。でも、のことは、よくぞ気づいてくれた! と、感激してしまいます。

ところで、私の子供は、ちゃんとした施設で訓練を受けたわけではありません。対象からはずされてしまったので、私が自宅でやりました。というのは、私自身の経験から、"感覚"の重要性が、それこそ"感覚的に"解っていたからです。とはいえ、しろうとが「感覚統合訓練」の一般論を述べるわけにもいかないので、私がテキストに使った

絵でわかる「障害児を育てる感覚統合法」 坂本龍生著/日本文化科学社

を全面的に宣伝することにします。絵が豊富なのが一番ですが、説明も十分にわかりやすくて、たいへん参考になりました。(今、書店に行けば他にも良い本があるかもしれません。)

対象児ひとりひとり違っているので、具体的なことはそういう本を読むなり、作業療法士の方に聞いて下さい。さしあたって、大事な点を項目だけ拾って見ます。

感覚統合に失敗している子どもとは?

  1. 落ち着きがなく動きが激しい
  2. 不器用である
  3. ことばの発達の遅れ
  4. 触られるのをいやがる
  5. 恐れや不安
  6. 感覚に対する反応の弱さ
  7. 学習障害

感覚統合にねざした感覚運動指導の視点と指導過程

聴覚処理過程・身体意識・両側の協調・微細運動コントロール・運動企画・眼球のコントロール・運動知覚・触知覚・視空間知覚

感覚運動指導上の一般的配慮事項

  1. 子どもが自分の力を精いっぱい使ってやれる遊びや活動を見つける
  2. 根気よく適切な準備をする
  3. 感覚統合遊びは子どもに楽しいものでなくてはならない
  4. 子どもの気持ちをフィードバックする
  5. 感覚統合的な指導が効果をおさめると、子どもは感覚からの情報を前よりうまく、あまり迷わず処理できるようになる

その他の重要なポイント

  1. 子どもが自分の身の周りのことを知るために、触覚と運動の関係を軽視してはならない。
  2. 子どもは、自分に不足している感覚体験を欲しがる。子どもの感覚的要求を、気を引こうとか見せびらかしているというように、マイナス理解しないこと。
  3. 訓練が子どもの能力を越えないように注意すること。
  4. 成長や学習や行動のまとまりに結びつくような脳の変化は、積極的な関わりから生じるので、子ども自身が積極的に参加できるものにすること。

特に、「自閉児」の場合の留意点は。

  1. 指導の導入期において、指導者は対象児とのラポートをとり、信頼関係を形成する。
  2. 対象児の発達段階に応じた指導内容・活動を用意する。
  3. 多動な子どもには活動空間を制限することにより、活動にまとまりを持たせる。
  4. 運動企画が高まるにつれて、一つの活動の中に多様な感覚刺激を与える。
  5. 数種の運動課題を与える場合、子どもにとって、それらが一つひとつの途切れた運動とならないように、できる限り連続性、一連の流れとなるように遊具や課題を設定する。
  6. 言語発達の基礎行動を育てる。(「もの」のやりとり行動を促す・注視すること・指差しの理解とその使用・模倣行動・見立て遊び・ごっこ遊び)
  7. 自閉児は特定の刺激を好み、それに固執する傾向もあるので、同じ感覚であっても、刺激の質や量を他動的に変えたり、時には、積極的に別の行動・遊びに誘う働きかけをする。
  8. 自閉児の指導は行動改善に時間を要する。
  9. 触覚系・前庭系で過反応(過敏反応)を示す自閉児の方が、低反応(鈍い反応)を示す自閉児よりも指導効果が大きい。
  10. 感覚系の改善過程と運動・言語・社会性などの行動系の改善課程は、必ずしも直線的相関関係を示さない。そのため、行動改善を図るための個々の技能(スキル)の指導を意図的に行う必要がある。
  11. 行動改善の過程において、感覚調整・反射統合・運動協調というような側面よりは、まず感情表現・要求表現・対人関係の改善が見られることが多いため、子どもの個々の部分を分析的にとらえるとともに、常に子どもを全体的に把握する。

解らない人には、ちんぷんかんぷんだって? う〜ん、これを読んで思い当たるところのない人は、専門家に任せたほうがいいかも? 生兵法はケガのもとですから。


かと言って、これで終わってしまうのは、あまりにも無責任なので、実際に我が家でやったものを、挙げてみます。ちなみに、やった時期は、小学校一年生です。

ボールプール・スポンジバス・ラージボール・ビーズ遊び・トランポリン・ハンモックブランコ・ボルスター・くすぐり・マットでぐるぐる巻き・トンネルくぐり・はしご

他に、「ムーブメントセラピー」からですが。

ボール遊び・リボン・ロープ・ねんど遊び・ブロック遊び

その中で、完全に我が家の日常生活に溶け込んでしまった物を紹介します。

トランポリン

もともと、しょっちゅうピョンコピョンコ跳ねていた(特に、「うれしい」という意味の言葉でした)ので、すぐに馴染みました。ただし、これでリズム感を身につけさせようという思わくは、すぐ挫折しました。

ハンモックブランコ

登山用品店でハンモックを入手し、天井から吊るして作りました。初めは、ぐるぐる回したり、訓練めいたこともしましたが、中に座布団をひいて以来、ただのブランコと化しました。

ラージボール

これは、主婦の友社の通販「トマトマ」で扱っている商品で、今では他の用途でも宣伝しているものです。体の上に転がして圧迫刺激を与えたり、ボールの上に立たせたり、いろんな訓練法があります。意外なことに、これはイスとして健常児にも大好評で、今では「ペンギンくらぶ」のPlayRoomに七つ転がっています。そのまま座る子、ソファーにする子、新しいゲームを考え出す子と、さまざまな使われ方をしています。

ボールプール・スポンジプール・タオル

今までの三つが、男の子全員にとっても魅力的な遊具になったのとは違い、これは、我が家のタイプの「自閉児」の必需品とも言えるものです。普通のビニールプールに、直径7センチくらいのボールをいっぱいいれたものがボールプールです。スポンジプールの方は、アンパンマンの絵の既製品がありました(売れ残っていた)ので、そのまま使いました。これらの中に埋もれてボーっとするのは、小学校低学年くらいまで息子の日課でした。

訓練でマットの代わりにタオルでぐるぐる巻きにしたのをきっかけに、よくタオルを引っ張り出しては自主的にミノムシ状態になっていたので、くるまり専用タオルを買い与えました。こちらの方は、中学年になってもやっていました。

これらのものは、触覚が敏感で触れられるのを嫌がり、身体感覚がつかめていない「自閉児」には、必要な刺激です。原理は、テンプルさんの「締めつけ機」と同じものです。

触覚−身体感覚−運動というつながりは、一連の訓練の中心とも言えるものです。私の息子がこの刺激を喜んだのは、この感覚が最も不足していたわけです。ただし、「自閉児」全般に広く触覚のトラブルがあるからかといって、みんな全く同じ訓練が有効だとは限りません。ご注意下さい。

ここで、もうひとつとっても大事なのは、これで「何かが・出来るように・なる」のが目的ではない、ということです。一番大きい収穫は、「お母さんと一緒の時間」と「信頼関係」だったと思います。そして、普通の子らしくなったと言うよりも、自己コントロールができるようになり、友達といることが苦にならなくなったということです。

ただ、こういう面白いものがたくさんあるというので、近所とクラスの男の子が集まるようになったのは、予想外の誤算でしたけれど…。


それから、これは「感覚統合訓練」とは関係ありませんが、感覚の話なのでついでに…。

「自閉症スペクトル障害者」の視覚の特性については、ドナさんもテンプルさんも取り上げています。蛍光灯の波長が見えてしまうので、OO社のナントカいうメガネがいいとか。なるほど、私も目の検査を何度もして、遠視で乱視で斜視で弱視ということで、めちゃめちゃ高いメガネをいくつも作りました。そのメガネはパソコンやゲームをやる時には重宝していますが、普段はどうもしっくりいかない。もっとも、触覚的にもあまり気持ちの良いものではない。ところが、外出する時に「花粉防止用のメガネ」をしていると、とっても楽なのです。

その謎が解けました。私の目は上の理由の為に、奥行きがなかったんです。「花粉防止用のメガネ」には、紫外線防止の効果もあって、余計な光線をカットしてくれます。それで、奥行きが見えるようになったのだと思います。


               

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