「自閉症」の本質と症状についての私見
[原因」 知覚・認知などの脳機能障害による発達障害。
[診断の基準となる特徴]
- 「かかわり(社会的相互作用)」の障害・・・孤立型・受動型・積極奇異型・一匹オオカミ型
- 「コミュニケーション」の障害・・・言語的非言語的コミュニケーションの使用と理解の障害
- 「こだわり」の強さと想像力の障害・・・同一性の保持や決まり事への固執・反復性
[合併しやすい症状」 さまざまな組合せで、異なる臨床像が有り得る。
- 知覚の異常(視覚・聴覚・触覚・臭覚・味覚に過敏または鈍感)
- 不随意運動(奇妙な常同運動)
- 前庭刺激(揺れ・回転・前後上下の加速)に対する異常な反応/回転する.ものを好む
- エコラリア(反響言語)・エコプラクシア(反響動作):無意味・無目的な模倣行動
- 不安神経症的症状:慢性的な不安状態とパニック発作
- 恐怖症的症状:特定のものや場面に対する不合理な恐怖心
- 強迫神経症的症状:強迫的な行動や観念にとらわれる傾向
- ヒステリー的症状:癇癪を起こしやすい、ストレスを身体症状に転換しやすい傾向
- 抑うつ神経症的症状:神経不安による激しい気分の変調
- 注意力の持続の偏り・興味関心の狭さ
- 特殊(サヴァン)能力:すぐれた視空間能力や機械的記憶
- 状況認知能力の低さ:状況にそぐわない行動や思慮分別に欠ける発言
[合併しやすいその他の障害]
- てんかん
- 精神発達遅滞
- 発達性言語障害
- 注意欠陥障害
- 発達性協調運動障害
- チック障害
- 自傷・他傷・抜毛といった衝動制御の障害
- 選択的緘黙症
- 摂食障害
- 睡眠障害
- 排泄障害
[治療教育]
- 母子関係や養育上の問題のためではなく、これらの「基本的な障害」特性の為に情動的な応答ができず情動調律が正常になされない。
- 従って、「基本的な障害」にいち早く気づいて、一人一人の症状に応じた発達支援をできるだけ早期に行う必要がある。
- しかし、合併する神経症的症状やその他の合併症が多い為に、その対応に追われがちになってしまう傾向がある。
- 「基本的な障害」を受容することで関係性の改善をはかり、「基本的な障害」のために生じている「関係性の障害」を最小限に食い止めることができる。
- 「心的外傷による適応障害」や「精神障害」といった、二次的な障害に発展させないことが重要。
[精神病理]
- 自己の身体的境界や自我境界(自他の区別)を持たない、生来の「自閉」状態である。
- 個体を環境や集団に適応させる主体となる、自我基盤が脆弱である。
- 自我の統合機能が低下しているので、場面や必要に応じた人格が形成されにくい。
- 本来、一時的・部分的なものであるはずの同一化(感情の共有)や退行(抑圧された自己の解放)が、全人格に波及してしまう。
- 葛藤が生じた時に、調整しコントロールする能力が弱い。
- 主観的・心的な現実と、客観的・実在的な現実との境界が曖昧である。
参考図書
『自閉症スペクトル』−親と専門家のためのガイドブック− /ローナ・ウイング著
『自閉症の発達精神病理と治療』 /小林隆児著
『心の臨床家のための精神医学ハンドブック』/小此木啓吾・深津千賀子・大野裕編
『DSM−4 精神疾患の分類と診断の手引き』