Rover MGF1.8iVVC (5MT) 1996年4月
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ユーノス・ロードスターをもろに意識したスペック(重量だけは100kg以上重いけれど)。ミッドシップという,クルマ好きの心をくすぐるレイアウト。金城埠頭のポートメッセで開かれた輸入車ショウでは,展示台の上に置かれて車内を見ることすら満足にできなかったMGF(もっとも,パープル・メタリックのボディーカラーはいまいちでしたが)。MGひさびさのニューモデルということで,イギリス本国では予約が殺到したという話を聞くと,期待感はいやがうえにも高まります。
現物を目の前にすると,スタイリッシュというよりは,まるっとした可愛らしい印象。赤い内外装色が,可愛らしさを増幅しています。ユーノスより35mm幅が狭く,25mmだけ背が高いというスペックから想像するより,はるかにちんまりとして見えました。「うーん,自分の好みより,かなり腰高な感じだなあ。でも本場イギリスのライトウエイトスポーツなんだから,乗ってみなけりゃ始まらないな」と思いつつ,シートに納まってまた「え?」。
想像していたよりもずっとシートが分厚く,着座位置が高いのです。ソフトトップは下ろしてありましたから,肩から上が車外に出てしまう感じ。ユーノスに較べると,ウィンドシールドの傾斜が強いこととあいまって,座高が少々高めの友人など,「窓枠が視界に入ってしまう」と文句を言います。イギリス人の標準的な体型って,さぞかし手長・足長・短胴なんでしょうね…。ベルトラインが高めの上に,さらに高く座るのですから,地を這うような…というスポーツカーのイメージからは程遠いものがあります。
試乗コースの最初は交通量の多い幹線道路。ステアリングは特に過敏でなく,自然な感じで走り出せました。シートが分厚いためか,ペダルは上から踏み降ろすようなかたちになります。言ってみれば乗用車感覚。特別な感動もない代わり,運転するにあたっての違和感もありません。ただ,そうした操作系のレイアウトは,ヒールアンドトゥには不向きなようです。視点が高いため,視界がよくて走りやすいのはメリットです(私の場合は友人と違って,窓のフレームが視野をさえぎることはありませんでした)。
ところで,この項を書こうとしてカタログを掘り出し,はじめて気がついてしまいました。試乗したのがノーマルの1.8iではなく,可変バルタイの1.8iVVCだったことに…。たしかに赤いレザーとファブリックのコンビネーションのシートでしたから,ハイパワー版の1.8iVVCの方に違いないようなんです。つまり…もうお分かりですよね。145PSという割には,あまり力強さが感じられなかったということです。フルスロットルも与えてみましたが,加速感は自分のユーノス1600と大差ない感じでした。出力重量比からすれば,驚くにはあたらないのですが(MGF1.8iVVC=7.65kg/ps ユーノス1600=7.92kg/ps)。良く言えば,必要にして十分なパワーということ。あくまでも「ライトウエイトスポーツ」なんですね。
でも,背後からエンジン音が聞こえてくるというのは,やっぱり格別です。音質・音量ともまずまず。スロットルを思いきり開ければ,それなりに昂ぶります。メーターのレイアウトはシンプルで見やすく,エアバグ内蔵のステアリングパッドは当時としては小ぶりで,こうしたセンスは,さすがにヨーロッパ製のスポーツカーの名に恥じません。自分は特別に「欲しい」とは思いませんでしたが,こういうのもありなんだなァといった印象でした。
近頃,街中を走るMGFを見る機会が多くなりました。路上に溢れている国産スポーティカーとは,一味違うデザイン感覚は,やはり目を引きます。機会があったら,軽く峠を走ってみたいと思ってしまいますから,それなりの魅力を秘めていることは,確かなようです。