2.1 Q5'er で得られる選択度
この Q5'er では fi = 50kHz 等と低いですが、その目的は大きい隣接周波数の減衰度を得るもので、拙ホームページ別項の「五球スーパーの製作」「6.2 複同調回路」に記した選択度の計算を引用すると・・・・
単同調回路を重ね合わせても、同調周波数前後がシャープになるだけで裾の特性は余り改善されません。 そこで帯域幅を確保しながら裾野を改善するように考案されたのが複同調回路です。 単同調回路を2個電磁的に結合させて、最も選択度が高く、減衰が少ない臨界結合状態での減衰度は、下記式で求まります。
Acc (db) = 20LOG10{(1+2*(ΔF/F * Q)**4)/2} 但しQ は共振回路の鋭さ・・・
上記の式にて、fi が小ならば周波数変位 ΔF も小となり、単純に高い選択度が得られるものです。
50kHz の中間周波一段増幅による帯域幅と減衰度は、実際には1kHz 離調で -20db 、5kHz 離調で -60db 程度が得られ、SSBF (単側帯波電話用フィルタ) よりやや狭い感じの、-6db 幅が 500Hz 程度の CWF (電信用フィルタ) の数倍といった感じの角の取れた帯域幅となり、急峻なフィルタ固有の共鳴音 (リンギング) が少なく、 CWF よりすこし混信は増えても聴きやすいものです。
2.2 どこまでもつきまとうイメージ信号と混変調とその対策
ここで標準放送の中波帯にて、直接 fi=50kHz の Q5'er を IF 回路として使う
RF amp. なしのスーパー受信機を仮定してどのような事になるかを想定してみます。 Freq conv. 入力の単同調回路では 2fi=100kHz 離れた信号の減衰度は、
A(db) = 20LOG10{(1+2*(ΔF/F * Q)**2)/2} 但し Q は共振回路の鋭さ・・・
から F=600kHz, ΔF=100kHz, Q=100 として求めると、約 -46db 〜約 1/200 となります。 実際に同じような単同調回路を使っている並四の例では、例えば 594kHz の NHK1(=N1) の放送内容のスピーチが中断すると、すき間に 693kHz の NHK2(=N2) の放送内容が聞えて邪魔になります。 また使用するコイルのアンテナ・コイルと同調コイルとを密結合すると、計算の減衰度よりも低下する可能性があります。
これを fi=50kHz のスーパー受信機にあてはめると、Freq conv. 入力同調回路を N1 に同調し、50kHz 増しの 644kHz の Loc osc. を当てると N1 の fi が発生し、同時に 49kHz 上の N2 も裾野によるイメージ信号として並四同様に約 1/200 にて混信する訳です。
また、上記とは別に 50kHz (前後) 離れた二局の電波があると、Freq conv. 回路にて周波数差の混変調を起こし、信号が重なった fi を作り出します。 {初期の中波帯スーパー受信機では、増幅素子として三極管しかなかった事情もあり、安定に増幅するために fi=80kHz あたりと低くせざるを得なかったのですが、その後多極管も現われ 175kHz・・・高周波増幅を加えれば何とかなる周波数・・・その後、直接の周波数変換でも問題の起きない、比較的高い fi=455kHz またはその前後と変遷したのです。}
これらの現象の発生可能性はどのような Frcv にも付いて回ります。 fi が固定されている限り軽減策はクリコンと同様に Frcv 選択度の向上あるのみで、Freq conv. 入力を複同調回路化するか、同調 RF amp. 追加が望ましい訳です。
2.3 第一 IF の選択度と Q5'er の一般的適合性
上記では中波帯での fi=50kHz と仮定した RF amp. なしスーパー受信機でのイメージ信号例および混変調例を説明しました。 実は上記と全く同様な状態が第一 IF にも発生する訳です。
Q5'er を適用する親受信機の IF 構成を、単同調一個の fi= 455kHz とすれば上記例の F=600kHz が 455kHz となるだけで大差ありません。 従って親受信機の IF 構成が単一コイル二個による一段増幅または複同調 IFT 一個 (増幅なし) の構成でも実際上はまだ不足であり、中間周波一段増幅による複同調 IFT を二個通過させる位の減衰度が必要です。
一方全く別件ですが、10.7MHz の帯域幅 20kHz FM 用フィルタの先に Q5'er を併用しようと検討したことがあります。 所が意外にもその種のフィルタは、一般には通過帯域外の減衰が -60db 程度であり、前記の100kHz 離調に限らず全通過帯域外に +60db の信号があれば、同じ強さで混信することになり、その混信は Q5'er の入力に既に含まれており Q5'er では取り除けないのです!!。
このような高い周波数では 455kHz などとは異なり、L/C フィルタでは隣接周波数は簡単に減衰しないから、過剰仕様であっても同一仕様のフィルタを併用したIF アンプを二段重ねる方が簡単に通過帯域外の減衰を100db 程度に上げられ Q5'er は適用余地なしと判定しました。
ということで、Q5'er 適用可能親受信機の条件は自動的に決まります。
2.4 BFO の扱い
Q5'er にも BFO (ビート周波数発振回路) が必要ではないか?と、疑問を持たれるかもしれませんが、実際には親受信機の fi=455kHz で BFO を動作させている場合にはビート込みの 455kHz 信号そのままが Q5'er で変換〜増幅〜検波されるので必要ありません。 但し親受信機に BFO が無い場合に CW を聴くには必要ですから、Q5'er の Freq conv. 回路に 455kHz の BFO 回路を付属させます。 本文「4.5.4 BFO 回路の追加〜その自作」に詳細を記します。
2.5 電源と配置上の留意点
Q5'er 運用の自由度を考慮して電源組み込みとしました。 Q5'er の IFT は低い周波数でLが大きく、コイルの巻数が多く、電源トランスのコイルと軸方向が一致するとハムが発生します。 電源トランスから十分離すか取り付け方向に留意が必要です。 (並四や高一、五球スーパーでも、高周波コイル類をヘタに配置し電源トランスに接近するとハムが出ます。)
Q5'er の回路図を下記に示します。 電源の回路図と部品表は例によって作りませんが、追試験される方はご容赦ください。 また部品等の配置は写真にて示した通りです。
親受信機には、予め AF-OUT (検波音声出力)、AF-IN (音声入力)、IF-OUT
( IF 出力) のピンジャック等の端子を装備してあることが前提です。 Q5'er 動作中の一時中止を考慮し、Q5'er 側に親受信機の AF-OUT を、直接親受信機の AF-IN に戻す直接スイッチを装備します。 このスイッチは Q5'er の
Power off 時には直接側にセットします。
CW を受信する場合、親受信機の BFO ピッチが高過ぎまたは低過ぎではその信号が Q5'er の帯域に入らないので、BFO の Fosc を fi に対して 800Hz 位に調整して目的信号に同調し Q5'er に切り替えた際にその信号が浮き上がるようにします。
以前、自作スーパーヘテロダイン受信機にて Q5'er を実験した際には、同一シャーシに配置して 455kHz 出力を直接 Freq conv. 段のグリッドに入力したので、特段の問題はありませんでした。 今回は親受信機の外付け形態なので(第一) IF 信号の出力信号ケーブルによる親受信機からの出しと Q5'er 側の受け、Q5'er からの音声出力の返しと親受信機側の受け、切り替え等に関連した少々のトラブルがあり、親受信機側の整備も必要となりました。
但し、本件はあくまでも親受信機側にて対処すべき課題であるため、処置方法等の詳細は別項の自作通信型受信機の整備 (2) 中の「3.1.3 Q5'er 併用のインタフェース整備」を参照願います。
ここまでの記述から、 Q5'er には特段の操作は不必要とお判り頂けたと思いますが、電源の on/off および Q5'er 検波出力/親受信機検波出力ダイレクト、の切り替えしかありません。 一般には混信がひどい場合に on します。
5.2 Loc osc. コイル
Freq conv. 回路にて 405kHz または 505kHz の Loc osc. を行うコイルですが、昔むかしは BFO コイルと言う IFT の半分みたいな CW (電信) 受信用の可変コア入り 455kHz 発振コイルが売られていたので、それを利用しました。 裸のコイルとケース入りとがありますが中味は同じです。 同調キャパシタを増やすか減らすかして周波数を調整すれば終りです。
実は BFO コイルがなくてもうまい方法があります。 筆者はしばしば真空管式 BFO 回路にトランジスタ・ラジオ用の単同調 IFT、またはコア入りのアンテナ・コイルを活用しています。 すなわち同調したホット側を発振管グリッドに接続し、ローインピーダンス側を発振管カソードに接続してハートレー発振回路を構成し、アンテナ・コイルの場合は適宜キャパシタを並列に加えコアを回して 455kHz 近辺に持って行けば完了です。 この場合二次側の巻線の方向によっては発振しないので、何れかのコイル端子を逆にしてみます。 Q5'er の Loc osc. では更に 100pF 程度のキャパシタを並列に加えコアを回して405kHz に持って行けば完了です。
周波数が不明の IFT 等は、筆者は取り付ける前に FET 等で試験的に組んだハートレイ発振回路にて発振させ、信号検出機兼周波数計として長波付きシンセサイザ・ラジオにて基本波を検出するか中波にて二次高調波を受信し、Fosc=同調周波数を確認しています。
なお上記の代用 455kHz IFT を 1000pF/150pF 程度に変更して周波数を下げたC可変コルピッツ発振回路もトライ余地があります。 この場合も大きい固定Cをコールド側に持っていきます。
5.3 50kHz IFT 〜その自作
筆者が使用したは IFT はトリオ製の型番なしの 30mm x 30mm のものです。 50kHz IFT と段間用〜検波用の識別 A/B のゴム印?しかありません。 取説はとっくに紛失していて詳細仕様は不明ですが、何れにしても
455kHz IFT のインピーダンスと大差はなさそうです。 というのは 50kHz が 455kHz の 1/9 で、L/C ともに 9倍の値を持てば同調できる・・・ということです。 IFT ケースのサイズの制限からみると L の大きさには限界があるので、L は x9 より小、C は大とした可能性があります。
Q5'er 用 IFT の入手は絶望的でしょう。 たとえあったとしても躊躇せざるを得ない価格かもしれません。 そこで自作余地を検討して見ます。 CW フィルタよりローコストにて自作できれば十分に製作・利用価値があります。 また fi = 50kHz に固執する必然性は全くなく 55kHz でも 80kHz でも・・・高くすれば次第に選択度は甘くなりますが・・・それなりに効果は期待できます。 低い方は問題が多いので 50kHz 当りが限界でしょう。
筆者が ST 管四球スーパー用に試作・実装した市販 1mH インダクタ+120pF 可変キャパシタの組み合わせによる455kHz IFT と同様に、例えば 10mH インダクタ +1000pF とすれば 50kHz 近辺に同調するので、1000pF+50pF トリマー並列として、ラグ板一個に二同調回路を載せ、これを二個作れば一組の IFT が完成しそうです。
課題は二つのインダクタの結合方法ですが、 455kHz IFT の場合とは本質的に変わらない筈で、二つのインダクタの向きを並べてみたり、角を突き合わせたり、一直線にしたりして、ゲインと選択度の両立する結合方法を実験的に求めるしかありません。 筆者が試作・実装した鼓型コアのインダクタによる 455kHz IFT の場合は直角配置、角突き合わせ状態にて良好な動作を得ました。
5.4 BFO 回路の追加〜その自作
親受信機に BFO が無い場合、Q5'er に組み込んでカバーしましょう。 上記の「Loc osc. コイル」と同じ、入手可能な 455kHz IFT 利用が手軽です。 適当な三極管または FET にてハートレー発振回路を構成し、小型バリコンまたはバリキャップを並列にして、ビートのピッチを可変にします。 固定でも使えないことはありませんが、CW の混信がひどい場合に好きなピッチにて「耳同調」するためには可変が便利です。 可変範囲が狭すぎると不便、広すぎると操作がクリティカルです。
小容量バリコンの容量が大きすぎて可変範囲が広い場合には、直列に適宜キャパシタを挿入して減らしたり、カソード/ソースに接続するローインピーダンス側のコイルに接続してタップダウン効果を得ることができます。
Freq conv. 回路への結合は BFO 回路のホット側=グリッドまたはゲートから数 pF の微小キャパシタ・・・単線のビニール線等を撚りあわせたもの・・・で Freq conv. 管のグリッド (G3) に結合して、ビートが強すぎで微弱な信号が消し飛ぶようならば結合を弱く・・・撚り合わせ長さを短く、ビートが弱すぎなら結合を強く・・・撚り合わせ長さを長くします。 親受信機からの IF 出力方法がリンク方式であれば、逆に BFO 信号がケーブルを戻って、Q5'er が非使用状態であっても親受信機側で使えそうですね。
その他 BFO on-off の供給電源スイッチを追加しておしまいです。