超三結アンプ試作報告

2007/03-2017/05 宇多 弘

1.いまだに中間報告です
 1996年以来、筆者は色々な球と一部の石について、上條 信一氏の発案・実装された超三極管接続回路(略して超三結回路、または超三回路)による超三結アンプとその類似回路、拡張回路の試作試験を重ねてきました。
 最初は多極管による超三結 V3 回路(バージョン 3) を、次いで V1 回路(バージョン1) 、類似変型回路の SRPP の上ユニットを終段プレートに接続した 「P-G NFB 併用 SRPP ドリブン回路」を試し、V1 回路パラレル・シングルを試しました。 さらに電圧増幅回路および帰還管回路を並列に分離した、カソードフォロワ・ドライブ段のプレートを終段プレートに接続した B-G NFB 併用の自称「準超三結回路」を試し、それのプッシュプルし、さらにそれを G2 ドリブン回路やら G1G2 ドリブン回路に応用し、G2-G1G2 ドリブン・プッシュプルへ応用しました。 さらに終段出力管をパワー Tr に置き換えた「タマリントン」回路による超三結回路、それを重ねた超三結 SEPP/OTL 回路に発展しました。
 このような過程にて「そろそろ超三結アンプの結論を出したらどう?」とのご意見を戴きました。 試作を開始した初期から、とにかく種類をコナして適用可能性を確認したい・・・との方針でした。 しかし正直に申しますとまだ多くの課題が残っており、その解明が終っていないのが実態です。 とはいうものの、試験対象の手持ち球もそろそろ終りに近づき、類似回路やら拡張回路を含めて「超三結」族アンプ全体をナントカ見渡せる状態に至ったかな?とも考え、これまでの結果整理も必要であり、一旦区切りを付けた「中間報告」として本文を記述した次第です。

2.なぜ多種類の球と一部の石を試したか?
 上條 信一氏のバージョン1を原形とした超三結アンプ(または超三アンプ)を、筆者は多種類の球について、我ながら「気違いじみているな」と思い、また「よく飽きないね」と冷やかされながら、次々と試作して動作確認しました。 初期の目標は、とにかく多種の出力管について適用可能性を調べることでした。 多種をカバーすれば、例えば筆者が「この球は超三結アンプに使えますか?」との質問を受けた場合、試作していなければ「使える筈です。」と自信があっても確答を避けますが、試作していれば「使えます、作例もあります。」と断言できるからです。
 さらに、例えば「拙」ホームページを御覧になった方が、ご自分の手持ち球に対して先行例の記載が無い場合には「この球では超三結の追試験ができないかも」と諦めるのでは大変残念であり、もし先行例があって「とにかくやってみよう」ならば、より円滑に進展するとも考えました。 始めて実験する際には先行例があるのとないのとでは雲泥の差、先行例=適用性の実証例であり最も説得性を持つものと考えました。 そこで可能な限りの多種の出力管等につき、試作例個々の性能追求等よりも動作試験例の網羅を優先した訳です。 
 正直に申しまして、筆者が超三結回路に着手する以前に試作経験した多数のアンプの一部は、浅野 勇 氏の「魅惑の真空管アンプ」に示された作例、それに武末 数馬 氏による各種の参考書等に示された作例を参考しており、これらからどれだけ筆者の試作モチベーションが鼓舞されたことでしょう。
 初期には動作確認が終わって写真を撮り動作例一覧表に記入して 30分にて分解し、次の試作に転用したなど極端な例すらありました。 この経験が後のユニバーサル化に反映され、特段の試験環境を試作せずにまたは若干の改造などにより、新たに手にした出力管の動作確認が可能になりました。 今後は、未カバーの各管種、それに各種パワーTr/パワーMOSFET につき、できるだけカバーしていきたいと考えています。

3.どんな球と石を試したか?

3.1 多極出力管
 最初に恐るおそるトライしたのが 1996年初夏の 807 の V3 (バージョン 3) シングルでした。 直結が怖くて V1 に挑戦する自信がなかったのです。 平行して製作した普通の UL 接続シングルの音に比べてやや誇張されているが、それまでに聴いたことのないようなクリアーな音でビックリしました。 さっそく 6Y6G/6Y6GT の V3 を作って再現性の高いことを確認しました。
 次いで直結の 6V6GT V1 を作り、怖い直結に目を瞑ってパワー on しました。 初段動作電圧確保のための「嵩上げ」電圧+終段バイアス電圧を発生するための抵抗値の設定方法について「一般原則」が確立されていた状態になく、サンプルとして上條 信一氏の 6BM8 超三結アンプ例から逆算して、初段には 45V 以上を供給し通常の五極管のバイアス電圧の15V 程度を加え60V 程度以上を確保するような、終段のカソード電流値に従った抵抗値とするならば、一応の動作が得られる筈と勝手な原則を設定しました。
 この原則〜「嵩上げ+終段バイアス抵抗値設定方法」がミゴトに的中、矢継ぎ早に 6LR8, 6Y6G/6Y6GT, 6BM8 各 V1 をクリアー、次いで 6BQ5, EL34, 6L6GB, 1619, 38 などもクリアー、さらに大型管の KT88, 6550 を加え、また SG 供給電圧を加減すれば簡単に実用化できる水平偏向出力管の 6CU6, 6DQ6-A/B 一派と大形管の 6KG6 (EL509), 6JS6C, 6CL5, 12E1 等のほか、低電圧動作を含むミニチュア管、映像増幅管、一部の送信管も同様にして取り込みました。

3.2 三極出力管
 次には、三極出力管に挑戦しました。 バイアスが深めで多極管のように素直に電圧調整に応じない性質があり、嵩上げ電圧+終段バイアス電圧の接続点から初段へ動作電圧を供給して安定化するなどの試行錯誤を経て 12B4A, 1626, 6G-A4, 6R-A8, 6EW7 等の V1 をクリアーしました。 μが少なくバイアスの深い三極出力管を直結構成するには、B 電源を高く設定するか、別途に用意するなどの問題が併発します。 従って単一電源にて簡潔に回路構成するには、低μ管を使ったカソードフォロワ段に P-G NFB を兼ねさせて C/R 結合にした準超三結回路 (Semi-STC, 略して SS) の方がむしろ実用的であると判定しました。
 また、以前に試作試験した三極出力管を対象とした P-G NFB 併用 SRPP ドリブン回路は、ある程度の超三結の効果が得られるけれど準超三結回路には及ばす、別種の「類似回路」に分類して(純または準)超三結回路の分類からは除外しましたが、従来回路に比べて手軽にある程度の超三結効果が得られます。

3.3 パワーTr/パワーMOS FET
 田中 安彦氏が紹介して下さった「タマ(球)リントン回路」とは、電圧増幅三極管によるカソード・フォロワ・ドライバーのカソード回路をバイポーラ・パワートランジスタ (Tr) のベースに直接接続し、ドライバーのプレートはパワーTr のコレクタに接続した、「球〜石によるダーリントン」回路のことです。 詳しくは本文 10.3 タマリントン回路 (これも準超三結回路そのもの) をご参照ください。 田中 氏によるタマリントン原形の素子組みあわせ例では、ドライバー管は 12AX7 パラレル、終段はオーディオ用パワーTr 2SC4029/2SC5200 でした。
 追実験の結果、タマリントン回路では三極管ドライバーの電流安定性が高いため、パワーTr のベース電流が安定に保たれ、特段の保護回路なしでパワーTr による準超三結シングル・アンプが構成できることが判りました。 但しドライバを動作させるにはある程度以上の供給電圧が必要であり、必然的に終段は高電圧小電流動作となります。 そのような動作では高い出力インピーダンスとなり、出力トランスによるマッチングが必要です。 一般の真空管用出力トランスそのまま利用したのではインピーダンスが高すぎなので、SG タップを利用したり並列接続にてマッチングさせながら許容最大電流を増やしてカバーしました。
 さらにドライバー管として 6DJ8/2, 12AT7/2, 6AQ8/2, 12AU7/2, 12AY7/2, 5687/2, 7044/2 等の双三極管について、印加する Ebb/Vcc およびそれに見合うコレクタ電流 (Ic) の調整のため、ドライバーのカソード回路に挿入したバイアス設定抵抗 (Rk) を色々加減して、各管種ごとに適正な Ebb/Vcc および Ic〜Rk の範囲を見つけました。 また水平偏向出力用パワーTr 2SC3486 に適するドライバー管は、とりあえず 12AU7/2 が適と判定しました。
 このようにしてタマリントン超三結アンプに味をしめ、2SC4029/2SC5200 によるタマリントン・エミッタフォロワ SEPP/OTL アンプの試作を経てタマリントン超三結 SEPP/OTL アンプを二年近く掛けて実用化しました。 このアンプの完成にて懸案の真空管式超三結 SEPP/OTL 試作実験計画はとりやめにしました。 さらに数あるオーディオ用パワーTr 、水平偏向出力用パワーTr にも上記例が応用できそうですが、個別の計画・調整過程が必要そうです。
 パワーMOS FET の超三結アンプ化は準備中ですが、とりあえず単純な抵抗分割ドレーン/ゲート負帰還回路で様子を見ると、五極出力管の準超三結アンプ回路に準じる他、カソード・フォロワ・ドライバー等にて入力容量問題を解決すれば、殆ど問題点は残らないと考えられます・・・(2009/01:改訂第四版)。 この課題につき 2SK3689-01 超三結 V1 (2016/07) にて試作・確認し本ホームページに掲載し、今回本文を改訂しました。

4.出力管のおおまかなグループ化
 多数の出力管による超三結アンプの試作を進める間に、大抵の多極出力管は類似の性能をもつ下記のグループに分類できることに気が付きました。

   (1) 小形オーディオ出力管 (例:6BQ5 等、 Ep=Esg 動作)
   (2) 小形水平偏向出力管  (例:6DQ6-B 等、Ep>Esg 動作)
   (3) 大形オーディオ出力管 (例:EL34 等、 Ep=Esg 動作)
   (4) 大形水平偏向出力管  (例:6JS6C 等、Ep>Esg 動作)
   (5) マイナーグループ   (映像増幅管, 低 B電圧動作管, 三極五極管,
                6.3V 以外のヒーター電圧による相当管等)
 大抵の出力管は上記の何処かに属します。 例えば Ip の少ない 6F6GT は (1) グループ、6CD6-GA は (2)、Pp の大きい 6L6-GC は (3) グループに属します。 このような「グルーピング」が見えて、試作アンプの計画時点にて上記 (1)〜(4) に含まれる多数の出力管を挿し換えて適用性試験をこなせる環境を作り込み、色々な出力管を挿し換えて運用できる「ユニバーサル・アンプ」、ないしは音質や雑音の有無など点検・確認しながら動作点の個体チェック等ができる「チューブチェッカー・アンプ」とするのが通例になりました。 その場合のアンプ仕様上の制限は、下記のようになります。

   (A) 挿し換える出力管は 6.3V 管に限定し、ヒーター電源は二本分のヒーター電流を供給できること、
   (B) 出力トランスの一次側の許容電流値が挿し換える出力管のプレート電流を収容できること、
   (C) B電源の電流容量は、挿し換える二本分の出力管プレート電流を供給できること、
   (D) 二次側タップ選択にてマッチングできること。 

 なお水平偏向出力管では前記 (2) (4) を一括扱いできる場合もありました。

 (5) のマイナーグループは、それぞれのなかでのグルーピングがある程度可能で、映像増幅管の 6CL6/6197/6AG7 特定グループ対応アンプ、三極五極管の 6AW8A/6R-HP3/6HZ8 特定グループ挿し換え対応アンプとした例もあります。 但し、如何せん一般には母集団が小さくて無理にユニバーサル化しても「労多くして功すくなし」です。 さらに直熱管または 6.3V 以外のヒーター電圧のものは切り替え操作の煩雑さ、その誤操作による事故等を考慮して除外したいです。 また 6BM8, 6LR8 のように同類のない出力管は、それだけが対象の個別対応のアンプとせざるを得ませんでした。(2007.03)

 しかしながら過度にユニバーサル化を進めた結果、アダプタ着装による挿し換えの外観の悪さ〜稼働率の伸び悩みもあり、多種の水平偏向出力管族に対しては接続口金別のグループ分けアンプに分散するなど、リバウンド現象を起こしつつあります。(2007.11) 

5.超三結回路の特徴は?
 本超三結回路の概要・特徴は、本ホームページに記載の別項「超三結アンプ概要」に示した通りです。 本回路を詳しく解析した結果、電力増幅出力中の電圧成分を P-G NFB にて抑制したアンプであり、電流アンプに近い性格の音を持つことが判り、動作的にはミスマッチ・アンプと判定しました。
 超三結アンプでは、決して電流アンプのような高い出力インピーダンスを持つ訳ではなく、P-G NFB によって通常の名目インピーダンスに近い値にあるスピーカ負荷では過小負荷による相当なミスマッチ状態にあり、そのために出力をある程度犠牲にしています。 例えばフルレンジ・スピーカを負荷とする場合では、低音域の f0 近辺のインピーダンス上昇および周波数に従い徐々に上がる高音域のインピーダンス上昇に対して、終段に掛かる P-G NFB 量が相対的に減少するために出力が大きくなり、ドンシャリ傾向になります。 マルチウェイ・スピーカであっても、低域および高域のインピーダンス正規化がなければ同様に持ち上がります。
 この点では中音域のインピーダンスに整合するように作られた一般的な伝統的回路による電圧アンプの場合、低音域および高音域のインピーダンス上昇がミスマッチを招いて出力が低下してカマボコ特性となるに比較して、逆の傾向です。 また P-G NFB 量を適量に加減できれば、ドンシャリ傾向を抑えながら、且つカマボコ特性よりも高低端を改善できる訳でもあります。 この特徴は出力インピーダンスが十分に低く設定されていない管球式 OTL アンプもドンシャリ傾向であって似ています。 おそらく超三結アンプを比較・試聴されたのでしょうか、「貧乏人の OTL アンプ」と表現された方は音質の共通性・類似性をみごとに把握されています。 したがって高級なネットワークにてインピーダンスを正規化したスピーカ・システムの場合には、超三結アンプは一般の電圧アンプと同様にフラットに反応します。

6.超三結回路効果?とは
 ここで「超三結回路効果」または「超三結効果」という下記概念を導入しました。

  (1) 特定の球の無帰還アンプ、および同球の超三結アンプとの、聴感上の音質の「相対的・定性的比較」です。
  (2) 異なる球による超三結アンプ同志の、相対的な「おおまかな超三結効果の定量的比較」にも適用します。

 例えば各球 (およびそのグループ) の構造・性能値およびそれから出てくる音=「超三結回路効果」との相関についても定性的に把握しようという考えが浮かび、どの程度の超三結回路効果が得られるかを、おおよそ予測できるようにもなりました。 たとえば A 管種の超三結アンプ より B 管種の超三結アンプの方が超三結効果が高い(と聴感上判定される)等の概念です。
 本来、再生装置の聴感上の音質は、観測(試聴)母集団が「好ましい」との反応程度とその比率にて評価すべきでしょうから、筆者一人ではとても超三結効果を順位立てするのは困難です。 それに加えて、すべての超三結アンプに同一の出力トランスを着装し負荷インピーダンスを調整し、理想状態の電源を供給した訳でもありません。 それであっても超三結アンプを試聴して「好ましい」とご感想を下さる方、試作してメールにて「やりました!」とご報告下さる方が多数居られるという事実があるからこそ、「好ましい」と感じる傾向にあるものと考えて超三結回路の「効果」と筆者が定義したもの、とお断りしておきます。

7.各種超三結アンプの音質傾向と超三結効果
 あくまでも筆者の独断によるものですが、出力管等のの構造・性能別の超三結 V1 または準超三結についてのシングルアンプによる超三結効果の傾向 (7.1)、さらに回路構成別の音質傾向および超三結効果の傾向 (7.2) を下記のように把握しています。 ただし初段回路、動作点および併用トランス、使用するスピーカなどによって相当に変化しうることをお含みおき下さい。

7.1 出力管等の素子別音質傾向

● 三極管 (三極管接続)
 μの低い電力増幅三極管では電圧ゲインが低く、多極管のような深い P-G NFB は掛けられませんが相当の超三結効果が認められます。 また低μの電圧帰還管を使って NFB を深くする方法もあります。 2A3, 300B の準超三結アンプ例では適量の NFB には 12AU7/2 が適合しますが、無帰還アンプに慣れた方からは低音不足とのご指摘を戴きました。 さらに低μの 12B4A による電圧帰還管ではむしろ過制動となりました。 一方、終段管のμがある程度確保できる 6BQ5 (三極管接続) (μ=19) では 12AU7/2 の電圧帰還管にて、また 6AC5GT (μ=58) では 12BH7A/2 の電圧帰還管にて相当の効果が認められました。 

● 五極管
 純粋の五極管による超三結 V1 アンプ例について何種類も試験しましたが、旧型に属する出力管では新型管に比べて超三結効果が不十分な感じであり、また結構その球の個性が残りました。 しかしながらそれらが超三結 V1 アンプに適さないという訳ではありません。 少なくとも一般の三極管、または当該球を三極管接続して超三結アンプとするよりは効果的でした。 筆者が試作試験した範囲で、個人的な好みに合ったものは Gm が高い 30A5, 12BY7A, 6BM8, 6BQ5, EL34 の各管種でした。

● ビーム管
 一般にビーム管は本来の素性が良いらしく、裸の五極管とそれを超三結化したものと比べて、超三結化の差が少なく感じられます。 しかも超三結化してもなおビーム管特有の「甘さ」が若干残ります。 この傾向は古典的なビーム管、近代的なオーディオ管、テレビ用水平偏向出力管ともに共通です。 しかしながら、それが超三結 V1 アンプに不適当と言う理由ではありません。 特に直熱管の 1619 では他の球にはない個性的な音が得られました。
 また水平偏向出力管の場合はオーディオ管に比べて若干大きいドライブ電圧振幅を要し、総合ゲインがやや不足するとともに出力に残る電圧振幅が大きく超三結効果はやや少なく作りにくい面がありますが、それだけにパリッとした音で捨て難い味があります。 ただし大出力を得る場合は、ドライブ電圧が少なくて済むオーディオ管の並列接続が実用的と考えます。 

● パワー BJT/MOSFET
 パワー BJT (バイポーラ・トランジスタ) による「タマリントン」準超三結アンプは 2SC4029/2SC5200, 2SC3486 二種のみの試作ですが、その音は五極管超三結アンプに類似で、出力トランスを併用したにもかかわらず、出力管にはないレンジ感と迫力を兼ね備えて、Tr アンプに一歩近い音が得られました。 タマリントン超三結 SEPP/OTL では Tr アンプの音に近いものとなりました。
 パワー MOSFET の準超三結アンプは未実験ですが、おそらくパワー BJT または高 Gm 五極管に類似の超三結効果が得られるものと推定しています・・・(2009/01:改訂第四版)。 この課題は 2SK3689-01 超三結 V1 (2016/07) にて試作カバーし、予想通りの結果を得ました。

7.2 回路構成別の音質傾向

● 超三結シングル
 伝統回路によるアンプと同様に、シングルでは前記「7.1 出力管等の素子別音質傾向」がありました。 何れもシングルアンプ共通の傾向でした。 

● 超三結パラ・シングル
 何種類かの多極管について超三結 V1 回路のパラ・シングルを試しました。 素子個体差と調整不足も加担して、やや散漫な印象の音質にて超三結 V1 回路の特徴が薄れました。

● 超三結プッシュプル
 何種類かの多極管についての準超三結 PP アンプ、一部 G2 ドリブンおよび G1G2 ドリブン準超三結 PP を試しました。 パラ・シングルと同様に、素子個体差と調整不足も加担してシングルに比較して若干散漫な印象を免れませんでした。

● 超三結 SEPP
 以前に計画していた出力管による超三結 SEPP の実験は 2SC4029/2SC5200 の真空管ドライブによる「タマリントン」回路にて、エミッタ共通 SEPP/OTL (C-B NFB 併用のコレクタ負荷 SEPP/OTL) が実現しました。 その後約半年の実用試験を経て十分な実用性が確認でき、出力管による超三結 SEPP/OTL の試作実験は中止しました。 

8.スピーカとの相性
 試作超三結アンプにて種々のスピーカを鳴らす機会がありました。 例えば、10cm〜20cm フルレンジ、カーステレオ用同軸 2way、発泡プラスティック平板型、低能率〜高品質 2way、各種多様な 3way、大型同軸 2way、ホール用大型高能率 3way などで動作試験を重ねました。 勿論、アンプ VS. スピーカのすべての組み合わせを網羅した訳ではありませんが。 家庭内で家人からクレームが出ない音量ならば大抵のスピーカは 6BM8 等の小型出力管でも十分です。 KT88/6550 級の超三結アンプならば、大出力半導体アンプを必要とすると言われるスピーカでも10人位の部屋ならば十分使え、劇場用高能率スピーカならホールにて十分に鳴らせることを確認しました。

9.構成上の改善余地および要注意点

9.1 初段〜電圧帰還管の構成と音質
 一電源にて簡潔な回路構成ができるメリットがあるものの、まだ完全にクリアーしていないのが初段〜電圧帰還管部分の課題です。 特に FET 初段では印加電圧による音質の変化があり、トライ&エラーから抜け出していない状態です。 また FET 初段ではバイポーラ Tr 初段のような直流負帰還をかけないと、季節変動などの温度安定性に若干の問題を残すようです。 そこで筆者は温度安定性確保のために部品点数が増える半導体初段を嫌って、真空管初段に傾いた訳です。
 さらに初段〜電圧帰還管を無理に直列構成として終段と直結にした V1 回路では、簡易な回路ながらも初段の動作電圧が不足しがちになるとの問題点を感じています。 B電源電圧を高く設定してこれを解決すると、終段カソードに挿入のより高い「嵩上げ電圧」が発生して電力ロスが増えます。 となれば、 むしろ純粋な電圧増幅回路および電圧帰還管回路とを分離して、後者は終段プレートに接続されたカソードフォロワとして「球〜球ダーリントン接続」の C/R 結合ドライブとした準超三結回路が動作的に無理がなく、電圧帰還管〜終段管の組み合わせおよび調整の自由度も高く、より作り易い回路になると感じています。

9.2 三極五極複合管を初段〜電圧帰還管に使用する場合
 それぞれのカソードが分離された三極五極複合管を一本使用して、初段管および電圧帰還管として利用する場合には、注意が必要です。 一般的な高周波用の口金接続 (Basing Diagram) が 9AE タイプの 6U8A/6EA8/6GH8A 等の極五極管、またはそれらのヒーター電圧が異なる相当管では、三極部のプレートおよび五極部第一グリッドが隣り合っています。 超三結 V1 回路にて三極部を電圧帰還管として使用する場合、または準超三結回路にて三極部をカソードフォロワ・ドライバ兼電圧帰還管として使用する場合に、100kHz オーダーでの高周波発振を起こし易く、発振防止対策が必要となります。(2008/03)

 発振回避策または発振防止対策としては、下記が挙げられますが (1) が確実です。
(1) たとえば 6AU6 + 12AX7/2 など五極管および三極管を別のもので構成する。
(2) 三極部を別の電圧増幅三極管に移動、または五極部を別の電圧増幅五極管に移動して分離する。
(3) 三極部・五極部が隔離された管種 (例えば 6AW8-A 口金接続=9DX 等) に接続変更する。
(4) そのままの構成で発振防止対策をとる場合 (ただし試作例では抑制しきれない場合がありました。)
   初段入力加減 VR の値を 5kΩなど少なく設定。 但し CD プレーヤ等は下限を 10kΩとしている。
   初段管グリッド G1 を 50pF 程度のCで接地して、フェライトビーズを通して入力する。 
   終段管 G1 に〜1kΩ程度までのRを直列に挿入し、フェライトビーズを通して入力する。
   終段管 P (プレート) に 20Ω程度までのRを直列に挿入し、フェライトビーズを通して出力する。

10.超三結アンプは昔からあった?
 超三結アンプは「昔からあった」とおっしゃる方がおられました。 それが本当なら、筆者が学生時代だった半世紀前またはその後でも、関係雑誌などに紹介され、皆さんが盛んに追試験した筈だけど、そのような記憶は全くにありません。 そこで「根拠とか具体例を示せ」と迫ったら、ムニャムニャ・・・と無回答でした。 さらに家に帰って種々の類似回路図やらメモをヒックリ返して、下記に超三結アンプと関係のありそうな事例を整理してみました。 また下記以外にも、結果的にまたは試行錯誤により(準) 超三結回路を構成した実験例は十分に存在し得ます。 そのような訳で「昔からあった」説は否定も肯定もできません。

10.1 ラーメン帰還などの類似例 (超三結アンプには含まれない)
 1940年代以後の、終段に P-G NFB を施した回路例を雑誌の回路図および参考書などから調べると、

(1) 古くは入力トランス結合によるプッシュ・プル終段回路の各々の出力管の P-G 間に C/R にて局所 NFB を施した例、
(2) 五球スーパーの終段プレートから 500kΩ等の高抵抗にて低周波増幅段のプレートに戻す所謂「ラーメン帰還」、
   ・・・リップル・ハムが増えて嫌われました。
(3) 更にマルチ NFB の一部として「ラーメン帰還」を併用した例が、見つかりました。

 但しいずれの例も C/R の定数などから推定する限り R 値が相当に大きいので、NFB としては浅く期待効果は「音質調整の範囲」とみてとれます。 従って回路図としては超三結アンプに若干似ているけど、終段ゲインが圧縮される深い P-G NFB 効果をねらった超三結アンプには該当しません。

10.2 準超三結回路そのもの!
 この例は明らかに筆者が定義した準超三結回路そのものです。 筆者は同一の回路にて実験しているのでまちがいなしと認識しました。 ただし本情報一切は伝聞によるもので、筆者は情報提供者、実験者を明らかにできない立場です。 しかも実験したアンプ名および実験時期は聞き漏らしました。  
 その話の概要とは・・・・ある方が、伝統回路構成の「電圧増幅段+カソードフォロワ・ドライブ段+終段」によるシングル・アンプを素材として、B電源にて吊った通常のカソードフォロワ・ドライバのプレート回路を、終段プレートに接続変更した回路すなわち「球球ダーリントン回路」にて、得られたダイナミックな音質を楽しんでおられた・・・・という事なのです。 ただし実験時期が不明であり、上條氏による超三結アンプの記事発表の前か後かも不明、「昔から」とも「後に発生」とも定義はできません。

10.3 タマリントン回路 (これも準超三結回路そのもの)
 この回路は、田中 安彦氏が学生の頃考案し、学友と一緒に実験されたとか・・・相当前の事と伺いました。 ただし、タマリントン回路が氏により一般公開されたのは 1998年頃でした。 田中氏が行ったタマリントン回路の実験目的は真空管 (球) 〜トランジスタ (Tr) の合成回路にあったとも考えられますが、結果的には「球石ダーリントン回路」=電流ドライブによる準超三結回路を構成していました。 上條氏は当然以前から実験されていた筈だけど、MJ 誌1991 年 5月号に超三結アンプ記事を発表された時点を基準にすれば、田中氏のタマリントン回路が先行していたことになりましょう。 筆者の想像ですが、タマリントン回路実験では下記のステップを経て完成したのでしょうか。 

(1) 発想:
 パワー Tr を電圧増幅三極管のカソード・フォロワにてドライブする。 すなわちパワー Tr のベース電流にカソード・フォロワのカソード電流を利用する訳で、初期はドライブ段のプレート回路はナマ B に接続したのかな、と思われます。 まさに終段を電流ドライブする 6N6-G76-6AC5GT 等の所謂ダイレクト・カップルド・チューブ一族の回路構成に酷似です。

(2) 改良:
 電圧増幅三極管+パワー Tr によるダーリントン構成とする。 ドライブ段のプレート回路をパワー Tr のコレクタに接続すると、球〜Tr のダーリントン構成となり、これを「タマリントン回路」と名付けたようです。 ドライバのプレート電圧に終段のコレクタ電圧がかかり、それがカソード電流に反映されて、コレクタ〜ベース NFB (C-B NFB) 回路も同時に構成されます。

 タマリントン回路では電流ベースの C-B NFB、球球ダーリントン回路による準超三結回路では電圧ベース P-G NFB、という相違はあるけど、NFB 効果は類似であり、タマリントン回路はレッキとした超三結回路の仲間です。 いずれも深い C-B/P-G NFB による「超三結効果」が得られます。

11.とにかく聴いてみないことには・・・・
 超三結アンプの場合、回路図からでは出てくる音は直ちに想像できないかもしれません。 ミスマッチによる負荷のインピーダンス・カーブに沿って強調された音は、ロフティン・ホワイト回路など、通常の直結アンプの音とは全く異なる傾向の音です。 始めて聴いた方は「何だコレは!」が超三結アンプの音の特徴でしょう。 実際に試作および試聴をお勧めする理由は、実にこの点にあります。 また超三結アンプの音はカソードフォロワ・アンプと類似らしいのですが、実験した方の感想によると「必ずしも同じ音ではなく、超三結アンプが勝っている」とのことです。
 超三結アンプの設計・製作・調整法の総論・詳細については、本ホームページに記載の別項「超三極管接続回路方式によるアンプの実装法考察」をご参照いただき、またそれぞれの超三結アンプ製作例は個々のページをご参照いただきたく存じます。

以上

改訂記録
2007/03:初版
2007/11:改訂第一版:「10.超三結アンプは昔からあった?」を追加、文章表現を訂正、冗長部分削除。
2008/02:改訂第二版:「10.超三結アンプは昔からあった?」他を追加訂正。
2008/03:改訂第三版:「9.2 三極五極複合管を初段〜電圧帰還管に使用する場合」を追加。
2009/01:改訂第四版:「3.3 パワーTr/パワーMOSFET」に超三結 SEPP/OTL アンプを追加記述。
2017/05:改訂第五版:「3.3 パワーTr/パワーMOSFET」に 2SK3689-01 超三結 V1 を追加記述。