超三極管接続回路方式によるアンプの実装法考察 (revision 4)

http://www2u.biglobe.ne.jp/~hu_amp/amput32.htm
2008/03/31(rev4.4) 宇多 弘

    目次 (二分割しました。 本文は後半です。)

第一部 動作原理および総論 (前半です。クリック願います)

1 始めに
 1.1 超三結アンプ事始め
 1.2 本文の記述および改訂経過
 1.3 超三結 V1 の定義 rev4.0 改訂部分
 1.4 回路動作の詳細 rev4.3 改訂部分
 1.5 ストッピング・ダイオードとリニアライザ
 1.6 超三結アンプのバリエーションとスピーカ対応
 1.7 超三結アンプの再現性および信頼性の課題 rev4.3 改訂部分

第二部 実装と調整 (本文です)

2 実験の過程、結果および考察
 2.1 製作・実験例 (Rev 3.10 追加)
 2.2 結果の評価
 2.3 多極管への適用
 2.4 三極管への適用

3 調整法と課題
 3.1 終段のバイアス調整法
 3.2 回路上の問題点
 3.3 バイアスが深い場合の前段への配慮
 3.4 初段回路〜電圧帰還管回路の組み合わせ rev4.4 改訂部分
 3.5 三極管超三結アンプの再検討と工夫余地 rev4.1 改訂部分


2 実験の過程、結果および考察

 本編では、超三結 V1 アンプの実装に必要な電圧配分等の課題、および重要な直結部分の調整を主に記述しました。(〜Rev 3)
 また三極管の超三結アンプの実装に挑戦して、以前の実験より効果の高い回路例を追加記述しました。2001/7/31(rev4.1) 


2.1 製作・実験例

 筆者が製作・実験した超三結回路の動作例 (静特性) を簡単にご紹介します。 いずれも超三結 V1 シングルアンプ、または準ずる回路としました。 詳しくは後述の「2.3 多極管への適用」にて説明します。 その後三極管の超三結アンプに挑戦しましが、多極管のように簡単ではありませんでした。 詳しくは後述の「2.4 三極管への適用」にて説明します。

 筆者が実装上の課題として最初に気が付いた点は、初段に電圧増幅五極管を利用し、そのスクリーングリッド供給 DC 源を、終段出力段のカソード電圧にて賄う場合、その電圧を充分に確保しないと、初段の良好な動作が確保できず、従って総合ゲインが確保できないことでした。
 すなわち、超三結 V1 アンプを実装するにあたり、課題の中心は

(1) 前段の五極管部のスクリーングリッドに供給する電圧の発生
  = 終段のカソードに挿入する自己バイアス電圧+ 直結カサアゲ電圧のための抵抗値 Rk の設定、
(2) 上記の条件を満たすに必要な B 電源電圧の確保、
(3) 初段の性能と動作点、
(4) 電圧帰還管のカソードに挿入する負荷兼バイアス発生用の抵抗値の設定、

と言うことになります。 上記四点の関連について何方から質問を戴き、その解答を含めて追加しました。(2001/01〜Rev 3.10)

2.1.1 終段のカソード抵抗と B 電源電圧

 超三結 V1 アンプを何例か手がけた段階にて、終段のカソード抵抗の設定法が明らかでなく、何とかして予め設定出来ないかと考え始めました。

 まず、原典である上條氏の 6EJ7 - 6BM8 超三結 V1 アンプの例では、 6BM8 の五極管部のバイアス兼前段直結調整用のカソード挿入抵抗の値は1200Ωで、動作時のカソード電圧は 42V 同電流は 35mAとなっています。 これから類推すると、少なくとも初段の五極管スクリーングリッドには 40V 以上を印加する必要がある・・・という条件が求められます。

 次に筆者が 6V6G/GT 超三結 V1 アンプの製作に掛かったのですが、6V6G/GT を 250V 近辺の B 電源電圧 (以下 B 電圧または Ebb) で動作させるには、 6BM8 超三結 V1 アンプに比べてもう少し B 電圧全体が高めの 300V 程度は必要であり、さらに初段五極管の動作を楽にするため、初段スクリーングリッドに 60V 程度を供給しようと考えました。 一方 6V6G/GT の 250V での動作は規格表の指示に従い Ip + Isg = 50mA までなら安全です。
 結局、初段スクリーングリッド電圧=自己バイアス電圧+直結のための嵩上げ電圧という関係になり、50mA x 60V = 1200Ω と求めた訳ですが、60V の内訳は 6V6G/GT の自己バイアス電圧12.5V + 嵩上げ電圧 47.5V と言うことです。 

 ここまでの条件を積み上げると、動作に必要な B 電圧は 250V+60V=310V ということになります。
 以後製作した殆どの超三結 V1 アンプでは 60V 近辺に設定していますが、終段がバイアスの極めて浅い映像増幅出力管 (6CL6 等) の場合は 50V 近辺でも何とかなる一方、終段がバイアスの 深い水平偏向出力管 (EL509 等) の場合は 80V から 90V 近辺まで上げないと、初段〜電圧帰還管の組み合わせによっては、または B 電源電圧によっては十分に終段をドライブできない〜パワーが出にくい場合があります。

2.1.2 終段のカソード抵抗と B 電源電圧

 次の問題が、初段と電圧帰還管の電圧配分の問題です。 上記「2.1.1 終段のカソード抵抗と B 電源電圧」では、理想的な B 電源電圧を確保できた前提での、電圧配分の例でした。
 必要な B 電圧が確保できないと、初段〜電圧帰還管の適正な電圧配分ができなくなります。 B 電圧が過剰な場合は、ある程度までは終段のカソード挿入抵抗を大きくして、初段スクリーングリッド電圧も高く設定し、逃げることができますが、不足の場合は、終段に掛かるプレート電圧を圧縮して動作を縮小するか、またはその分だけプレート電流を大きく取ることもできますが、自ずと限界があります。

2.1.3 初段の性能と動作点

 ここでは、初段には電圧増幅用のシャープカットオフ五極管を使う前提にします。 FET および BJT (バイポーラ・トランジスタ) については「3.2.2 初段が Tr/FET の場合」にて説明します。 なお、リモートカットオフ五極管は実験の結果うまく動作しませんでした。
 初段の Gm が低い場合、または十分な動作電圧を供給できない場合、初段にて十分な信号電流 id が得られず、Rk での I/V 変換が十分できないことになります。 さりとて Rk を大きくすると電圧帰還管の動作点が隅に寄って、初段に十分な電圧を供給できなくなり十分な id が得られず、終段へのバイアスが深すぎることになります。 従って、初段にはある程度以上の動作電圧を確保する必要があります。  
 筆者が行った実装実験の結果では、初段スクリーングリッド電圧を 60V 程度以上に設定した場合、経験的に下記の組み合わせにて良好な動作を得ています。 ただし 6AK5/6AS6 の場合はスクリーングリッド電圧が 40V 程度まで何とか動作しています。

● 6AS6 - 12AT7 ・・・・・・・・・・但し250V程度まで
● 6AK5 - 6AT6 (6BM8 の三極管部) ・・但し250V程度まで
● 6U8/6BL8 - 12AT7 ・・・・・・・・但し250V程度まで
● 6AU6 - 電圧増幅三極管何でも ・・・スクリーングリッド電圧は 50V 程度以上欲しい
● 一応何でも - 12AX7 ・・・・・・・・但し250V以上なら

2.1.4 電圧帰還管のカソード抵抗

 電圧帰還管には、ハイμ(60 以上) からメディアムμ(30 以上) の電圧増幅三極管を使います。 ローμ(20 以下) の電圧増幅三極管を電圧帰還管として動作させるには初段の動作条件が厳しくなるので一般性が失われます。
 次の問題が、電圧帰還管のカソードに挿入する I/V 変換兼自己バイアス抵抗値 Rk です。 この値の設定には、いくつかの要素が混ざってきます。

●初段の性能および電圧帰還管の動作点に係わる要素
 上記「2.1.3 初段の性能と動作点」にて説明したとおりです。

●電圧帰還管の性能に係わる要素
 一般にハイμ三極管は動作点での直流抵抗が大きく、初段への供給電圧が不足しがちです。 その逆にメディアムμ三極管では初段への供給電圧が過剰になりがちです。 

●電圧配分に係わる要素
 十分な B 電圧が供給されている場合は電圧帰還管の Rk を大きく取って電圧帰還管による電圧降下による初段との電圧配分を行います。 その逆に低い B 電圧にて動作する終段管の場合には電圧帰還管の Rk を小さく取って電圧帰還管による電圧降下を少なく抑える必要があります。
 実際には、低い方は4.7kΩから高い方は12kΩまで取り替えてバイアス調整しながら、出力と終段の安全とを確認します。 筆者の実験では好ましい音質が得られる値を探った結果、6.8kΩ〜7.5kΩ〜8.2kΩ 辺りが適当と判定しました。 この値は、12AT7/2〜6AQ8/2〜6DJ8/2 を使う場合の標準としています。 
 このような設定法にて「2.3.2 多極出力管の動作例」に示すほか、個別の製作例ページに示したシャープカットオフ五極管および電圧帰還管の組み合わせは例外なく動作しました。

2.1.5 事前設定の精度

 上記の四点を注意すれば、配線間違いが無い限り、殆どの場合は初段のバイアス調整抵抗を最小にして、バイアスを浅く〜帰還管のカソード電位を低くした状態にてパワーオンして直ちに動作試験が開始でき、終段のカソード電圧、すなわちカソード電流を点検・調整した後に直ちに試聴試験が開始できるほど、ピッタリと適合します。
 筆者が行った、上記の設定法は 6BM8 では上條氏の記事の値通りにて OK でしたが、二例目の 6BQ5 では 6BM8 の例に従って求め旨く行きました。 三例目の 6V6G/GT では終段のカソード抵抗を少し上げ下げ調整し、四例目の 6LR8 では規格表が示す値に従った設定値どおりで直ちに OK となりました。
 以後に試作した超三結 V1 アンプでは確信を持って事前設定するに至りました。  ただし、FET を初段に使用した場合には、供給電圧によって相当に音質と歪が変化するので、電圧帰還管の交換またはカソード抵抗の調整が必要となります。 


2.2 結果の評価

 種々の球について超三結 V1 シングルアンプを組んで一応鳴らして見ると、電圧帰還管の種類とその動作点による差、出力トランスの特性の差を除けば、出てくる音に差がないのが特徴です。
 よく言われる「球の個性音」があるはずですが、上條氏によれば、個性音は球の動作時の電圧〜インピーダンスの関係が各球に固有であるからと考えられ、それが深い P-G NFB によってμが 1 に近くなり、出力管が低出力インピーダンスとなることにより、負荷に伝達・配分される個性音の成分が少なくなり、管球品種別の音の差が少なくなるとのことです。
 いずれにしても、どの球の超三結アンプでも、少なくとも「清澄な音」および「愉快な音」になり「ツイ音量が上がってしまう」ことは、筆者をはじめ追試験された方からの感想からも確かのようです。 (騒音公害にならないようお互いに気をつけましょう。)


2.3 多極出力管への適用

2.3.1 多極出力管に併用する前段

 多極出力管シングルによる超三結アンプでは、多極出力管が一般にバイアスが浅くドライブ電圧も少ないので、発振対策さえしてあれば、前段の準備は下記二項目の何れかの回路で殆ど賄えます。

 ● 電圧増幅五極管 (定電流源) 〜電圧帰還管の組み合わせ、または
 ● バイポーラ Tr/FET (定電流源) 〜電圧帰還管の組み合わせ

 電圧帰還管からの直接接続 (直結) にて、ゲインの確保およびドライブ電圧確保、直流電圧配分については殆ど問題は発生しません。 また B 電源電圧の誤差に対しても、若干の音質の変化はあるものの、かなりの幅の許容度があります。

2.3.2 多極出力管の動作例

 「表1 超三極管接続回路 Version 1 シングル・アンプの動作例 (多極出力管)」に筆者による動作実験例をご紹介します。 表中の各パラメタ値は下記の条件によるものです。

 ● Eg1 は規格表の値で参照用とお考えください。
 ●各動作例の電圧値・電流値は、必ずしも新品ではない筆者の手持ち球によるものです。
 ●動作環境は特に設定したものではなく、既設の B 電源電圧にて行いました。
 ●いずれの例も、調整時の余裕と出力管の寿命を考慮した、控え目な動作点に設定してあります。

 従って、決して模範動作例ではなく限定的な一例であり、動作点検に際して参照する目安としてお考え下さい。

表1 超三極管接続回路 Version 1 シングル・アンプの動作例 (多極出力管) 

但し、Voltage FB tube は電圧帰還管、Ep/Esg(V) は対 k 電圧、Eg1(V) は規格値で参照用、
Ek(V) は対 GND 電圧、p=五極部、t=三極部

 STC operation Sample of most pentode/beam (1)
Final tube
1st stage
Voltage
FB tube
Ep/Esg(V)
Eg1(V)
Ek(V)
Ik
(mA)
Rk(Ω)
Remarks
6AN52SK68A5965/2 120/120-6.74034 1200
6AQ52SK68A12AX7/2 240/200-12.56030 15606DS5 amp
6AR52SK68A12AX7/2 235/195-186533 15606DS5 amp
6AS52SK68A12AT7/2 110/110-8.54040 1000
6AU5GT 6U8A-p 12AX7/2 220/150 -20.0? 60 45 1320
6AV5GA 6U8A-p 12AX7/2 220/145 -22.5 50 61 820
6AW8A-p 6AS6 12AT7/2 210/165 180Ω 55 14 3660
6BK5 6AK5 12AT7/2 290/280 -5 58 38 1500
6BM8-p No.1 6AK5 6BM8-t 210/210 -16 44 37 1200
6BM8-p No.2 2SC1775A 6BM8-t 220/190 -16 42 34 1200+47** 47Ω for Tr
6BQ5 6GH8A-p 6GH8A-t 260/230 -7.3 50 42 1200
6CL6/6197 6AS6 12AT7/2 200/150 -2 44 37 1200 →6AG7
6CW5 6BX6 12AX7/2 140/140 -12.5 60 68 880
6DQ6A/B 6U8A-p 12AX7/2 240/140 -22.5 51 62 820
6DS5 2SK68A 12AX7/2 250/210 -8.5 50 32 1560
6F6G/GT/42 6GH8A-p 12AX7/2 250/210 -16.5 60 38 390+1200* 46V→SG
6G-B7 6BL8-p 12AT7/2 215/120 -22.5 55 50 1100
6GW8-p 6AK5 6GW8-t 245/230 -7 50 42 1200 =ECL86
6HZ8-p 6AS6 12AT7/2 200/150 100Ω 52 30 1680
6K6GT/41 6GH8A-p 12AX7/2 250/170 -18 60 38 390+1200* 46V→SG
6L6GB/GC 6BL8-p 6BL8-t 290/270 -14 60 73 820
6LR8-p 6BL8-p 6LR8-t 210/110 -10 60 60 1000
6R-HP3-p 6AK5 6R-HP3-t 175/125 ? 60 32 2000
Remarks*:"xxV→SG" is the divided supply voltage for the screen grid of the 1st stage amp.
Remarks**:For the bias voltage for the BASE of 2SC1775A transistor.

 STC operation Sample of most pentode/beam (2)
Final tube
1st stage
Voltage
FB tube
Ep/Esg(V)
Eg1(V)
Ek(V)
Ik
(mA)
Rk(Ω)
Remarks
6V6G/GT No.1 6EA8-p 6EA8-t 250/250 -12.5 56 47 1200
6V6G/GT No.2 6GH8A-p 12AX7/2 250/210 -12.5 60 38 390+1200* 46V→SG
6Y6G/GT 6BX6 6SL7GT/2 190/135 -14 60 60 1000
12A6 6U8A-p 12AT7/2 225/230 -12.5 74 30 680+1800* 54V→SG
12BY7A 6U8A-p 12AX7/2 240/190 -2.6 46 29 1600
30A5 2SK30A-Y 12AU7/2 100/100 -4.7 38 38 1000
38 6U8A-p 12AT7/2 245/250 -25 65 26 680+1800* 48V→SG
807/1625 6BL8- 12AT7/2 250/245 -14.5 65 80 820
1619 6U8A-p 12AX7/2 280/240 -10 50 42 1200
6146 6U8A-p 12AX7/2 290/170 ? 60 52 1160 =S2001/A/M
6360 para 6U8A-p 12AT7/2 190/140 -7.5 55 67 820 parallel use
6384 6U8A-p 12AT7/2 235/215 -22.5 65 74 880 =6AR6
6550C/KT88 6U8A-p 12AX7/2 290/270 -14 65 79 820
CV450 6U8A-p 12AX7/2 240/140 -22.5 50 61 820 =6CU6
EL33 6EA8-p 6EA8-t 250/250 -4 50 42 1200
EL34/6CA7 6BL8-p 6BL8-t 290/270 -14 60 73 820
EL509 6U8A-p 12AX7/2 315/185 ? 75 91 820 =6KG6
WE350B 2SK30A-Y 6N7GT 215/180 ? 35 70 500 Mr. Yamada
Remarks1:"xxV→SG" is the divided supply voltage for the screen grid of the 1st stage amp.


2.4 三極出力管への適用

2.4.1 三極出力管の多様性

 一方、三極管接続を含む三極出力管シングル・アンプの超三結化を進めていくうちに、多極出力管のようには一筋縄では行かないことが判りました。 同じ三極出力管と言っても多様です。

2.4.1.1 増幅率 (μ) および内部抵抗の多様性

 例えば増幅率一つをとって見ても、下記のようなバリエーションがあります。

 ● 6AC5GT   μ=58  UY56/UY76 併用の、ダイレクト・カップルド球、五極出力管なみの例外
 ● 6G-A4    μ=10  近代三極出力管の代表
 ● 6EM7    μ=5.4  水平出力管はほぼこの辺り
 ● 6AS7G   μ=2.0  電圧調整管は一般に少ない (=6080)

 一般的に、μの大きい球はバイアスが浅く内部抵抗が高く、またμの小さい球はバイアスが深く内部抵抗が低くなります。 例外的な球とその動作例として、6AC5GT のようにグリッドを+にしてカソフォロから直にグリッド電流を流してドライブするもの、また水平出力管等の G2 ドライブ回路、もっとタチの悪いマイナス側は流れずプラス側は流れる CV18 の A2 級動作等がありますが、これらの場合は、それぞれ低インピーダンスのドライブ対応が必要です。

2.4.1.2 多様性対策

 すなわち、三極管には多極管なみに扱える球、少し配慮を要する球、直結が困難な球、特殊な球・・・があることを意識して、それぞれ対策が必要ですが、一般的には下記の様な「対策」が必要なことが判りました。

 ● 一般にバイアスが深いのでドライブが大がかり
 ● ゲイン・マージンの確保が必要
 ● 低電圧動作の五極管〜三極電圧帰還管では振幅不足らしい
 ● 高電圧動作の五極管〜三極電圧帰還管では出力端 DC 電圧が高く直結が困難

 強引に直結とするならば二階建ての複電源化、または初段のマイナス電源供給、入力信号のトランスによる直流隔離などの対策を要する、等・・・実装上の課題は多様です。

 三極出力管を超三結 V1 アンプとして実装するに際しては、便法としてバイアス電圧から所要ドライブ電圧を概算してもよさそうです。例えば
 所要ドライブ電圧 Ed (peak to peak) =所要バイアス電圧 x 1.4 (or 平方根2=1.4) 程度 と概算してみます。

 例えば、バイアス電圧が 45V の 2A3 ならば Ed2A3=63V と見通しをつける訳です。 この値は Ed より低い電圧で、しかもプレート電流が 1mA 程度にて動作させている電圧増幅五極管 (実際は電流変換機能の) の電流出力を、電圧帰還管回路で電圧変換し、増幅した出力振幅にて実現するのは結構きついようです。 しかし、フルパワーを期待せず、静かに聴くには十分な出力〜音量が得られることは 6EW7 超三結 V1 アンプにて確認しましたが。

2.4.1.3 ドライブ方法

 超三結 V1 アンプとして三極出力管をドライブする方法として下記のいずれかが必要です。

 (1) 実用回路によるならば、初段五極管〜電圧帰還管、全体の印加電圧を高く設定する。
    ◇出力段用の B 電源にさらに追加 B 電源を上積みする。
    ◇または初段五極管のカソード/G1 をマイナス電源にて引きさげる。
      但しこの場合は、信号入力にライン入力トランスを使う必要がある。

 (2) 動作原理回路を応用して、信号入力にはライン入力トランスを使い
   (必要ならばゲインを稼いで) 電圧帰還管に入力する。

 (3) 一般的な SRPP 回路を利用して、十分な終段入力振幅を得る。

 (4) SRPP 回路または抵抗負荷の三極管または五極管増幅を利用して、終段入力 に必要な振幅を得て、
   P-G NFB 併用のカソードフォロワ・ドライブにて解決する。(2001/7 rev4.1)

 手持ちアンプの改造ベースでは上記 (3) SRPP 回路利用の構成が手とり速く、この方法から着手しました。 一部には (2) ライン入力トランスも試しましたが、一般化は困難と見て中断しました。 (Rev3.0)
 その後 SRPP ドライブの振幅最大化の再検討を経て、P-G NFB 併用カソードフォロワ・ドライブの有効性に着目し、ドライブ振幅確保の方法と P-G NFB 回路を分離〜分業する方向に発展し、P-G NFB 併用カソードフォロワ・ドライブに突破口を見い出し、次々と試作試験しました。(2001/7 rev4.1)

2.4.1.4 要注意!!初段スクリーングリッド電圧供給方法

 一般的に三極出力管を「実用回路」による超三結アンプとする場合、必ず後述の「2.4.5 三極出力管の動作例」および「3.3 バイアスが深い場合の前段への配慮」に示しているように、

 三極出力管のカソード抵抗の途中から、その出力管のバイアス電圧程度に低い電圧・・・筆者が言う「嵩(カサ) 上げ電圧」・・・相当を取り出して、初段管のスクリーングリッドに供給してください。

 この措置をとらないと、出力管の適正なバイアスが維持できず、バイアスが制御できない場合があります。 以前の筆者の実験では例外を除き、どの球にもこの方法を慎重に適用しておりました。 また多極出力管では、このようなことは一切ありません。
 例外とは、極めてバイアスの浅い 6BQ5(T)(三結) と 6AC5GT (実際はドライバーの UY56/76 ですが) だけ、セーフなので手抜きしたものでした。 ところが、筆者はこの制限をスッカリ忘れており、最近何の気なしに#1 ピンに配線してない 6V6GT 超三結アンプに、そのまま 6G-A4 を挿し替え、カソード電圧を監視はしていましたが、ナント100mA 近くの大電流を一瞬流す失敗をしました。
 三極出力管の超三結アンプを追試験される方が居られるとマズイ!と、俄に心配になってきたので、敢えて恥をさらして本件を書き加えました。(2000/5/8)

2.4.2 SRPP 回路による解決

 上記 (3) の構成は、よく見かける
 ● 電圧増幅三極管二素子による一般的な SRPP (以下、SRPP) の出力を
 ● C/R 結合してカソードフォロワ段に入力し、
 ● その出力はバイアス電圧を調整して、直熱三極管に直結する

という伝統的な回路から、カソードフォロワ段を取り除き、自己バイアスとした回路です。 SRPP 回路ならば、特別の B 電源を用意せずにかなりの電圧出力振幅がとれます。 そこでこれに目をつけました。 この回路は、裸アンプとしてなら終段出力管をドライブするに有り余る十分な電圧ゲインがあります。

 所が、筆者が念のため動作状態を点検した所、初段が電圧増幅三極管であり、定電流源の性格が弱く、本来の超三結 V1 回路には該当しないことが判明しました。 従って、後述の P-G NFB (プレート・グリッド間負帰還) 併用の「SRPP 回路」および「強力 SRPP 回路」も、超三結 V1 回路とは異り、経過的に派生した回路に相当します。

 実装時の用法としては P-G NFB を併用するため、SRPP 回路の出力を、終段出力管のグリッドに C/R 結合とし、なおかつ終段出力管のプレートから SRPP 回路の直列カソードフォロワのプレートにNFB 信号および B 電源として供給するものです。
 これで不完全であっても、形式的には一応 C/R 結合の超三結 V1 回路に類似な回路となるので、信号成分に関する P-G NFB の動作は支障はなく実用に耐えるものと推定されます。
 上記の回路を実験した結果、若干量のP-G NFB が掛かり、超三結 V1 に似た音が得られました。 従って単に B 電源で釣った純粋の SRPP 回路と、P-G NFB 併用 SRPP 回路とでは動作が異なり、後者では終段出力管の動作に対して、出力電圧振幅の 1/2 が NFB された効果があると言うことです。

 但し SRPP 回路は、直結とするには出力端に B 電圧の半分程度の DC 電圧が出て、なにかと不便です。 そのような場合は C/R 結合で逃げる方法もありますが、直結のメリットが失われます。

 P-G NFB 併用 SRPP 回路では、裸の SRPP 回路よりはるかにゲインが不足します。これを簡単にリカバーする方法が必要です。 

2.4.3 強力 SRPP 回路による解決

 そこで、筆者が考案したのが自称「強力 SRPP 回路」です。
 元の回路は上條氏の発案された、FET 2SK30A-Y による一般的なドレーン・フォロワを 12AU7/2 のカソードに入力して、12AU7/2 のカソード・バイアス兼グリッド接地回路 (GG = Grounded Grid) のプレート側に挿入した抵抗負荷から出力を得る GG カスコード接続回路です。 その抵抗負荷の代わりにカソードフォロワを積み上げて、SRPP 回路の特徴に加えて P-G NFB に耐えられるゲインの強化を狙いました。
 しかし、この回路も前記の SRPP 回路と同様に、明らかに超三結 V1 とは別の機能構成なので、P-G NFB 併用 SRPP 回路と同様の位置付けと扱いにしました。

 筆者は、測定にて確認しましたが、裸の強力 SRPP 回路をフル振幅で動作させると、初段の GG カスコード接続回路からの出力電流振幅は約 2mA となり、電圧増幅五極管〜電圧帰還管での 1mA 以下の動作電流から想定される電流信号出力よりは遥かに強力ですが、出力に占める電圧成分が余りにも大きく、相対的に電圧増幅の動作であると考えます。
 下記「図6 強力 SRPP の実測回路および測定結果」に実測回路および測定結果(DCベース)を示します。

amput3t.gif
Movement status of Powered SRPP
Case
E0(V)
E1(V)
E2(V)
E3(V)
Ik(mA)
1 1.0 2 62 12 2.3
2 0.5 4 90 10 2.0
3 0.0 10 165 7 1.4
4 -0.5 15 235 4 0.8
5 -1.0 20 295 1 0.2

図6 強力 SRPP の実測回路および測定結果

 筆者は、このP-G NFB 併用強力 SRPP 回路は CV18 パラ, 1626, 2A3, 6EM7 各シングルアンプに適用しました。
 この回路を多極出力管に併用しても動作上の問題ありませんが、大振幅を必要としないので、その必要もなくあまり意味はないでしょう。 また SRPP 回路と同様、出力端の DC 電圧が B 電圧の半分程度と高く直結とするには不便です。

2.4.4 カソードフォロワ・ドライブ回路の追加

 P-G NFB 併用 (強力) SRPP 回路では、最後までの深い P-G NFB を掛けることができないことは前述の通りです。 そこで大振幅ドライブと深い P-G NFB とを両立させる方法としては、標準の B 電源で吊った (強力を含む) SRPP 回路にて振幅だけを稼ぎ、別途に用意する P-G NFB を掛けた独立のカソードフォロワ・ドライブ回路を用意する方法があります。
 この回路構成は、一見すると直熱三極管の「古典回路」に現われるものではありますが、終段のプレートからカソードフォロワ・ドライブ段のプレートに 100%の P-G NFB を掛ける点では本質的に異なる動作の「近代回路」です。
 実は、初段に SRPP 回路を用意するほどの振幅を要求しない三極出力管 (または多極管) の場合は、初段には SRPP 回路の代わりに電圧増幅五極管またはハイμ電圧増幅三極管にて所用の振幅を確保しても、十分実用になる場合もあります。 このような回路構成を筆者は「準超三結 V1 回路」と呼んでいます。(2001/7 Rev4.1)

2.4.5 三極出力管の動作例

 「表2 超三極管接続回路 Version 1 シングル・アンプの動作例(三極出力管)」にそのあらましを紹介します。(Rev3.0)

表2 超三極管接続回路 Version 1 シングル・アンプの動作例(三極出力管)

   但し、Voltage FB tube は電圧帰還管のこと、Ep (V) は対 k 電圧、Ek(V)は対 GND 電圧
p=五極部、t=三極部、(T)=三極管接続
 STC operation Sample of triodes
Final tube
Eg1(V)
μ
1st stage
Voltage
FB tube
Ep/Ip
(V/mA)
Ek(V)
Rk(Ω)
Remarks
6BQ5(T) -10 19 6U8A-p 12AX7/2 220/38 46 1200
76-6AC5GT** -13.5=76 58# 6U8A-p 12AX7/2 250/36 54 1500 #μ=6AC5GT's
6G-A4 -19 10 6U8A-p 12AX7/2 250/40/TD> 62 390+1200* 46V→SG
6R-A8 -19 9.7 6U8A-p 12AX7/2 235/41 65 390+1200* 46V→SG
12B4A -22 6.5 6AS6 12AT7/2 200/22 65 620+2700* 47V→SG
6AH4GT -23 8 6U8A-p 12AX7/2 250/24 60 820+1640* 40V→SG
EL34(T) -26 11 6U8A-p 12AX7/2 250/50 60 390+820* 40V→SG
6EW7*** -40 6 6U8A-p 12AX7/2 200/36 80 1000+1200* 45V→SG
*Remarks1:"xxV→SG" is the divided supply voltage for the screen grid of the 1st stage amp.
**Remarks2:Synthetic single unit --- regarded/handled as an triode.
+++++++++ Driver tube for 6AC5GT may be 12AU7 parallel, 12BH7A/2, 6350/2 also.
***Remarks3:Larger unit of 6EW7, nearly equal to larger unit of 6EM7 or 5998(A)/2.

2.4.6 特殊なアンプ

 6AC5GT および CV18 の場合はそれぞれ特殊事情があり、下記にコメントします。

●  6AC5GT シングルアンプ =(P-G NFB 併用 SRPP C/R 結合ドライブ)

  6AC5GTUY76/UY56 の直結カソードフォロワ・ドライブが条件のダイレクト・カップルド三極管なので、ドライバー管のグリッドには 6AC5GT カソード基準でゼロ電位の信号を入力する必要があります。そこで、下記の制限条件にて P-G NFB SRPP ドライブ 6AC5GT シングルアンプを構成しました。

 (A) SRPP の出力条件:C/R 結合にせざるを得ません。
 (B) SRPP のプレートへの NFB 兼 DC 電圧供給条件:クリアーできます。

 このシングルアンプから他の超三結 V1 アンプにかなり似た音が得られました。
 後日、直結化の可能性を追及した結果、遂に強引に前段 SG 電圧カサ上げ用の自己バイアス装備により直結化した 6AC5GT 超三結 V1 アンプとして解決しました。 回路図等詳しい内容は 6AC5GT 超三結アンプの項をご参照ください。

●  CV18 s /パラ s A2 級 P-G NFB 併用強力 SRPP C/R 結合ドライブ)

 CV18 のゼロバイアス A2 級アンプの場合は、グリッドの入力インピーダンスが極めて低く、またバイアスがプラスの領域では盛大にグリッド電流が流れるため、強力な 6AS7G/6080 のカソードフォロワ・ドライブにするしか方法がありませんでした。 6AS7G/6080 のカソードフォロワ回路は自己バイアス動作にするため、

 (A) 強力 SRPP の出力条件:C/R 結合にせざるを得ません。
 (B) 強力 SRPP のプレートへの NFB 兼 DC 電圧供給条件:合致しません。

 A2 級アンプの場合は P (プレート供給) 電圧が 150V〜180Vと低過ぎて、そのまま強力 SRPP の プレートに供給しても動作しません。 そこで、6AS7G/6080 の強力 SRPP への P-G NFB は C/R 結合回路 ??としました。
 CV18 をドライブするカソードフォロワ出力は、抵抗負荷によるクローフ結合とし、グリッドチョークを併用したので、結局信号経路に三箇の音質を左右する受動素子が加わり NFB 信号経路にもキャパシタが入ってしまいました。 それでも、出てきた音は他の超三結アンプに一応近いものでした。 回路図等詳しい内容は CV18 各種アンプの項の後半をご参照ください。


3 調整法と課題

 以下は、多極出力管および浅いバイアス電圧の三極出力管 (三極管接続を含む) を終段出力管とした、超三結 V1 回路に関する動作点の調整法および共通の課題について説明します。 


3.1 終段のバイアス調整法

 超三結 V1 の回路は前段の電圧帰還管と終段出力段のグリッドが直結です。 従って C/R 結合による準超三結では本項の調整は不要です。 {C/R 結合の準超三結では、信号分の動作だけが超三結 V1 として動作して、直流的には安定である一方、キャパシタおよびグリッドリーク抵抗の音への影響は不可避的であると考えられます。}

 超三結 V1 の前段の電圧増幅五極管 (またはTr/FET) と電圧帰還管で構成された回路では、終段出力管への出力部分での直流電位があまり高くならない〜精々50V 近辺に落ち着くので、電圧帰還管の出力を終段出力管に直結しても、単一の B 電源にて簡単に回路構成ができます。 このような回路を基準にして、その動作点の調整法を以下に説明します。

 終段出力管の自己バイアス電圧の調整は、前記の「1.2 超三結 V1 の定義」項で示した、標準的と考えられる回路図を基準にして、下記のようなステップで調整します。

(1) 初段五極管 (またはTr/FET) のバイアスを予め浅い側に・・・可変抵抗値のゼロまたは少ない側にセットしておくと動作点が低いプレート電圧(Ep) でもプレート電流(Ip) が流れやすい状態になり、直流抵抗が少なくなっているので、上の電圧帰還管で殆ど B 電圧を背負う状態になります。

(2) この状態では、 終段出力管はカットオフまたてはそれに近く、初段に入力信号をいれても上の電圧帰還管回路からカスカに漏れる音とカットオフに近い歪んだ小さい音が両方出ます。この状態では終段出力管の カソード電圧は満足な値にはならないので、初段五極管 (またはTr/FET) のスクリーングリッド電圧も低く、動作も不全のままです。

(3) 次に可変抵抗値を徐々に上げていくと、ある点からスカッと奇麗な音に変わります。 これが初段が定電流源としての動作を始めたことの証です。
 これでほぼ正しい動作状態に近いのですが、終段出力管が適正な動作点にあるか否かの判定は、終段出力管のカソード電圧をカソード抵抗値で割ってカソード電流(Ik)=プレート電流(Ip)+スクリーン電流(Isg)を求め、規格内に収まっていることで確認します。

(4) 規格の範囲内で、更に可変抵抗値を上げて、最も出力のとれる点または最も歪み感の少ない点 〜 普通はなかなか一致しないのですが 〜 いずれかまたは中間に設定して調整完了という訳です。

(5) 更に精密に調整する場合は、電圧帰還管のカソードに挿入のバイアス兼I/V 変換抵抗の値を加減して、適正な終段出力管のバイアスを維持するように、上記 (1)〜(4) を繰り返すことになります。

 すなわち、初段五極管のバイアスを調整してそのプレート電流を変化させ、プレート電圧に反映させ、それを上に乗せた電圧帰還管の動作に反映させて、カソード電圧=終段出力管のグリッド電位として決めています。 初段五極管のプレート電圧が上がると、終段出力管のカソード電圧も上がって、補正を掛ける一種の緩いサーボ作用がかかっています。

 初段を Tr/FET にて構成した場合は、上記のサーボ作用がないため調整がややクリチカルであると同時に、電圧増幅五極管による構成に比べて動作がやや不安定度ですが、一旦調整してしまえば実用上は問題ありません。


3.2 回路上の問題点

 更に読者がお気づきのように、この回路では終段出力管の自己バイアスによるカソード電位がグリッド電位に依って変化せざるを得ない構成のため、ということは初段五極管 (またはTr/FET) の動作によってバイアス値が支配されている訳ですから、  すなわち、本来は独立であるべき初段五極管の最適動作点と、終段出力管の最適動作点とを、初段五極管のバイアスだけで設定してしまおうという、「簡易回路」ですが〜部品点数が少なくて済む回路です。

3.2.1 初段が五極管の場合

 しかし実用上は、終段出力管の最大プレート損失(+最大スクリーン・グリッド損失)が規格内に収まるように、動作点を決めて、終段出力管のカソード電流を予め設定した状態 〜 予め自己バイアス電圧に初段五極管のスクリーン・グリッド供給用のカサ上げ電圧を加えて設定した状態 〜 から計算していくので、殆ど計算通りの動作点に落ち着きます。

 このようにして、簡便法ながら、初段五極管の動作点が特性図の最適点からひどく外れておらず、且つ電圧帰還管の動作点が同様に最適点からひどく外れていないことを確認さえできれば、まず実用上は差し支えありません。 

 筆者は殆どの場合、調整不能とか、余程出力が取れない場合とか、聴くに耐えられる音質が得られない場合以外は、最も好ましいと感じられる点に設定して、各ポイントの電圧チェックだけで、動作が規格内であることを確認したら調整完了としていますが、恐らく最大出力を絞り取る場合の70% 程度までは追い込んでいるものと考えています。

3.2.2 初段が Tr/FET の場合

 初段を電圧増幅五極管ではなくTr/FET にて構成した場合の調整法も、原則的には五極管と同様です。

 筆者はまだ十分に検討を経ておらず、中間的ですが、バイポーラトランジスタ、それも実験した 2SC1775A による初段に限れば、あまりコレクタ電圧に敏感ではないらしいので、電圧配分に関しては一応問題はありませんでした。

 FET の場合はやや問題がありました。 FET の品種によっては供給するドレーン電圧/電流〜ソース電圧によって出てくる音質が〜すなわち、ドライブ波形に〜影響がかなりあり、終段出力管のカソード自己バイアス兼「嵩上げ」電圧そのものの調整が必要となる場合がありました。

 知人の H 氏によると、色々な FET を試験した結果、好ましい音質が得られる供給ドレーン電圧に幅のある品種と、その幅がせまくクリティカルな品種とがあるそうです。 当然のことですが前者の方がベストポイントを探すのが楽とのことです。

 筆者の実験では 2SK30A-Y - 12AU7 - 30A5 の超三結アンプでは、ドレーン電圧が 18V〜20V 位が最も聴きやすく最適でした。 それ以上あげると音が悪くなり、それ以下だとゲインが落ち、音が篭ってしまいました。 ということはクリティカルな部類のようです。比較的広いのが 2SK68A ですが、以前に生産打ち切りで、類似品として少し Idss の大きい 2SK163 があります。

 FET の場合、さらにエンハンス・タイプとディプレッション・タイプの差、従ってバイアスの掛け方、P-K NFB の適用方法にもバリエーションがありそうですし、最適動作点を執拗に探り出す必要があるようです。

3.2.3 出力最大化

 もし、目一杯の出力を得ようとするならば、大振幅入力を加えながら、オシロスコープで回路上のアチコチのポイントでの波型を観測し、上下が同時にクリップするような電圧配分を探り出すことになります。 この追い込みでは、電圧帰還管の負荷抵抗、終段出力管の自己バイアス発生用抵抗値の変更が必要となる場合もあります。
 いずれにしても、電圧帰還管の電圧出力振幅が、必ず終段出力管の許容入力振幅を超える状態であることを保証されないと追い込みになりません。(どんなアンプでも必須な前提条件ですが。)  ただし、更に大振幅入力を要求する三極管のドライブでは、電圧増幅五極管と電圧帰還管との組み合わせで、終段出力管のプレート電圧をそのまま利用する回路ではフルスイングは困難みたいです。 


3.3 バイアスが深い場合の前段への配慮

 多極出力管による超三結 V1 では、(表1.1/表1.2の特記しない場合で)、前段に五極電圧増幅管〜電圧増幅電圧帰還管を使用する場合、五極電圧増幅管の SG 電圧を終段出力管カソードから直接供給します。 この場合、初段増幅管のプレート電圧が、終段出力管のカソード電圧分〜バイアス電圧分だけスクリーングリッド電圧を下回っていますが、一般に動作には異常はありません。 終段出力管のカソードバイアスが極めて浅い三極管(接続) の場合は、多極管の超三結と同様の回路構成が可能です。

 しかし、終段出力管のカソードバイアスが深く 20V 程度を超すものでは、初段五極電圧増幅管に供給する SG 電圧と P 電圧とのギャップが大きくなりすぎ、異常な動作となる可能性を考慮して、SG 電圧を下げる方策をとりました。
 その回路は非常に簡単で、終段出力管の自己バイアス抵抗を分割して、初段五極電圧増幅管に供給する十分な SG 電圧と、深い自己バイアスとを両立することです。「表1.2 三極管または三極管接続 Version 1 シングル・アンプの動作例」に示すように、自己バイアス抵抗にて電圧配分して、適正な SG 電圧を供給しています。

 三極出力管を超三結 V1 で使用する場合は安全を期して、カソード抵抗の途中から、その出力管のバイアス電圧を差し引いた「嵩(カサ) 上げ電圧」相当を取り出して、初段管のスクリーングリッドに供給してください。(2000/5/8)
 バイアスが深めの多極出力管の場合でも、このタップ出し形式を適用した方が良いでしょう。 「表1.1 超三極管接続 Version 1 シングル・アンプの動作例 (多極管) 」でも、UY38 など一部の管種に適用しています。 また挿し替え汎用アンプ等の場合には、動作の安全性を考慮してこの方式を適用すべきでしょう。

 但し、分圧した場合は五極電圧増幅管に対する直流的なサーボ機能が若干弱まる筈ですが、クリップ領域に達した場合は別として、終段出力管のカソード電圧が浮動するような現象は見られませんでした。

 むしろ筆者が経験した別の問題として、パワーオン立ち上げの際のノイズがあります。 ヒーターの熱容量が小さい前段が先に動作する場合には、終段出力管のグリッドにプラス電位が掛かり、グリッド電流が流れて一気に終段出力管のカソード回路に入っているバイパス・キャパシタに充電するらしいのです。
 12B4A 超三結アンプや 6AC5GT 超三結アンプではパワーオン立ち上げ時に「ポッツン」ノイズが出ました。 電圧帰還管のヒートアップを遅く徐々に上げていけば、立ち上げは円滑になると思われますが、一瞬であり球を痛めるような時間ではなく、またスピーカを痛めるには程遠いミニパワーノイズなので、そのままにしてあります。

 別の分圧方法として、終段出力管の自己バイアス抵抗の K 側から直列ドロッパを通して初段五極電圧増幅管の SG に電圧供給する回路も検討しましたが、SG 供給電圧の時定数が大きくなり、終段出力管の自己バイアス電圧変動に対する追随性の悪化を心配して採用しませんでした。


3.4 初段回路〜電圧帰還管回路の組み合わせ

3.4.1 電圧配分と音の課題

 前記「3.2 回路上の問題点」および「3.2.2 初段が Tr/FET の場合」にて少し述べたように、初段電圧増幅五極管 (または Tr/FET) の種類と動作点と電圧帰還管の種類と動作点の組み合わせと、全体に印加する B 電圧とその配分が音に及ぼす影響は、まだ系統的には解明されていない部分です。 筆者の場合、例えば下記の通り経験的に好ましい組み合わせが見つかっていると言った状態です。 

6AS6 - 12AT7 (6AQ8/5965)・・・・・・・・・・但し250V程度まで
6AK5 - 6AT6 (6BM8 の三極管部) ・・但し250V程度まで
6U8/6EA8/6GH8A - 12AT7 (6AQ8/5965)
6AU6/6BX6/6EJ7 - 電圧増幅三極管何でも ・・・但しスクリーングリッド電圧は 50V 程度以上欲しい
● 一応何でも - 12AX7 ・・・・・・・・但し 250V 以上ならベスト
● 一応何でも - 6AU6(T)

 それに初段五極管のスクリーン電圧供給と、終段出力管の自己バイアスとを兼ねて、部品点数を少なく且つ DC サーボ機能としていることも、複雑さを増している要素になっています。 
 本当の動作状態と出てくる音の関係を知るためには、変数が多くて大変ですが、終段出力管の仕様は固定し、電圧帰還管回路の出力を C/R 結合としたうえ、

● 五極管(またはTr/FET)〜電圧帰還管の品種のいろいろな組み合わせについて、
● SRPP 回路 全体へ供給する B 電圧を変化させ、
● 五極管(またはTr/FET)〜電圧帰還管との電圧配分を変化させ、
●            〜電圧帰還管の負荷抵抗値の変化させ、
● 五極管のスクリーン電圧を加減する、

ことによって、出てくる音との関連を徹底的に調べる必要があるでしょう。

3.4.2 三極五極複合管を初段〜電圧帰還管に使用する場合

 それぞれのカソードが分離された三極五極複合管を一本使用して、初段管および電圧帰還管として利用する場合には、注意が必要です。 
 一般的な高周波用の口金接続 (Basing Diagram) が 9AE タイプの 6U8A/6EA8/6GH8A 等の極五極管、またはそれらのヒーター電圧が異なる相当管では、三極部のプレートおよび五極部第一グリッドが隣り合っています。 
 超三結 V1 回路にて三極部を電圧帰還管として使用する場合、または準超三結回路にて三極部をカソードフォロワ・ドライバ兼電圧帰還管として使用する場合に、100kHz オーダーでの高周波発振を起こし易く、発振防止対策が必要となります。(2008/03)

 発振回避策または発振防止対策としては、下記が挙げられますが (1) が確実です。
(1) たとえば 6AU6 + 12AX7/2 など五極管および三極管を別のもので構成する。
(2) 三極部を別の電圧増幅三極管に移動する、または五極部を別の電圧増幅五極管に移動する。
(3) 三極部・五極部が隔離された管種 (例えば 6AW8-A 口金接続=9DX 等) に
   ソケットはそのままで接続変更する。
(4) そのままの構成で発振防止対策をとる場合 (ただし試作例では抑制しきれない場合がありました。)
   初段入力加減 VR の値を 5kΩなど少なく設定。 但し CD プレーヤ等は下限を 10kΩとしている。
   初段管グリッド G1 を 50pF 程度のCで接地して、フェライトビーズを通して入力する。 
   終段管 G1 に〜1kΩ程度までのRを直列に挿入し、フェライトビーズを通して入力する。
   終段管 P (プレート) に 20Ω程度までのRを直列に挿入し、フェライトビーズを通して出力する。

3.4.3 P-K NFB の適用

 初段のプレート(ドレーン/コレクタ) 電圧には、電圧帰還管回路で消費した残りの NFB 信号によって変調された DC が印加される訳で、バイパス C をはずせば、電流負帰還とともに結果的には P-K NFB 〜初段に対する NFB になります。
 これまでの、筆者の超三結 V1 標準回路の初段には、ゲインが不足気味なため P-K NFB の効果が減殺されることを承知の上で、カソード (ソース/エミッタ) のバイアス抵抗のバイパスC を並列に接続していました。 

 P-K NFB だけで構成し、かつ NFB 回路中に非直線素子を使用したのが 超三結V3 アンプですが、P-G NFB がなく、超三結 V1 アンプにくらべて制動が不足なためか、いま一つの感じでしたが、V1 アンプにはない別種の美しさがありました。
 そこで筆者達は V1 アンプに P-K NFB を補う方法として、超三結 V1 回路の上に超三結 V3 の P-K NFB を適宜追加する「V1+V3 複合回路」を発想して変更しました。 その効果と再現性を確認して以後殆どの試作アンプに適用しています。

 その回路は、初段カソード (ソース/エミッタ) の自己バイアス+バイパスC の並列の下、接地間に100Ω程度の抵抗を挿入し、終段出力管のプレートから数百kΩの高抵抗を介して、三極管 (接続) (原理的には バイポーラ/FET も) のグリッド (ゲート/ベース) を信号的に接地して、または二極管 (接続) でも〜いわゆる真空管負荷というプレート (またはドレイン/コレクタ) 特性をもつ素子を直列にして、出力管の出力信号を微かに NFB としてカソード (ソース/エミッタ) に掛けるものです。 この追加回路により、ゲインをあまり低下させずに期待通りの P-K NFB の効果が得られつつあります。
 「図7 V1+V3 複合回路」に概要回路図を示します。

図7 V1+V3 複合回路


3.5 三極管超三結アンプの再検討と工夫余地

3.5.1 本質的限界

●内部インピーダンス課題
 筆者が下記の三グループの三極出力管について実験した結果、共通事項として低音が多極管のように締まらない傾向が判りました。

(1) ◆三極管 (接続) 出力管の (強力) SRPP ドライブ P-G NFB アンプ (前者グループ)
  CV18 A2級パラ/A1級パラ/6AC5GT/1626/ 2A3/ 6EM7

(2) ◆超三結 V1 アンプ (後者グループ、P-G NFB 併用倒立μフォロワ・ドライブ))
  6EW7/ 12B4A/ 6RA8/ 6GA4/ 6AH4GT/6AC5GT/ 6BQ5(T)/ EL34(T)

(3) ◆超三結 V1 アンプ (後者グループ、P-G NFB 併用カソードフォロワ・ドライブ)
  2A3/ 45/ 300B/ 5998(A)/ 6BL7GT/ 6BX7GT/ 6SN7GT/ 6AH4GT/ 6RA8/ 12B4A/1626 (2001/07 Rev4.1)

 前者グループの (1) では P-G NFB 併用「強力 SRPP」による NFB の絶対量が不足で、本来の超三結 V1 動作が得られず、終段出力管での電圧振幅抑制が十分働かないものと考えられます。
 後者グループの (2) では、超三結 V1 回路の動作原理からすると差がないはずですが、三極管 (接続) では、本来、主に電圧増幅素子の性格を備えている上、もともとのμ値が少なく、NFB によって得られる見掛けの Rp/μ の値も大して低下しない訳です。
 しかしながら、後者グループの (3) のカソードフォロワ・ドライバを P-G NFB 併用とした「超三結 V1 原形回路」にすれば、電圧配分の難しさとドライブ振幅の確保に種々の問題を残す「超三結 V1 実用回路」より遥かに手軽に「超三結効果」・・・超三結による特徴的な音質が得られること・・・を楽しむことができ、素直な三極管の音ながらオーバーオール NFB よりははるかに多極管の超三結 V1 に近い音になります。 この回路方式がうまく行ったので、一時諦め掛けていた三極管の超三結アンプを見直して、次々と試作実験に挑戦しました。(2001/07 Rev4.1)

●電圧振幅の残留課題
 更にまた、何れのグループについても、バイアス電圧が深く、大入力振幅を必要とする三極管 (接続) では、出力にもその大入力振幅と同じ電圧成分が残ってしまうので、多極管の超三結 V1 のように電流成分が比率的に増えない、従って電流変換機能が多極管に比べて劣る、という本質的限界につきあたるものと考えます。

●応急処置は可能でも・・・
 低音が緩い場合は、取り敢えずカソード負帰還 = CNF を併用して抑えましたが、あくまでも応急処置です。 O さんの実験には、出力トランスの一次側の適当に低いタップにプレートを接続し、最もインピーダンスの高いタップから電圧帰還管のプレートに戻して P-G NFB を少しでも増やそうとした例がありましたが、実際には巻線比がとれず飛躍的には NFB 量を増やせません。
 筆者が行った、トランジスタ見たいな特性のハイμ出力管 6AC5GT の超三結 V1 (直結) では、例外的に多極管なみの音が得られましたが、実際問題としてはμ=10 以上の三極管 (接続) でなくてもある程度までは、効果が期待できます。 

●P-G NFB 併用カソードフォロワ・ドライバ形式
 筆者の分類では「準超三結回路」(Semi-STC circuit) となりますが、カソードフォロワ段 (実は純粋の電圧帰還管) の負荷に定電流源を入れるなどして、増幅機能を持たせないためか、五極管 (または BJT/FET) + 電圧帰還管の直列動作よりも、大振幅のドライブにも耐えられ、ローμの三極出力管であっても伝統的回路よりは、はるかに締まった音を引き出すことができます。 たとえ μ=3 の管種であっても深い P-G NFB によって μ=1 に近づけた効果は聴覚上でもハッキリ区別できます。(2001/07 Rev4.1)  
 実際に 2A3 および 300B について 12AU7/2 カソードフォロワによる準超三結構成を 12B4A カソードフォロワに変更したら大いに効果がありましたが、大抵のスピーカでは過制動に過ぎてもとに戻した経過があります。(2008/03 rev4.4)

3.5.2 低入力インピ対策〜(1) 電圧帰還管と初段五極管の強化

 低入力インピーダンスの三極出力管については、電圧帰還管回路の出力振幅の強化が必要でしょう。 CV18 パラ A1 級 強力 SRPP ドライブ P-G NFB アンプでは、12AU7 の 強力 SRPP でもフルパワーになる前に降参してしまい、力不足が感じられました。  

 そこで電圧帰還管にはタップリ電流が流せる品種を利用した超三結 V1 に挑戦することになります。 しかし、そのような球は概してμが低いから、μと電流値の掛け算で大きい値が得られるものを選択する必要がありましょう。 さしあたり水平出力系の 12B4A/ 6BL7GT/ 6BX7/ 6AH4GT/ 6EW7 あたりを利用することになります。 
 そのような電圧帰還管を使用する場合は、高いプレート電圧を要求しない 6AN5/ 6AS5〜30A5/ 6CL6/ 12BY7A 等の五極出力管または映像出力管を併用することになります。 そうなれば、電圧電流変換力の強力な定電流源が得られ、ドライブ力不足は一挙に解決しそうです。 但し終段出力の一部分が初段五極管および電圧帰還管に食われます。

 しかし、このようなドライバーとすることにより、グリッド電流が大量に流れて低入力インピーダンスを要求する管種を、不完全ながらも別途の専用カソフォロドライバー段を用意せずに C/R 結合の二段アンプとして簡単に構成でき、完全ドライブによるフルパワーを条件としなければ、手軽なアンプとして一応の実験価値はあるでしょう。(Rev3.0)

3.5.3 低入力インピ対策〜(2) 超三結ドライブグランデッド・グリッド回路

 グランデッド・グリッド回路方式 (GG 回路) が大変有効でした。 筆者は CV18 の超三結ドライブ GG 回路にて、良い結果を得ました。(2001/07 Rev4.1)


以上
ここで、終りです。
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改訂記録
◆旧版 (〜1999/2 Rev2) の改訂記録は削除、その後のこれまでの改訂は下記のとおり。
◆メイジャー・チェンジ 1999/4/11(rev3.0), 6/30(rev3.1), 8/4 (rev3.2), 8/31(rev3.3),
◆2000/1/10 (rev3.4), 3/1(rev3.5), 4/1(rev3.6), 4/15(rev3.7), 5/8(rev3.8), 7/31(rev3.9),
◆2001/1/31 (rev3.10), 4/30 (rev3.11)
◆メイジャー・チェンジ 2001/5/31(rev4.0),
◆2001/7/31 (rev4.1), 12/31 (rev4.2)
◆2003/10/15 (rev4.3)
◆2004/01/17 (小修正)
◆2007/11/17 (小修正)
◆2008/03/31 (rev4.4)

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