鶴の声
【解題】 些細なきっかけで男女が触れ合い、結ばれる機微を物語的に、またさらっと述べたしゃれた地歌。祝儀物と言われ、結 婚や長寿の祝いの儀式の場などで好んで演奏される。 【解析】 ○軒 の雨、立寄る かげは、難波津(なにわづ)や、 |葦ふく宿の| |な(く) | 軒先に降る雨!立ち寄る物 陰 は|なく 、 |難波津 で|たまたま泊まった|粗末な宿で|あなたと出会い、 ○しめやかに、語り明かせし| 可愛 と は、嘘か誠か。 しんみりと|語り明かした|雨の夜、私のことを「かわいい」と言ったあなたの言葉は、嘘か誠か。 ○ |その 言の葉に| |鶴の一声 | けれど、その「かわいい」という言 葉に|難波津の|鶴の一声を|聞いて、あなたを伴侶と決めた私。 ○ |幾千代|までも 、末 は| 互いの友白髪 。 鶴は| | 千年|と言いますから、 |この上は、幾千代|までもお願いします、末永く|お互いに友白髪になるまで。 【背景】 難波津・鶴 ○難波潟潮満ち来らし |海人(あま)衣| |田 蓑|の島に鶴(たづ)鳴き |渡る | 雨 衣| 難波潟に潮が満ちて来るのだなあ。漁師の着る 衣| | 雨 具|つまり|田の蓑|の島に鶴 が|鳴いて|渡って行く。 (古今集・巻第十七・雑上・913・読人知らず) |
作詞:不詳 作曲:玉岡検校 【語注】 難波津・鶴 難波は今の大阪。淀川の下流の低湿地だったので、葦や鶴が多く見られ、歌にもよく詠まれている。⇒背景 田簑 堂島川と土佐堀川に挟まれた大阪府大阪市西淀川区佃は、昔は田蓑島と言った。田蓑神社・田蓑橋などの地名が残る。 鶴鳴き渡る 鶴は浅瀬で餌をあさる習性があり、潮が満ちてくると鳴きながら浅瀬に移動する。そこで、鶴が鳴き渡ることから、潮が満ちてくることが推定できるのである。 |