摘草
【解題】 作詞した市田瓢々は瓢箪収集で知られた大阪の人。雲の峰(夏)・最中の月(秋)・銀世界(冬)と共に菊原の四つ物 の一つ。この曲は四つ物の春にあたり、明治四十一年に作られた。 【解析】 ○長閑さや、ひばりも歌う弥生 空、すみれ、たんぽぽ、菜の花に、ひらひらと蝶の舞う、袖も軽げ や|乙女子の、 長閑さや、ひばりも歌う三月の空、すみれ、たんぽぽ、菜の花に、ひらひらと蝶が舞う、袖も軽やかに、乙女子が、 ○心 つくし も|愛らしく、 |待つ 小鳥にも一束の、いえづとに|せ| ん |はこべ草。 心をこめ て摘む | つくし も|愛らしく、家に|飼っている小鳥にも一束 、お土産 に|し|ようと、はこぶ | |はこべ草。 ○嫁菜(よめな)五形(ごぎょう)も とりどりに、 門(かど)に|満ち|たり |春の色 、 嫁菜 五形 も、色とりどりに、家の門前 に| |春の色が| |満ち|ている。 ○ |入相 告ぐる 小川 辺 や、たなびき渡る |夕霞 、 お寺の鐘が|夕暮を知らせる小川のほとりに、 一面に|夕霞が| |たなびく | |まで、 ○ |楽しさ 飽かぬ |野辺の摘草 。 いつまでも|楽しさが尽きない|野辺の摘草であるよ。 【背景】 摘草 「摘草」とは、春の若菜摘みのこと。平安時代から、一月七日の朝に、七草粥を食べる習慣があった。古来から、若菜 摘みの代表的な草として春の七草が挙げられてきたが、出典は不明。南北朝時代の『源氏物語』の注釈書『河海抄』(四 辻善成著)に次の歌が引用されている。 ○芹(せり)薺(なずな)五形(ごぎょう)繁縷(はこべら)仏の座菘(すずな)すずしろこれぞ七草 また、清少納言の『枕草子』第三段にも、次のような記述がある。 ○正月一日は、 まいて|空の気色もうらうらと|めづらしう、… 正月一日は、普段にもまして|空の様子もうららかで、美しく 、… ○ 七日、雪間の若菜摘み 。 |青やかにて、 例 は、さ しも、さる もの | 正月七日、雪間の若菜摘みが面白い。若菜は|青々として、普段は、それほど!は、そんな野草などを| ○目近からぬ| | 所 に、 |もて騒ぎ | た る |こそ|をかしけれ。 見かけない|貴人の|邸宅で、今日だけは皆が珍重して| 騒ぎ立て|ているの| は 、面白い 。 |
作詞:市田瓢々(大阪) 作曲:菊原琴治 【語注】 摘草⇒背景 嫁菜 野菊の若草のこと。春に摘んで食べる。 五形 母子草の異称。春の七草の一つ。 |