玉の台

【解題】

 表面は一見華やかな遊女の身の上の、耐え難い孤独をかこちながら、身を捨てても愛する人への恋を貫きたいという望みを歌っている。今はその人とは一時の別れ、再開を約して盃を汲み交わす。

【解析】

○ 玉     の|台(うてな)     も|              |恋ひ慕ふ|涙    川。
                                               《川》

 珠玉を散りばめた|高殿のような豪勢な揚屋も、遊女にとっては、いとしい人を|恋い慕う|涙で出来た川|
                                             |のようなもの。


     |わが身 |沈めて|    逢う 瀬 の|あるなら、恋に|やんさ|  捨てば   や、
                      《瀬》

その涙の川に|わが身を|沈めて、もう一度逢う機会が|あるなら、恋に|いっそ|身を捨てたいものよ、

○恋は|仇な  ものな。ひと  | 村 雨      に|立ち寄る         宿の|
 恋は|はかないものね。ひと時の|にわか雨を避けるために|立ち寄って、一夜を過ごした宿の|

○   |名残り は |悲しき に、ましてや|これ は|浅からぬ契  ある    に 。
 翌朝の|別れ でさえ|悲しいのに、ましてや、私たちは|深い  契りを交わした仲だから。

○  |差さ んせ |盃を、飲まふ   |   ささを。
 私に|      |盃を|
   |勧めて下さい。  |      |二人でお酒を|
             |飲みましょう。    

作詞:広光卿(御堂上方)
作曲:松浦検校
箏手付:八重崎検校


語注】

玉の台
 珠玉を散りばめた高殿。ここでは揚屋のこと。揚屋は、客の求めに応じて娼家から遊女を呼び寄せ、遊興させるための家。身分ある客が直接遊郭に行くのを憚るため、作られたもの。
は縁語。

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