根曳きの松
【解題】 「根曳きの松」は、正月の子の日に野辺の小松を引き抜いて家に持ち帰り、自邸の庭に移し植えた風習のこと。「子の日の遊び」と同じで、後世の「門松」の風習の元になっている。歌詞は、新春の様々な行事を取り上げて、国土の安穏長久を寿いでいる。 【解析】 ○神風や、伊勢 の神楽の|学(まね)び して、 | 荻(をぎ)にはあらぬ 笛竹 の、音も 《竹》 《根》 |伊勢神宮の神楽の|真似 をして、伊勢名物の|浜荻 では ない が、 竹笛の、音も ○催馬楽 に、吹き納め|ばや 。難波 津の難波 津の、芦原や、昇る朝日のもとに住む、 催馬楽のように雅(みやび)に、吹き納め|たいものだ。難波の港の難波の港の|芦原!、昇る朝日のもとに住む、 ○田簑の鶴の声々を、琴の調べに聞きなして、軒端に通ふ春風も、|菜蕗|や|茗荷 の|めでたさに| 、 |富貴| |冥加 | 田蓑の鶴の声々を、琴の調べに聞きなして、軒端に通う春風も、|吹き、 |菜蕗|や|茗荷が育ち、 |富貴|や|幸運を得る|めでたさに|加え、 ○野 守 |が宿の門松は、 老いたる ままに|若緑 、 野の番人|の家の門松は、年老い てもそのまま |若緑を保ち、 ○ |世 も|麗(うら)らかに|なり|に| けり 。 新春を迎え、世の中も|麗 らかに|なっ|た|ことだなあ。 ○そもそも@松A春の |徳 若(とくわか)に 、万歳 |祝ふ| 君が 代は、 |常 若(とこわか) | そもそも@松A のように|永遠に若く 、 |徳 若万歳 でも 長久の繁栄を|祝う|我が君の御代は、 ○蓬 が島も|よそ なら@ ず A で、秋津島 |て ふ|国の豊かさ| 。 蓬莱の島も|別のものでは@なくAなくて、秋津島日本|という|国の豊かさ|であることよ。 【背景】 難波津の芦原 ○ 難波 江 の芦の|仮 寝|の|一夜| |ゆゑ | 《難波 江》 《芦》《刈り根》 《一節》 難波の入江|に生えている芦の|刈り根| |旅 寝|の|一夜|の出来事|ゆえに、 ┌─────────────────────────┐ ○ |みをつくして|や|恋ひ |わたる |べき || 《 澪 標 》 | 私はあなたを| | |これからずっと| ↓ |身を捨て て| |恋い慕い|続ける |ことになるのでしょう|か。 (千載集・巻第十三・恋三・807・皇嘉門院別当) 田蓑の鶴 ○難波潟 潮満ちくらし雨衣たみのの島にたづ鳴き渡る(古今集・巻第十七・雑上・913・よみ人しらず) ○雨によりたみのの島を今日ゆけど名には隠れぬものにぞありける(古今集・巻第十七・雑上・918・紀貫之) 菜蕗や茗荷 箏組歌の『菜蕗』の冒頭に次の歌詞がある。 ○菜蕗(ふき)といふも草の名、茗荷(みようが)というふも草の名 ○富貴(ふき)自在徳ありて、冥加(みようが)あらせ給へや 根引きの松 |
作詞:松本一翁 作曲:三橋勾当 筝手付:八重崎検校 【語注】 神風や 「伊勢」に掛かる枕詞。普通は、「神風の」。 竹・根は縁語。 難波 現在の大阪のこと。 田簑の鶴 大阪府大阪市西淀川区佃は、昔は田蓑島と言った。田蓑神社の名称が残る。堂島川と土佐堀川に挟まれた現在の中之島という説もあり、田蓑橋の名称が残る。⇒背景 菜蕗や茗荷⇒背景 老い 終止形は「老ゆ」。ヤ行下二段活用。 徳若 常若(とこわか)が訛って徳若となった。三河万歳(まんざい)などの詞章に必ず使われるので、徳若万歳などとも言う。 校異@A 難波江の芦の 刈り根(仮寝)の以下を呼び出す序詞。 難波江と芦・みおつくしは縁語。芦・一節(ひとよ)・刈り根は縁語。 みをつくし(澪標) 舟の航路を示す杭(くい)。水脈(みを)つ串。 |