神遊

【解題】

 七福神の徳を称えたもの。同じ山田流の『七福神』の歌詞を要約したものと思われる。作曲者の二人はは明治の箏曲家。

【解析】

○ 頃 も皐月(さつき)の空 晴れて、今日を祝う神々の、宝 尽くし  を積み重ね 、蓬莱山や富士山を、
 季節も皐月     の空は晴れて、今日を祝って神々が、宝のありったけ積み重ねて、蓬莱山や富士山を、

○はるか  に見つつ |うち連れ  て、宝 船に帆を上げて、海辺を 指して 出で  給 、
 はるか遠くに見ながら|  連れだって、宝の御船に帆を上げて、海 を目指してお出かけになった。

○     わけて|波路も靜かにて、四  海にひゞく音楽の、中に姿もなよなよと、弁財天はしとやかに、
 今日は取り分け |波路も静か で 、四方の海に 響 音楽の|中に姿もなよなよと、弁財天はしとやかに、

○秘蔵の琵琶をかきならす、  そばにきゝ入る福禄寿 、長き頭をふりたてて、       唄うひと節 |
 秘蔵の琵琶をかきならず、そのそばで聞き入る福禄寿は、長い頭を振り立てて、琵琶に合わせて唄う 一 節は、

○聞こえ   よく、うちはをあげて|     祝し けり 、大黒天は、    おもおもと、肩にかけたる
 聞こえる声もよく、 団扇 を挙げて|今日の日を祝ったことだ。大黒天は、いかにも重そうに |肩にかけた 

○福包み、  中は|福々      | 福 笑ひ        、毘沙門天や寿老人 、手に携へし不老 酒を、
 福袋 、その中は|ふくふく膨らんで、幸福の笑いの種が入っている。毘沙門天や寿老人は、手に携えた不老の酒を、
        
○さし     つ |  抑へつ、  お酒盛り、その盃の|重なりて  、賑は|今日の船(ふな)遊び、
 相手の盃に注いだり、また勧めたりしてお酒盛り、その盃が|重なるように
                            |幾重にも  |賑わう|今日の船    遊び、

○恵比須殿には余念なく、手慣れし竿(さを)の糸 長く    、漁(れう)の獲物の生鯛を|  さかなに一つ
 恵比寿殿 は一心に 、手慣れた竿    の糸を長く延ばして|漁をした  獲物の生鯛を、酒の 肴 に一つ

○賜(たまは)れと    、うけ  て|うれしき  |さゝごとに、布袋(ほてい)は腹をかかへつつ、
 差し上げよう と言われて、受け取って|うれしいこの|酒盛り で、布袋     は腹を抱えながら、

○  ともに|笑ひの声 高く、みかみ もひとしほ機嫌よく   、うかれ うかれて|夕暮に    、
 二柱ともに|笑いの声も高く、御 神 々も一層  機嫌良くなられ、浮かれに浮かれて、夕暮れになると、

ふの字づくしのざれ歌も、波の鼓の拍子をそろへ 、うつ    や|うきたつ船のうち      、
 ふの字尽くしの戯れ歌も、波の鼓が拍子を 揃 えて、打つにつれて 、浮き立つ船の 中 であることよ。

○面白    や、士や筑波を見渡せば、空にむれ   たつ|鶴の声 、      千代万代   と
 風情あることよ、富士や筑波を見渡すと、空に群れて飛び立つ|鶴の声が、大君の御代が千代万代も続くと

○祝|   なり    。窓にき入る   夕風に、なびく若竹 |   |長く   、
 祝う|ように聞こえてくる。窓に吹き込んでくる夕風に| 靡 若竹の|節の間が|長いように|
                                      |長く   |

                             ┌─────────┐
に言はせて|書く の、     |き縁(えにし)|や|結ぶ|  らん|、今を盛り  の寿草 、
 筆に語らせて|書く恋文が、二人の間の|深い縁    を| |結ぶ|のだろう|か。今を盛りと咲く福寿草の|

○かわゆらしさよ|  こがね色、    ながめ|入(い)る日の|   夕波に、いざ帰らんとうち連れ  て、
 可 愛 らしさよ、その 黄金 色の花びらを 眺 め|入りながら  |
                       |入   日に|映える夕波に、さあ帰ろうとうち連れだって、

○岸辺近く ぞ|漕ぎ |たまふ    、げ にも|うれしき乗合と、くは七福 |   貴(ふき) |
 岸辺近くへ |漕いで|いらっしゃった。本当に |うれしい乗合と、 福 は七福で、財貨と地位   が|

○自在    、貴(ふうき)繁昌 |尽くし   なき、万々歳      と|祝 しけり  、
 自在に備わり、富貴と    繁昌が|尽きることがない、万々歳の御代であると|祝賀したことだ、

○  豊かの    御代こそ|  めでたけれ  。
 この豊かな日の本の御代 は 、実にめでたいことだ。

 
        江島神社の弁財天              寿老人                福禄寿

作詞:不詳
作曲:山登萬和・櫛田栄松合作




【語注】
















へつ 「抑」は、さされた盃を受けずに、また相手に飲ませること。



には 尊敬を表す表現。

目次へ