比良

【解題】

 従来の三曲合奏は普通、まず三絃を伴奏にして唄を歌う地歌があり、それに箏の替手が付いていた。これに尺八が加わったのは明治以降で、尺八はだいたい三絃と同じ旋律が付けらた。作曲者宮城道は、このような三曲合奏を改革し、箏、三絃、尺八がそれぞれ独立の旋律を演奏する三曲合奏の形式を創作した。その一つがこの曲である。

【解析】

○              |見渡せば
 ここ近江の国琵琶湖の岸辺から|見渡すと、

○                 |比良の高嶺に 雪 消えて
 都の周辺では最後まで雪が残っている|比良の高嶺にも雪が消えて、

○若菜 摘む|   べく    |       |野 は|なり|に| けり
 若菜を摘む|ことが出来るような|暖かい気候に、|野山は|なっ|た|ことだなあ。

                         (和漢朗詠集・17・続後撰集・春上・平兼盛)

【背景】

 比良

 現代では比良山地と呼ばれる、滋賀県の琵琶湖西岸に連なる山地。最高峰は武奈ヶ岳(ぶながたけ、1,214.4 m)。日本海側の気候の影響を受けて、冬季には大量の積雪があり、春先には近江地方では最後まで消え残るので、古くから近江八景の一つ「比良の暮雪」で知られる。近江路を人々が東国へ旅立つとき、また都へ帰還するとき見上げるのが琵琶湖に対して屏風のように連立している比良の山々で、旅人の心に深い印象を与えた。

 平兼盛(たいらのかねもり)

 生年未詳〜正暦元年 光孝天皇の五代孫。筑前守篤行の子。『袋草紙』には『江記』からの引用として赤染衛門の実父であるとの説を載せる。もと兼盛王と名のったようだが、天暦四年、平姓を賜わる。「しのぶれど色にいでにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで」(百人一首・拾遺集、巻十二)の作者として知られる。

作詞:平兼盛
作曲:宮城道雄

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