秋の七草

【解題】

 万葉集以来、秋の七草と言い習わされている草花を、古歌を踏まえて一つ一つ美しく描写し、称揚したもの。

解析

              ┌────────┐
秋の野に、咲き たる花は|何 々|ぞ    ↓、おのが指 |をり |数へ 見よ 。
 秋の野に|咲いている花は|何と何|!|だろうか。自分の指を|折って|数えてごらん。

                         ┌──────────────┐
○錦を|粧ふ  |萩が花、尾花、葛花、をみなへし、誰|が脱ぎ 掛けし藤袴|   ↓、
 錦を|着飾った|萩の花、尾花、葛花、 女郎花 、誰|が脱いで掛けた藤袴|だろうか、

○親の|情け|の|撫で         し|子|に、露          を| 命  の|朝顔の花。
        
|なで         し こ|
 親の|愛情|で|撫でるように大切に育てた|子|
        |撫            子|に、露が消えるまでの束の間を|寿命とする|朝顔の花。

○この|七草 の|花はしも、昔の人の|めで そめ て、秋 野の花の|うるわしき|     、
   
|七種 の|
 この|七種類の|
   | 草 の|花は!!、昔の人が|称賛しはじめて、秋の野の花で| 麗 しい|ものとして、

○その名 は今に    |     |高まどや、  |野辺に|匂へ  る|秋の七草   。
 その名声は今に至るまで|     |高く  、
            |七草の名所|高 円 !|その|野辺に|匂っている|秋の七草である。

【背景】

 秋の野に、咲きたる花 指をり数へ

○秋の野に咲きたる花を指(および)折りかき数ふれば七種(くさ)の花

○萩の花尾花葛花なでしこの花女郎花又藤袴朝顔の花
 (万葉集・巻八・山上憶良・1537・1538)

 錦を粧ふ萩が花

○秋の野の萩の|にしき  を|我が宿に    |鹿の  音| ながら  |うつし  |てしが  な
 秋の野の萩の|美しい織物を|私の家に秋の野の|鹿の鳴く声|といっしょに| 移 し替え|たいものだなあ。

                               (清原元輔・前十五番歌合せ・藤原公任撰)

 誰がぬぎかけし藤袴

○  |ぬし |知ら ぬ |    香 こそ |匂へ|  れ|
 持ち| 主 が|分からない|たき物の香り  が|匂っ|ている|ことだ。

         ┌────────────────────┐
○  |秋の野に|誰が|ぬぎ かけし|藤  袴| ぞも|   |
 この|秋の野に|誰が|脱いで掛けた|藤色の袴|       ↓
                  |藤  袴|で!!|あろうか。(古今集・巻第四・秋上・241・素性法師)

 親のなさけのなでしこ

 源氏物語・帚木(ははきぎ)の巻で、頭の中将(葵の上の兄弟)の愛人(後に源氏が交際する夕顔の宿の女)が頭中将に送った歌に、次のようにある。頭の中将との間に生まれた女の子(後の玉蔓)と自分を捨てないで下さいと訴えている。

○山がつ|の          |垣ほ|           |荒る |と  も|
 木こり|のように下賤な私の家の|垣根|はあなたに見捨てられて|荒れる|としても、

○をりをりに |あはれは|かけよ     |       |撫  子|の   |露 |
                             
|撫でし子|
  折 々 には、             |その垣根に咲く|撫  子|のような|
                             |可愛い子|には  |
       |お情けの|                          |露を|
            |掛けてくださいね。

 露を命の朝顔の花

○その主と栖(すみか)と、無常を争うさま、いはば朝顔の露に異ならず。或いは露落ちて、花残れり、残るといえども、朝日に枯れぬ。 或いは花しぼみて露なお消えず。消えずといえども、夕べを待つことなし。(方丈記)

作詞:不詳
作曲:三代目山勢松韻


【語注】



秋の野に咲きたる花
⇒背景
指をり数へ⇒背景


錦を粧ふ萩が花⇒背景
誰がぬぎかけし藤袴⇒背景

親の情けのなでしこ⇒背景
露を命の朝顔の花⇒背景



秋野の花の 最後の「の」は同格を表す。



高まど 平城京の東南郊、春日野の南に続く丘陵地帯。春日野に東大寺、春日大社など多くの寺社が作られ、開発が進んだので、その南の高円が貴族たちの遊覧地となった。また、聖武天皇の離宮があった。

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