歴史小説
八本目の槍
書 名:八本目の槍
著者名 :今村 翔吾
出版社名:新潮文庫
登場人物:石田佐吉
update by 2025/11/21
「賤ヶ岳七本槍」と聞けば、加藤清正、福島正則をはじめとする武将たちの華々しい武勇伝を思い浮かべるでしょう。
しかし、本書が焦点を当てるのは、戦場での直接的な武勇伝ではない。
本書が深く掘り下げるのは、なぜ石田三成は大大名・徳川家康に関ヶ原の戦いを挑んだのかという「動機」、そして彼が秘匿していた壮大な「豊臣家存続の計画」です。
七本槍の面々のエピソードは、羽柴秀吉の小姓として過ごした若き日々から、それぞれの人生のクライマックスまでが描かれます。
その中で、彼らと三成との交流が丹念に描かれ、やがて読者は、題名にある「八本目」こそが、他ならぬ石田佐吉(三成)を指していることに気が付き、いやとっくに気が付いていたかもしれない。
武勇ではなく、文官として道を歩み続けた三成。その才気あふれる頭脳で練り上げた壮大な計画とは、一体どのようなものだったのでしょうか。
史実を尊重しながら、三成の緻密な思考と周到な計画が解き明かされていく展開は、読み手の知的好奇心を刺激してくる。
単なる短編集では終わらない、本書の各エピソードに仕込まれた巧妙な「繋がり」と、見事なまでの「伏線回収」の結末には、思わず唸ってしまうはずです。
もし、石田三成の知られざる真意と、歴史を揺るがす壮大な計画に好奇心が湧いたなら、ぜひ本書を手に取ってみてください。
★ ★ ★ ☆ ☆ 3 stars
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北条は退かず(全三巻)
書 名:北条は退かず(全三巻)
著者名 :近衛 龍春
出版社名:角川文庫
登場人物:北条氏邦、北条氏照
update by 2025/10/19
関東の覇者・小田原北条家。
誰もが知る「歴史の敗者」としてではなく、激動の時代を駆け抜けた一人の武将の半生を骨太に描く長編歴史小説だ。
後北条氏の最盛期は三代目の北条氏康ではないだろうか。
初代早雲は始祖として、飛躍の契機を活かしたのは二代目氏綱、世の流れについていけず判断を誤ったとされる氏政・氏直親子については、一旦脇に置こう。
ここで後北条家の当主について優劣を論じるつもりはない。本書について語っていきたい。
主人公は氏康の四男として生をうけた氏邦だ。
幼少期に武蔵藤田氏の養子となり藤田性を名乗る氏邦は、のちに鉢形城を築きその城主となるのだが、そこにいたるまでの道のりは想像を絶するほど険しく、辛い日々であった。
地元の家臣領民、元藤田家の面々からの敵視。
さらには隣国武田家との争いや、越後の長尾氏といった大勢力との領地争奪戦。
そして北条本家から受ける理不尽な指図による領国の疲弊。
数々の苦難を乗り越え、つらき仕打ちに耐えながら領国を治める氏邦の成長した姿が胸を打つ。
しかし物語の半ばにでてくる真田氏の描写がずるい!
どうしても真田氏を応援したくなってしまい、謀略を駆使してくるその策略家を思わず応援してしまう。
真田氏に押され、苦境に立たされる氏邦の姿が描かれるとなぜかほくそ笑んでしまうのはご愛敬。
それはともかく、豊臣秀吉による天正18年の小田原征伐という結末は、歴史好きの読者の大半がご存知だろう。
歴史の敗者という目線で、喜びや悲しさ、信頼や裏切りといった氏邦という一人の男の半生を描き切った長編は、北条氏に興味を持つきっかけになりそうな一冊であることは間違いない。
★ ★ ★ ★ ☆ 4 stars
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布武の果て
書 名:布武の果て
著者名 :上田 秀人
出版社名:集英社
登場人物:今井彦八郎、魚屋與四郎、天王寺屋助五郎
update by 2022/06/11
「堺商人たちが辿り着いた、「本能寺の変」の驚くべき真相とは」
本書は堺の商人である主人公の3人が、茶飲み話をするかのようにして、時世を語りながら物語は進行していく。
歴史小説の主人公として、武将ではなく商人からの視点にすると、もしかしたら地味に思えてしまうかもしれない。
たしかに武将が率いる軍勢同士の派手な合戦場面、命を賭した勇ましい姿、謀略を仕掛ける緊張感はなかなか感じられないだろう。
よいところ取引のある大名に取り入り、その相談役として歴史に介入する姿や、商売敵を貶める策を講じて、販売網を拡充するなど経済戦争であろうか。
本書も想像通り、勇ましく合戦に華を添える様な歴戦の武将の姿は描かれていない。
さらに歴史を動かしたという事実を無理矢理に作られていない。
堺という自治都市が生き残るため策として、織田信長に組したという事実はあるが、時代を動かした人々とは違うだろう。
もっぱら3人の商人による意見交換、それも茶飲みに吟じての雑談から生まれる世間話。
ここから時代背景や社会事件などを読者に説明をする様にして物語は展開しておくのである。
しかしそれがつまらないとは言えないのは、この題材をうまく料理して提供していれた著者の力量だろう。
大筋では織田信長の上洛から本能寺の直前までの、躍進を描いているといっていい。
織田信長の歴史的な活躍についても、当然ながら3人による茶飲み話の一つとして語られているだけだ。
それでも興味を掻き立て読者を飽きさせない。
さてさて「本能寺の変」の驚くべき真相?とは、その黒幕とはだれなのだろうか。
謎であり真相が闇の中である「本能寺の変」。
結末を迎えるまでの伏線も、その回収も含め大いに楽しめます。
★ ★ ★ ★ ★ 5 stars
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北条五代(全二巻)
著者名 :火坂 雅志 , 伊東 潤
出版社名:朝日新聞出版
登場人物:伊勢新九郎、北条氏綱
北条氏康、北条氏政、北条氏直
なかなかお目にかかれない北条氏五代にわたり、およそ100年間の栄枯盛衰を描いた歴史長編小説。
伊勢新九郎(早雲)が旗揚げし、氏綱の時代に基盤を整え、氏康によりその勢力範囲は最大となり関東地方を席巻。
しかし時代の変革期に直面した氏政は北条家の舵取りに困惑し、そして氏政の時代に幕を下ろした。
まさに波乱万丈の北条家一〇〇年史ともいえようか。
難しいことは無しに、その歴史をおよそ八〇〇頁にまとめ上げた歴史書ともいえる。
本書は当初、火坂雅志氏が執筆していたが、結末にたどり着く前に急逝。
未完で本書の続きを受け継ぐカタチで、伊東潤が書き下ろした両氏による合同作品ともなっている。
物語は「禄寿応穏」を合言葉に掲げた北条氏が、代替わりしてもその思想は引き継がれ、理想郷を追い求めた国造りに奔走する、まさに北条家の物語。
一口に戦国時代とは言え、初代早雲の時代と五代目氏直の情勢は全く違っていることがよくわかる。
早雲や氏綱の時代はまさに北条氏の黎明期であり、まさに日の出の勢いの如く勢力拡大に努めた時期でもあった。
関東諸国は牽制しあい、虎視眈々と隙あらば攻め寄せるという群雄割拠の時代。
それが氏康に代替わりする頃になると、領土拡張を推し進め、関東屈指の大名家へと成長していた。
しかしそれは国境を接する隣国の甲斐武田家、さらには駿河今川家も同様に強大な国力を保持する戦国大名の誕生である。
さらに北へ目を向ければ、越後長尾家にも景虎という新星が誕生したことで、関東地方に未知なる新しい風が吹き付けていた。
それらの勢力と干戈を交え、または和睦を約し、一進一退の攻防を繰り広げていた。
関東での争いなどあざ笑うかの様に、時代は天下統一の道を織田信長により着々と進めれていたい。
結局その信長は本能寺で家臣である光秀に討たれ、志半ばで横死して北条家の危機は取り除かれるのだが、
その志を継いだ羽柴秀吉が信長に取って代わり天下の掌中に収めようとしていた。
北条家始まって依頼の苦難が、氏政そして氏直親子に突きつけられることとなる。
さて、北条家の栄枯盛衰を上下巻で壮大に描かれ、また火坂雅志 , 伊東 潤という巨匠がリレー形式で記された物語。
その結末を知っていても読んで損なし、おすすめです。
★ ★ ★ ☆ ☆ 3 stars
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放浪大名 水野勝成―信長、秀吉、家康に仕えた男
書 名:放浪大名 水野勝成―信長、秀吉、家康に仕えた男
著者名 :早見俊
出版社名:新潮文庫
登場人物:水野勝成
update by 2025/06/08
水野勝成という武将の名をご存知でしょうか。織田信長に仕え、その生涯を戦場で駆け巡り、命を賭して槍をふるい、太平の世である徳川時代まで生き残った稀有な男です。彼の人生は、決して腕一本で勝ち得たものではなく、また運が味方しただけでもありませんでした。
では、一体何が勝成という人物を形成したのでしょうか? 数々の戦場でどのような振る舞いをし、また逆境を跳ね返した源は何だったのか。本書は、勝成自身が小話を交えながら語り継ぐ形式で、彼の半生を綴っています。
題名にもある通り、織田信長、豊臣秀吉、そして徳川家康という三英傑に仕え、時勢を読み解きながら順風満帆に見える彼の人生。
人には誰もが語りたくなるような誇らしい伝説もあれば、逆に聞かれたくないような卑下される小話もあります。
勝成自身の口から語られる、その波乱万丈な人生の一代記をぜひご堪能ください。
★ ★ ★ ☆ ☆ 3 stars
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