51_4 鳥を詠める和歌
 
[斑鳩イカルカ・イカル・豆甘マメウマシ]
近江の海 泊トマリ八十ヤソ有り 八十島の 島の埼ざき あり立てる 花橘を 末枝ホヅエに
もち引き懸け 仲枝ナカツエに いかるが懸け 下枝シヅエに しめを懸け 己シが母を 取ら
くを知らに 己が父を 取らくをしらに いそばひをるよ いかるがとしめと
                             (萬葉集 十三雑歌)
 
いかるがよまめうましとはたれもさぞ ひしりこきとは何をなくらむ
                         (古今著聞集 二十魚虫禽獣)
 
[鵑シメ・ヒメ]
近江の海 泊トマリ八十ヤソ有り 八十島の 島の埼ざき あり立てる 花橘を 末枝ホヅエに
もち引き懸け 仲枝ナカツエに いかるが懸け 下枝シヅエに しめを懸け 己シが母を 取ら
くを知らに 己が父を 取らくをしらに いそばひをるよ いかるがとしめと
                             (萬葉集 十三雑歌)
 
[百舌鳥モズ]
百舌鳥こそはをとみつはるや疳の虫 かたかひふるひ落ざるに吉(食物和歌本草 七)
 
春されば 伯労鳥モズの草ぐき 見えねども 吾れは見やらむ 君が当たりは
                             (萬葉集 十春相聞)
 
秋の野の 草花ヲバナが末ウレに 鳴く百舌鳥の 音コエ聞くらむか 片カタ聞く吾妹ワギモ
                             (萬葉集 十秋雑歌)
 
尋ればそことも見えず成にけり たのめし野べのもずの草ぐさ
                     (続古今和歌集 十四恋 武子内親王)
 
[鷯ツクミ]
つぐみ平淋病に吉腎つかれ 陰なへ腰の痛にぞよき(食物和歌本草 三)
 
わが心あやしくあだに春くれば 花につくみといかでなりけん
さく花におもひつくみのあぢきなさ 身にいたつきのいるもしらずて
                       (拾遺和歌集 七物名 大伴墨主)
 
[鴬・花見鳥・あたこ鳥]
春ははや比に成行山ざとの 軒に来てなけけふ花見鳥(蔵玉和謌集 春)
 
羽かぜだに花のためにはあたこ鳥 おはら巣だちにいかゞあはせん
すゑあげてよきうぐひすとまむずれば やがてとびなきするもおそろし
                             (三十二番職人歌合)
 
契りおきてこゝにぞきかむ鴬の 八尾のつばき八千歳の声(吉野詣記)
 
よもぎをひてあれたるやどの鴬の ひとくとなくやたれとかまたむ
きたれどもいひしなれねばうぐひすの 君につげよとをしへてぞなく(大和物語 下)
 
はるはたゞきのふばかりをうぐひすの かぎれるごともなかぬけふかな
                            (大和物語 上 公忠)
 
勅なればいともかしこしうぐひすの やどはととはゞいかゞこたへむ(大鏡 八)
 
わがすみか君はゆかしく思ほえず あな鴬のすのうちをみよ
かへし
鴬のすのうちみてもねをぞなく 君がすみかはこれかと思へば(多武峯少将物語)
 
鴬は陽気補ひ脾をたすけ 物ねたみすることをへらする(食物和歌本草 四)
 
烏梅ウメのはな ちらまくをしみ わがそのの たけのはやしに うぐひすなくも
                              (萬葉集 五雑歌)
 
打ちきらし 雪はふりつゝ しかすがに 吾宅ワギヘの苑ソノに うぐひす鳴くも
                             (萬葉集 八春雑歌)
 
春きぬと人はいへども鴬の なかぬかぎりはあらじとぞ思ふ(みぶのたゞみね)
鴬の谷より出る声なくば 春くることをたれかしらまし(大江千里)
                             (古今和歌集 一春)
 
梅の花みにこそきつれ鴬の ひとくひとくといとひしもをる
                     (古今和歌集 十九俳諧 読人しらず)
 
竹近く夜床ねはせじ鴬の なくこゑきけば朝いせられず
                      (後撰和歌集 二春 藤原伊衡朝臣)
 
鴬の春のはつねと時鳥 よぶかくなくといづれまされり
折からにいづれもまさる鳥の音を 時ならぬみはいかゞ定めん(朝光卿集)
 
あら玉のとしたちかへるあしたより またるゝ物は鴬の声
松のうへになくうぐひすのこゑをこそ はつねの日とはいふべかりけれ
                           (拾遺和歌集 素性法師)
 
[烏カラス・おほをそ鳥]
からすとふ おほをそどりの まさでにも きまさぬきみを ころくとぞなく
                             (萬葉集 十四東歌)
 
くまもなき月の光にはかられて おほをそどりもひるとなく也(散木葉謌集 三秋)
 
いつもきくおほをそ鳥の声までも ねざめ悲しき有明の月(土御門院御集)
 
たぐひなくよにおもしろき鳥なれば ゆかしきからすと誰か思はん
                        (金葉和歌集 九雑 少将内侍)
 
山がらすかしらもしろく成にけり 我帰るべき時やきぬらん
                      (後拾遺和歌集 十八雑 増基法師)
 
とりもえぬ魚の心を恥もせで うのまねしたる烏川かな(廻国雑記)
 
暁アカトキと 夜烏鳴けど 此の山上ミネの 木末コヌレのうへは 未だ静けし
                              (萬葉集 七雑歌)
 
婆羅門バラモムの 作れる小田を 喫ハむ烏 瞼マナブタ腫れて 幡幢ハタホコに居り
                         (萬葉集 十六有由縁并雑歌)
 
いづみからすのすきひたりあま君に あまのりあふれさゝせもうさん
                            (散木葉謌集 十隠題)
 
おほゐがはゐぐひにきゐる山烏 うのまねすともうをはとらじな
                     (夫木和歌抄 二十七烏 権僧正公朝)
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