14c 森に棲む野鳥の生態学〈森林の鳥類群集の生息実態〉
 
〈冬季群集の類型〉
 冬季は一応渡りの移動は終息して鳥類群集はある程度安定しますが,アトリ,マヒワ
などが餌を求めて大群で飛来したり,豪雪のため地表林縁性の鳥が急に移動したりしま
すので,繁殖期に比べて年次変動が大きくなる傾向を持っています。
 次の表は,日本各地約40箇所の冬季のラインセンサスデータから,前述の繁殖期と同
様の分析を行い,デンドログラム化したものです。
 
          冬季の類型と優占種及びグループ優占度
 
番 類型名               鳥類群集名         優占度%
号              1位     2位    3位   冬鳥 カラ類
 
1 北海道低地常緑針葉樹林 キクイタダキ       ハシブトガラス   ヒガラ       0.80  51.09
2 北海道汎針広混交林   ヒガラ       コガラ    ゴジュウカラ     3.29  47.73
3 北海道低地落葉広葉樹林 コガラ    ゴジュウカラ  コゲラ       0     53.06
4 本州ブナ帯壮齢林落葉  コガラ    ゴジュウカラ  エナガ      10.12  56.90
   広葉樹林
5 北日本カラマツ林    エナガ    ヒガラ   シジュウカラ      5.36  74.30
6 本州ブナ帯若齢落葉   エナガ    ホオジロ  ツグミ      17.69  50.19
   広葉樹林
7 本州中北部常緑針葉樹林 ヒガラ    エナガ   コガラ       7.46  62.83
8 暖温帯針広混交疎開林  エナガ    ホオジロ  キクイタダキ     10.71  29.46
9 暖帯針広混交疎開林   ヒヨドリ   カワラヒワ ホオジロ     8.13  11.39
10 暖帯内陸常緑樹林    ヒヨドリ   シジュウカラ     メジロ       8.53  25.38
11 暖帯海岸常緑樹林林   ヒヨドリ   メジロ   ミソサザイ   5.41  11.21
 
 繁殖期同様優占上位種は林相タイプごとに様々の構成を示しますが,重複しているも
のも多いです。特にエナガ,シジュウカラ,コガラ,ヒガラ,ヒヨドリ,キクイタダキ,
ゴジュウカラ,ホオジロは広く優占し,この8種は日本の冬季の森林鳥類群集を構成す
る基本種といえます。そのうちシジュウカラ,ヒガラ,ヒヨドリ,ホオジロの4種は夏
冬を通じて優占しています。
 夏鳥に比べ冬鳥の優占度が低いのが特徴的です。一方シジュウカラ類の優占度は北日
本で約50%以上と高く,南日本では低いです。これは北日本の林からは夏鳥が居なくな
ること,南日本は越冬鳥が多くなることによります。
 
 
森林の鳥類群集の生息実態〈野鳥の多い林は〉
 
〈群集密度等の求め方〉
 ラインセンサス法のスタンダード(前掲 好天の早朝,公式日の出時の1時間30分後
から1時間,時速1.5km,観察半径50m)によると,15ha当たりの全種合計記録個体数が
求められますが,野鳥の判別ができない人でも,このスタンダードによって林を歩いて
出会った野鳥の羽数だけ記録しておけば,その林の鳥類全体の生息数が分かります。
 分析データは全国190箇所余でのラインセンサス法を主体とする繁殖期の生息調査結
果です。
 15ha当たりに何種類含まれるかを希釈法により推定し,多様度指数はシャノン・ウィ
ーバーの情報論理式によります。
 
     繁殖期の鳥類群集の林相タイプ別密度,種類数及び多様性
                                                                             
 林相タイプ       基準センサス記録数 15ha当たり 同左生息  多様度
                        生息密度D  種類数Sr   指数H'
                                                                              
A 広葉樹低木林     25.37± 7.38     51.04    14.79   2.607
B シイ・カシ・タブ林  62.00±15.76     140.78    25.56   3.366
C クヌギ・コナラ林   32.82± 8.64     69.29    21.09   3.125
D ミズナラ林      47.51± 7.25     105.28    28.73   3.666
E ブナ林        45.07± 3.76     99.30    26.63   3.247
                                        
F ダケカンバ林     17.23± 6.03     31.09    14.14   2.776
G 北海道汎針広混交林  48.40±11.14     107.46    26.48   3.469
H 温帯針葉樹天然林   40.49± 8.23     88.08    23.64   3.117
I 亜寒帯針葉樹林    52.28± 8.18     116.97    18.58   2.867
J ハイマツ林      26.03± 6.10     52.65    11.70   2.405
 
K 高山岩礫帯       9.89± 2.21     13.11    8.27   1.607
L 幼齢人工林      11.74± 4.35     17.64    10.15   2.278
M 暖帯・暖温帯若齢人工林25.03± 5.89     50.20    11.26   1.872
N 冷温帯若齢人工林   33.15± 7.11     70.10    18.18   2.942
O 暖帯・暖温帯     29.90± 4.05     62.14    17.79   2.893
   壮齢単純人工林                             
P 〃壮齢人工林(広葉樹 42.15± 6.93     93.03    21.44   3.106
   混林)                                
Q 冷温帯壮齢単純人工林 33.07±11.10     82.15    20.74   3.138
R 〃  壮齢人工林(広 55.73±22.41     127.87    29.05   3.729
   葉樹混林)                              
S 〃  〃(疎開)   55.12±15.06     121.47    26.45   3.547
 
〈広葉樹混交人工林に野鳥が多い〉
 前述の15ha当たりの生息密度Dを用いて,全国の各林相タイプの面積を乗ずれば,日
本の森林全体の繁殖期の生息個体数が推定できることになります。
 ここで鳥類群集の生息密度,生息種類数並びに多様度指数が多大な森林のことを「鳥
類群集の豊かな林」と呼ぶことにしましょう。これまでのの分析から鳥類群集の豊かな
林とは,成熟した背の高い天然林や広葉樹を混えた壮齢(勿論老齢も)人工林であるこ
とが分かりました。広葉樹を混えた壮齢人工林では時には天然林より豊かになります。
 
〈林の広さと生息種類数〉
 面積が広ければ行動圏の広い大型鳥や数の少ない希少種が生息する確率が高くなるこ
とと様々のハタビットが含まれること,それにつれてより複雑な種間関係が形成された
り競合種が生息できること,もっと広くなれば生物物理学的分画が沢山含まれてくるこ
となどが考えられます。
[次へ進んで下さい]