14d 森に棲む野鳥の生態学〈森林の鳥類群集の生息実態〉
 
       面積による生息種類数の変化(負の二項級数則による)
 
林相タイプ k  1ha  5ha 10ha 15ha 30ha 100ha 1000ha 10000ha Smax
 
  A  0.3955 2.9  9.0 12.7 14.8 18.2  22.8  27.7   29.7   31
  B  0.5454 7.0 18.1 23.1 25.6 29.2  33.3  36.7   37.6   38
  C  0.2621 3.9 12.5 17.8 21.1 26.4  34.5  45.0   50.9   58
  D  0.3542 5.8 17.9 24.9 28.7 35.5  44.6  54.8   59.4   63
  E  0.1940 5.2 15.1 20.7 23.6 29.5  38.0  50.2   58.0   72
 
  F  0.3538 1.9  7.3 11.4 14.1 19.1  26.8  36.2   40.6   44
  G  0.2921 5.7 16.8 22.9 26.5 32.2  40.4  50.4   55.6   61
  H  0.2325 4.8 14.5 20.2 23.6 29.3  37.9   49.5   56.3   66
  I  0.1963 5.3  2.8 16.5 15.6 21.9  26.8  33.8   38.2   46
  J  0.3054 2.7  7.6 10.2 11.7 14.0  17.3  21.2   23.1   25
 
  K  0.9406 0.8  3.6  6.3  8.3 12.1  18.0   22.3   22.9   23
  L  1.1025 1.1  4.7  7.9 10.2 14.2  19.6  22.7   23.0   23
  M  0.3596 2.6  7.4  9.9 11.3 13.4  16.3  19.5   20.9   22
  N  0.4403 3.8 11.5 15.8 18.2 21.9  26.6  31.3   33.0   34
  O  0.3450 3.5 10.8 15.2 17.8 21.9  27.8  34.4   37.5   40
 
  P  0.2904 4.9 13.8 18.7 21.4 25.8  32.2  39.8   3.8   48
  Q  0.4054 4.4 13.2 18.0 20.7 24.9  30.5  36.2   38.5   40
  R  0.3604 6.7 19.0 25.4 29.1 34.7  42.2  50.5   54.2   57
  S  0.2728 6.2 17.3 23.1 26.5 31.8  39.4  49.0   54.1   60
 
  ※ アルファベットは,前表の林相タイプです。
 
〈夏から冬への変化〉
 岩手田山のブナ林帯の林相別の種類数の季節変化によると,温帯地域の生息種類数は
秋の渡りの時期に一番多く,厳冬季には最も減少することが分かります。しかし生息種
類数の季節的変動は各地,各林相で見られるもののそのパターンは地方によって異なり,
特に南に向かうほどピークは冬季の方にずれる傾向にあります。
 温帯以南の里山混交林(針・広)や暖帯常緑広葉樹林は,漂鳥や冬鳥の越冬地として
大変重要な位置を占めているということができます。
 
 
森林の鳥類群集の生息実態〈鳥類群集の豊かさの違いの原因〉
 
〈餌生産量の違い〉
 野鳥の生活スタイルやニッチを規定する基本的要因の一つは,餌の種類やその多さで
すので,林相タイプが異なれば,当然鳥類群集全体の生息密度も変わってくることにな
ります。
 野鳥の重要な餌である昆虫,クモを含む節足動物全体の生産量ないし現存量は,亜寒
帯,温帯では当然夏季に多く冬季に少ないことが,その季節の鳥類群集の豊かさに反映
されていると考えます。
 
  滝沢の樹種別の6月の幼虫生産量(乾重 mg/u)
 
         樹 種    幼虫生産量(6年分の平均値)
 
         カスミザクラ   295
      カシワ      324
      コナラ      256
      ミズナラ     241
      ハンノキ     360
      ミズキ       97
      コブシ      204
      壮齢アカマツ   205
      壮齢アカマツ   127
      カラマツ     357
      スギ        80
 
  林相タイプ別漿果生産量(100u当たり乾重g)
 
   林 相          漿果生産量
 
   滝沢アカマツ広葉樹混交林  3,429
    〃    広葉樹二次林  6,558
   富士須走カラマツ若齢林     813
    〃  アカマツ幼齢林   1,335
 
〈林の階層構造の違い〉
 鳥類群集の多様度が群葉高多様度と良い相関を持つことが報告されています。
 林の階層を高木層,亜高木層,低木層,林床植生の4層に分け,各々の葉層密度を無,
疎,中,密の4段階にランクづけして計算しますと,ニッチが多ければ鳥類群集が多様
になることを示しています。つまり一般に階層構造の発達した壮齢以上の林ほど鳥類群
集は豊かであるということです。
 
〈モザイク状態の違い〉
 樹種,樹高,林齢など異質な小林分がいくつかモザイク状に配置された林や,林内に
空間(ギャップという)の多い林(バッチネスが高いという)は,種類構成をはじめ鳥
類群集の豊かさがそうでない林と比べ違っていると考えられます。ただヒヨドリ,ホオ
ジロ,アオジ,ウグイスなど林縁を選好する鳥は該当しません。
 
〈世界に比べて劣る豊かさ〉
 アフリカ,ニューギニア,アマゾンなどの熱帯雨林は,林内階層が非常に入り組んで
いて,群葉高多様度や林分階層多様度が高く,鳥類群集も多様性に富んでいます。熱帯
林における植物の年間純生産量はha当たり20〜25トンで,温帯林の2倍近く,鳥類の生
息密度も大変な高さです。
 一方日本と同じ島国のイギリスでは,その昔ほとんどの森林が羊のために開拓され,
現在森林率はわずかに9%ですが,残された広葉樹天然林の鳥類群集は日本よりゆたか
です。
 日本は拡大造林政策により世界のどこも経験したことのない高い人工林率(約40%)
となり,しかもその大半は未成熟です。特に有史以来の暖地,里山の開発は激しく,野
鳥の越冬地として大切な林はほとんど姿を消し,またスギ,ヒノキなどの単純林も鳥類
群集を貧弱にしています。
 
〈多様性の高い意義〉
 人為的に造られた単純な環境の群集は,安定化するまで時間がかかること,安定化し
た群集は複雑多様な構成になると説明されています。しかし安定化が行き過ぎれば硬直
性が生じ,環境の少しの変化にも対応できず,かえって害虫が発生しやすくなったりし
ます。
 森林の階層構造を複雑にすることによって多種類の野鳥を呼び,全体として高い密度
にすることができます。様々の大きさの種実の散布者としての役割も含め森林の鳥類群
集は豊かなことに一つの意義があるといえます。
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