06c 生長の謎
 
〈植物の春と秋〉
これまでは,主として茎の長さの生長について述べてきましたが,細胞は,できてから
1週間から1ケ月の間に最終的な長さになり,それ以上は伸びません。そして細胞膜は
逆戻りできない程堅くなります。植物の頂部の数pから1m位のところ以外は,上に伸び
ることができません。その後の生長はただ太るだけです。よく成育している木を注意深
く測ると,その幹が4月から5月にかけて太り始めることが分かります。太るのは大体
夜間です。また夏の終わりになると,生長は翌春まで止まります。
 木の幹の太さを増すための生長は,どうしても幹の外側で起こらなければなりません。
幹の中心部は堅い材でできており,広がることができないからです。また,その生長は,
逆に一番外側でも起こり得ません。若い,生長している細胞は壊れやすく,その薄い細
胞膜は樹皮で保護されている必要があるからです。そして実際に,木の幹や枝の分裂細
胞は,材と樹皮の間の形成層と呼ばれる薄い層にあります。
 形成層は,木の幹の横への生長を一手に引き受けているが,それは信じられない程薄
く,細胞1個分の厚さしかありません。形成層は材と樹皮の中間に位置しているので,
当然その両方を作らなければなりません。事実,分裂しながら,内に向かっては材の細
胞を,外に向かっては樹皮の細胞を作ります。こうして,木の幹は次第に太くなり,形
成層や樹皮は段々幹の中心から離れます。できたばかりの生きた細胞は分裂し,幹の肥
大に付いて行くことができるが,それより外側の死んだ樹皮の層,つまりコルク層は,
これに付いて行けません。マツやカシに見られるように,多くの木の樹皮が長い裂け目
や隆起を作るのはこのためです。カバやイチジクのような植物では,樹皮はぼろぼろと
剥げ落ちます。
 形成層から作られる細胞の数は,季節によって違います。その上,細胞の形も違って
きます。春に作られる材は比較的柔らかで,沢山の導管を持っているが,夏に作られた
ものは材がとても堅く,沢山の繊維と必要以上に厚い細胞膜を持っています。そのため,
材に木目ができます。これは木の幹を輪切りにしたとき,はっきり見える幾重にも重な
った同心円のことです。内側から外側の方へかけて見て行くと,柔らかい色の薄い材の
輪が次第に色が濃くなり,堅さが増して行きます。そして,急にまた色の薄い輪に変わ
ります。濃い色と薄い色の重なった輪の各々が,形成層によってその1年間に作られた
材に当たります。この輪は,普通木の年輪と呼ばれ,その木がこれまで育ってきた期間
の気候などについていろいろのことを教えてくれます。乾燥した年であれば,薄い年輪
しか作られないし,雨の多い年には厚い年輪が作られます。
 このように,厚い輪と薄い輪の並び具合ははっきり跡を残しているので,専門家は一
つ一つの年輪ができた年の様子を推察できます。このような年輪に基づいた"年代学"が
ずっと大昔に遡って確立されました。そのお陰で,例えば西暦1290年を過ぎた頃,アメ
リカの西南部地方を異常な乾燥が襲ったことが分かりました。この乾燥のために,メサ
・バードプエブロ(石や干レンガで造ったインディアンの部落)の住民達は,やむなく
その洞窟の町を捨てたと想像されます。ここでまた,一寸した推理ができます。これら
のインディアン達は家の屋根に木の柱を使っていたが,プエブロに残されていた柱は,
その年輪から推理して,何れも1290年以前に伐られたものであることが分かりました。
このことから,インディアン達が移動してきた年代が大体分かったのです。
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