19c 森林よ永遠に〈森林生態の意義〉
 
森林よ永遠に〈森林生態系〉
                                        
〈生態系とはなにか〉
 △生態学と生態系
 「自然のままの生物系空間」のことを生態系といい,生態学(エコロジー)とは「生
態系を研究する科学」です。
 「あるまとまった地域に生活する生物のすべてと,その生活空間を満たす無期的自然
とが形成している一つの系を生態系という(吉良氏)」が,現代生態学の基礎的な自然
の見方ですので,もう少し具体的にみてみましょう。
 △有機物と無機物のつながり
 葉緑体をもつ植物は,太陽エネルギーにより,大気中の炭酸ガス,水などの無機物を
使用して光合成し,植物有機物をつくり出します。植物は呼吸作用によってその一部を
炭酸ガス(無機物)として大気に還元し,一部は動物の食物となります。動物の排泄物
や死体,植物の落葉落枝,枯死体などは土中の小動物によって噛み砕かれ,カビやバク
テリアなどの微生物によってやがて腐ります。腐るということは,有機物が分解してま
た炭酸ガスなどの無機物に還元されるということで,炭酸ガスは大気中に,その他の無
機物は土中にもどって,再び光合成に使用されることになります。
 こうした一つの循環系が生態系と呼ばれるものです。その中で生物的自然すなわち生
物群集と,無機的自然すなわち環境とは緊密な結びつきで,互いに作用しあっているの
です。
 △生態系を構成するもの
                  ・生産者・・・・光合成植物                                      
        ・生物群集・消費者・・・・動物,大型菌類(第1次,第2次,高次消費者)
        ・        ・還元者(分解者)・・・・従属栄養微生物                      
        ・                                                                    
 生態系・
        ・                                                                    
        ・            ・媒質・・・・水,空気,土壌,温度,風,水流                
        ・非生物的環境・基層・・・・岩石,礫,砂,粘土,泥                        
                      ・メタポリズムの材料・・・・光,炭酸ガス,水,酸素,栄養塩類,
                                              有機酸                         
                                                                              
  ※第1次消費者:昆虫など
   第2次消費者:昆虫などを食べるクモやダニ
   高次消費者:クモやダニを食べる鳥など
                                                                              
 △いろいろな生態系
 生物群を主体とすれば草原生態系とか,森林生態系などに分けられます。無機的環境
からみれば海洋生態系,陸水生態系,砂漠生態系,陸地生態系,極地生態系などにも分
けられます。
 森林生態系でも広葉樹林生態系とか,針葉樹林生態系,また暖温帯森林生態系,亜寒
帯森林生態系など,さらに人工林と天然林とでも内容の違う生態系が考えられます。
                                        
〈森林生態系の特徴〉
 △典型的な生態系
 陸上に出現する多くの生態系の中で,森林生態系はその一つの生態系であるばかりで
なく,生態系の典型的なものとして大きな意味をもっています。
 森林生態系を構成する樹木の大きさ,群落の大規模さ,長い年月,その下層の低木類
や草類との結びつき,消費者としての多数の鳥獣類の棲息,ミミズなどの微小動物やカ
ビ等の微生物の豊富さなど,森林は地上におけるあらゆる階層の生物や無機物を含んで
おり,地上における生態系の究極の型といえます。
 △スムーズな物質循環
 森林生態系の物質量も生産力も非常に大きく,また森林外への有機物の持ち出し量が
農作物に比べれば少ないので,森林内の物質循環はスムーズに行われています。落葉落
枝や枯死などによって有機物が林地へ還元され,再び無機質となって樹木の成長に使用
されることを「自己施肥」といいます。こうして森林は,自分の成長に必要な養分は自
分で供給しているのです。
 △物質循環のチェーン
 自己施肥による森林の物質循環は,森林が永続的に安定した形で保たれてゆくために
は,絶対に必要です。
 除草剤散布によって天敵や地中の微生動物まで死滅させたり,あるところの樹木を全
部伐採したり,森林外へ持ち出したりすることは,森林が長年月かけて蓄積した生態系
の物質循環のチェーンの一部を断ち切ることになります。この場合は,森林生態系のバ
ランスが回復するまで,人間は人為的な手段を絶えず加えてやる必要があります。
 森林内の動植物の間での,「食う,食われる」の関係を食物連鎖といいますが,生態
系の中では,個々の生物を単独に取り上げて問題にするのではなく,その生物が,その
生態系の中で占める位置と役割との関係で論じられなければなりません。
 △三つの物質循環系統
 生態系の中の物質の動きには,開放系,半開放系,閉鎖系の三系統があります。
 植物体を構成する元素のうちで,もっとも量の多い炭素の循環は開放性です。炭素は
普通樹木の生体内に含まれ,その一部は呼吸作用で大気へ,残りは土壌微生物によって
分解されて大気へそれぞれ還元されます。
 窒素の循環は半開放性です。大気中の窒素は土壌中のバクテリアによって土壌に固定
され,根から吸収されます。そして樹木や土壌に蓄積されて安定した量に達します。
 カリウムやリンなどはもともと岩石として森林内に存在し,植物の成長に使用され,
落葉落枝によって土壌にもどって分解されるという,閉鎖性の循環をします。
                                        
〈山の生態系〉
 △山の性格
 わが国の森林は,山地に限られています。山は高度をもち,利用されるところは傾斜
し,地形は複雑で不連続性を有します。
 高度は気温の低下,傾斜は太陽エネルギーの受け方,また高度と傾斜による複雑な地
形によって生物の分布は不連続となります。
 △高さと気候
 山は気温格差が大きいので,孤立峰では暖かさの指数に影響される植物の分布は低い
高度となり,寒さの指数できまる植物の分布は高高度になります。
 山では一般に雨が多いです。水分を含んだ空気の塊が斜面を上昇しますと,断熱的に
膨張して気温が下がり,同時に相対湿度が上昇し,ついに過飽和となって雨になります。
 △斜面と気候
 北面を1とした場合の7月から11月初旬までの太陽光線総量は,東・西面では1.95,
南面では2.21です。このため南面は常緑広葉樹林,北面は落葉樹林という例もあります。
 △山頂と山稜
 風と乾燥により山頂付近では低木林や草地となることが多く,これを山頂現象といい
ます。また風や積雪のために枝が一方へ片寄ります。
[次へ進んで下さい]