22b 不老長樹マニュアル〈葉の異常〉
 
〈葉の虫害の種類と防除法〉
 葉の害虫による吸汁や食害についても,病害の場合と同様に害虫が発生する原因をよ
く考える必要があります。天候や周辺の環境などに異常はないか十分注意したうえで,
薬剤を散布するかどうかを決めるべきでしょう。マツカレハやハバチ類は激しく食害し
て葉を食い尽くしたり,芽や小枝の樹皮まで食害し,葉の再生能力を破壊することがあ
ります。こような樹皮の傷は枝枯れ性の病害を誘発し,やがては大樹の強敵である木材
腐朽菌の侵入を許すことになりかねません。
 葉が食害されますとそれだけ光合成は阻害されますが,天然記念物のような巨樹では,
造林木の生長との異なり,その害が枯死を誘発するようなものかが問題であり,風通し,
日当たりなどの環境の整備に配慮することで,樹勢を回復できる場合も多いです。また
虫害についての発生時期や回数など生活史をよく知って対処することは病害の場合と同
様です。
 害虫の防除は,その害虫の種類は勿論,害虫がなぜ異常発生したかの原因を知ること
が重要です。被害が起きるまでの気候の状態,関連ある他の生物(天敵など)の生息状
態,対象となる樹の健康状態,周辺の変化などを配慮すれば,放置しておいても自然に
終焉する場合もあります。薬剤を散布する場合は対象害虫の1年を通じての発生時期,
回数などを知って,適切な時期に散布しませんと無駄になる場合があります。
 △カイガラムシ類
 カイガラムシ類には種々の形態のものや,生活の異なるものがありますが,堅い殻や,
白い綿状の蝋質物で覆われたものなどが多く,葉や樹皮に固着して汁液を吸収します。
すす病を併発することが多く,樹勢の衰え,風通し,日照不足など環境の悪化が発生を
促す場合が多いです。
 被害樹種:ソテツ,カヤ,キャラボク,イヌマキ,アカマツ,クロマツ,ゴヨウマツ,
      ヒノキ,スギ,コウヤマキ,タケ類,ヤマモモ,ヤナギ類,シイノキ類,
      クリ,カシ類,クヌギ,ニレ類,ケヤキ,ムクノキ,エノキ,クワ,コブ
      シ,オガタマノキ,タブノキ,カツラ,ナンテン,チャ,サザンカ,ツバ
      キ,モッコク,サカキ,ヒサカキ,イスノキ,ナシ,カイドウ,ボケ,サ
      クラ類,モモ,カラタチ,カエデ類,トチノキ,モチノキ,クロガネモチ,
      サルスベリ,ツツジ類,サツキ類,カキ,キンモクセイ
 防除法 :冬季,樹木の休眠期にマシン油乳剤を散布します。ただし薬害が出やすい
      ので注意して下さい。落葉樹で20〜30倍,常緑樹で40〜60倍,12月下旬〜
      1月中旬に散布します。
      夏季は若齢幼虫期をねらって,スミチオン乳剤・サリチオン乳剤・エルサ
      ン乳剤・DDVP乳剤・スプラサイド乳剤・カルホス乳剤・ペスタン乳剤
      あるいはこれらの水和剤・粉剤を散布します。
 △アブラムシ類
 葉や枝の伸び始め,日当たりの悪い柔らかい葉などに大量に集まって吸汁します。葉
が内側に萎縮したり,よじれたりします。アリと共生するものもあり,また分泌物にす
す病菌が繁殖し,光合成を妨げて被害を大きくすることがあります。やはり環境の悪化
や樹勢の衰えが発生を促します。
 被害樹種:ラカンマキ,イヌマキ,モミ,マツ類,カイズカイブキ,タケ類,カシ類,
      クヌギ,ケヤキ,エノキ,コブシ,ハクモクレン,クスノキ,ナンテン,
      チャ,ツバキ,モッコク,ヒサカキ,イスノキ,タチバナ,ナシ,カイド
      ウ,サクラ類,モモ,ウメ,ハゼ,カエデ類,ナツグミ,サルスベリ,カ
      キ,キンモクセイ,ヒイラギ,ニワトコ,サンゴジュ
 防除法 :エカチン乳剤・エストック乳剤・キルバール乳剤の1000〜1500倍液,サヒ
      ゾン水和剤・ピリマー水和剤の各2000倍液のアブラムシ専用の殺虫剤を散
      布します。
      スミチオン乳剤・DDVP乳剤・バイジット乳剤・マラソン乳剤・カルホ
      ス乳剤など一般の殺虫剤1000倍液を散布します。
 △キジラミ・コナジラミ・グンバイムシなどの吸汁虫類
 多くの葉の裏につき,吸汁します。葉の緑色が薄くなり,汚白色となります。また奇
形葉となることもあります。分泌物にはすす病菌がつきます。環境の整備に注意して下
さい。
 被害樹種:マツ類,ヤマモモ,カシ類,クリ,クヌギ,アキニレ,エノキ,タブノキ,
      クワ,モクレン,コブシ,オガタマノキ,クスノキ,チャ,サザンカ,ツ
      バキ,モツコク,サカキ,ヒサカキ,イスノキ,ボケ,サクラ類,ウメ,
      モモ,カエデ類,イヌツゲ,サルスベリ,サツキ類,ツツジ類,シャクナ
      ゲ類,カキ,ヒイラギ,キンモクセイ,サンゴジュ
  △ハダニ類
 ダニの寄生による害で,多くの場合葉色が薄くなり,黄色を帯びてきます。白い紙の
上で枝をたたきますと,褐色のダニが落ち,這い回るので診断がつきます。
 被害樹種:モミ,マツ類,スギ,ヒノキ,イブキ,タケ類,クリ,カシワ,ミズナラ,
      クワ,ナシ,モモ,カキ
 防除法 :ケルセン乳剤か水和剤・クロルマイト乳剤・アカール乳剤・デデオン乳剤
      か水和剤・エイカロール乳剤などが単独又はDDVP乳剤と混用します。
△蛾類(鱗翅目)(ハマキガ科,シャクガ科,カレハ科,シャチホコガ科,ドクガ科,
          ヤママユガ科,ヤガ科,ヒトリガ科などを含む)
 葉を食害し,激しいときには全樹丸坊主にするようなこともあります。幼虫の多くは,
毛虫や青虫の形をしています。ミノガ科の幼虫は糞をかぶり,ハマキガ科や,メイガ科
のものは葉を巻いたり,葉や枝に糸を張ってその中で葉を食って加害します。
 被害樹種:イチョウ,ナギ,イチイ,イヌマキ,ツガ,モミ,マツ類,スギ,ヤマモ
      モ,ヤナギ類,クリ,カシ類,カシワ,クヌギ,ミズナラ,ニレ類,ケヤ
      キ,クワ,クスノキ,ナンテン,チャ,サザンカ,ツバキ,モッコク,ヒ
      サカキ,ナシ,カイドウ,サクラ類,ウメ,モモ,フジ,センダン,カエ
      デ類,タラヨウ,アオギリ,グミ類,サルスベリ,ツツジ類,カキ,エゴ
      ノキ,ヒイラギ,キンモクセイ,キリ,サンゴジュ
 △膜翅目(ハバチ科などを含む)ヒラタハバチ科
 多発して大きな被害を引き起こす種類が含まれます。
 被害樹種:ニレ類,サクラ類,ツツジ類
 △鞘翅目(ハムシ科,コガネムシ科)
 甲虫類でコガネムシやゾウムシの成虫が被害を起こします。またハムシは成虫も幼虫
も被害をあたえます。
 被害樹種:マツ類,スギ(幼虫),ヒノキ(幼虫),ヤマモモ,ヤナギ類,アカシデ,
      クリ,クヌギ,ウバメガシ,コナラ,アベマキ,ニレ類,ケヤキ,ボタン,
      クスノキ,ナシ,サクラ類,モモ,ウメ,フジ,サルスベリ,ツツジ類,
      キリ,ニワトコ,サンゴジュ
 防除法(蛾類):スミチオン,ディプテレックス,DDVP,サイアノックス,ダイ
      アジノン,エルサン,カルホス,ピレトリン,アレスリン,デミリン,パ
      ダンなどの乳剤,水和剤,粉剤を散布します。
 〃(ハマキムシ類):蛾類の中でも特にハマキムシ類に対しては,発生初期にスミチ
      オン,エルサン,ダイアジノン,パダン,デナポン,ミクロデナポンなど
      の水和剤や灯火誘殺,せん定を適宜行います。
 〃(鞘翅目):スミチオン,デナポン,カルホスの粉剤,水和剤,乳剤を散布します。
 
              参考 「樹木医ハンドブック」安盛博著(株)牧野出版

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