23 不老長樹マニュアル〈小枝・大枝の異常〉
〈小枝の異常診断と治療法〉
△小枝枯れの現象の原因
遠くから樹全体を眺めたとき,梢端が一様に枯れ込んでいるような状態の場合は樹勢
が衰え始めたと考え,その原因をあらゆる面から検討すべきです。糸状菌によるがんし
ゅやこぶは,やはり樹勢が劣ったときに起こります。
夏の日照りや冷夏,異常に長い残暑など異常気象のときも害虫が異常発生しますので,
比較的樹勢が盛んでも被害を受けます。
また特に暖かい地方で生育限界付近に育つ樹種など,冬の異常な寒さや降雪によって
も梢端枯れが起こり得ます。
土壌の物理性が悪くなった場合にも先端枯れが見られます。
△病害に起因する小枝枯れ
小枝の基部などから病原菌が侵入して,慢性的に周りの樹皮下や形成層を侵して広が
り,中央がくぼんで周りが盛り上がり,円形又は紡垂形の環紋を形成し,よく見るとく
ぼんだ部分に小さな漆黒の斑点(標徴といいます。)が見える場合が多いです。これは
病原菌の子実体で,その中に多量の胞子が含まれ,翌年これが飛散し,新たな病斑を形
成して病気が広がっていきます。その部分より上部が,いわゆる梢端枯れとなります。
その枝は手で折りますとポキポキと音をたてて折れるようになります。
・黄色胴枯れ病
細い枝が侵されるとその部分が凹み,褐色になり樹皮に艶を失います。6〜7月ごろ
多数のいぼ状の小突起ができ,鮫肌サメハダ状になります。その突起が破れますと中から
黄色〜橙黄色の胞子が見えるようになり,湿気の多いときには橙黄色の巻きひげ状の胞
子塊(胞子角)が見られます。樹勢の弱ったときに,カミキリなどの食痕やその他の傷
口から菌が侵入し,また寒冷地(極最低気温―15℃以下)で発生が多いです。風などに
よる損傷を防ぎ,肥培管理を十分にします。
罹病樹種:ブナ,シデ類,カシ類,シイノキ類
・白点胴枯れ病
幼齢木に発生が多く,症状はあまり激しくありません。侵入部にいぼ状のものが多数
でき外皮が破れて白色〜黄白色の胞子塊が噴出し,湿気が多いときにはこの胞子塊が汚
白色の巻きひげ状の塊となります。傷口から侵入します。
罹病樹種:カシ類,ナラ類,カエデ類
・紅色がんしゅ病
広葉樹に多く発生し,傷口から侵入すると広がるのが急速であり,患部が枝の周囲を
1回りしますとそこから上は枯死します。患部の表面は鮫肌状となり,表面が破れます
と淡部色の胞子の塊が出てきます。古くは一般に霜害だと信じられていました。
罹病樹種:モミ,カラマツ,アカマツ,クロマツ,スギ,ヤナギ類,ブナ,カシ類,
ナラ類,ニレ類,ケヤキ,ナシ,サクラ類,フジ,カエデ類,トチノキ,
シナノキ
・腐乱病
この菌も傷のないところからは侵入できません。凍害やその他の傷口から入って発病
させます。発病した部分は紫褐色になって凹み,その樹皮には黒い小粒点が多数形成さ
れます。夏頃に見られる小粒点は,やや平べったい形をした夏用の胞子を入れる入れ物
(胞子殻)であり,秋には円い形をした冬用の耐久胞子を入れる入れ物(子のう殻)が
見られます。この胞子は翌年春第一次発生源となるので薬剤散布して殺しておきます。
罹病樹種:トドマツ,モミ,カラマツ,スギ,ヒノキ,サワラ,ヤナギ類,ナラ類,
ケヤキ,ナシ,カイドウ,モモ,ウメ,カエデ類,キリ
・樹脂さめ肌胴枯れ病
傷口より侵入し,はじめ小さい陥没を生じ次第に拡大します。枝幹を1周するとその
上は枯れます。患部は淡褐色〜褐色で黒色の小隆起点が多数できてざらざらした鮫肌状
になります。この小隆起点からは白い胞子の塊が小点状に見えます。
罹病樹種:スギ,シイノキ類,フウ,ナシ,サクラ類,カキ
・フォモプシス枝枯れ病
凍霜害や乾害を誘因として発生することが多く,伝染力もそれほど強くありません。
細い枝では先が枯れますが,やや太い枝では患部が少し陥没し,その表面に灰黒色の小
隆点ができて鮫肌状になります。湿潤な時にはその隆起点から白色〜黄白色の胞子塊が
糸状又は巻きひげ状に噴出します。
罹病樹種:トドマツ,カラマツ,ナシ(Phomopsis),サクラ類,カエデ類,カエデ
類(Phomopsis),キリ
△小枝枯れ病害の防除法
腐朽菌は小枝枯れの部分から侵入しますので,枯れ枝や病患部は取り去って下さい。
台風などの被害などまだ病害が進行していないときは,菌の侵入を阻止する薬剤とし
て,ダイセン水和剤500倍液,ダコニール水和剤600倍液,トップジンM水和剤などを散
布するのがよいでしょう。
病害の進行があったときは,なるべきせん定して取り去るのがよいでしょう。
また樹自身がつくった治癒組織(カルス)からは殆ど病原菌は侵入し得ません。太い
枝などは,巻き込みや心材部の乾燥に時間を要しますので,トップジンMペーストを切
り口に塗布しておくのもよいでしょう。
切り落とした枯れ枝は,必ずかき集めて焼き捨てて下さい。
△虫害に起因する小枝枯れ
長雨や天候不順で害虫の異常発生や,樹勢が弱って虫害になり,そこから腐朽菌など
の侵入が心配となります。
・キクイムシ類(キクイムシ科)
幹にも穿乳して各種類ごとに独特の食痕を残します。通常組織を物理的に破壊するの
でそれより上部の枝が枯れます。
被害樹種:モミ,ツガ,クロマツ,アカマツ,ゴヨウマツ,スギ,ヒノキ,ブナ,ク
リ,ウラジロモミ,ミズナラ,サカキ,キハダ,カエデ類,トチノキ,エ
ゴノキ
・シンクイムシ類(メイガ科,ハマキガ科,スカシバガ科,ボクトウガ科,コウモリ
ガ科)
虫糞や木屑を出すものがあります。地域によっては,発生経過が異なることもありま
す。
被害樹種:アカマツ,クロマツ,ゴヨウマツ,スギ,ヒノキ,ヤナギ類,クリ,カシ
類,ナラ,クヌギ,ニレ類,チャ,ツバキ,ナシ,ボケ,サクラ類,モモ,
ウメ,カエデ類,グミ類,ツツジ,サツキ,キリ
△小枝枯れ虫害の防除法
新梢や葉を巻いた中にいる害虫を,薬剤によって駆除することは困難な場合が多いで
すので,病害の場合と同様に切り取って焼き捨てるか,浸透性のある薬剤を用います。
一般的には成虫の産卵期,幼虫の孵化移動期にスミチオン,エルサン,バイジット,ス
プラサイト,カルホスなどの乳剤,水和剤を散布しますが,害虫の種類と地域における
発生経過,及びそれに伴う防除方法は専門書を参考にして下さい。
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