コンサートで起こった心温まるエピソードの一例をここでご紹介します。
(皆さんのコンサートのアンコールでもぜひやってみてください。きっと指揮者の方はびっくりしますよ。) |
これは、私が東京佼成W.Oの演奏会に出演した時の実際の一幕です。
1部、2部を経てメインの曲が終了した。指揮はフレデリックフェネル氏。
氏は豪快なゼスチャーで何度もソリストや団員をスタンドアップさせ、拍手喝采を団員に浴びせていた。
そして、笑顔とともに舞台袖にひっこんだが、会場の拍手は当然のように鳴り止まない。
観衆は氏の巧みなバトンテクニックとオーケストラの素晴らしいサウンドに酔いしれていたのだ。
氏が再びステージに登場した。拍手は一段と大きくなる。
そして、氏はまたもや豪快なゼスチャーで、ソリストや団員をスタンドアップさせ、
大きな拍手を団員にシャワーのように浴びせたのだ。
氏はあたかも「演奏者の君たちが主役だ。」と、言わんばかりのパフォーマンスであった。
氏はまたも舞台袖に引っ込んだが、拍手は一定のリズムでおおきな拍子となって氏を再びもてなす。
そして、3度目の氏の登場、そして氏がまたも団員全員を立たせ、もう一度称えようとしたその時であった。
「団員は誰一人、彼のゼスチャーに答え、立とうとはしなかった。」
いや、この表現が正しくないとするならば、
「ステージには指揮者以上に称えられる人は一人もいなかった。」
のだ。
苦笑いを浮かべ、困っている指揮者に浴びせられる、演奏者たちからの拍手の嵐と、観衆からの歓喜の声。
そう、彼は観衆からも、団員からも称えられる素晴らしい演奏会を成し遂げたのだ。
その後、指揮者の再度の大きなゼスチャーにより団員も全員起立し、演奏会は幕を閉じた。
団員を称える指揮者、そして、指揮者を称える団員。この双方とも素晴らしい芸術を成し遂げた事は言うまでもない。
(C)2001 Masanori Fukuda