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生野鉱物館、かつての「和田コレクション」
生野鉱物館に展示されていた
「和田コレクション」

 
 史跡生野鉱山の「生野鉱物館」に、「和田コレクション」がありました。2000点以上もの日本産の鉱物標本が化学組成のグループ別に整然と展示され、このコレクションによって生野鉱物館は国内最大級の鉱物展示を誇っていました。
 和田コレクションには、もう二度と採集することができない貴重なものが多く、一つ一つの鉱物をゆっくりと見て歩くと、鉱物の美しさや多様性に驚き、一日何時間いても、また何回行っても見飽きることがありませんでした。
 残念ながら、2011年3月、これらの標本は所有していた三菱マテリアルによってそのすべてが引き払われました。今はもう生野では見ることができなくなりましたが、かつての展示のようすを紹介します。

生野鉱物館に展示されていた「和田コレクション」鉱物一覧


日本を代表する鉱物をそろえた「和田コレクション」

 日本の鉱物学の先駆者、和田維四郎(つなしろう)が、明治年間に広く日本各地から集めた鉱物標本が「和田コレクション」です。
 これは、当時日本で産出した鉱物の大半を網羅し、最初の完全な日本産鉱物標本として国宝的な価値があるとされています。

 生野鉱物館のエントランスで、輝安鉱と水晶の日本式双晶が迎えてくれました。

 輝安鉱は、日本刀のような形をした柱状の結晶がいくつも集まっています。結晶の伸びている方向に条線が発達し、表面はやや青く変色していますが、強い金属光沢を今も保っています。
 愛媛県市ノ川鉱山では、明治14〜15年にこの輝安鉱の巨晶が産出し、日本を代表する鉱物として各国の博物館を飾っています。

輝安鉱(愛媛県 市ノ川鉱山)

 水晶の日本式双晶は、山梨県の乙女鉱山で産出したものです。日本式双晶とは、2つの平たい水晶が84°33′の開きで向かい合って接合した双晶です。この標本は、美しさとともに、その大きさに驚かされます。

水晶 日本式双晶(山梨県 乙女鉱山)

 「和田コレクション」の中で、珍しい鉱物をいくつかあげてみましょう。 

 生野鉱桜井鉱は、この生野鉱山で初めて発見された鉱物です。生野鉱は1959年に、桜井鉱は1965年に、いずれも加藤昭氏によって発見され、命名されました。
 生野鉱は、標本中に小さくついています。矢印の先をよく見ると、劈開面が金属光沢をもって鉛灰色に光っています。
 桜井鉱の標本は、切断面が展示されています。結晶の形は見えませんが、鋼灰色で帯状に産出しています。

 ルソン銅鉱は、結晶が見えることがまれな鉱物です。北海道手稲鉱山で産出した、独特の赤紫色を帯びた黒色塊状の標本が展示されています。

 ラムスデル鉱グロッテル鉱は、どちらも酸化マンガンの鉱物ですが、黒色亜金属光沢の両者が縞状に共生している様子が観察できます。

 毒重石は、日本では珍しい鉱物です。透明感のある白色の繊維状の結晶が集合してぶどうのような外観をしています。また、六角短柱状の結晶も見られます。秋田県椿鉱山産出の標本です。

 銅鉱石の表面をおおって、黄な粉をまぶしたようなビーバー石、ウグイス餅のようになった尾去沢石も印象的でした。
 
豊富な鉱物展示

 展示されている「和田コレクション」は、鉱物の種類が豊富なだけではなく、同じ鉱物でもいろいろな産地から数多く集められていました。
 鉱物は、産地によって産状が異なり、色や形などの外観が全く違うということもよくあります。同じ鉱物のいろいろな変化を見るのも、鉱物の楽しみの一つです。

 いつの世も、野望と憧れの自然金は20点以上展示されています。兵庫県中瀬鉱山の金は、石英脈に1cm程の広がりをもってべったりとくっついています。鹿児島県山ヶ野鉱山の金は、板状結晶が黄金色に見事に光っています。

 黄銅鉱は、三角形の結晶から針状結晶まで、いろいろな外形を示しています。

 硫砒銅鉱は、縦に条線の発達した柱状の結晶です。鋼灰色で、強い金属光沢は今もおとろえていません。

 方鉛鉱は、正六面体・斜方十二面体、あるいは斜方十二面体から変化した六角形と四角形でできた形などが見られます。どれも等軸晶系という結晶系の形なのです。

 輝安鉱は、約30点展示されています。そのほとんどが愛媛県市ノ川鉱山のものです。市ノ川鉱山の輝安鉱は、ほとんどが国外に流失しているので、これらは国内に残された貴重な標本といえます。

 黄鉄鉱もいろいろな形をしています。正六面体・正八面体・正十二面体の他に、栃木県足尾鉱山のものは花びらが集まったような産状を示し、また長野県川端下のものは空洞を埋めたようたような形をしています。なぜこのような形になるのか不思議ですね。

黄鉄鉱(栃木県 足尾鉱山)

 輝水鉛鉱は、どれも鉛色で樹脂状光沢があります。板状結晶が集合し、いかにも軟らかそうです。

 毛鉱は、黒色毛状の結晶が石の表面にふわっとついて、本当に毛のようです。石川県倉谷鉱山の毛鉱は、水晶とバラの花びらのような菱マンガン鉱を伴い、その組み合わせが絶妙です。

 蛍石には、無色・緑色・ピンク色などがあります。生野鉱山産のものにも、無色のものとうすく緑色に色づいたものがあります。

 磁鉄鉱は、いろいろな産状を示しています。長崎県西彼町大串のものは、緑泥片岩中に正八面体結晶として産出しています。岩手県釜石鉱山のものは、スカルン中のもので、ボール状の形をしています。新潟県赤谷鉱山のものは、層状に産出しています。

 赤鉄鉱は、板状で強い金属光沢をもつ岩手県仙人鉱山の結晶が印象的です。このような赤鉄鉱は鏡鉄鉱とも呼ばれています。

 石英は、100点近くも展示されています。無色の他に、紫・黒・ピンクなどいろいろな色があります。変わったところでは、電気石を含んでいたり、重晶石の表面を覆っていたのが中の重晶石が溶け出して石英の殻がだけ残ったものなどがあります。山梨県の乙女鉱山や金峰山の日本式双晶も大きくて見事です。結晶形を示す石英を水晶といいますね。もっとも身近で人気のある鉱物です。

 方解石は、いろいろな結晶の形を示すことで知られています。約60点が展示されていて、その一端がうかがえます。秋田県不老倉鉱山の矢筈型の双晶は、珍しいものです。

方解石 矢筈型の双晶
(秋田県 不老倉鉱山)

 重晶石は20点以上展示されています。ひし形の無色透明の結晶は美しいものです。手にとって見るとぐっと重いのですが、ガラスケースの中なのでそれはできません。

 トパーズ(黄玉)は、岐阜県高山と滋賀県田上山のものを中心に27点展示されています。その数・大きさともに、「和田コレクション」の中でも圧巻です。くさび型に尖った錐面をもつ独特の形やダイヤモンドのような光沢など、結晶の美しさに魅せられます。

トパーズ(岐阜県 福岡町)
展示中最大のもので高さ10cm以上

 斧石は、大分県尾平鉱山のものを中心に12点。鋭く斧のように尖った結晶が群れ集まっています。

 鉄電気石は10点。黒く、伸びの方向に条線が発達しています。

 魚眼石は、新潟県間瀬石切場のものが展示されています。真珠光沢でつややかに光り、薄く緑色に色づいているものもあります。これらは、安山岩の空隙にできています。

 微斜長石も約30点展示されています。山梨県金峰山のものは、緑色を帯びた乳白色の結晶でアマゾナイトと呼ばれているものです。山梨県須玉町のものは、平行連晶をしています。微斜長石は、双晶が普通に見られます。バベノ双晶、マネバッハ双晶、カールスバッド双晶などがあります。
 
「和田コレクション」の数々

 数々の「和田コレクション」から、その一部を写真で紹介しましょう。

磁鉄鉱(長崎県 西彼町大串)
緑泥片岩中の斑状変晶


  
赤鉄鉱(岩手県 仙人鉱山)
板状で強い金属光沢を持ち、鏡鉄鉱とも呼ばれているもの

 
石英(愛媛県 市ノ川鉱山) 
 
軟マンガン鉱(秋田県 大沼市沼館)
 
菱マンガン鉱(青森県 尾太鉱山)
ぶどう状集合の美しい標本

 
孔雀石(秋田県 阿仁鉱山)

  
重晶石(秋田県 太良鉱山)
 
灰ばんざくろ石(福島県 古殿町)
 
魚眼石(新潟県 間瀬石切場)
淡く緑色に色づいている

 
ダンブリ石(大分県 尾平鉱山)

  
「木内石亭標本」

木内石亭標本

 和田コレクションのなかには、「木内石亭標本」もありました。
 「木内石亭標本」は、江戸時代中期の石の愛好家、木内石亭(きのうちせきてい)が日本全国から集めた奇石や鉱物類の標本です。2千余点の標本は石亭の死後、逸散してしまいましたが、珍品として秘蔵されていた21点のみ和田維四郎氏に引き継がれました。その標本が、石亭が著した「雲根志」とともにここに展示されていました。
 輝安鉱は、「錫りん脂(しゃくりんじ)」とされています。だるまのような形をした「赤玉髄」、液体を含む紫水晶「貯水紫水晶」、黒色の「珪化木」などがありました。

2012年2月25日作成