砥峰高原D(800m) 神河町 25000図=「長谷」
砥峰高原 湿原の生物
砥峰高原は、雪彦峰山県立自然公園の特別地域の中に位置しています。また、兵庫県レッドリスト自然景観のAランクに指定されています。
湿原と湿原に生きる貴重な生物を保護するために、歩道以外には立ち入らないで下さい。また、生物の採集を行わないでください。
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砥峰高原のハッチョウトンボ(2014.8.11) |
澄んだ青が空いっぱいに広がる季節になった。
初秋の一日、中学生たちと砥峰高原の自然を調べながら散策した。
高原は、開き始めたススキの穂でやわらかい褐色に染まっていたが、今年はなんとなく物足りない。時期が少し早いというだけではなく、いつもの年よりススキがまばらで背も低いように見える。
砥峰高原は、毎年春に行われる山焼きによって他の植物の侵入を防ぎ、美しいススキの草原が維持されている。
その山焼きが、今年は雨によって2回も延期され、その時期が遅れてしまった。いつもならススキが新しい芽を出す時期に、山焼きをしなければならなかったというのが成長のよくない原因だろうと管理組合で聞いた。
正面ゲートから高原に入った。池の周りのアブラガヤは、濃い茶色に実った穂を垂れていた。
初めに、これまで見つけておいた湿原へ向かった。
湿原の手前に咲いているのは、ウメバチソウやオミナエシやツリガネニンジン。数は少ないが、白、黄、青と、それぞれの色で可憐に咲いていた。
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ウメバチソウ |
オミナエシ |
湿原は、東西20m、南北15mというごく狭い楕円形。人工の平坦地の一角にある。ここには、すぐ上のスロープから伏流水が絶えずチョロチョロと流れ込んでいる。
地面は。火山灰起源の黒ボク土におおわれている。この土のきめ細かさが、水が地下にしみ込むのを防ぎ、湿原をつくっている。
この夏、ここで真っ赤で小さなトンボを見つけた。それは、体長2cm、日本一小さなトンボ、ハッチョウトンボであった。
ハッチョウトンボは、兵庫県レッドリストに指定されているが、2012年に「湿原の減少に伴い、生息地が減少しており、個体数の減少も甚だしい」として、CランクからBランクに変更されている。
このトンボとの出会いが、私たちを湿原の魅力に惹きつけた。
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ハッチョウトンボ(2014.9.6) |
植物にも、湿原特有の種が見られた。
地面をおおうのは、ふかふかのオオミズゴケ(兵庫県レッドリストCランク 環境省準絶滅危惧)。
モウセンゴケは、夏期を終えていたが、葉の赤い腺毛の先に粘液を丸く光らせている。
シロイヌノヒゲは、小さな群落をつくり風変わりな花をつけている。
ムラサキミミカキグサ(兵庫県レッドリストCランク 環境省準絶滅危惧)は、わずかに花を残していた。
他に単子葉類が5種類。すぐには名前が分からないので、no.1〜no.5の番号を付けた。no.1はヤマイ、no.3はホタルイ、no.5はコイヌノハナヒゲ。no.2とno.4は、まだ名前が分からない。
※12月25日に、「兵庫県立人と自然の博物館」で、所蔵されている標本と照らし合わせて同定を行いました。その結果、no.2はイグサ、no.4はアオコウガイゼキショウであることが分かりました。その他、イヌノハナヒゲ、ハリコウガイゼキショウ、トダシバを確認しました。同定にあたっては、博物館の高橋晃先生にご指導をいただきました。ありがとうございました。
広い草原の中に、今にも消えてしまいそうな小さな湿原。周囲から、車道の敷石に使われたバラスが入り込んでいる。前に来たときには、無造作に車の車輪跡が湿原の植物を倒し、イノシシが土を掘り起こしていた。
秋になり、ハッチョウトンボは姿を消したが、今日はヒメアカネ(兵庫県レッドリスト要注目)がこの湿原を飛んだ。
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モウセンゴケ |
ムラサキミミカキグサ
(2014.8.11 ルーペごしに撮影) |
湿原を離れ、高原内につけられた木道を歩いた。木道沿いには、いろいろな秋の花が咲いていた。
茎の先に赤いつぼみを集めているのは、アキノウナギツカミ。硬い毛が下向きに付いていて、茎を触ってみると指は下に滑ったが、上には滑らなかった。つぼみの色には濃淡があり、中には白色のものも見られた。
アカバナは、あちこちで咲いていた。赤紫の花弁の中に、大きな白い柱頭が目立った。
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アキノウナギツカミ |
アカバナ |
木道は、ゆるやかに起伏し、ときどき高原内の流れを渡った。その流れの畔に、アケボノソウが咲いていた。
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アケボノソウ |
木道をゆっくり歩いていると、ときどきバッタが横切った。シオカラトンボが飛んできて、木道に止まった。
ススキの足元には、ウツボグサやヒメジソが咲いていた。
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ウツボグサ |
ヒメジソ |
ススキの成長はよくなかったが、それでも人の背丈を越すところがあった。観光客が、ススキに埋もれながらゆっくり動いていた。
風が吹くとススキがしなり、そのたびにやさしい音を立てた。
ミズナラの木の下を抜けると、木道が折れ曲がっていた。そこに、また別の小さな湿原があった。ここには、人の侵入を防ぐための鎖が張られている。
オオミズゴケが、緑、黄緑、オレンジ、茶色のグラデーションに彩られて水をたっぷりと吸い込んでいる。
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木道沿いの湿原 |
ここでも、シロイヌノヒゲが小さな群落をつくって咲いていた。ムラサキミミカキグサもわずかだが枯れずに残っていた。
モウセンゴケを探したが、ここでは見つからなかった。
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シロイヌノヒゲ |
オオミズゴケ |
湿原の近くでキンミズヒキの花を見つけた。アカバナやアキノウナギツカミは、このあたりにも多かった。
ススキのまばらなところには、サワヒヨドリがピンクの細長い花柱を乱舞させていた。
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キンミズヒキ |
サワヒヨドリ |
湿原は、貧栄養の特異な環境をつくり、そこには湿原特有の植物や昆虫が生息する。生物多様性を維持する上で、湿原は大切な生態系なのである。
小さなハッチョウトンボの真っ赤な姿、モウセンゴケの虫を食べる奇妙なしくみとそれに不釣り合いと思える白くて可憐な花・・・。
私たちは、これらの生物がいつまでも生き続けることができるよう、この環境を守っていかなければならない。
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ススキの草原を歩く |
木道を抜けると、広い道に出た。朝よりずいぶん人が増えていた。カラフルな服やリュックの上の青い空に、巻雲が薄く筋を描いていた。
山行日:2014年9月21日
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