砥峰高原E(800m) 神河町 25000図=「長谷」
砥峰高原に春の兆し
山焼きを2日後に控えた砥峰高原
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里では桜の花もほころびかけたというのに、砥峰高原の春はまだ浅い。
雲一つない晴れた朝、うす褐色に枯れたススキにおおわれた砥峰高原は、あちこちに雪が残っていた。
今年になって初めての生徒たちとのフィールドワーク。霜柱が朝の陽射しにゆるんで崩れ、カラカラと音を立てた。
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黒土にできた霜柱 |
正面のゲートから草原に入った。ススキのほとんどは枯れて地面に横たわっていたが、太くて頑丈なものは立ったまま枯れていた。
ところどころに黒い土が表れていたが、そんなところには水が浮き上がったり、たまったりしていた。
池には氷が張っていた。今朝の冷え込みでできたような薄い氷で、割り箸を並べたような模様をつくっている。その凹凸が、朝陽をきらきらと反射した。
まばらに残る雪は、枯れたススキにかぶさっていた。一番上に、昨夜降った真白い雪がのっている。それが陽射しによって解け始め、表面で小さく丸く固まって沸石の結晶のように見えた。縁の薄いところから解けて透明になり、水滴となって端からぽたりと落ちた。
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池には氷が薄く張っていた |
ススキの上に残った雪 |
高原でいちばん大きな湿原は、イノシシに荒らされて無残な姿をさらしていた。今年も、ここにムラサキミミカキグサやモウセンゴケの花が咲き、ハッチョウトンボが飛んだりするのだろうか。
枯れたハリコウガイゼキショウやイヌノハナヒゲの間を、オオツチハンミョウがはっていた。このオオツチハンミョウ、帰ってから調べてみて驚いた。
危険が迫ると黄色い体液を出すのだが、この体液に「カンタリジン」という毒が含まれている。この「カンタリジン」は、わずか0.03gで人の致死量となり、皮膚についても水疱性皮膚炎を起こすという。
触ると死んだふりをして動かなくなったので、もっとべたべた触ったけど今のところ皮膚は大丈夫。食べなくてよかったぁ・・・。
オオツチハンミョウ
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高原内に整備された木道を歩いた。鉄の杭と鎖で囲まれた湿原植物の保護区域では、黄土色と赤茶色でまだらになったオオミズゴケが濡れていた。
湿原の中央に小さな川が流れている。私たちが石英の谷と呼んでいるところである。花崗岩のガレ石の間を、澄んだ水が流れていた。川原に風が吹くと、ススキの葉が乾いた音を立てた。
細長い結晶が繊維状に集まった鉄電気石の結晶を一つひろった。
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石英の谷 |
木道から広い散策道に出て、次に反対側の木道に入った。入ったところに、浅い小さな水たまりがある。この水たまりは、いつも水酸化鉄が沈殿して赤褐色をしているが、今日は緑藻が発生していて水を緑に染めていた。
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水たまりの緑藻 |
緑藻と気泡 |
木道の下に小川が流れていた。その水の流れに、倒れたススキが葉先を突っ込んでいる。水が葉先にぶつかって、波ができたり、不思議な小さな渦ができたりしていた。
陽光がその波や渦に屈折して、川底に網の目のような明るい線を映し、その間を大小の水玉模様がゆらゆらと流れた。
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川底の模様 |
それぞれのテーマを持って歩いていた生徒たちと、ここで合流した。先の水たまりの緑藻をサンプリングしようということになり、そこへ戻った。
糸状の緑藻のあちこちに気泡がついている。「この気泡の正体はなんやと思う?」の問いに、しばらく考えた後、全員が「光合成でできた酸素」と答えた。えらい、えらい・・・。
手を水につけてみると意外に温かい。藻を触るとぬるぬる。もっと手を突っ込むと、ぼよぼよの水酸化鉄が手にからみついてもっとぬるぬる。
下の小川までみんなで走って手を洗った。こちらの水は、肌に射すように冷たかった。
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草原の木道を歩く |
予定通り2時間ほどのフィールドワークを終え、帰ることにした。昼近くになって、気温も13℃まで上がった。池の氷は解け、水面にはさざ波が穏やかに立っていた。
交流館の前で、若い男が2人、ひもで縛ったススキの束をトラックの荷台に投げ上げていた。聞いてみると、茅葺き屋根を葺くためにとっているという。刈り取ったのは1月。「もう地獄のように寒かった」と、明るく話した。
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茅を集める |
暖かくなると、白い花をいっぱいにつける1本のヤマナシの木が、草原の端に立っている。その木を見上げると、青い空を背景に冬芽がもうだいぶん膨らんでいた。
砥峰高原は、ススキの草原を維持するために毎春山焼きが行われる。今年は、2日後にその山焼きを迎えようとしていた。
翌日、持って帰った緑藻のサンプルからプレパートをつくると、アオミドロのらせん状に連なった葉緑体がきれいに見えた。
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顕微鏡で見たアオミドロ |
山行日:2015年3月26日
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