沼島の海辺のきれいな小石
 沼島は、淡路島の南、約4kmの沖合に浮かぶ周囲10kmの小さな島です。この島の海岸には、さまざまな色のきれいな小石が転がっています。小石はどれも、うすく平たい形をしています。この小石は、紅れん石片岩や緑色片岩などの結晶片岩と呼ばれる岩石で、高い圧力による変成作用を受けてできたものです。結晶片岩は、岩石をつくる鉱物が一定の方向に並んでいるために、うすくはがれやすいという性質をもっています。これを片理といい、そのために海岸に転がっている石も、平たくなっているのです。
採集した結晶片岩の小石

沼島の結晶片岩

沼島
 今回は、「青少年のための科学の祭典2005」で、子供たちにプレゼントする石を採集するために沼島を訪れました。
 対岸の土生港から、渡船にのると約10分で島に着きます。船を降りて、北へひと丘越えた「江の尾」という海岸が、今回の採集地です。ここは小さな入り江になっていて、いろいろな結晶片岩でできた小石がたくさん転がっています。
 三波川帯の結晶片岩が見られることでは、埼玉県の長瀞や徳島県の大歩危・小歩危などが有名ですが、海岸をこの石だけが埋め尽くす光景は、ここ沼島だけのものです。

 沼島は、「三波川帯」と呼ばれる変成帯に属し、島全体がこの結晶片岩からできています。三波川帯は、中央構造線の南側に九州から関東地方まで細長く伸びています。
 三波川帯のはじめの岩石は、ジュラ紀に海洋プレートが沈み込むときに陸側にはぎ取られ、大陸につけ加わった海洋プレート表層の堆積物や海洋地殻です(付加体)。このような岩石が、地下深くに引き込まれて、高い圧力のもとで変成作用を受けました。
 三波川帯の結晶片岩は、地下15〜30km程度の深さでできたものと考えられています。その時期は、白亜紀中期ごろ(約9000万年前)とされています。このような地下深くでできた岩石が、その後の断層などの地殻変動によって今の位置へ上昇し、上の地層が侵食されてなくなったため地表に表れているのです。

紅れん石片岩の露頭(中央) 点紋緑色片岩の露頭

いろいろな結晶片岩

紅れん石片岩
紅れん石片岩

 紫紅色をした美しい石です。これは、紅れん石というピンク色の鉱物が含まれているためです。紫紅色のこい部分に、紅れん石が多く集まっていますが、結晶が小さいのでその形は見えません。石の中にもっとも多く含まれているのは石英です。片理(平行な割れ目)がよく発達し、片理面には銀色に光る白雲母の細かくうすい結晶がぎっしりと並んでいます。
 紅れん石片岩は、三波川結晶片岩中に特徴的に出てくる岩石であり、外国にはあまりありません。紅色で自然の美しさをもった人気の高い岩石なのです。

点紋緑色片岩
点紋緑色片岩

 表面に白い粒の目立つ緑色の石です。この白い粒は、変成作用でできた曹長石(斜長石の一種)の結晶です。このような結晶を斑状変晶といいます。石の名前につけられた「点紋」は、この斑状変晶の斑点をさしています。
 沼島の緑色片岩の多くは、この「点紋」が入っています。緑色の部分には、緑泥石や緑れん石、あるいは角閃石、白雲母、石英などが含まれています。こい緑色と黄緑色が縞もようをつくっていることがありますが、こい緑色の部分には緑泥石が多く、黄緑色の部分には緑れん石が多く含まれています。
 緑色片岩のはじめの岩石は、海底に噴出した玄武岩が変質した「緑色岩」です。緑色岩が、地下の深いところで変成作用を受けてこの点紋緑色片岩ができました。

泥質片岩

泥質片岩

 縞もようの目だつ、黒い石です。真っ黒い石墨、きらきらと小さく光る白雲母、白い石英、黒く光る黒雲母などからできています。
 縞もようは、石英が多く白っぽい層と、石英が少なく黒っぽい層が薄く交互に重なっているためです。


砂質片岩
砂質片岩・石英片岩

 白色、銀白色、オレンジ色、赤色など、さまざまな色をしています。入っている鉱物の違いよってできた縞もようが、よく見られます。
 石英がもっとも多く、白雲母、黒雲母などが含まれています。片理は、よく発達していますが、ほとんど石英からだけできている石(石英片岩)にはあまり片理が見られません。

珪質岩
珪質岩

 量はあまり多くありませんが、真っ白な丸い石を見つけることができます。これは、ほとんどが石英からできた珪質岩です。
 緑色片岩中などに、脈状に入り込んでいたものが、洗い出されたものです。この石だけは片理が発達していないので、他の結晶片岩とちがって平たくならずにコロッと丸い形をしています。

ざくろ石泥質片岩
ざくろ石緑泥石白雲母片岩

 よく探すと、銀白色の表面にオレンジ色の粒が目だつ石を見つけることができます。オレンジ色の粒は、ざくろ石の斑状変晶です。ざくろ石は、変成度の高いところにできます。白雲母は、片理面に同じ方向を向いてぎっしりと並んでいます。白雲母の間に見られる緑色の長細い鉱物は、緑泥石です。

 結晶片岩以外に、わずかの頁岩、安山岩、流紋岩質の火砕岩などが含まれています。これは、もともと沼島の石ではなくて、工事などに外から持ち込まれた石のようです。割れたガラスが丸くなった青い石ころもありました。

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■岩石地質■ 白亜紀  三波川帯 結晶片岩
■ 場 所 ■ 南あわじ市沼島 25000図=「論鶴羽山」
■ 交 通 ■ 南あわじ市土生港から約10分(沼島汽船)で沼島港へ
■探訪日時■ 2005年7月23日 

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