沼島の三波川結晶片岩

  対岸の淡路島から見た沼島
1,上立神岩付近の泥質片岩
 沼島は、淡路島の南、約4kmの沖合に浮かぶ周囲10kmの小さな島である。
 淡路島の南端に沿って中央構造線が走っているので、沼島は兵庫県では唯一、中央構造線の南側に位置している。地質は、中央構造線の南に沿って西南日本に細長く伸びている「三波川帯」に属し、変成岩である結晶片岩が分布している。平成6年には、この結晶片岩から、めずらしい「さや状褶曲(同心円状になった褶曲)」が発見された。沼島港を降りたところの島内案内地図や、旅館でもらった南淡町の観光パンフレットにも、この「さや状褶曲」が書かれているのには、少し驚いた。
 集落内の石塀や神社の石垣に使われている石は、ほとんどが、黒、白、赤、緑などの色をした結晶片岩。家々の間を歩くだけでも、この島が三波川帯の変成岩でできていることを教えてくれた。
 沼島には、はるか昔、神々がつくり出した最初の島という伝説が残っている。岩石観察の合間に、古びた「おのころ神社」や、うっそうとした照葉樹林に囲まれた「沼島八幡神社」なども辿ってみた。

海中に屹立する「上立神岩」
 沼島港を降り、島の反対側をめざして南東へ歩く。集落を抜け、沼島小学校・沼島中学校を過ぎ坂道を登っていくと、目の前に青い海が開けた。急坂を降りていくと、左手に「上立神岩」が見えた。
 海中にそびえ立つ高さ約30mのこの奇岩は、地元では「たてがみさん」と呼ばれている。イザナギ、イザナミの二神が、国生みの初めに建てた「天の御柱」として祀られている。
 海岸には、崖から崩落した大小の岩が重なっている。これらの岩を乗り越えながら、あるいは岩の間を抜けながら、崖の露頭に達して観察した。
上立神岩
三波川帯 結晶片岩
 写真は、「ユルギバエ(セキレイ岩)」を前に見る露頭である。片理の明瞭な泥質片岩であり、白っぽい層と黒っぽい層が薄く交互に重なる縞状構造が認められる。
 このような岩石は、低温高圧型の変成作用によってできる。もとの岩石は、放散虫化石などによって、丹波帯と同じジュラ紀の付加体と考えられている。それが、今から約9000万年前の白亜紀中頃に、地下30km程度の深さ(10kb程度の圧力)で変成作用を受けたと推定されている。
 このような低温高圧型の変成作用は、プレートの沈み込み帯で生じる地殻変動のもっとも顕著なものの一つである。
泥質片岩の露頭
泥質片岩中のレンズ状の石英片岩
 泥質片岩中には、石英片岩がレンズ状あるいは脈状に入っている。写真のように片理に平行に入る場合が多いが、大規模な石英片岩は片理に斜行して入っていることがある。
泥質片岩中の石英片岩
泥質片岩
 石墨を含み、全体が黒っぽい岩石である。きらきらと小さく光る白雲母、白く見える石英、黒く光る黒雲母などを含んでいる。
 石英が多く白っぽい層と、石英が少なく黒っぽい層が薄く交互に重なる縞状構造が写真の標本中にも見られる。
採取した泥質片岩の標本
『沼島の結晶片岩  2,江の尾の緑色片岩・泥質片岩・紅れん石片岩』へ進む

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