ボライソー26巻5章、アンライバルド号の掌砲長「オールド・ストラネス」の見せ場になる砲撃シーンなのですが……。
邦訳では
「艦首楼甲板の左舷一番砲(九ポンド砲)」
を使ったことになっていますが、原書では、
「メンデッキの左舷一番砲(十八ポンド砲)」
を使っています。
どっちなんでしょう? そこが気になる!
というわけで、以下、原書と邦訳をもとにつらつらと考えてみました。
原書:Relentless Pursuit Alexander Kent Arrow Books 2002
邦訳:「難攻不落、アルジェの要塞」アレグザンダー・ケント著 高橋泰邦訳 早川書房 2003.2.28発行
(しかし、この掌砲長はいいですな。ラミジのあの掌砲長だったら絶対してくれませんって! やってくれてもしくじりそう……)
1.ストラネス登場までの経緯
奴隷船とおぼしき船を左舷艦首方向に発見。
現在、風は左舷艦尾方向から吹いてくる。
怪しい船は風上へ切り上がりつつ、いずれは回頭してアンライバルド号の艦尾方向を横切る腹づもりらしい。
怪しい船の足を止めようと、アダムは艦尾甲板に掌砲長のストラネスを呼ぶ。
(この辺の、2艦の駆け引きについては斟酌していません。していませんと言いますか、わからないのでやっていません。すみません、すみません)
2.砲撃
■137頁15行目
すると掌砲長の目が左舷の九ポンド砲列へ素早く動くのが見え、
He saw the gunner's eyes move quickly
to the larboard battery of eighteen-pounders
(Heはこの場合アダムのこと)
ストラネスが見たのは9ポンド砲列ではなく、18ポンド砲列です。
■137頁17行目
「自分で用意するっす、艦長。左舷、一番砲を」
'I'll lay it meself, sir. Number One, larboard.'
特に何ポンド砲とは指定されていませんが、なんだか固有名詞っぽいですよ。「Number
One」って。
■138頁8行目
クリスティー航海長は顎先を撫でながら、掌砲長が舷側通路を艦首楼甲板へ渡っていくのを見守った。ストラネスは行きがけに何人かの名前を大声で呼んでおり、その割れた声は風と索具の合唱を難なく上回って通っていく。
ルビ:顎先「おとがい」 舷側通路「ギャングウェー」 艦首楼甲板「フォクスル」 索具「リギン」
Cristie rubbed his chin and watched
the gunner clawing his way down
the lee ladder, calling out names
as he went, his cracked voice carrying effortlessly over the
chorus of wind and rigging.
どこにも「舷側通路を艦首楼甲板へ渡っていく」に対応する部分がないので、試しに訳してみました。
「クリスティー航海長は顎を撫で、掌砲長が風下側の梯子を降りて(前部へ)突き進むのを見つめた。掌砲長は行きしなに大声で名前を呼びつけている。その割れた声が、風と索具の合唱を通してやすやすと伝わった。」
(「claw」は「(爪で)かく」「(貪欲に)かき集める」という意味のようですが、どうにも訳しきれませんでした。)
■139頁14行目
「アダムは前部へ目を向け、艦首楼甲板の左舷の一番砲を囲む人影の小さな群れを見やった。」
ルビ:前部「おもて」 艦首楼甲板「フォクスル」
Adam looked forward at the small
pattern of figures around the eighteen-pounder
closest to the forecastle.
「アダムは前方、艦首楼甲板最寄りの十八ポンド砲の周囲にいる人々を遠景に見つめた。」
艦首楼甲板ではなく艦首楼甲板に非常に近い位置にある砲で、種類については「十八ポンド砲」とはっきり書かれています。
■140頁5行目
「狙いつき次第、各個射撃!」
'Fire as you bear!'
撃っている大砲の種類に直接関係はありませんが、一門しか発射の準備をしていない状況ですので、できれば数を感じさせない「狙いつき次第、撃て!」の方が……。
■以上より、ストラネスが使ったのは「艦首楼甲板の左舷一番砲(九ポンド砲)」ではなく、「メンデッキの左舷一番砲(十八ポンド砲)」と思われるのですが、いかがでしょう。
本当に「十八ポンド砲」でいいのでしょうか?
さらに余計なことを考えてみました。
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