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都市のハチ問題と自治体の対応


都市部ではさまざまな種類のハチが苦情・相談の対象になります.多くの人々はどんな種類のハチであっても,その姿を見ただけで”刺されるのでは?”という恐怖心が先に立つためか,特に相談件数が多くなっています.

相談の対象となるハチの種類は都市により異なりますが,名古屋市では以下のようになっています.2008年から2013年まで,最近6年間のハチに関する相談は19,319件でした。その内で最も多いのはアシナガバチに関するもので,8,640件と全体の44.7%を占めています.次いでスズメバチ7.3428件,38.0%,ミツバチ1,301件 6.7%の順で,いずれも集団生活をするハチが大部分を占めています.その他のハチはドロバチ,クマバチ,ジガバチ,ツチバチなどですがいずれも件数は少数です.

主に刺傷被害の原因となるのはアシナガバチ,スズメバチ,ミツバチなど,集団で生活し人家やその周辺に巣を作るハチです.特に大型のスズメバチの仲間は攻撃性も強く,各地で大きな問題となっています.

ハチによる被害は大きく分けて,(1) 刺咬,(2) 不快感や恐怖感,(3) 活動の制約,(4) 汚染・損傷・異物混入の4つに分けられます.このうち刺咬による被害が最も深刻で,時には重篤な症状となり死亡する事例もあるので注意が必要です.

不快感や恐怖感の原因としては,人家の近くに営巣した場合や,家屋内への侵入,樹液や花などでの採餌・採蜜時,ヒメスズメバチの交尾行動に伴う集団飛行などが原因となりますが,営巣時とオオスズメバチが樹液に飛来している場合を除いて刺傷被害につながることは稀です.また営巣した場合でも、刺傷被害の発生状況は種類によって大きく異なっており,オオスズメバチとキイロスズメバチが攻撃性も強く危険です.

営巣場所によっては通行止めや作業の中断などが必要となることがあり,家屋や墓石などに営巣した場合は,汚染や損傷,食品等への異物混入などによる経済的被害が発生する可能性もあります.

このように見てみると,スズメバチの悪い面ばかりが目立ちますが,生態系の中で上位の捕食者として重要な位置を占めている点も忘れてはなりません.多数の昆虫を狩る益虫としての側面にも目を向ける必要があります.




 2006年,2007年については,公共的な場所に営巣した場合のみを駆除の対象としたため,駆除件数は大幅に減少した.

1980年頃から,周囲に丘陵地や山地をもつ全国各地の都市やその周辺で,大型のスズメバチの仲間(スズメバチ属 Vespa )が多発するようになりました.全国的な発生動向は地域や年次により様々ですが,各地とも2〜3年周期で不規則な変動を繰り返しながらも増加傾向にあります.

本州西南暖地の都市部において増加傾向が著しいのは,キイロスズメバチとコガタスズメバチの2種です.この2種は営巣場所や採餌習性に柔軟性があり,都市環境に対して高い適応能力を持っています.そのためこの2種のいずれかが各地で優占種となっていますが,この2種以外のスズメバチも少なからず発生がみられ,そのしたたかな適応能力に感心させられます.

都市の環境は,スズメバチにとって餌や営巣場所が十分に確保され,天敵も少なくて意外と住みやすいのかもしれません.人間の手による駆除の影響も,もともと”昆虫は多産多死”であることを考えれば,それ程大きくはないと思われます.

なぜ都市部でスズメバチが多発しているのでしょう? その原因としては次のような理由が挙げられていますが,おそらくはこうしたことが複雑に関係し合って,現在のような都市部におけるスズメバチの多発状況を作り出していると考えられます.


(1)

丘陵地の宅地化によりスズメバチの生息域と人間の生活圏が重なった.

(2)

雑木林の荒廃や,植林により山林における生息適地が減少し,市街地に進出した.

(3)

都市緑化の推進により多種多様な樹木が植樹された結果,市街地で餌資源が増加した.

(4)

衛生害虫に対する住民の意識が変化し,不快感や恐怖感を抱く人が増加した.

(5)

有機塩素系殺虫剤(BHCなど)の使用が禁止されたり,散布量が減少するなど,殺虫剤の使用形態の変化が餌資源の増加につながった.

(6)

ジュースなど空き缶の放置され,成虫の良い炭水化物源となっている.

(7)

天敵のオオスズメバチが減り,他のスズメバチにとって巣を襲われる機会が減少した.


一番大きな理由としては,宅地開発によりスズメバチの生息域と人間の生活圏が重なったことだと考えられます.農山村地域のように十分な空間があれば,人とハチの生活場所が重なることも少なく,十分共存が可能ですが,人口が多く住宅が密集した都市環境下ではお互いに接触が避けられず,ハチは人を刺す恐ろしい虫として駆除の対象となってしまいます.

都市部におけるスズメバチの多発状況は今後も続いていくでしょう.都市生態系の一員として,スズメバチとも上手に共存していく必要がありそうです.そのためには,スズメバチの生態を正しく知り,”正しく怖がる(必要以上に怖がらない)”ことが大切です.


スズメバチを始め”ねずみ・衛生害虫に関する相談や苦情は,通常,市町村の担当課が窓口となり相談に応じています.保健所が設置されている市では,保健所の環境衛生担当の部署が相談を受付ています.政令市では機構改革で保健所が1カ所に統合された自治体が多く,保健センターや区役所内に窓口のあるところが多くなっています.

それ以外の市町村では環境衛生関係の課が担当することが多いのですが,養蜂組合に駆除を依頼している市では農政関係の課が窓口になっていたり,一部では消防署が窓口となっているところもあります.また,県の保健所でも相談を受付ています.対応状況は自治体により異なりますので,取り敢えずお住まいの市町村の担当課や最寄りの保健所に相談して下さい.

個人の敷地内にできたスズメバチの巣は,管理者(所有者)の責任で対処するのが原則ですが,一部の自治体では無料で駆除してくれたり,経費の一部を補助をしてくれるところもあります.

外部の委託先はネズミ・虫駆除の専門業者,造園業者,養蜂組合,ボランティア等ですが,消防署が駆除を実施している自治体もあります.

料金は無料,一部負担(半額程度を公費で補助するケースが多い),自費(依頼者の全額負担)とさまざまです.一部負担の場合,営巣場所によっては追加負担が必要な場合もあります.また無料の場合でも営巣場所が公道に面したり,不特定多数に危害が及ぶ場合のみに限定している自治体もあります.


1 無料で駆除してくれるケース

自治体が直営で駆除する場合や,駆除は民間の駆除業者,養蜂業者,ボランティア等に依頼し,経費を全額負担してくれる場合があります.行政改革のあおりで直営駆除をする自治体は減少傾向にあり,民間への外部委託が増加しています.

2 駆除業者を複数紹介し,費用の一部を補助してくれるケース

駆除は民間の駆除業者,養蜂業者,ボランティア等に依頼し,経費の一部を公費負担してくれる場合があります.費用の補助は3,000円から10,000円程度で,必要経費の半額程度が補助されることが多いようです.

3 駆除業者を複数紹介してくれるだけで,費用は全額個人負担で駆除するケース

大部分がこのケースで,駆除に要した費用は全て個人負担になります.


※一部の自治体では,個人で駆除する場合に防護服の貸し出しを行っています.これを利用すればより安全に駆除することができます.