費文偉 諸葛丞相の後継者だった男
〜三国志7 プレイ感想〜
「費将軍!北伐の成功の為には今のままでは兵力が不足しているのです!増強の許可を願いたい!」
「伯約、またそれか。」
成都−蜀漢の都たるこの都市に生気が感じられなくなったのはいつの頃だろうか?
稀代の名軍師と呼ばれた丞相の諸葛孔明が亡くなりはや十数年が経っていた。
後継の蒋大将軍も数年前に病没、現在は尚書令の費文偉と姜伯約の二人が共同で皇帝劉禅を補佐するという形で国政を行っていた。
しかしこの頃になると国のいたるところで破綻の影が忍び寄り始めていた。
皇帝劉禅は政務に関する熱意を失い始め〜と言うよりも元々煩悩な人物であったが〜、
打ち続いた戦乱と天災により蜀の国土は疲弊、民衆は先の見えない不安に怯えつつ生活を続けているのが現状であった。
姜伯約はその現状の打開策も兼ね諸葛丞相の悲願でもあった漢朝統一の為の北伐を再開しようとしてした。
魏との国境では毎年のように抗争に明け暮れそれなりの成果はあったのだが、
もう一人の指導者・費文偉はそんな姜伯約に何故か大規模な兵力を与える事はなかった。
また今回も大した戦果を得られず前線より戻ってきた姜伯約と費文偉の間にて意見の相違による議論が始まろうとしていたのである。
「将軍、またとは何ですかまたとは!」
「ただの事実だ。何度も言わせるな。」
費文偉は机上の書に目を通したきり姜伯約の方すら見ようともしなかった。
「とぼけないで頂きたい。今日こそははっきりとした理由を聞かせていただきましょう。」
姜伯約。正真正銘の偉丈夫である。武の面ではあの五虎大将の趙子龍と互角に渡り合い、
智の面では諸葛孔明の策を見破ったことも幾度かある。
均整の取れた体つきは若さも手伝い以上のものをその雰囲気に与えていた。
覇気…活力…今の自分に不可能なものなどないかのように。
費文偉はそんな姜伯約の表情を見て諦めたようにため息をついた。
「じゃあ座れ、理由を話そうじゃないか。」
部屋の片隅の机を指差し、自分も腰を上げながら姜伯約に着席を促したのである。
さて姜伯約が椅子に腰掛けると費文偉はぶしつけにとんでもない質問をしてきた。
「伯約よ、諸葛丞相は偉大な人物だと思うか?」
「は?」
さすがの偉丈夫もこの唐突な質問には以外であったようだ。
「偉大な人物だったかと聞いている。答えよ。」
「偉大と言うよりもこの世であの方ほど才知溢れる人物もそうはいますまい。
あえて過去に例えるなら、漢の名臣の張良や蕭何といったところでしょうか。」
姜伯約は兵法上の諸葛孔明の愛弟子である。心から彼を尊敬していた。
当然返す返事もこのようなものになる。
「なら伯約、その偉大な丞相は北伐を5回行ったな。成果はどうだった?」
「…それは…」
姜伯約の表情が曇った。言われたくない過去は誰にでもあるものである。
「残念ながら芳しくなかったな。どうだ?」
「……」
「もう私の言いたい事は大体判ってきたであろう?」
「しかしそれは!」
「しかしもない、れっきとした事実だ。」
姜伯約の抗弁は冷厳な一言にあっさり返されてしまった。事実は事実なのだ。
「あの諸葛丞相でさえ成功しなかった北伐だ。我らで簡単に成功すると思うか?」
「……」
返事は無い。しかし費文偉は構わず話を続けた。
「我らの役目は北伐を行うことではない。いつか現れるであろう丞相の真の後継者たる人物のために
疲弊した国力を回復させ万全の体制にしておくのが役目なのではないか?」
「……」
「私がそなたに兵を与えない理由が判ったかな?」
「……」
もはや姜伯約には言葉もない。
「判ったのならもういいだろう。私はまだ仕事が残っているのだ。」
「…では。」
姜伯約は立ち上がり礼もそこそこに部屋を後にした。
そして部屋を出しばし進んだ後、ふと彼はいましがた歩いたきた後ろを振り返った。
「…しかし将軍、」
相変わらず表情は晴れず、ただ遠い目をしながら。
「戦には機というものがあります。それを逃していては勝てる戦も勝てなくなりますぞ。」
その日も暮れ、いつものように費文偉は帰宅の途についた。
宮中の門に差し掛かったとき同じように帰宅の途にあった黄門侍郎の董休昭と出会った。
「おお休昭殿。」
「これは文偉殿。ご機嫌麗しゅう。」
型どおりの挨拶を交わした両者だったが、実はお互いかなりの酒好きでよく飲み交わす仲でもあった。
当然今日も挨拶だけで終わるわけでもなく酒宴を行うこととなった。本日は董休昭の館にて行うことになったらしい。
二台の馬車は董邸へと向かった。
「伯約殿の熱意にも少々困りますな。」
今日の出来事を費文偉に聞いた董休昭の弁である。彼もまた文官として積極的な外征には反対の立場であった。
「最近陛下の御前に置かれましても北伐の必要性について説いておられるようです。」
少々酒が回っているのか董休昭は珍しく多弁だった。
「黄皓の件でも頭が痛いといいますのに、これ以上陛下に影響を与えられましても…」
「黄皓?あの最近宮中をときめいておるという宦官かね?」
「ええ。陛下がことのほかお気に入りの様子なのでこれからが心配です。」
「それは困ったな。」
「全く。」
二人は同時に杯をあおった。一気に飲み干す。
董休昭の杯を受けながら費文偉は当たり前のようにつぶやく、過去の忠臣が主君に陳べて来た台詞をそのままに。
「宦官の重用はろくな結果は生まん。陛下もその事についてご理解頂けるとよいのだがな。」
「私らの健在なうちは大事は起きないでしょうが、その後が…」
返杯を受けながら董休昭も答える。
「…そうだな。私らも長くはない。これから蜀を背負う人材は…」
「……」
「……」
重たい沈黙が場に漂った。不安、焦燥、絶望…それらの感情が二人の心に現れては消えた。
「…どうも明るい未来ではなさそうだな。」
ようやく口を開いたのは費文偉であった。表情は当然のように暗い。
「黄皓はともかく伯約殿にならまだ希望が…」
そうつぶやく董休昭も表情は一向に晴れなかった。
「せめて大局が見通せる人物なら私などもう用済みだと言うのに…」
「……」
董休昭は答えられない。考えてはならない、しかし将来避ける事の出来ない未来なのだから。
もはや個人の力では解決することの出来ない問題なのだ。
…宴ははほどなくして終わった。
「さてさて、これからどうなるというのか?天のみぞ知る…か。」
帰りの車の中で夜空を見上げながら費文偉はつぶやいた。
「…所詮は延命…やはりそうだったのですか?丞相?」
…当然ながら答えは無い。ただ肌寒い夜風が費文偉の体に冷たく当たリ続けていた。
彼はこの数年後、魏の降将の郭循に酒席で暗殺されることになる。
それは蜀の最後の屋台骨が倒れたことを意味していた。
その後は姜伯約がただ一人で蜀の国政を受け持つことになるが、
董休昭などの建国の重臣が亡くなり黄皓のような亡国の徒が自由に振舞うようになった宮中で
孤立した彼には国威を挽回できうる力はもはやなかった。
西暦263年、魏の名将ケ士載と鐘士李の遠征によって蜀は滅びた。
劉玄徳が蜀漢を建国して42年後のことである。
前座に妄想爆発のショートストーリーを付けてみましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
さて「三国志7」は2000年2月に発売されました三国志シリーズ第7作目です。
このシリーズに関しては私は始めるのが多少遅くて、記憶ではPC88版でプレイをしたのが最初でしょう。
およそ11年前です。まあ「信長の野望」程ではないのですがまあ長い付き合いです。
それでは今作品の感想などを少しばかり書かせて頂きます。
1.とうとうゲームの形が新しい展開に突入しました
今回一番に書かなければならない点はこの点であり、他は無いと書いても差し支えないくらいです。
今までの「プレイヤー=君主(勢力)」の形が「プレイヤー=武将(個人)」の形に変わったのですから。
4年程前「銀河英雄伝説4」という作品にてこの形でのゲームが発売されたことがありましたが、
非常に私的には満足な出来でありましたし、評判も知っている限りよかったと記憶しています。
それにもかかわらずPCゲームではこれ以降この形でのゲームが発売されることは無かった、これは非常に残念なことでした。
何故この新しい形が面白いのかというと、SLGをやりこんでいる方なら感覚的にお分かりになるのではないかと思うのですが、
以前の形では戦略SLGの限界というものが現れてきたきたからではないかと思われます。
大体現実の世界をして自分の思い通りに物事が動くなどありえないものです。
しかしゲームの世界では勢力内の事柄については専制君主の状態です。
ゲーム序盤については弱小ゆえそのようなことなど気にもかけないのですが、
大勢力になるとこの状態というものが必ずしもいいものではないことがプレイヤーにも理解できるようになってきた、ということです。
要はつまらなくなるのです。
現実では体制が大きくなるにつれ統治が困難になるはずなのに逆にゲームでは楽になってしまう、
肝心の相手はPCゆえ思考に限界がありもはや現時点では張り合いがない、
もはやゲームという形では楽しむ点がなくなってしまうのです。
一方新しい方法では、その地位にもよりますが自分は現実の自分と同じようにその世界では一人の人です。
限界があります、万能の専制君主ではないのです。
当然勢力拡大一つでも非常な苦労が伴います。現実で個人が組織を動かしてみようと考えてみてください。
しかしこれが非常にリアルなのです。苦しいと感じながらも非常に面白いのです。
しかしながらメーカーさんとしてはこの点の理解がなく恐らくは今までのスタイルに踏襲させたかったのでしょう。
ですがアイテムやイベントなどを駆使してプレイヤーの楽しみを引き止めておくのにも限界が生じたので
もはやこれ以上はその方法も不可能になってようやく形を新しくするという方法に出たのが実情ではないでしょうか?
ですがこれが逆に功を奏すと思います。
もはやここまで来るとSLGとは呼べなくなってきました。いっそのことRPGと呼んでもいいのではないでしょうか?
時代のシミュレーションではなく人物の役割のゲームになってきているわけですから。
以前からPCゲームの世界でRPGの本当の意味が理解されていないことに腹立たしさを感じていましたし、
いっそのことこの呼び名でいきましょう?どうですか皆さん?
2.その他?上の項目がこのゲームのすべてよ!
その他の点につきましては書くべきことは何もございません。
グラフィックは非常に高品質ですし、BGMも文句のつけようがありません。
武将のデータについても私的に非常に気に入っていた「三国志5」の流れに戻っています。
ただ、シナリオが多少不満のある選択をしていますが(ちなみに前出のショートストーリーの時期のシナリオはありませんので、念のため。)、
恐らくもう数ヶ月もすればパワーアップキット(以下PUK)が発売されるでしょうから感想はその時まで待っても遅くはありません。
3.総括
総合すると非常に完成度の高いゲームだと思います。
いや、あまり基本的なシステムに不満なないSLGは久しぶりですね。
これはいやでもPUKは期待してしまいますね。本当に楽しみです。