人口ピラミッドがひっくり返るとき ポール・ウォーレス著
![]() |
過去、人口の年齢構成はいつもピラミッドに似ていた。若い年齢層にあたる底辺の幅は広く、高齢層にあたる上部は先細りしている。大半の発展途上国では、いまなおこれが年齢構成の特徴になっている。だが、富裕な国の年齢構成はちょうちんのような形をしている。真ん中がふくらんでいるのだ。これがつづくあいだは、労働年齢にある人の数が最大になるため、経済的には理想的な形といえる。
しかし、21世紀には、先進国の人口ピラミッドはひっくり返る。高齢者で構成される頂上部分は労働人口層である真ん中よりも幅が広くなり、真ん中は若者で構成される底辺よりも広くなる。ピラミッドの上下をひっくり返せば倒れてしまう。人口ピラミッドを逆さにするとやはり不安定であるとの結果がでるであろう。若者から老人への依存の転換は、前例のない経済的重圧を生み出すことになる。老人は子どもよりも扶養にはるかに金がかかるが、その負担は個々の家族よりも社会にずっと大きくのしかかる。これから先20~30年間の歴史は人口ピラミッドがひっくり返るという課題に、われわれがどう応えていくかの物語になるだろう。
金融市場への影響
1990年代、日本では余剰貯蓄が国債に注がれ、利回りを歴史的低水準に押し下げると同時に、株式市場が下落しつづけていてさえも貯蓄は激しく増大した。さらにまた、余剰貯蓄は一貫して投資機会を上回り、それによって1990年代の低迷する経済の一因となった。高齢化する人口が退職に備えて金融資産を貯蓄しようとすると、株式市場を軌道に乗せるどころか、経済をただ景気後退に押しやることになりかねないだ。 1990年代の大半を通じて、日本の貯蓄が流失することで、アメリカの債権および株式市場は維持されてきた。
戦後の日本の経済モデルは、貯蓄を産業投資に注ぎ込むような設計になっていた。日本が欧米に追いつこうと頑張っているあいだはこれが効果が上げたが、追いついた後は膨大な過剰投資をもたらし、事実上資本を浪費してきた。日本は製造経済からサービス経済に、生産者経済から消費者経済に変換しなければならない。貯蓄と投資を減らし、なおかつ利益を高める必要がある。そのためには、より独立した金融システムを確立し、経済に株主資本主義を吹き込むことが求められる。増えつづける若い労働力をもとに発展する経済のためにつくられたモデルは、いまや人口が高齢化し労働力が減少している成熟経済に合わせて、べつの形に作り変えなければならない。
1990年代、西側諸国は高齢化する人口が将来与える衝撃を懸念し、いっせいに財政赤字の削減に取り組んできた。アメリカでは1998年に、1969年以来初めて連邦政府予算が黒字に転じた。これはキャピタルゲイン課税の大幅増額に負う部分もあるが、1983年の改革を受けて、年金制度を支えるために社会保険制度の保険料が引き上げられたことも影響していた。政府財政が良好に推移していることは、長期金利を押し下げるのに一役買い、その低金利により資金が株に流入し、株式市場を活気づける役割を果たしてきた。
世界経済への影響
OECDの標準予測では、EUと日本の生産高は21世紀の中ごろまでは年間およそ0.5%またはそれ以下で増加しつづける。アメリカは人口統計的に有利なせいで年間約1.5%拡大しつづけると見込まれている。アメリカの優位が継続する理由は、進んで移民を受け入れようとする姿勢に負うところが多く、この姿勢はまた、他の先進諸国よりはるかに高い出生率をキープするのにも役立っている。
2015年には中国はアメリカに追いつき、世界GDPの17%ほどを占めるようになる。その後、中国はリードするが、世界のGDPに占めるシェアで勝っても、富と国際的影響力におけるアメリカの優位にはまだおよばない。
地域 | 2000年 | 2050年 |
アメリカ | 20% | 14% |
日本 | 7% | 4% |
EU | 19% | 10% |
その他老齢化の速い国 主として中国 |
25% | 26% |
老齢化の遅い国 インド、インドネシア、 ブラジル、メキシコ、トルコ |
29% | 46% |