6Y6G_GT 超三結V1 アンプ試作試験記

(1期)1997/09~1999/12 ~ (2期) 2009/09~2012/07 宇多 弘
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1. 6Y6G_GT 予備調査試験の経過概要 (1997/09)

 6Y6G_GT 超三結V1 アンプの試作にあたり、基本動作を一通り試験しました。 その結果 6Y6G_GT6V6GT, 6L6GB 等に比べてスクリーン・グリッドの電圧配分がややクリチカルに音に影響して、最初は良い音が得られませんでした。
 試験途上において、音の悪い電圧配分にぶつかって「この球は音が悪い」と決め込むことは早計と考え「どんな球でも動作環境さえ適合すれば大差なく動作するはず」という信念にて、動作電圧の組み合わせを変えて遂に解決しました。 そうはいうものの CV18 よりは遥かに素直でしたが。

1.1 一号アンプ(超三結V3 回路)の成功

 取り敢えず 6Y6G_GT の基本動作を確認するため、既に(1996/05) 組んであった EL34G の「超三結V3 アンプ」 (C/R 結合 カソフォロ型 P/K NFB) を種アンプとして改造を加えて対応しました。 その原回路は MJの1993 年 3 月号記載の上條氏の記事による KT90 s 超三結V3 アンプを手本に、初段の五極管のスクリーン・グリッド回りを変更して EL34/EL34G に対応したものです。 
 種アンプの構成は、初段を 6GH8A の五極管部のカソードに、グリッド接地した三極管部(電圧帰還管)のカソードを接続し、三極管部のプレートは終段のプレートに接続して、P-K 帰還としたもので、そのままを流用しました。
 6Y6G_GT の動作を探るため、B 電源回路を低圧化し、Ep/Esg/Ek 等を規格表記載の動作例に従って設定しました。

 改造内容:          動作状態
-------------------------------------
○B 電源=Ebb:約 180V に
○カソード抵抗=Rk:220Ωに、約 64mA で約 14V
○SG 電圧=Esg:135V、ドロッパ R の調整にて対接地間149V
○プレート電圧=Ep 150V、対接地間 164V、OPT での電圧降下 16V

 6Y6G, 6Y6GT を動作させ、いずれも大差なく無難な音で鳴りました。 これを「一号アンプ」としました。

1.2 二号アンプ(超三結V1 回路)の失敗

 「二号アンプ」として、超三結V1 試験アンプを 5EA8~6Y6GT の構成により組み立て・配線し、動作試験を行いました。 
 調整に掛かって、初段のバイアスを加減しても、終段の自己バイアス抵抗を加減しても、他の超三結V1 アンプのように良好な動作点が見つからず、歪が多くて音になりませんでした。

2. 超三結V3 による再現性試験の経過

 なぜ超三結V3 ではうまく行ったにかかわらず、なぜ超三結V1 では NG なのかを考えてみても、なにも原因がわかりません。 
 原因追及の手段として、二号アンプを一号アンプと同じ超三結V3 に変更して再現性試験を行なって発見できないかと考えました。
 すなわち、超三結V3 レベルでの比較結果が悪ければ修正を試み、それが超三結V1 にも適用できないか、との期待です。 
 その再現性試験の最中に偶然 SG 電圧が関係するクセを発見しました。
 その対策を模索して、二号アンプの超三結V3 レベルでの再現性試験をすませ、超三結V1 に戻して動作試験し、一応完成しました。  

◇試験経過:
 回路変更1:超三結V1 であった二号アンプを超三結V3 に回路変更しました。
 動作試験:まず、適当に電圧配分したら変な音が出てきました。 高音がなくモワモワでゲインは低いのです。  
      バイアス Ek を点検すると少し高めであり、 Ik が多すぎでした。
 回路変更2:一号アンプと二号アンプの電圧配分を比較して明らかに異なるため、それが原因と見て
       一号アンプの電圧配分に近づくように抵抗値の調整にかかりました。
 点検調整:スクリーン・グリッド供給電圧を得るためのドロッパ抵抗 Rsg を加減して都度音質を点検すると
      スクリーン・グリッド電圧 Esg(K~SG 間電圧)の値が、かなり音に影響することが判りました。
      すなわち、6Y6G_GT は Esg の設定によっては音質が悪化する管種固有のクセがある訳です。

◇最終調整:
 スクリーン・グリッド電圧 Esg を適正な135V に設定、二号アンプは良好動作となり一号アンプと同様な音質が得られました。


3. ここまでの結論

 結論に至るは早く、もっと多くのケースの試験が必要ですが、一応ここまでの試験結果から下記を中間的な結論とします。 
 なお、初期の超三結V1 試験結果の不良は電圧配分の不適当が原因と解明されているので省略します。

3.1 超三結V3 試験(ケース1) の結果考察

 ●Esg を 135V 近辺に調整し、Ep は Esg よりある程度高ければ問題ない。
 ●Ep は少々高くしても、あまり音に関係がない。但し Ep を高くすると
   Ip + Isg = Ik の変動によって適正バイアス値 (-14V) が変り、Rk の加減が必要。

3.2 超三結V3 試験(ケース2) の結果考察

 ●Ebb=125V の動作結果は、超三結V3 試験(ケース1) の結果考察の {Esg=135V 近辺に
  調整する} を否定する。 むしろ Ep と Esg の「比率」または「開き」が問題となる。
 ●いずれにしても Ep > Esg ならば、ひどい音にはならない点に着眼する必要がある。

3.3 総合考察

 ●結論:「Ep は Esg より高く設定する必要がある」ことが判明した。
 ●ある程度の B 電圧がないと、超三結V1 は電圧不足で、前段を含めてうまく動作しない。
 ●超三結V3 試験(ケース1)、同(ケース2)の結果から推定すると、超三結V1 試験例では、
  Ep と Esgの接近と同時に、Ep とEsg の低すぎ、という悪い条件が重なったものと考えられる。
 ●これまでの経過から見ると、一号機の超三結V3 では慎重に規格表通りに電圧配分したので、
  正常動作したものと判定される。

3.4 結論

 上記の試験経過と考察をレビューした結果、下記のような結論に至りました。

 極めて当然ながら、超三結V1 にも超三結V3 試験の電圧配分を適用すべきである。 すなわち、
 ◇V3 での Ek=14V, Ep=150V (対接地169V), Esg=135V (対接地149V)  の組み合わせは、
 ◇V1 にて Ek=50V, Ep=150V (対接地200V), Esg=135V (対接地185V)  の組み合わせに
  「平行移動」できる筈。

 ◇超三結V1 でも、Esg は規格の 135V にしたい。
 ◇それ以下であっても、Ep は必ず Esg を 10% ぐらい上回るように電圧配分できればナントカ鳴っている。
 ◇従ってEsg=135V, Ep= or < 150V と設定すればOKのはずである。
 ◇6Y6G_GT の超三結V1 は、もっと高い B電圧~250V 程度で試験すべきである。
  そうしないと十分な Ep, Esg が供給できない。
 ◇高い B電圧にしないと OPT での電圧降下を吸収できず、Ep > Esg の関係が維持しにくくなる。
 ◇高い B電圧にすれば、前段により高電圧を供給でき、十分なドライブ振幅が得られる。

 ◇他の球の場合でも同種の問題がありうる。用心に越したことはない。
 ◇807 では Esg が 250V max の条件。 Psg の問題以外に、Ep > Esg との制限がありうる。  
  規格表では 6V6/6L6 族でも 807 と同様の制限があり得、ビーム管固有の問題かもしれない。
 ◇五極管の 6F6 族, 6BQ5, 6BM8 では Esg equal Ep でも特に異常はない。

 このような経験から、以後のビーム管の超三結V1 では、Ep > Esg とすべくブリーダ供給にしました。


4. 超三結V1 に戻す

 再現性試験を通して、良好な動作条件~電圧配分の原則が明らかになり、二号アンプを超三結V1 に戻しました。 
併せて不足だった B電源電圧を動作時に 220V となるように変更し、Ep > Esg の条件を整えました。 

 二号アンプの超三結V1 は、一号アンプの超三結V3 よりもクリアーで迫力のある音が得られ、6BQ56V6G_GT の超三結V1 アンプに近い音質になりました。(1997/10)

 二号アンプのシャーシ上の配置は、本文の先頭に示す写真のように縦長とし、電源トランスからの磁気漏洩を避けるため、出力トランスとの間に整流管 5Y3GT および 6Y6GT を配列し、最前部に初段を配置しました。

 以下には最新の 6Y6G_GT 超三結V1 アンプの回路図を示します。(1999/09)

6y6g_gts.gif


5. アフターフォロー

 その後二号アンプには下記のような一連の点検と整備を加えました。

●リニアライザ改良:
  初段プレートにリニアライザとして 6AL5 を挿入。
  派手さが失われ素っ気ない印象の音質になったが、暗くはなりませんでした。(1998/01)
●電源強化    :
  電源トランスに余裕を持たせ、タンゴの ST220 に換装しました。
  Stopping diode としてOPT の B 電源側に 6AS7GA(D) [二極管接続] を挿入。(1998/03)
●Esg の怪   :
  Ep が高い場合には、Esg ドロッパが直列抵抗では、あまり Isg が流れず、Esg が高い状態で安定していました。
  Ep が高いと SG を電子が通り抜けて Isg が増えない現象があるかのようです。
  しかし、超三結V1 では直流サーボが効き、Isg が増えないこともあって Psg を超えなかったようです。
  直列ドロッパをブリーダ形式に変更して、所定の電圧となるように変更しました。(1998/03)
●SD 他の構成変更:
  Stopping diode を SiDi 1N4007 に変更しました。(1999/09)
●統合吸収にて分解:
  本アンプはユニバーサル超三結V1 アンプの完成により役目を終わり、分解しました。(1999/12)


6. 10年ぶりに復活

 余剰のシャーシ・ケースが発生したので、 6Y6G_GT 専用の超三結 V1 アンプを再製作しました。 
 低電圧動作にてユニバーサル環境では操作が煩雑なため、独立のアンプとしました。(2009/09)

 初段および電圧帰還管には 2E24 超三結 V1 アンプに採用した、発振を起こさない 6AW8A を採用しました。
 PT には 100V-220V/50VA のセパレーション・トランス、6.3V5A ヒータートランス、OPT には東栄変成器 OPT-10S を使用しました。
 バイ・アンプ運用を考慮して、信号入力ジャッグは並列に二組を装備して、信号のスルーによる並列接続を可能にしました。
 シャーシ・ケースは鈴蘭堂製の SU-8 を使用しました。

 以下には復活後の 6Y6G_GT 超三結V1 アンプの回路図を示します。

6y6stc.gif


7. 次のステップに貢献

 半導体素子による終段装備・・・高電圧に耐えられるバイポーラ Tr または MOSFET にて終段管をリプレースできないかと発想したこともあり、そのような課題が出された機会に、本アンプを転用することにしました。 第一期、第二期を通して約四年間の役目を終わりましたが、従前通りユニバーサル超三結V1 アンプの低電圧動作にて 6Y6G_GT は挿し換え運転が可能です。 
以上

改訂記録
(1997/09):初版、超三結V3/超三結V1 試作
(1999/12):改訂第一版、分解・転用
(2009/09):改訂第二版、超三結V1 復活
(2012/07):改訂第三版、再度の分解・転用
End of text