1980年 広島カープVS近鉄バファローズ(前編)
1980年のパ・リーグは前年の覇者・近鉄が本命視されていたが、前期はロッテが1.5ゲーム差で近鉄を振り切って77年後期以来の優勝。後期は大混戦となったが、地力のある近鉄が抜け出し0.5ゲーム差で日本ハムをかわして優勝、プレーオフに進出した。プレーオフでは近鉄が4-1、4-2、13-4とロッテを圧倒して3連勝、見事に2年連続のリーグ制覇を成し遂げた。
前年は怪我で長期欠場したマニエルがこの年はシーズンを通して活躍し、48本塁打・129打点という素晴らしい成績で二冠王に輝いた。7年目の栗橋も初の3割打者となり本塁打も28本と強打を発揮、78年の首位打者・佐々木も3年連続3割と好調をキープ。また、チーム本塁打239本と言うプロ野球新記録を達成するなど打力は凄まじく、チーム打率もリーグ新記録の.290をマークしていた。反面、投手陣は井本が2年連続15勝、ベテラン鈴木も14勝と頑張ったもののチーム防御率4.96で、まさに打線に支えられての優勝であった。
セ・リーグでは選手の世代交代が遅れた巨人が早々に脱落。広島が走り、前年の不振から立ち直ったヤクルトがこれを追う展開となった。前年の日本一で自信を付けた広島は主力選手も円熟期に入り、安定した戦いを続けた。山本が本塁打・打点の二冠に輝けば、衣笠も前年の不振から脱して2年ぶりの30本塁打をマーク。高橋慶は3年連続3割と2年連続盗塁王を達成した。
投手陣では北別府、山根、福士が二桁勝利。移籍3年目の江夏も30セーブポイントで前年に続きタイトルを獲得して健在ぶりを見せていた。
広島 | 近鉄 | |||
山本浩二 | 44本塁打 112打点 打率.336 14盗塁 | マニエル | 48本塁打 129打点 打率.325 | |
ライトル | 23本塁打 82打点 打率.280 | 栗橋茂 | 28本塁打 84打点 打率.328 | |
衣笠祥雄 | 31本塁打 85打点 打率.294 16盗塁 | 佐々木恭介 | 19本塁打 66打点 打率.318 | |
デュプリー | 10本塁打 40打点 打率.266 | アーノルド | 11本塁打 37打点 打率.252 | |
水谷実雄 | 22本塁打 61打点 打率.270 | 羽田耕一 | 30本塁打 80打点 打率.272 | |
高橋慶彦 | 5本塁打 33打点 打率.307 38盗塁 | 平野光泰 | 23本塁打 68打点 打率.284 13盗塁 | |
三村敏之 | 12本塁打 60打点 打率.288 | 小川亨 | 15本塁打 55打点 打率.323 | |
水沼四郎 | 5本塁打 21打点 打率.218 | 梨田昌崇 | 15本塁打 55打点 打率.292 | |
木下富雄 | 4本塁打 10打点 打率.219 | 石渡茂 | 9本塁打 47打点 打率.265 | |
北別府学 | 12勝5敗 防御率4.04 82奪三振 | 井本隆 | 15勝8敗1S 防御率4.37 94奪三振 | |
池谷公二郎 | 9勝6敗 防御率3.30 107奪三振 | 鈴木啓示 | 14勝8敗 防御率3.87 100奪三振 | |
山根和夫 | 14勝13敗 防御率2.96 112奪三振 | 村田辰美 | 7勝7敗2S 防御率6.22 52奪三振 | |
福士明夫 | 15勝6敗 防御率3.95 106奪三振 | 柳田豊 | 13勝9敗7S 防御率4.05 150奪三振 | |
江夏豊 | 9勝6敗21S 防御率2.62 86奪三振 | 橘健治 | 8勝11敗1S 防御率5.92 75奪三振 |
10月25日の第1戦は近鉄が2年連続チーム最多勝の井本、広島は前年のシリーズで大活躍した山根の先発で始まった。広島は初回に四球の山崎を置いてライトルが先制2ラン。近鉄は4回まで2安打無得点に抑えられたが、5回に反撃。ノーアウト1・2塁から2番・小川がタイムリー二塁打してまず1点。ここで古葉監督は早くも山根に代えて左腕・大野をマウンドに。しかし大野は左打者のマニエルは打ち取ったものの、右の佐々木、羽田に連続タイムリーを浴びて近鉄が3-2と逆転した。
しかし広島も食い下がり、6回裏にライトルがこの試合2本目の本塁打で同点とし、さらに8回裏には水谷が勝ち越しのタイムリー二塁打を放ち4-3と1点のリード。8回表から登板している江夏で逃げ切り、の筈だった広島だが試合は簡単に終らない。9回表、近鉄の先頭打者は代打・有田。江夏から前年のシリーズ第2戦でホームランを放っている。それがちらついたか江夏は有田を四球で歩かせ、続く平野にもヒットを許してノーアウト1・3塁のピンチを迎えた。ここで打席に立った吹石がセンターへ犠牲フライを打ち上げて4-4の同点、試合は延長に入った。
9回裏から登板した近鉄・柳田が素晴らしい投球を見せ、11回まで3イニングをパーフェクトに抑えた。対する江夏も気力を振り絞り10回・11回と四球1つのノーヒットピッチング。そして迎えた12回表、救援して5イニング目に入った江夏はついに力尽きた。近鉄は先頭の吹石が二塁打で出塁。江夏は踏ん張り二死を取るが、5番・羽田がレフトスタンドに豪快な2ランホームランを叩き込んだのだ。柳田はその裏も三者凡退に抑えて6-4で近鉄が第1戦を勝ち取った。
近鉄 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 2 | 6 | |
広島 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
勝ち 柳田 1勝 負け 江夏 1敗
本塁打 ライトル1号2号、羽田1号
10月26日の第2戦は近鉄がベテラン左腕の鈴木、広島はこの年9勝止まりで不本意なシーズンだった池谷の先発で始まった。試合は広島が3回裏に水沼・池谷の連続二塁打で1点を先行。4回裏にも二塁打の山本をデュプリーがタイムリーで還して2-0とリードを広げた。対して近鉄打線は池谷に4回までパーフェクトに抑えられた。自ら先制二塁打も放った池谷の好投で試合は広島ペースと思われた。
5回表の近鉄は一死後に有田、羽田が連打してこの試合初めてのチャンスを掴む。そして8番・吹石がレフトスタンドへ逆転3ラン。好投を1球でふいにした池谷は、続く6回表もノーアウトから平野・小川に連打された後、3番・マニエルにライトスタンドへ放り込まれてノックアウト。この回の近鉄はさらに広島のリリーフ陣を攻め、石渡の2点タイムリーで合計5点を追加し8-2と大きくリードした。
大量リードをもらった鈴木は5回以降はピンチらしいビンチもなく、6安打散発でゆうゆう完投。8回にも平野のタイムリー内野安打で1点を追加した近鉄が9-2で勝ち、シリーズ2連勝を飾った。
近鉄 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 5 | 0 | 1 | 0 | 9 | |
広島 | 0 | 0 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 |
勝ち 鈴木 1勝 負け 池谷 1敗
本塁打 吹石1号、マニエル1号
10月28日の第3戦は広島がこの年チーム最多勝の福士、近鉄は左腕・村田の先発で始まった。シーズンでは防御率6点台と苦戦した村田だったが、この日は3回までノーヒットと上々の立ち上がりを見せた。近鉄は3回裏に2安打と四球で一死満塁のチャンスを掴み、ここで2番・小川がライト前ヒットを放ち2点を先行した。
またも近鉄に主導権かと思われたが広島も反撃。5回に水谷がソロ本塁打して重苦しい雰囲気を振り払うと、6回には近鉄の2番手・柳田に対し二塁打のライトルを置いて主砲・山本が逆転2ランホームラン。4番打者の価値ある一発にベンチは沸いた。広島は4回以降無失点の福士が8回裏もマウンドに上がったが、無死2・3塁のピンチを招いて降板。代わった江夏は後続を打ち取ったものの、内野ゴロの間に三塁走者の生還を許して試合は3-3の同点となった。
ここで3連勝して一気の王手を狙った西本監督は第1戦に先発した井本を9回のマウンドに送った。井本は簡単に二死を取ったが、続く7番・デュプリーの打球をショート・吹石がエラー。ここで8番・水沼が右中間に勝ち越しタイムリー二塁打。江夏は9回裏をきっちり3人で抑えて広島がシリーズ1勝目を挙げた。
広島 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 2 | 0 | 0 | 1 | 4 | |
近鉄 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 |
勝ち 江夏 1勝1敗 負け 井本 1敗
本塁打 水谷1号、山本1号
(後編に続く)