ちょっとしたコラム      
               
03.8.16付


夏の甲子園大会記念特別編
1998年横浜高校の夏、松坂大輔の夏(後編)

 準決勝は高知・明徳義塾高との対戦となった。前日のPL学園戦で250球を投げた松坂はレフトで先発出場した。打つ方でも四番の大黒柱である松坂は、登板しないからといってベンチに座っている訳にはいかなかったのである。横浜は2年生の袴塚健次を先発マウンドに送った。その袴塚は立ち上がり二者連続三振のスタート。3回まで毎回の5安打を浴びながらも無失点で切り抜けた。しかし4回に明徳の9番・倉繁にタイムリーを喫し先制点を許す。続く5回には先頭の藤本にソロ本塁打、二死後に四球の寺本を置いて5番・谷口にも2ランを打たれて4失点で降板。

 2番手の斉藤弘樹も6回に2本の長打で追加点を許す。7回表は三者三振に仕留めるが、8回表には好調の一番打者・藤本にサイクルヒットとなるタイムリー三塁打を打たれて6点目を失った。
 明徳の先発・寺本四郎(現ロッテ)は7回まで強打の横浜打線を散発3安打無失点に抑える完封ペースで投げていた。スタンドの観衆も横浜の応援団を除けば、この6点目で勝負あったと大半の人が思った事だろう。しかし、横浜の底力は一方的な試合の流れを覆すほどのものだった。

 8回裏の横浜の攻撃が始まった。実はここまでの横浜の大会26得点のうち10点が8回の得点であり、横浜のラッキーイニングとなっていた。それを裏付けるように先頭打者がショートゴロエラーで出塁。2番・松本がライト前ヒットで続き、3番・後藤武敏(現西武)もセンター前に弾き返してようやく横浜に1点が入った。続く松坂にもセンター前タイムリーが出てスコアは2−6。ここで明徳ベンチが動く。先発の寺本を一塁に回し、二番手の高橋一正(元ヤクルト)をマウンドに送った。高橋は二死を取るが、迎えた代打・柴の打席でワイルドピッチ。三塁走者の松坂が返り3点目。さらにその柴にもタイムリーを打たれて4点目、スコアは4−6となった。ホームインした後の松坂が三塁側ベンチ前で右腕のテーピングを剥がし始めた。それを目にしたスタンドの観衆がどよめく。

 9回表、大歓声に包まれて松坂がマウンドに上がった。エース登場、試合の流れははっきりと横浜に傾いていた。松坂は三番・町中を三振、4番・寺本は歩かせたが、この日ホームランを打っている5番・谷口をセカンドゴロ併殺に切って取り、クリーンナップを15球で抑えてベンチに戻った。

 9回裏、横浜は9番・佐藤がライト前ヒット、1番・加藤が三塁内野安打でノーアウト一・二塁。ここで2番・松本のバントを明徳の捕手・井上が三塁に悪送球してノーアウト満塁となった。続く打者は8回に反撃の口火を切るタイムリーを放った3番・後藤。この場面でもセンター前に同点の2点タイムリーを放ち、ついにスコアは6−6となった。
 押せ押せの横浜だったが、4番・松坂はきっちりバントで送り一死二・三塁。明徳は続く5番・小山を歩かせて満塁策を取る。一死満塁、明徳にとっては外野フライすら許せない絶体絶命のピンチである。ここで一塁に回っていた寺本が再びマウンドに上がった。寺本は最後の力を振り絞って6番・常盤を三振に切って取る。しかし、続く7番・柴の打球は詰まりながらもセンター前に落ち、三塁走者が歓喜のホームイン。寺本はマウンドにうずくまり、大逆転勝利を収めた横浜は決勝の舞台に進んだ。

明徳義塾 0 0 0 1 3 1 0 1 0   6
横   浜 0 0 0 0 0 0 0 4 3x   7

 決勝戦の相手は京都成章高校だった。相手の左腕エース・古岡はここまで大会5試合で松坂を上回る52個の三振を奪っている好投手だった。初回、松坂は四球1つを与えるが併殺で切り抜けた。2回からはリズムに乗って、毎回3人ずつで片付けた。一方、古岡も3回まで横浜打線をパーフェクトに抑える見事な立ち上がりで、序盤は予想通りに投手戦の様相を見せていた。

 試合が動いたのは4回の裏、横浜の攻撃だった。一死後に2番・松本がレフトオーバーのソロ本塁打。両チームを通じての初安打が均衡を破る一撃となった。古岡はさらに二死一・二塁のピンチを招くが6番・小池を三振に切って取り1点で切り抜けた。
 しかし、横浜は5回裏にも一死二塁から9番・佐藤のライト前タイムリーで追加点を挙げる。5回終って2-0で横浜がリード。そして松坂は6回表も5イニング連続の三者凡退に抑えた。ここまで打者18人に四球1つの三振7つ、打たれたヒットはゼロ・・・。

 7回表の松坂は二死から振り逃げの走者を出し、久しぶりにセットポジションの投球になったが4番・吉見をセカンドゴロに打ち取ってピンチを広げなかった。8回は先頭の橋本を歩かせて初めてノーアウトの走者を背負うが後続3人を打ち取った。
 8回裏の横浜はツーアウトから8番・斉藤のタイムリーで3点目。ラッキーイニングの8回にまたも得点して、試合は9回を迎えた。

 松坂は9番・林をセカンドゴロ、1番・沢井をサードゴロに打ち取り簡単にツーアウトを取るが、続く2番・田坪にはこの試合3個目の四球を与えてしまう。しかし、松坂は動じない。3番・田中を2-2と追い込み投じた外角のスライダー。田中のバットが回って11個目の三振。球審の右手が上がった瞬間、マウンドの松坂はガッツポーズで外野方向を振り返った。投球数122、被安打0、奪三振11、四死球3。決勝戦ノーヒットノーラン達成と共に横浜の18年ぶり2度目の夏の全国大会優勝が決まった瞬間だった。

京都成章 0 0 0 0 0 0 0 0 0   0
横   浜 0 0 0 1 1 0 0 1   3

 ついに公式戦41連勝を果たした横浜は史上5校目となる春夏連覇を成し遂げた。松坂は甲子園で春夏を通じて11試合に登板して11勝無敗、特に先発した10試合はオール完投で、そのうち6試合を完封する大黒柱ぶりを見せた。

<決勝戦の京都成章打線の打撃結果>
      1回 2回 3回 4回 5回 6回 7回 8回 9回
1 沢井芳信 三ゴ     左飛     遊ゴ   三ゴ
2 田坪宏朗 四球     二ゴ     三振   四球
3 田中勇吾 三併     三ゴ     振逃   三振
4 吉見太一   遊ゴ     三振   二ゴ    
5 橋本重之   三振     三飛     四球  
6 古岡基紀   投ゴ     三振     投ゴ  
7 三富武史     中飛     三振   二ゴ  
8 林 良樹     三振     三振   三振  
9 林 彰吾     三振     一ゴ     二ゴ

 松坂はこの後も国体で2連覇を飾り、横浜高校は公式戦44連勝となった。高校生活最後のマウンドとなった決勝戦で松坂は16奪三振の完投勝利を収めている。高校球界を席巻した横浜高校の、そして松坂大輔の1998年が終った。

<夏の全国大会の松坂の成績>
相手校 スコア 内容 安打 三振 四死 自責
1回戦・柳ヶ浦 ○6-1 完投 9 3 9 6 0
2回戦・鹿児島実 ○6-0 完封 9 5 9 0 0
3回戦・星稜 ○5-0 完封 9 4 13 2 0
準々決勝・PL学園 ○9-7 完投 17 13 11 6 7
準決勝・明徳義塾 ○7x-6 完了 1 0 1 1 0
決勝・京都成章 ○3-0 完封 9 0 11 3 0
合計     54 25 54 18 7

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