おもしろ昆虫化石館  新温泉町千谷  
昆虫化石の宝庫に再び脚光が

 「おもしろ昆虫化石館」は、新温泉町千谷の岸田川左岸にあります。1996年(平成8)、昆虫化石の宝庫であるこの地に、日本で初めての昆虫化石博物館がつくられました。
 それから29年後の2025年(令和7)、展示化石の中から新種が相次いで発見され再び脚光をあびています。

おもしろ昆虫化石館

※ 海上の化石採集地は産地保護のため、また崖崩れなどの危険もあって採集禁止となっています。
※ 館内や展示品の写真は、許可を得て撮影しました。


おもしろ昆虫化石館

 入口に張られた『世界最大 新種の展示 チョウ化石「カミタニオニミスジ」』のポスターが迎えてくれました。

 新温泉町の海上(うみがみ)で初めて昆虫化石が発見されたのは1964年(昭和39)夏のことです。

 「4人の女子高生が海上を流れる小又川周辺に、夏休みの宿題の化石採集に出かけたのです。涼しさを求めて降りた河原で、彼女たちが何げなく石を割ってみると、そこには植物の化石とは違った、奇妙な小さな化石がついていました。
 二学期が始まり、彼女たちが提出したその化石に先生は目を疑いました。そこには、小さいながらも虫の形がくっきりと印されていたのです。
 この大発見は大きな反響を呼び、当時の新聞に大きく掲載され、海上の昆虫化石が研究されるきっかけとなったのです。」(解説パネルより)

 彼女たちが発見したのは、ムシヒキアブの1種Asilinaeの化石でした。初めて昆虫化石が発見された海上はここから3qほど南にあり、海上を流れる小又川は岸田川の支流です。

おもしろ昆虫化石館の入口

 その後、研究が進み現在では海上やその周辺で100種以上もの昆虫化石が見つかっています。この「おもしろ昆虫化石館」には、ここで見つかった昆虫化石や植物化石が数多く展示されています。

おもしろ昆虫化石館 館内展示

チョウとミツバチ、2つの新種が発見される

 2025年(令和7)5月に新種のチョウ化石、10月に新種のミツバチ化石が発表されました。どちらも、この化石館で展示されていたものでした。

 チョウ化石を発見したのは、地元出身で浜坂高校教諭だった神谷喜芳さん。神谷さんは、この化石を但馬むしの会誌の『IRATSUME』で「温泉町で蝶の化石を発掘(1990)」として報告しています。

 発見は、1988年(昭和63)7月31日。神谷さんが但馬理科サークルの人たちと化石の調査をしていたときのことです。
 タテハチョウの仲間であるとして現生種のオオイチモンジやオオミスジと比較し、「イチモンジチョウの近縁種であると思われる」としています(神谷 1990)。大阪市立自然史博物館に鑑定を依頼しましたが、当時の顕微鏡の解像度はまだ低く同定はできなかったようです。

 この化石を新種のチョウ化石として発表したのは、慶応義塾横浜初等部の相場博昭さんたち。2025年、国際誌『Paleontological Research』で発表されました。

 発表によると、化石には頭部がないものの胸部、前翅、後翅など多くの部分が残っており、羽を広げた幅が推定84oと、これまで見つかっているチョウ化石の中では世界最長であることがわかりました。詳しい研究の結果、胸部の形状や翅脈などの特徴からオニミスジ属の新種と判明。発見者の名前にちなんで「カミタニオニミスジ」と名づけられました。

 カミタニオニミスジは、約250万年前の地層中から見つかりました。チョウの現生種にはもっと新しい時代の化石が見つかっていますが、絶滅種としてはもっとも新しい時代のチョウ化石になります。また、オニミスジ属のチョウは現在の日本には生息しておらず、東南アジアに生息しています。
 そのため、この化石はチョウの進化や当時の古環境を知るうえで貴重な化石となりました。

 おもしろ昆虫化石館には、このカミタニオニミスジの化石(実物)が展示されています。
 腹面側と背面側の化石が並んでいて、どちらにも翅脈がくっきりと残っています。腹面側には、腹部の縞模様が残されていました。
 チョウは化石になりにくく、それが発見されることは世界的にもきわめて稀です。この地が、いかに化石の産出に適した条件をそなえていたかを感じさせる化石でもありました。

引用参考文献
 神谷喜芳(1990)温泉町で蝶の化石を発掘.IRATSUME,13-14,36-38.
 Hiroaki Aiba,Yui Takahashi,Kotaro Saito (2025) New species of fossil butterfly (Nymphalidae:Limenitidinae) from the Upper Pliocene to Lower Pleistocene Teragi Group,Hyogo Prefecture,Japan.Paleontological Research,29,76-86.
 慶応義塾プレスリリース:約250万年前の世界最大のチョウ化石を報告!ー地元の高校教師が発見した標本が37年ぶりに新種と判明ー(2025)
 
カミタニオニミスジの化石(実物)
 
化石の写真(上)
復元図と前翅・後翅のスケッチ図(下)

 次にミツバチです。これもこの化石館に展示されていたもので、慶応義塾幼稚舎の高橋唯さんたちによって研究が進められ、2025年(令和7)10月にミツバチの新種化石として動物分類ジャーナル『ZooKeys』で発表されました。
 化石は全長1pほどの働きバチで、翅脈や後脚の特徴からミツバチ属のミツバチ亜属であることがわかりました。そこで、ミツバチ亜属の現生種と比べたところ、いずれの種にもあてはまらないため新種として「タジマミツバチ」と名づけられました。
 いわゆる「ミツバチ」は、ミツバチ科ミツバチ亜属にふくまれるもので6種が知られています。これまでミツバチ亜属は、更新世後期(約13万〜1万年前)の化石と現生種からしか見つかっていませんでした。今回の発見で、約250万年前に出現していたことがわかり、もっと古くからいた他の亜属との進化史の空白をうめるミツバチ化石として注目されます。

 このタジマミツバチの化石(実物)も展示されています。
 化石の横には、「マルハナバチ」という名(一部欠けている)と標本番号が書かれています。標本番号から1999年6月に採集された化石であることがわかります。
 淡緑灰色の凝灰質シルト岩にハチの姿が茶色に印され、胸部・腹部・前翅・後翅・後脚がはっきりとわかります。翅脈がうっすらと残り、太い後脚には節があることもわかりました。

タジマミツバチの化石(実物)
引用参考文献
 Yui Takahashi, Jun-ichi Takahashi(2025)A honey bee fossil (Hymenoptera, Apidae) from the Late Pliocene to Early Pleistocene Teragi Group, Hyogo Prefecture, Japan: Bridging a gap in Apis evolutionary history.ZooKeys,1255,291-301.
 慶応義塾大学・京都産業大学プレスリリース:約250万年前の地層からミツバチの新種化石 「タジマミツバチ」を発見 ―ミツバチの進化の空白を埋める新種―

神谷喜芳コレクション
 
 展示室に入ると、最初にあるのが「神谷喜芳コレクション」です。
 神谷喜芳さんは、カミタニオニミスジの発見者です。北但層群化石研究会会員でもあり、海上で採集された化石を数多くこの化石館に寄贈されました。
 メタセコイヤやムカシイタヤカエデなどの植物化石、シロアリの羽の化石などが展示されていました。
 
神谷コレクションの展示

昆虫化石
 
 海上やその周辺の化石産地では、今までに100種以上もの昆虫化石が発見されています。
 昆虫化石でもっとも多いものはアリ類です。このほか、チビクワガタ、カミキリムシ、ノミバエなど、1匹しか発見されていない貴重な昆虫化石もあります。最小のものは、体長が1.5oのノミバエの化石で、完全な形で発見されています(解説パネルより)。

 昆虫化石は、淡い灰色〜褐色の凝灰質シルト岩や凝灰質砂岩の上に、黒くあるいは褐色でくっきりと浮かび上がっています。スズメバチやウシアブなども、驚くほど鮮明な姿です。
 
スズメバチ ウシアブ

 ホタルの仲間の解説には、「このホタルは触角が太くて長い。また、頭胸部は小さく、腹部と尻部が太い。ベニボタルの仲間でしょう」と書かれています。
 ハムシの仲間など小さなものは、虫眼鏡で見られるようにていねいに展示されていました。
 
ホタルの仲間 ハムシの仲間

 このほか、大きさが4pもあるシロアリ(絶滅種)や翅脈のくっきり残ったモンシロチョウなども展示されています。種類の多さや保存の好さで、圧巻の昆虫化石展示でした。

植物化石
 
 ここでは、植物化石も多く見つかっています。現生種には現在の植物の葉の写真がそえられ、ていねいに解説されています。
 
植物化石の展示

 現生種でもあるクリやブナ、クヌギなどは、よく見かける樹木です。ハルニレは大学のキャンパスの大きな木を思い出させてくれました。
 ヌマスギは沼地や湿地に生える植物です。ムカシブナは、現在のブナの祖先と考えられ、冷涼な気候で生育する植物です。
 これらの化石は、当時の環境を想像させてくれます。
 
ハルニレ ムカシブナとヌマスギ

 カエデなどの種子や花弁の化石も展示されていました。どれも保存が良くて、くっきりとその形が見られます。
 
種子や花弁

照来コールドロン

 昆虫化石の産出する地層は、「照来(てらぎ)層群」の「春来(はるき)泥岩層」です。おもに淡灰色〜淡褐色の凝灰質シルト岩や凝灰質砂岩からなっています。
 鮮新世後期〜更新世前期の今から250万年前ほど前、このあたりには古照来湖という湖がありました。春来泥岩層は、この湖に火山灰が運ばれて堆積した地層だと考えられます。
 粒子の大きさのちがいによる葉理が発達していて、縞模様が細かく入っています。このような岩石は、この縞模様に沿って包丁を置き、上からハンマーで軽くたたくと簡単に薄く割れます。化石を見つけるのにとても都合の良い岩石なのです。

 春来泥岩層は、巨大噴火によってできたカルデラ湖に堆積した地層だと考えられています。
 今から約300万年前(羽地ほか 2023)、ここで巨大噴火が起こりました。マグマが地上に噴出し、大量に火山灰を吹き上げました。そのため地下が空洞となり、そこに大地が陥没しカルデラをつくりました。カルデラには水がたまってカルデラ湖ができました。
 カルデラの陥没地形は長い年月の間に侵食されて失われましたが、その地下の構造が地層として残されます。この地下に残された火山性陥没構造をコールドロンといいます(カルデラ地形をふくんで使われる場合もある。)つまり、コールドロンというのは地下に残されたカルデラの痕跡なのです。
 「照来コールドロン」と名づけられたこのコールドロンは、下の図のように南北約22km、東西約18kmの巨大なものでした。
 その後、ここでは約200万年前(羽地ほか 2023)まで火山活動が続いています。

照来コールドロン位置図
羽地ほか(2023)を利用 元は古山ほか(2004)

 春来泥岩層は、このときできたカルデラ湖に火山灰などが堆積してできた地層です。カルデラ湖に堆積したわけですからはじめの分布はもっと広かったと思われますが、侵食されたり新しい地層におおわれたりして現在は下の図のような分布になっています。
 昆虫化石が多産した海上はカルデラの縁に近い位置にあります。そこはカルデラ湖の湖岸にあたり、草木の茂る湿地に多くの昆虫が生きていた環境だったと考えられます。
 
照来コールドロンと春来泥岩層の分布
古山ほか(2004)を利用して作成

引用参考文献
 古山勝彦・長尾敬介(2004)照来コールドロンのK-Ar年代.火山,49,181-187.
 羽地俊樹・工藤 崇・仁木創太・平田岳史(2023)照来コールドロン,歌長流紋岩下部凝灰岩の年代:フェムト秒レーザーアブレーションー多重検出器型ICP質量分析法を用いた後期更新世シルコンのウランー鉛年代測定.地質学雑誌,129,341-354.


 おもしろ昆虫化石館に展示されている化石には、これまで研究者の手がほとんどはいっていなかったといいます。展示棚には、「研究のため貸し出し中」という札の置いてあるところもありました。
 これからも、ここから新種が発見されたり古生物の研究が進むことが期待されます。

2025年12月23日探訪


〈おもしろ昆虫化石館〉
〒669-6943 兵庫県美方郡新温泉町千谷850 (八田コミュニティセンター内)
TEL・FAX 0796−93−0888
●開館時間 午前9時〜午後5時 ●休館日 毎週月曜日(祝日の場合はその翌日)
●入館料 大人:100円 小人:50円
●ホームページ 館長さんの「紙芝居 石になった昆虫たち」が見られるよ!

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