民事訴訟法の重要な概念(2) 〜既判力の主観的範囲     *復習のポイント   

 

1 既判力は誰に対して及ぶべきか?〜相対効の原則(民訴法第115条第1項1号)

「既判力とは、『確定判決に与えられる通用力・拘束力』のことを言う」 簡単に言えば「その判断について蒸し返しを許さない効力」のことである。

例えばAさんがBさんを被告として訴訟(前訴)を提起して敗訴した。

その判決が確定したのに、また、Aさんが、同じ理由でBさんを被告として訴訟(後訴)を提起することは、当該確定判決の既判力に抵触することになる(民訴法第115条1項1号)。

既判力の具体的な作用は、前訴での訴訟の結果(勝訴か敗訴か)、前訴と後訴の訴訟の対象(訴訟物)の内容によって異なるが、上記の例の場合は、Aさんの後訴は原則として「訴えの利益」を欠くものとして却下(実体審理に入らず、門前払い)されることになる。

 *ただし、時効中断のために訴訟提起しか適当は方法がない場合など「勝訴判決を得る特別の必要がある場合」には例外的に訴えの利益が認められる。

このようにAさんとBさんの訴訟の結果(判決)が、AさんとBさんの2人に対して既判力を有することは分かる

では、この前訴の判決の効力は他の人には一切及ばないのか?

 

(ケース1)

甲は、乙を被告として、甲に本権土地の所有権があることを理由とする所有権確認訴訟(前訴)を提起して勝訴し、判決は確定した。

その後、甲は、丙を被告として当該土地(前訴の対象となる同一土地)の所有権が甲にあることを理由とする所有権確認訴訟(後訴)を提起した。

後訴の審理における証拠調べの結果、当該土地の所有権が実は甲にはない(本当は乙にある)との心証を持った裁判所は、

後訴において甲敗訴の判決を下すことができるか?

 

 

既に、甲乙間における甲勝訴(甲に本件土地の所有権がある)の前訴判決がある。とすれば、甲丙間の訴訟においても、同じように甲勝訴の判決を下すべきようにも思える。

裁判所という貴重な資源を利用して一定の期間を費やし、当事者が証拠も、一生懸命集めた結果、下された前訴判決であるから、他の人に対しても判決の効力が及ぶのが妥当なように思える。

しかし、民訴法は、確定判決の効力は、原則として紛争当事者にしか及ばないという建前をとっている(確定判決の相対効の原則:民訴法第115条1項1号)。

つまり、このケースで言えば、甲勝訴の甲乙間の確定判決の既判力は、甲丙間の訴訟には及ばないことである。

それは、

 

(1)             手続保障(自己の実体法上の利益主張の地位と機会が与えられていること[憲法第32条の裁判を受ける権利参照])が与えられているのは、

当事者に対してのみであるから(本件においては、前訴では甲乙に対してのみ手続保障が与えられており、丙には手続保障は与えられていない)。

    「弁論主義」のもとでは、主張・証拠の提出権能は「当事者」にしかない。

 

(2) 通常は、紛争解決のために、取り敢えず当事者間のみに既判力を生じさせれば十分であるから。と言う根拠に基づくものであるといわれている。

 

2 相対効の例外 (1)口頭弁論終結後の承継人

しかし、既判力の相対効の原則を貫くと大変不具合な場面ができる。

相対効を徹底すると、紛争が解決しない場合がある。

 

(ケース2)

 AはBに土地を売り渡した。しかし、AB間の売買契約は錯誤(民法95条)に基づくものとして無効であった。

 そこで、Aは、これを理由としてBを被告として所有権確認請求訴訟(前訴)を提起して勝訴した。

 当該訴訟の判決が確定した後、憤懣やるかたないBはCに本件土地を転売した。

 Aは、Cを被告として所有権確認請求訴訟(後訴)を提起した。 

前訴の判決の効力は、後訴に及ばないのか?

 

 

相対効の原則(第115条1項1号)からすれば、AB間の訴訟の「当事者」はあくまでAとBであるから、Cに対して既判力は及ばないのが原則である。

しかし、実際のところAB間の訴訟では、「AB間の売買が錯誤無効であるか否か」を中心的な争点として長期に亘る審理が積み重ねられた結果、

判決が下されたわけである。にもかかわらず、AB間の訴訟の結果がAC間の訴訟に及ばないとすると、

Aとしては、またAB間の売買契約が錯誤無効であることを主張立証してゆかなければならなくなる。

これは非常に無駄な話だ。

 

(1)             口頭弁論終結「前」の承継人〜基準時

この点、(本ケースとは異なるが)BC間の売買契約が口頭弁論終結「前」に行われた場合はどうなるか?

 

(コラム) 「口頭弁論終結」の意味

 既判力の話の中では、口頭弁論終結「前」か、口頭弁論終結「後」かという話が出てくる。

どうして、口頭弁論終結の前後で結論が分かれてくるのか。

「口頭弁論終結」とは、どの時点を言うのか。

第一審の手続は、大きく言えば上記のように進む。当事者が裁判所に主張・立証できる時点は、

@    の訴訟提起から、C口頭弁論終結の間である。つまり、主張立証を「当事者」の権能と責任とする建前が「弁論主義」であるが、

そのような主張立証を提出できる最終期限はCの口頭弁論終結時点までということになる。

そこで、口頭弁論終結時点の「当事者」はだれだったのか?が問題となる。(その時点での「当事者」こそが、

主張・立証する権能と責任を有しているのであり、それ以降に「当事者」になった者については、そのような主張立証の権能も責任もないはずである。)

そこで、この「口頭弁論終結の時点」が重要な意味を持ってくる。

民訴法253条1項4号が、判決書に「口頭弁論終結の日」を記載するように要求している理由の一つはここにある。

 

 

既判力は、私法上の権利関係の在否について生じる効力であるが(民訴法114条1項)、訴訟物たる権利関係は、

そもそも当事者が自由に処分できるものであるから、時間の経過に伴って発生・変更・消滅する可能性がある。

とすれば、既判力が「いつの時点における権利関係の在否を明らかにしたものであるか」、

既判力が通用力を持つ時点」(このことを「基準時」という。)を明らかにする必要がある。

そうでなければ、「Aさんに所有権があったということに既判力が生ずるのは、どの時点での所有権の在否についてなのか?」

ということがハッキリしないからである。

この点については、一般に「事実審の最終口頭弁論終結時」を基準時とするものと解されている。(異論なし)

 

    事実審とは「訴訟事件の事実問題と法律問題を併せて審理する審級」のことを言う。(反対概念は「法律審」=事実審のした裁判について、

その法令違反の有無だけを審理する審級)。

  民事訴訟では、第一審と控訴審が事実審であり、上告審は法律審である。

  例えば、最も一般的な例として、訴額140万円を超える金銭請求事件については第一審が(簡易裁判所ではなく)地方裁判所となるので、

地方裁判所・高等裁判所が事実審であり、最高裁判所が法律審である。

よって、この場合は、既判力の基準時は高等裁判所における口頭弁論終結時を指すことになる。

 

ア 当事者は、この時点(事実審の口頭弁論終結時)までは、事実に関する資料を提出することができた訳で、

イ 裁判所の終局判決も、この時点(事実審の最終口頭弁論終結時)までの資料に基づいて下されることからしても、

 

「事実審の最終口頭弁論終結時」を基準時とすることが妥当と解されている。

とすれば、BC間の売買契約が(本ケースと異なり)基準時前に行われていた場合には、本来、原告であるAは、前訴の係属中にそのことを察知して、

新たな当事者Cに訴訟を引受けさせる(引受承継)べきだった。

 

    Bが既にCに本件土地を売却したことを訴訟の相手方であるBはAに教えてくれないかもしれない。

そういうことが危惧されるのであれば、Aは前訴の提起前又は係属中に、Bを相手方として民事保全の手続(処分禁止の仮処分)

を経ておけば良かった。

この仮処分を経ておけば、不動産について処分禁止の登記がなされ、その後、AがBに対して勝訴すれば、

その仮処分に後れるCの所有権移転登記は、抹消される。

 

(2)           口頭弁論終結「後」の承継人

この場合、BC間の売買契約は口頭弁論終結「後」に締結されている。この売買契約は既判力の「基準時」以降の事実である。

とすれば、前訴の判決の既判力は「基準時にAに所有権があった事実」について及ぶわけであるが、

それはあくまでAとBとの間で及ぶのであって(これが相対効の原則)、Cには及ばないはずである。

しかし、このような場合に相対効の原則を貫くと、口頭弁論終結後に係争物を譲渡することによって、

判決の効力を容易に免れることができてしまうことになって、いつまで経っても紛争が解決しない。

そこで、民訴法「第115条1項3号は「口頭弁論終結『後』の承継人」に既判力を拡張し、前訴の基準時においてAに所有権があることについて、

(本来の訴訟当事者Bだけでなく)承継人Cにも争えないこととしたのである。

このように定められた趣旨は、

 

ア 上記のような判決の潜脱防止(紛争解決の要請←必要性)と

イ 承継人Cの手続保障は、前訴において最も利害関係の大きかったBによって代替されている

(実質的にはCにも手続保障がある←許容性)

 

という点にあるとされている。

 

(3)           第115条1項3号の「承継」の意義

(ケース3)

  Xは、Aから家屋を買い受けた。

そこで、Xは、Aを被告として売買による所有権の取得を原因とする家屋引渡請求訴訟を提起し、

  原告勝訴の判決が確定した。

  その後、Yは、Aから当該家屋を買い受けて、登記を了した。前訴の判決の効力は、Yに及ぶか。

 

 

ア 相対効の原則

 前訴の当事者はXとAである。とすれば「当事者」でないYには前訴の判決の効力が及ばないのが原則である。

 

イ 「承継」人(民訴法第115条1項3号)

 しかし、Yは口頭弁論終結「後」に家屋を買い受けている。とすれば、115条1項3号の「承継」人に該当しそうである。

よって「既判力は及ぶ」、ということで一件落着ということにもなりそうに思える。

 

ウ 何を「承継」したものか?

 しかしながら、もう少し良く考えてみる。前訴の訴訟物は何か?

 訴訟物の客観的範囲については争いがなかったが、ここはまず旧訴訟物理論で考えてみる。

 旧訴訟物理論では、訴訟物は実体法上の請求権を基準に判断した。

とすれば、前訴の訴訟物は、家屋引渡義務(物権的請求権)であって所有権(物権)そのものではない。

 

    AがYにXへの引渡しを依頼して占有を移転した場合には(所有権ではなく)

「引渡義務」を承継したといえるが、そのようなことは通常あり得ない。

 

 とすれば、民訴法第115条1項3号の「承継」を「訴訟物を承継した」者と考えると、

YはAの「承継」人とはいえなくなってしまい、既判力が及ばないことになってしまう。

この点、従来の通説は、ここにいう「承継」人とは、当事者適格の全部又は一部を「伝来的に」承継した者と解していた(適格承継説)。

「Yが占有を承継したことに伴って、引渡し請求についての当事者適格がAからYに移転したものとみなされるから」と言う。

ここで「伝来的に」と言うのがミソだと説明される。

明渡訴訟に敗訴した者が諦めて自発的に退散した後に、ルンペンが住み着いているような場合は「伝来的」とは言えない。

しかし、このルンペンは「被告適格」(当事者適格)は有している。

そこで、「伝来」的という要件を持ち出し、「伝来」の中に承継性を見出して、判決の効力を及ぼす根拠にしている。

しかし、前述したとおり、Yが承継したのは所有権であって、占有権ではない。その意味で上記の説明は論理的に破綻している。

そこで近時の多数説は、民訴法第115条1項3号の「承継」とは「紛争の主体たる地位」を承継した者と解している。

しかし、上記の多数説に対しては、近時、有力な批判が投げかけられている。

「紛争の主体たる地位が移転したことによって、なぜ承継人に対しては独自の手続保障を経ることなく既判力が拡張されるのか」

説明が十分でないというのだ。

確かに、この場合の承継人は口頭弁論終結「後」の承継人であるから、一切、手続保障が図られていない。

そう考えると、紛争の主体たる地位が移転したからといって既判力が当然に拡張されるというのは、若干論理に飛躍があるようにも思われる。

そこで、近時の有力説は、「前主との実体法上の依存関係の有無によって承継人の範囲が決定される」と主張する(依存関係説)。

実体法上の承継人は、前主が有した権利義務以上のものを承継できない。よって、承継人は前主の服した負担にも従わなければならない、というのだ。

別の説明の仕方で言えば、「AがXに敗訴したことは、AがXに財産権を譲渡・処分したのと同じだ」と考えるということである。

とすれば、Aは既に前訴で敗訴して財産権を処分してしまっているのであるから、Yに財産を譲渡することはできない。

その意味で、Yの法律的地位は、実体法上、完全にAに依存している。以上のような見地から、この説は依存関係説と呼ばれている。

 

エ 承継人の範囲は、訴訟物たる権利関係の実体法的性格によって左右されるか?

 このケースでは、所有権に基づいて返還請求訴訟を提起しているが、賃貸借契約が終了したことを理由に返還請求訴訟を提起した場合には、

 Yは「承継」人といえるのであろうか。前ほど横に置いた「訴訟物理論」との関係について検討してみる。

 この問題も、実は、訴訟物論争の主戦場の一つであった。

 旧訴訟物理論の立場からは、実体法上の請求権を基準に「承継」の有無を判断すべき、ということになる。よって、この場合は承継は認められない。

 新訴訟物理論の立場からは、受給権が訴訟物であるから、所有権に基づく請求でも賃貸借契約終了に基づく請求でも訴訟物は同一であり、

「承継」は認められることになる。

 

オ 第三者が実体上、固有の攻撃防御方法を有する場合でも「承継」人といえるか?

 

このケースでは、Xは、民法第94条2項による保護という、自己に固有の攻撃防御方法を持っている。

このように自己に固有の攻撃防御方法を有する者も、「承継」人(民訴法第115条1項3号)に含まれるか、ということについては争いがある。

 

(ア)        実質説

この点、固有の攻撃防御方法をゆするものは、ここにいう「承継」人にあたらない、とする説がある。

    この説は、固有の攻撃防御方法の有無を実質的に判断して「承継」人に該当するか否かを判断するので「実質説」と呼ばれている。

    この説は、上記の依存関係説を前提とし、固有の攻撃防御方法を有している者は、前主の不利な地位を承継しないから、

    「承継」人にあたらない、という。

    また、この説は「多様な承継関係について、実体法を基準とする客観的で安定した妥当な基準を提供し得る」と主張する。

    しかし、この説に対しては、YA間で解決したはずの紛争が、Xによって蒸し返されるのでは、既判力を拡張した法115条1項3号

    の趣旨に反するとの批判がある。

(イ)         形式説

そこで、(固有の攻撃防御方法を有する者も含めて)およそ紛争の主体たる地位(ないし当事者適格)を承継した者は、

第115条1項3号の「承継」人にあたると解する説が通説である。

「紛争の主体たる地位」とか「当事者適格」という概念を持ち出すことからもわかるように、この説は、上記の適格承継説を前提とする。

この点、上記のような形式説に対しては、Xの固有の攻撃防御方法を提出する機会がなく既判力が拡張され、強制執行を受けるのでは、

Xの手続保障に欠けるという批判がある。しかし、これに対して実質説は、この点は「既判力の主観的範囲」と「執行力の主観的範囲」を

区別して考えることによって解決できると反論する。

ここで、既判力は、前述のように「蒸し返しを許さない効力」であるが、執行力は「当該判決によって強制執行をすることのできる力」のことである。

そして、@執行力の拡張は「YがXに対して執行できるか」という「YX間の問題」であるのに対し、A既判力の拡張は「YがXに対して物権的請求権を有する」

ということを後訴で争えなくすると言う、いわば「YA間の問題」とも言える。従って、@「執行力の拡張の範囲」とA「既判力の拡張の範囲」を

同一ととらえる必要はないから、既判力の拡張がXに及んだとしても、XY間の訴訟における勝敗が直ちに決せられる訳ではないと構成できる

(Xは、登記に基づいて請求異議の訴えを提起できる。)よってかかる批判はあたらない、と反論している。つまり、実質説だとYA間の虚偽表示無効も

Xが争えることになるが、形式説では、YA簡はもう終わったことにして、Xに固有の攻撃防御方法の提出を認めれば足りる、ことになる。

 

    これに対し、近時は、このような「実質説・形式説という概念構成自体に疑問」を呈し、そのような概念構成は「大きな意味を持つものではない

との主聴聞されている。

 

3 相対効の例外 (2)請求の目的物の所持者

(ケース5)

  Xは、Yを被告として、賃貸借契約が終了したことを理由として借家の明渡訴訟を提起して勝訴判決が確定した。

  ところが、この借家の同居人乙が「この賃貸借契約は終了していない」ことを理由として賃貸借契約存在確認訴訟をXに提起した。

  裁判所はどのような判決を下すべきか。

 

  

確かに、Zは、XY間の前訴の当事者ではないから、既判力の相対効の原則からすれば、Zには前訴の既判力が及ばないのが原則である。

しかし、

 

 ア このように何度も紛争を蒸し返されたのではいつまで経っても紛争は解決しない。

   紛争を一回的に解決するためには、このようなZにも既判力の効力を及ぼす必要がある。(←紛争解決のための必要性)。

 イ また、このような同居人の占有は専ら当事者のためにするものであって固有の実体的利益を有しない。

   そこで、このようなものを当事者と同視して既判力を及ぼしても、問題はない。(手続保障の観点からも許容性がある)。

 

そこで、民事訴訟法第115条1項4号は、このような請求の目的物の「所持者」に既判力を拡張するという、相対効の例外を認める既定を置いているのである。

 

復習のポイント

1)        既判力の主観的範囲について、民事訴訟法には、どのような条が規定されているか?

2)       既判力の相対効の原則とはどのようなもので、どのような根拠に基づくものであるか?

3)      相対効の原則の例外には、どのようなものがあるか?

 

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