寄稿文・ASCS2000レポート

文・ドミンゲス
ぱち編その1・ゲーマーひゅーい

 「ASCS」それはアームズマガジンの主催するサバゲーイベントである。

 今まで雑誌の誌面でしか見たことのないこのイベントに、ジオン軍の義勇兵として参加してきた。以下の文章は『事実』という食材に『脚色』という調理を加え『憶測』と『伝聞』という調味料を加えた代物である。参加者と関係者の数だけ『本当』があるので全てを鵜呑みにしてはいけない。

 尚、移動や集合に関しては省略する。特記すべき出来事もなかったし、総督のレポートに書かれているからだ。ただ・・・パーキングエリアでは軍服を着用するのは止めよう。サバゲー関係者じゃない人はめちゃくちゃビックリしていたし、どんな目で見られているか分からないのだから・・・。

●開会式

 テントを張り終え、迷彩服を着用して飲み物や椅子そしてジオン軍の(と言うか、ASCSの恒例となった)大軍旗を会場まで運び上げる。アルミポールを軽く掘り下げた場所に立てて固定し、ジオン軍旗掲揚。軍隊や軍隊類似組織であれば「気ヲ付ケ!頭ァ中ァ!!」な状況であるが、我々は只のヒトであるので、総督以外はさっさとゲームの準備する。

 それまで音楽を流していたスピーカーが、ふっと音楽を止めてやがてアナウンスが流れはじめる。

「うわ!開会式か!!」

色めき立つジオン軍一同。まだ殆ど用意を終えていない。非常にマズイ!!

が、しかし、アナウンスの内容は・・・

「道路にバスを止めないでください!迷惑になりますので駐車場以外には駐車しないでください!」

 辺りじゅうの参加者が敵意の籠もった呻り声を出す。特撮映画さながらに全員が一般道に(私道かもしれなかったが)専用バス(!!)を駐車して荷物を降ろし始めたグループを睨む。腹立たしい、全く非常識である。

「ああいう連中がいるから、我々の地位が向上(?)しないんだよ」

と総督が折り畳み椅子に寄りかかり確認しながら言う。普段は突っ込むジオンの面々も今回ばかりは只々、首肯するのみであった。

 開会式はと言うと殆どアームズマガジンの記事通りであったが・・・ヤッサンや厚生省(今や「厚生労働省」だが)ハウンド等の様々な装備の人々がいた。

 チームごとに列をなして集合するので、一緒にグループを作る者同志で面通しも行われる。そしてジオン軍の面々はそこで更に驚きに包まれるのである。

●リーグ戦−「ゆけゆけエッチチーム」

 ジオン軍はHチームであった。その構成はというと・・・
・陸風隊
・リバティーウイング
・トーキョーフォーリナーズレジオン(以下TFR)
・個人参加者
そして我々ジオン軍で編成されていた。

 陸風隊さんは寄居をメインに活動するチームで、年齢的には20代前半の人が多かった様だが、リーダーさんを初め非常に紳士的かつフレンドリーな方が多く、サバゲーマーの範たるチームだと思えた。

 リバティーウイングさんは埼玉県幸手市近郊でゲームをされておられる方達で、河川敷に専用フィールドを持っているというチームメンバー募集の記事がアームズマガジンに掲載されていたので、既にご存知の方も多いのではないだろうか。

 トーキョー・フォーリナーズレジオンさんは東京近郊在住の在日外国人の方々のチームで、その長身に各国軍のBDUを纏った姿はさながら映画の登場人物の様であった。(来日されてかなりになる方も多く、一部日本人がすぐ思い浮かべる「スゥキヤァキ!テンプゥールァ!ゲイシャ!」とか言う外人という妄想とはほど遠い。そういった固定観念は大変に礼を欠いた考えだ)

 個人参加者の方は、驚くべき事に18歳未満の方だった。見たところ義務教育未了の様にも見えたが、ほんとにそうなのか真偽は定かではない。

 開会式が終わると、チームリーダーを決める為にHチーム全員が集まる。参加各チームのリーダーから「Hチームのリーダー」を決める事になったが、ジオン軍本隊の代表はPowered Suit少佐とあいなった。これは総督が

「俺より●●(Powered Suit少佐の名字)さんの方が良いだろう」

と、「珍しく、まともな意見」(ひゅーい氏談)を述べた為である。

「じゃPowered Suit少佐で良いッスね?」

とジオンのメンバーに言うと・・・何故か他のチームの方達も

「じゃ、ジオン軍の方がリーダーという事で」

とあっさり承認。これにはPowered Suit少佐も戸惑って

「ホントに私でよろしいんでしょうか?」

とオロオロ。

 人当たりの良さと交渉能力が他のチームにも歓迎されたのか、ほぼ全員がPowered Suit少佐をチームリーダーとする事を推した。(後にゾンビ問題などでその能力が発揮される)

 前述のとおりTFRさんは日本在住の外国人の方達である。そこで、英語でコミュニケーションをとろう、と言うことになったのだが・・・。何故か皆、気後れしてしまい、なかなか集合や移動の連絡がうまく行かない。

 そんな折り、不意に総督が私を呼ぶ。

「ドミンゲスくん、君ィ、学科は何だっけ?」

「は、小生は国際関係学科ですが・・・」

すると、総督は私の肩にポンと手を置きつつ

「任せた!!」

「え!?でも俺の専攻は国際政治史なのに・・・」


 かくて、私は無資格なのに通訳代わりをする事になった。軍事英単語、義務教育英語、うろ覚えのスラングを記憶からかき集めた英語は奇々怪々な代物であったが、以外と通じたのにはビックリした。

 第1ゲームは第6フィールド。対戦相手はFチームであった。準備時間があまりとれなかった為に作戦無しでいきなり交戦開始。しかも彼我のスタート位置が近かったためか、全くの乱戦になってしまった。開始して4〜5分には両チームほぼ同数の人間がセーフティに戻って来ていた。これはマズイ、いきなり負け戦か・・・。しかし、双方共に損害の多さを気にしてか、膠着状態に陥り、そのまま時間切れになってしまった。ヒットさせた人数をジャッジが数えて判定を下す。

「Fチーム29人。Hチーム31人よってHチームの勝利です」


おお!ASCS初陣は勝利!様々な言葉で完成が上がる。(ウラーとか、ウリヌラ・マンセーとか)

 第2ゲームはチーム名を忘れてしまったが、かなりの手練れの方達が相手であった。第1フィールドは密林よろしく歩行困難な地形であった。スタート直後に有利な場所を確保するべく走った。身を隠せそうな窪みに身を伏せる。敵陣に向けカービン銃を構える。腕に赤マーカーを巻いたローデシア迷彩の一団が走ってくる。彼らを狙うべく銃を向けた刹那、フルオートで背中から撃たれてしまった。ヒットコールの後、セーフティに行く途中、時計を見るとゲーム開始から3分程度しか経っていない。恐るべし!移動困難なフィールド(しかも直線で150メートル位はあった)をわずか3分で踏破して真後ろから攻撃!!とても人間業ではない。(後に判明するが、他のフィールドから境界線を越境したチームがいたそうで、その連中がスタート直後の我が軍に襲いかかったのだ。フィールドの境界が獣道一本のみのため、こうした間違いも発生していた様だ)

 結局・・・

「圧倒的(に負けている)ではないか、我が軍は」

状態であった。

(尚、第3・4ゲームはメモ用紙紛失の為、割愛させていただきます)

●恐怖!!アロハ部隊

 初日最後のゲームはアメリカ・オンライン・公式チームとの対戦である。名こそAOLだが、実際は24時間戦で主力となっている「山岳特殊攻撃隊」と赤城義勇軍、そして、PDIチームの混成部隊である。山岳特殊攻撃隊と赤城義勇軍の精強さは24時間戦その他で知っている。これはきつい戦いになりそうだ。案の定、作戦を決めるにあたってパワードスーツ少佐はこう言った。(プロジェクトXの語り、田口トモロヲ調で。)

「あの人たちは、戦上手です。まともにやったら、絶対に負けます」


結局、全員で守りに入ることで一致してゲーム開始を待つ。背の低い草の多い第5フィールドの山頂方向に、AOLチームが横一線に並んでいる。恐るべきことにアロハシャツで揃えたグループまでいる。ホーンと共に我々はフラッグ周辺に展開して伏せ、射程に入るまで待つ。そして、彼らは来た。白い支給品BB弾の嵐の中を爽やかなハワイアンブルーの一段が駆け抜ける。そう、まさに『アロハの彗星』が苗場に現れたのだ!確かに、並のゲーマーの2倍くらいは素早かったような気がした。さながらクルスクのソヴィエト歩兵がごとく猛烈な防御砲火を浴びせ、その足を止めるだけで精一杯であった。

 が、しかし、撃破人数の判定になって、意外な事が起きた。2人差で我々Hチームが勝ってしまったのだ。皆、予想外の事態に大喜びである。フラッグ近辺にまで攻め込まれて見た目劣勢であったが、ASCS独特の判定ルールのおかげで勝利は転がり込んだのだった。

●君よ苗場の人柱となれ

 AOLチームに全く予想外の勝利を納め、歓喜に沸くHチームの目を覚ますかのように雨が降ってきた。どういった事か、ここ数年ASCSは雨に祟られている。そして今年も雨はふった。しかも、以外と激しい。慌ててテントエリアに戻ったもののタープの屋根に溜まった水の重みでタープ自体が危険な状況になっていくの、で常時2〜
3人でポールを支えなければならない。そう、まさに人柱。予算が多いチームはなにやら巨大で頑丈なドームを設置しているようで、宴会なぞもやっていたが、我々はそれどころではない。映画「Uボート」よろしく、あっちが危ないこっちの水を掻き出せのなんのと必死のダメージコントロールに走っていたのである。(いや、さすがに「トームゼーン!!」などと叫んだりはしなかったが・・・)

 1時間近く待ったが本日はもう終了なのかどうなのか、連絡が無い。昂揚した気分も雨で萎えきってしまい、撤収準備を行っていると、荷物に忍び込ませていたウォッカの瓶を発見し、ここで我欲がオープンファイア!湿った紙コップになみなみと注ぎ、飲む。冷え切った身体に37度のアルコールが心地よい。ひゅーい氏にもお裾分けし馬鹿話に興じた。

 するとなにやらスピーカー(連絡用に設置されていた)が音を出しているようだが、ボリュームが余りに低いせいか、全く聞き取れず、伝令を出そうということになった。ゴミ袋用の大きなビニール袋を改造した貫頭衣を作って着込んで、大会本部に走る。普通ならば奇怪なこの格好は注目されるのであるが、黄金バットやアメフト、裸族などが闊歩するASCS会場では珍しくも奇異でもない。結局、本日の日程は切り上げてハンドガン戦 以降は明日と言うことになった。

●戦慄!ゾンビーコマンド現る!

 ハンドガン戦であたったのは有るチームだったのだが・・・。これが凄まじい人々だった。動く死体、ゾンビーであったのだ。7、8メートルほど先の、横っ腹を見せて伏せている相手の腹部に4発ほど打ち込んだがヒットコール無し!気づかないのかと更に肩に3発打ち込むが反応無し。怒りにまかせて残りの全弾をぶち込むとやっと“渋々”といった感じでヒットコールした。

 ここまで堂々としたゾンビーは、今まで1度しか見た事がない。これが2度目だ。結局そのチームのうちかなりの人数がゾンビーであったようで、我々はあっさり全滅。しかし、こちらのチームのメンツは大部分がゾンビー行為をされたり目撃したりしており、ゲーム終了後にフィールドマスターに抗議がなされた。全く嘆かわしい次第であるが、マスターの対応もどうしたことか煮え切らないもので(どうも、サバゲー自体が初めての様子だった)非常に落胆した。せめて大会本部に無線で連絡するくらい約束して欲しいものである。

 結局、そのチームは上位のリーグでもゾンビー行為を行い、マスターが通常の倍以上の人数に増強されて、最後には退場宣告を受けていたそうだ。

 さらにはルール上禁止されている“弾の受け渡し”行為をも行っていたのである。ASCSは弾数の制限がある。個人個人にちゃんとパックされた弾丸が支給され、それを他のチームメイトに渡してはならないというルールがあるのだが・・・。装弾係に弾を集め、係がマガジンに詰めて渡しているのだ。装弾係に弾を渡している時点でルール違反なのだ。しかし、

「装弾係がいるから、良いんです」

というコメントが相手側から帰って来て、色々な意味で驚きを覚えた。

 Hチームのある人が、

「恐らく彼らは“主人公”だったんだよ。なんでかって?『ゾンビーコマンド』だから、当然だろ?」

と言ったのをよく覚えている。
(執筆者注。『ゾンビーコマンド』とは小林源文著の劇画作品『ソルジャーブルース』の主人公たちのこと。タカ派等の危険分子を排除する掟無用の超国家戦闘部隊。核爆弾爆発の直前登場人物の一人が「大丈夫、主人公は死なないんだ。」と言うコマがある)

●グレイダー中佐「丸腰」事件

 ハンドガン戦の直前、ジオン軍に衝撃が走った。何とグレイダー中佐(総督)が拳銃を駐車場忘れていたのだ。一人とは言え戦力が欠けてしまうのだ。中佐は誰かから銃を借りようとしたが、皆、最小限の装備しか持ってきていない。断られ続け、少しだけへそを曲げた末、

「もういい、俺は拳銃無しだ!」

と宣言するに至った。皆「取りに行っては?」「走れば間に合う」などと意見具申したが、これを容れず。恐らくASCSハンドガン戦史上初の「丸腰参加」とあいなった。(あくまで「恐らく」。誰がやったかなんて記録は残ってないだろうし)

 無駄死にしそうだという前評判と相反して、ゾンビーどもの射撃を引きつける囮としてはそれなりに成功していたようだ。人間万事塞翁が馬、何が起きるか分からないものである。

●幻の敗北

 やはり、最大の山場は200対200戦である。ジオン軍はこの為に参加しているといっても過言ではない。はためく大軍旗、轟く鬨の声−ジークジオン−多数の参加者が何の打ち合わせも無しに一斉に叫ぶ姿は絶対に記憶に残る。

 見てきた人間が言うんだから嘘ではない。なにせ、

「でも、ジオンって負けたんだよなぁ」

などと呟いてしまった私は、突然その辺の参加者(ジオンの人ではない)に

「そもそも連邦政府が棄民的宇宙政策を行い、それにジオンダイクンがどうたらこうたら・・・」


と5分近く説教される程のノリなのである。××ガイに刃物を持たせてはならないように、ジオンファンに大軍旗は持たせてはならない。嘘ではない、本当の話だ。

 第1回戦では斜面の上側に陣取った我々(ジオン側と仮称する)が圧倒的勝利を得た。対抗部隊はむやみに5〜6人単位で調整のとれない突撃を繰り返し、いたずらに損害ばかりを増やしていった。中でも旧日本海軍の装備でM1917軽機関銃を「持って」いた人は一人で7〜8人の突撃部隊を腰だめ射撃で殲滅し、大いにジオン側の士気を高揚させた。

 対抗部隊が半減するやいなや、それまで斜面の一番上でこれ見よがしにジオン軍旗を振っていた総督が突然「明治初頭の機関車の前を走る先駆け人」が如く対抗部隊に向けて走りだした。つられて自然発生的な突撃が発生し、「大軍旗に続け!」と言うがごとい勢いで対抗部隊を破砕し、粉砕し、爆砕し、塵芥と化すことに成功したのだった。

 第2回戦はジオン側は下からのスタートだった。私は斜面の途中の用水路に落ちてずぶ濡れの所を大遠距離からの狙撃で仕留められてしまい、早期にセーフティに戻ることになった。戦闘は膠着し、我らがグレイダー中佐は前線で大軍旗を抱えて小刻みな回避を行っていた。他のメンツは以外と早い内にヒットしていた様だ。

 いよいよ時間切れかと思ったその時、立ち入り禁止の森から颯爽と14〜5人の参加者が現れた。ジオン側も気づいてはいたが、腕にマーカーがされていないので敵味方が識別できず、撃つこともできない。だが彼らは喊声を上げて突撃し、あっけなくジオン側は総崩れとなった。そして5分後にはほぼ全滅していたのである。

 1勝1敗。まぁまぁの結果であるが、ジオン軍旗参加側不敗のジンクスはついに過去の物になった。ハズだった。

 しかし、直後にアナウンスで「マーカーをせず立ち入り禁止のエリアを通ってきたグループがいるので対抗部隊側の反則負けとする」という連絡があった。

 おお!敗北は幻のものとなった。ルールを守る事は結果的に自分らを助ける訳で、ルール遵守の姿勢が正しいと改めて確信した。と、同時に総督が妙に誇らしげにいった。

「言っただろ。ウチは200対200では負けなしなんだ」


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