タクシー事業の規制緩和の見直しに関する要望
                            平成17年10月27日
                       (社)全国乗用自動車連合会


 改正道路運送法が施行され3年半以上が経過しました。

 この間、輸送需要の低迷が続く中、車両数は15,000台以上増加し、各地で供給過剰状況が進展し、日車営収の減少により、事業者の経営状況は悪化の一途をたどっております。

 運賃については、下限割れ運賃、遠距離割引、深夜割増の割増率の引き下げ、大口割引の導入等多様化が進んでおりますが、増収にはつながらない反面、同一営業区域での種類が多く、分かりにくい運賃は、利用者の混乱と不信を招くとともに、コストを無視した際限のない値下げ合戦が危惧されております。

 この結果、タクシー運転者の収入は低下し、一部地域では最低賃金を下回る状況となっており、優秀な運転者の確保が困難になるとともに、長時間労働や過労運転による健康破壊、更には極端な低収入による生活破壊をもたらす恐れも生じております。

 改正道路運送法による、運行管理者資格制度の導入等の社会的規制の強化にもかかわらずタクシーの交通事故は増加しておりますが、夜間、深夜の過労運転がその要因と思われる事例も多発しております。

 また、タクシー乗り場付近、駅前、繁華街における過剰な車両による渋滞や客待ち車両による違法駐停車は、道路交通を阻害するとともに、利用者や地域住民の方々に迷惑を及ぼす社会問題ともなっております。

 このような状況が続くと、タクシー事業全体に対する社会の信頼が低下するとともに、乗車拒否、不適切な応対等のサービス低下、交通事故の更なる増加をもたらし、利用者が安全に、かつ安心してタクシーを利用することが困難となります。

 また、数多くのタクシー車両が空車で走行することを余儀なくされていることは、地球環境保護の観点からも好ましいものではありません。

 更に、NPO等によるボランティア福祉有償運送制度が全国的に展開されましたが、依然として2,000を超える団体が許可を受けずに違法な輸送を行い、タクシーによる高齢者、障害者の輸送を脅かしております。また、これらの団体によるセダン型車両による輸送は、タクシー類似行為と区別が出来ない状況となっております。

 以上のように、改正道路運送法施行後、数多くの問題が発生しており、早急な是正が必要となっております。このため、政府においても労働実態や安全管理に関する調査を実施され、関係者の意見等を踏まえてタクシーサービスの将来ビジョンや必要な方策の検討を開始されたところであります。

 つきましては、法改正も視野に入れられ、改正道路運送法制定時の衆参両院の付帯決議を尊重の上、下記の具体的項目について措置されるよう要望いたします。


                 記

1.新規参入事業者に対する実地調査、事後監査の実施

 新規事業許可(営業区域拡大の事業計画変更認可を含む。)に当たっては申請者の事業計画、事業遂行能力(適正な運転者数の確保等)について厳格な審査を行うこと。特に申請者の事業計画については、書面審査でなく実地調査を綿密に行うとともに、事業開始後6ヶ月以内に、事業計画通り事業が行われているか監査し、違反があれば処分日車数を大幅に加重する等により悪質な新規参入事業者の退出を図ること。
監査に際しては、健康保険、厚生年金保険、雇用保険等の社会・労働保険の 加入状況、定期健康診断の実施状況についても対象とすること。

 なお、法改正により、事業許可基準に「道路交通の安全及び円滑化を阻害しないものであること、環境の悪化をもたらさないものであること」等の要件を盛り込むことを検討されたい。

2.増車事業者に対する監査の厳格化
 
 増車が労働関係法令等の違反をもたらすことがないよう、増車(一時的に減車した車両数を元に戻す増車を除く。)を行った事業者に対しては、必ず上記1に準じた監査を実施すること。

 なお、法改正により、上記1.の事業許可基準が盛り込まれる場合には、その許可基準を準用した増車認可制度を導入するとともに、新規事業者の増車は事業開始後の監査状況を見てから認可することとされたい。

3.緊急調整地域の指定基準の見直し

 指定基準のうち、実車率、日車営収の数値について「法改正以前の5年間(平成9年度から13年度)の平均値と比較して10%(非流し地域では4%)又は当該5年間の全国平均と比べて20%を超えて減少」とし、安全関係法令違反件数・苦情件数について「法改正以前(平成13年度)と比較して増加」に改めること。

 なお、法改正により、指定要件のうち「輸送の安全及び旅客の利便」を「輸送の安全又は旅客の利便」に改められたい。

4.適正かつ明解な運賃料金の確保

  改正道路運送法において、利用者の混乱や不信を防止するため、運賃料金の 個別認可制が存続した趣旨に鑑み、適正かつ明解な運賃料金の確保を図ること。

 @.下限割れ運賃
 
 不当競争を防止し、運転者の適正な労働条件を担保するため、下限割れ運賃の申請については、慎重かつ厳格な査定を行うこと。

 なお、法改正により、運賃認可基準に「運転者の労働条件を阻害するものでないこと」を加えられたい。

 A.運賃の割引及び割増率の引き下げ

 不当差別、不当競争防止の観点から、増収につながらないと見込まれる運賃の割引及び割増率の引き下げについては運転者の労働条件にも配慮して慎重に審査する必要がある。

 具体的には、申請者の減収額が総運送収入の1割以内のものにつき、審査を簡素化するとの現行処理方針については、「減収額が当該割引ないし引き下げの適用を受ける収入の1割以内」と改めるとともに、大口割引については15%を限度とすること。

 B.運賃改定手続開始要件の緩和

 「申請法人事業者車両数合計が地域の法人事業者全体車両数の7割を超えた場合」となっている手続開始要件を「5割」と改めるとともに、運賃適用地域が広域な場合等について弾力的に運用すること。

5.自家用自動車有償運送への厳格な対応

 道路運送法80条の「自家用自動車は、有償で運送の用に供してはならない。」との原則を踏まえ、道路運送法4条の許可取得によることを基本として対処すること。
 福祉有償運送、過疎地有償運送については、平成16年3月16日付け国自旅第240号通達に基づき、タクシーでは十分な輸送サービスが確保できないと認められる場合に限り、運営協議会での十分な協議を行うこと。

 具体的には、ボランティアに名を借りた団体の参入が見受けられることから、地方運輸局(支局を含む)及び運営協議会を主宰する地方公共団体に上記の趣旨を周知徹底するとともに、輸送の安全確保の観点から運営協議会に地方運輸局の安全業務担当官を参加させること。また、許可を受けずに行われている悪質な有償運送に対しては厳重に対処すること。

 更に、セダン型車両については、タクシー類似行為につながる恐れが高いため使用を認めないこと。

 なお、福祉有償運送、過疎地有償運送は反復、継続して行われる事業として位置づけ、タクシー事業等に対する規制や介護保険法の規制と整合のとれた適切な規制のあり方を抜本的に検討の上、法制度を整備されたい。

6.個人タクシーの厳格な資格要件の堅持
 
 法人タクシー運転者に将来の希望を与え、優秀な運転者の育成を図る特別制度という制度創設時の位置づけを踏まえ、事業者としての側面と運転者としての側面を加味した厳しい試験の実施等による厳格な資格要件を引き続き課すこと。

7.リース制賃金への監査及び厳重な対処
 
 リース制賃金は労務管理がずさんになり、名義貸しにつながる可能性が極めて高いことから、そのような賃金制度を採用する事業者に対する監査を重点的に行い、違法行為があれば厳重に対処すること。
 また、法33条の名義貸し等違法となる基準の明確化を図ること。

8.最低保有車両数基準の堅持

 安定した組織・体制により的確な運行管理や事故補償を行うため、現行の最低車両数基準については、これを堅持すること。

9.地方の実態に合わせた行政の推進

 都市部と地方では実態が異なるので、地方運輸局、運輸支局の裁量に任せる等地方の実態に合わせたきめ細かい行政を推進すること。
 その一例として、地方においては地理が単純であること等に鑑み、新たに雇い入れた運転者の指導教育期間の「10日」を「6日」に短縮すること。


  

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