規制緩和の進捗状況


全乗連会報「全乗連ナウ」平成10年2月号より編集(平成13年7月1日改訂)


Q 平成9年はタクシーの規制緩和元年だと言われています。
 地方にいるとまだ実感がわかないのですが、業界紙などを見ますと、9年の春以降、ゾーン運賃制や初乗距離短縮運賃の導入、事業区域の拡大などが各地で展開され、東京では33年ぶりに新規事業者への免許が行われるなど、タクシー業界も変り始めたかなという気もしています。
 
 
現在、規制緩和はどこまで進んだのですか。また、これからの見通しなどについて教えて下さい。

A 色々な経緯はありましたが、現在のタクシー事業の規制緩和は、平成9年3月28日の閣議決定により再改訂された、政府の「規制緩和推進計画」に基づき実施されていますので、この計画の実施状況を中心にご説明します。

1.需給調整規制について

 需給調整については、段階的に緩和するとともに、運輸政策審議会(運政審)で安全の確保や消費者の保護などに必要な環境整備方策を検討した上で、遅くとも平成13年度までに廃止することとし、その前倒しに努めるとされています。

 ○まず、段階的な緩和措置については、9年夏以降、各地の運輸局において、過去5年間の実績に基づき算定された基準車両数の1割上乗せの数字まで供給を認めるという透明化・弾力化の措置が実施されました。

 運輸局が各地域の増車枠、新免枠を明確な計算式に基づいて算定し、公示するというのは初めての事で、東京の特別区・武三地区では、3,000両の増車可能枠、うち300両の新免枠が公示され、9年末、9社に対し、33年ぶりに、304両の新規免許が行われ、テレビ、新聞でも大きくとりあげられました。

 しかし、全国的には、既に供給過剰の地域が多く、ある程度の増車、新免枠が出たのは、東京、神奈川、千葉、埼玉の4都県のみで、他の地域では、増車枠がゼロというところが殆どで、事前には反響の大きかった需給調整の透明化、弾力化措置も、初年度はそんなに影響がなかったようです。

 10年度には、2割上乗せの措置が講じられましたが、9年度と同様、ある程度の増車枠が出たのは、南関東4都県及び山梨県となっています。

 なお、東京地区で720両の増車枠に対し4,361両の申請が出され、「この不況の時期に一体どうしたことなのか」と世間から注目を浴びました。

  11年度及び12年度の上乗せ措置は2割のまま据え置かれました。各地の供給過剰状況を反映して、増車枠が出たのは11年度は愛知県、12年度は神奈川県のみとなっています。

  13年度は、14年2月1日から需給調整規制が廃止されることから、弾力化措置はとられないこととされました。

2.運賃・料金規制について

 需給調整の廃止の検討と並行して、速やかに上限価格制を検討の上、遅くとも平成13年度までに措置することとし、その前倒しに努めるとともに、当面の措置として、10%のゾーン運賃制、初乗距離短縮運賃を認めるとされています。

ゾーン運賃制については、世界的に見ても初めての制度として9年4月に導入されました。13年4月末現在で49運賃ブロックで1,814社、5,648両(全国の車両数257,000両の2.5%)がゾーン運賃制適用の車両となっています。

 まだ、そんなに多くはありませんが、輸送需要の減少に対応し、需要を喚起する方策の一つとして、少しずつ、増加してきているようです。

初乗距離短縮運賃は、当初、「340円タクシー」として、東京の事業者が始めたもので、これをベースにして「計画」にも取り上げられたものです。13年4月末現在で20運賃ブロックで207社5,059両(全国の車両数の2.0%)が適用車両となっており、11年3月末の6,773両をピークに少し減ってきています。

 東京の「340円タクシー」については、近距離客の需要の喚起をめざす、事業者の創意工夫の現れとして、利用客、マスコミに好感を与え、タクシーのイメージアップにも貢献していますが、当初の適用車両数が1,900両(当該地区タクシー車両数の4,2%)と少なかったため、乗りたくても乗れないとの声が多いようです。

 適用車両数がなかなか増加しないことから判断すると、いい試みではあるが、成功したかどうか評価するのはもう少し時間がかかるということでしょうか。

運賃の多様化については、9年4月に、消費税率の改定に伴い、法人タクシーと個人タクシーの運賃に2%程度の差がつき、全国的に見て、二重運賃、三重運賃があたりまえという時代になりました。もはや同一地域同一運賃は過去の話になってしまいました。

3.事業区域規制について

 「計画」では、事業区域を統合・拡大し、平成11年度までにほぼ半減させるとなっています。平成8年度に1,911あった事業区域が11年2月現在841(44%)まで統合されています。

4.最低保有車両規制について

 「計画」では、東京の60両、大阪・名古屋・横浜の30両を10両に縮減する等の措置を講ずるとなっており、9年4月から、人口50万人以上の都市で10両、それ以外の地域では5両とされました。

 これをうけて、9年暮れに、東京で12両、神奈川、千葉県で10両、埼玉県で5両の事業者に対し、新規免許が行われたところです。

○道路運送法の改正
 一方、1.需給調整規制についての項で述べられた環境整備方策については、運政審で自動車交通部会を設置して9年4月から審議が開始され、11年4月9日に「タクシーの活性化と発展を目指して」というタイトルの運政審自動車交通部会答申が出されました。

 この答申を踏まえて、運輸省において道路運送法等の改正案が作成され、12年2月29日に国会に提出されました。
法案は、12年5月19日に参議院本会議で可決され、成立しました。

タクシーに係る改正法の概要は次の通りです。

@参入規制の見直し
 事業参入について、需給調整規制を前提とする免許制から輸送の安全の確保等に関する資格要件をチェックする許可制に移行する。

A緊急調整措置の導入
 著しい供給過剰により輸送の安全等を維持することが困難となるおそれがあると認められる地域において、一時的に新規参入及び増車を停止する緊急調整措置を導入する。

B運賃規制
 運賃設定のわかりやすさを担保して利用者利便等を確保するため、認可基準を「能率的な経営の下における適正原価に適正利潤を加えたものを超えないものであること。」と改め、上限価格制考えを取り入れた上で、引き続き認可制とする

 この改正道路運送法は、14年2月1日から施行されることとなり、タクシー業界も新しい時代を迎えることとなりました。改正法の具体的運用要件は、省令、通達等で決められることとなっており、13年6月末以降、その内容が少しずつ公表されています。
 
 以上、13年7月時点での規制緩和の実施状況をとりまとめてみました。少しずつではありますが、時代が動いており、もはや後戻りは出来ないという感じがします。

 今までのところ、そんなに大きな混乱は生じていないようですが、規制緩和の推進が、丁度、輸送需要が減少している時期と重なったため、各地から、厳しい実情が伝えられてきます。

 全乗連としては、タクシー業界の意見、要望を政府の施策に反映させ、新しい時代を迎えるタクシー業界がこれからも愛される市民の足として健全に発展できるよう引き続き努力したいと考えています。
                    (文責/全乗連理事長 伊東弘之)


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