道路運送法改正は業界にとって本当にいいことか


全乗連会報「全乗連ナウ」12年3月号より編集


 道路運送法改正案が閣議決定されました。タクシー業界は、従来、タクシーの免許制と運賃認可制の維持を主張してきましたが、今回の法改正は、タクシー業界にとって本当にいいことなのでしょうか。

 2月29日の閣議において「道路運送法及びタクシー業務適正化臨時措置法の一部を改正する法律案」が決定され、いよいよ国会の場においてタクシー事業の規制が如何にあるべきかについての審議が行われることになりました。
 今回の改正案は、平成9年3月に閣議決定された「規制緩和推進計画」及び11年4月の運輸政策審議会答申に基づき作成されたものです。

 改正案の要点は、@事業の免許制から許可制への移行、A緊急調整措置の導入、B運賃認可制の維持です。ご質問にそって、これらの項目がタクシー業界にとって本当にいいことかどうかという視点から検討してみましょう。

1.免許制から許可制への移行
 需給調整規制が廃止され、安全の確保等に関する一定の基準に適合していれば、事業への新規参入や事前届出による増車が可能となりました。

 色々と創意工夫を発揮して、タクシー事業に参入したい、或いは事業を拡大したいと考えておられる経営者にとっては朗報です。これに対し、運転者の給料が歩合制のため増車意欲の強いタクシー業界において、一定の基準に適合すれば、参入や増車が自由と言うことにすると供給過剰になっていろんな弊害が出てくるのではないかという心配もあります。

 この問題は、免許制廃止を検討するときに常に提起される論点です。タクシーの輸送需要は長期的に低迷していますので、需給調整規制を維持すれば、新規参入や増車の余地は無いと言うことになります。こういう観点から、例えば、東京地区では新規免許なしと言う状況が33年間続きました。事業者にとっては、そんなに無理な競争や事業運営を行う必要が無かったため、安定した経営を行うことが出来、業界全体としてのサービスの向上を図ることも可能でした。おかげで東京のタクシーは世界的に見てトップレベルにあるとの評価を得ました。

 しかし、世間一般の人々からは、33年間も新規参入が無かった業界というのは変だと思われています。輸送需要は増えないとしても、「自分ならもっと工夫をしてお客様に喜ばれる経営が出来るのに」という経営者がいれば、その参入を認め、競争をさせて業界全体のレベルアップを図るべきではないか、そうすれば運賃も安くなるのではないかという意見が多くの人の支持を得るようになってきました。

 このような意見も踏まえて、政府は、規制緩和推進計画でタクシーの需給調整規制廃止の方針を決定し、これに基づき、今回の改正案を国会に提出したものです。業界にとっていいことかどうかすぐには結論が出せませんが、少なくとも、創意工夫を発揮すれば事業を拡大、発展できる制度に移行するのだと前向きにとらえ、これを活用する方策を考えるとともに、もし、新しい制度において、供給過剰による混乱が発生すれば、次項の「緊急調整措置」の発動に期待するということになるのかなという気がします。

2.緊急調整措置の導入
 著しい供給過剰により「輸送の安全及び旅客の利便を確保することが困難となるおそれがあると認めるときは」地域を指定して、一時的に新規参入及び増車を停止し、供給過剰による弊害の進行を止めることを可能とする緊急調整措置の導入が認められました。

 全乗連としても強くお願いしていた項目で、業界にとっては有り難い制度です。但し、一義的には、「輸送の安全及び旅客の利便」を確保するのが目的であり、新聞などで報道されているような業界の利益を考えての規制ではありません。「減車措置」も認められればさらによかったのですが、法制上無理だったようです。

 法文は「確保することが困難となるおそれがあると認めるとき」という幅広い書き方になつており、具体的な発動要件は通達で決めるとのことです。基本的には、いい制度だと思いますが、具体的な発動要件の中味がわからないと、業界にとって供給過剰による混乱が改善される本当にいい制度かどうか判断できないと言えます。

 また、これまで、免許、認可等のタクシーの規制権限は、地方運輸局長に委任されてきました。改正後も同じ扱いとなりますが、緊急調整地域の指定だけは大臣権限とされ、指定の際には、運輸審議会への諮問が必要ですので、手続きに少し時間がかかるようです。供給過剰による混乱が生じた場合には、地域の実態をよく承知している地方運輸局長の素早い判断により迅速に指定してもらうといいのですが、事業活動を制約する措置でもありますので、お役所の恣意的な裁量を避けるという意味から、やむを得ないかなと思います。

3.運賃認可制の維持
 運賃については、認可基準を「適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること。」と変更した上で、認可制が維持されました。

 規制緩和推進計画では「上限価格制を検討の上..措置する」と書かれていました。全乗連では、「上限規制の導入と併せ、ダンピング競争による労働条件の悪化及びこれに伴う安全やサービスの低下を防止するための下限規制の導入と、わかりやすい運賃制度を担保するための運賃認可制の維持」を強くお願いしてきました。その結果、他の交通機関の殆どが上限運賃認可制或いは届出制となった中で、タクシーについて運賃認可制が維持されたのは、やはりタクシーの特性をよくご理解頂いたからだと思います。

 認可制が維持されたことにより、全乗連がお願いした下限規制を法律で導入する必要は無くなりました。お役所の方で下限規制の考え方も取り入れたゾーン運賃制が引き続き維持されると考えられますので、ダンピング競争のおそれは少なくなり、業界にとっては、いい結果になったと思います。お客様にとっても、初乗と加算の運賃に整合性の無いいわばバラバラの運賃ではなく、初乗運賃の高低に応じて加算運賃が連動する運賃の中からタクシーが選べるのはわかりやすくていいことですし、安い運賃を導入しようとする事業者にとっても、運賃を届け出てタクシーメーターを改造したあとで変更命令が出されるかも知れないと言う不安定な状態が回避されますので、歓迎すべきことだと思います。

 このように、運賃認可制の維持は、色々な関係者にとっていいことだと言えますが、そうは言っても認可基準の変更により、10%で運用されてきたゾーン運賃の幅が広がることが予想されます。タクシーの規制緩和を求める最大の理由が「規制を緩和してタクシー運賃をもっと安くしろ」というところにありますので、ある程度ゾーン運賃の下限が下がるのは我慢せざるを得ないのかなと思いますが、タクシーの特性を十分ご理解され、問題の生じない形でゾーン運賃を設定して頂きたいと考えています。
 
4.まとめ
 改正法案がタクシー業界にとっていいことかどうかという観点から主要項目を眺めてきました。そんなに悪いことでもなさそうだと言う気もしますが、緊急調整措置の発動要件やゾーン運賃の下限などの具体的運用要件が明確にならないと最終的な判断は出来ないと言うのが本音です。運用要件については、今後、政省令、通達等に規定されることになっていますが、全乗連としては、それらの作成に際し、タクシー業界の意見を十分聞いて頂くようお願いしていきたいと考えています。               (文責/全乗連理事長 伊東弘之)


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