介護輸送の法的取扱い
              全乗連会報「全乗連ナウ16年5月号」より編集

 国土交通省と厚生労働省から「介護輸送に係る法的取扱い」の方針が公表されました。またそれに関連して色々な通達が出された様ですが、難しくてよく分かりません。要点を分かりやすく説明して下さい。

介護輸送というのは、介護保険法の居宅サービス事業者が介護報酬を受け取って行う要介護者の輸送のことです。「法的取扱いの方針」には、訪問介護の介護輸送と施設介護の介護輸送について書かれています。
 このうち、訪問介護の介護輸送は乗降介助という訪問介護サービスに連続して行われ、介護報酬は乗降介助に対し支払われます。一方、施設介護の介護輸送は通所施設等での介護サービスと一体として行われ、介護報酬は施設送迎即ち輸送に対して支払われます。それぞれ扱いが違うわけですが、ここでは、訪問介護の介護輸送を中心に説明します。

一 経緯

 訪問介護の介護輸送というのは、介護保険法の指定訪問介護事業者が要介護者の乗降介助をして、介護保険の介護報酬を受け取った上で行う輸送のことです。(報酬額は1回につき1,000円(乗降介助)が原則ですが、要介護4,5の利用者につき30分未満2,310円等(身体介護を適用)となる場合もあります。)この解説で単に「介護輸送」という時はこの訪問介護の介護輸送を意味しています。
 報酬を受け取って輸送を行うので、道路運送法の許可を受けたタクシー事業者が担当するのが原則であるというのが国土交通省の見解です。一方、輸送自体は介護報酬の対象とされていないことから、介護保険制度を所管する厚生労働省から、昨年春に、この輸送は無償の運送行為であり、道路運送法の許可がなくても出来るのではないかとの見解が示されました。
 両省の見解の相違を巡って、地方の現場では混乱が生じたため、昨年夏以降両省間で協議が続けられました。その結果、おおむね共通の理解が得られたので、パブリックコメントの手続きを経て、3月16日付けで法的取扱いの方針が両省連名で示され、あわせて、国土交通省から具体的な通達が出されました。

二 取扱い方針の概要

1.介護輸送の有償性

 今回の方針の一番重要な点は、介護輸送は有償の運送行為であると認められたことです。介護保険制度で輸送自体は介護報酬の対象とされていませんが、そのことと介護サービス事業者が行う輸送が道路運送法上の有償運送であるかどうかは別個に判断すべきものとされました。そして、「介護サービス(身体介護、乗降介助)のうち、少なくとも輸送行為のために行われる部分については輸送行為を構成している部分があるものととらえ、介護報酬を受け取る場合には、当該輸送行為は有償の運送に当たると解する」(16年4月2日付け国土交通省作成の想定問答集)との基本的考え方のもと取扱い方針が作成されました。

2.道路運送法上の取扱い
 
 介護輸送が有償の運送だという方針が決まれば、あとは、現在、道路運送法の許可を受けずに実施されている介護輸送について、許可を受けさせる必要があります。この有償の運送は、道路運送法の事業許可(一般又は特定)を受けて行うことが基本とされていますが、NPO等の非営利事業者については、有償運送の許可により対応出来ることとされました。いずれの場合も、あまり厳しい運用をすると、これまで、違法という意識がなく行われ、多くの要介護者から利用されてきたサービスが突然出来なくなり様々な混乱が生ずるおそれがあります。このため、取扱い方針に基づき、以下に述べるような許可制度の弾力的な運用に関する国土交通省の新しい通達が3月16日に出されました。

@ 一般乗用旅客自動車運送事業(患者等輸送事業) (道路運送法4条1項)

 平成13年2月の改正前の道路運送法には、一般旅客自動車運送事業のうち、運送する旅客や業務の範囲等を限定して免許を行う限定免許というのが規定されていました。限定免許は、一般事業の需給調整規制の対象からはずされ、免許基準も緩和されていました。

 福祉輸送は、この旧法の限定免許による一般乗用(患者等輸送限定)旅客自動車運送事業として、身体障害者、寝たきり老人等を輸送対象とし、使用車両も、寝台車、リフト付き車等のいわゆる福祉車両に限定して実施されてきました。限定免許制度は改正法で廃止され、業務の範囲等を限定する条件付き許可制度に変更されています。

 新しい通達では、この患者等輸送限定事業により介護輸送を可能とするため、福祉車両を使用する福祉輸送と主としてセダン型の車両を使用する介護輸送を「ケア輸送サービス」と総称し、事業名を「患者等輸送事業」(ケア輸送サービスを行うことを条件とした一般乗用旅客自動車運送事業)に改めた上で、輸送対象を従来の福祉車両利用者から要介護者、要支援者にまで拡大しました。

 使用車両についても、従来の福祉車両に回転シート等付きの介護仕様車両を加え、さらに、介護福祉士、訪問介護員等(以下「ホームヘルパー等」という。)や全乗連等の実施するケア輸送サービス従事者研修修了者が乗務する条件で、セダン型車両にまで拡大しました。

 許可の基準も一般のタクシー事業に比べて、営業区域は都道府県単位(一般事業は原則市町村単位)、最低車両数は1両(一般事業は5両)等と緩和されています。運輸局の細部取扱い通達で法令試験も省略できることとされました。

 運賃規制についても、

ア 介護輸送の運賃については、乗降介助の介護報酬を事実上運賃に充当することが出来るため運賃自体は安くても支障がないことから、運賃認可申請に 際し原価計算書を提出しなくても良く、申請すればほぼ自動的に認可する。

イ 介護輸送以外の運賃については、割引運賃、15分単位の時間制運賃、幅 運賃、定額運賃等弾力的な運賃設定を認める。
 と弾力化されました。 

 一般のタクシー事業者が介護輸送等のケア輸送サービスを行うことは、もちろん可能です。その際にも上述の弾力化された運賃規制が適用されます。

A 特定旅客自動車運送事業 (道路運送法43条1項)

 道路運送法の旅客自動車運送事業には、バス、タクシーの一般旅客自動車運送事業のほか、特定旅客自動車運送事業というのがあります。この事業は、本来、ある会社の従業員の駅から事務所への送迎やいわゆる空港ランプバスによる旅客ターミナルビルから航空機の駐機場所への乗客の送迎のような実質的に単数と認められる特定の輸送需要に対応する運送事業です。運送事業なので、運転者には2種免許が必要ですが、許可に際して法令試験を受けなくてよく、運賃が届出制である等一般旅客自動車運送事業に比べて規制が緩和されています。

 今回の通達により、介護輸送についても、会員制により、利用者である要介護者が特定されていれば実質的に単数と認められるとして特定旅客自動車運送事業の許可を受けて実施することが可能となりました。但し、医療施設等と自宅等との間の要介護者の送迎に限定されていますので、要介護者に該当しない障害者や高齢者の輸送は認められません。

B NPO等による有償運送 (道路運送法80条1項)

 介護輸送を含む障害者、高齢者の有償の運送については本来タクシー事業の許可を受けて行うべきものです。しかし、近年、NPO等によるボランティアの自家用自動車の有償運送が各地で行われ、違法状態が事実上黙認されてきました。

 このような状況の中、昨年度、構造改革特区の制度が導入され、この特区の制度の枠組みの中でNPO等の有償運送の許可制度が限定的に運用されました。全乗連としては、この有償運送の許可制度そのものに「これは、本来、タクシー事業者が分担すべきものである。」として反対の意向を表明してきましたが、受け入れられず、16年度からは、このNPO等の有償運送の許可制度が全国的に実施されることになりました。

この結果、NPO等の非営利事業者はこの有償運送許可制度に基づく許可を受ければ介護輸送が可能とされました。許可要件は、本来、この有償運送の許可は「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合であって、国土交通大臣の許可を受けたとき」に限ると規定されていることから、通達で細かく書かれています。

 許可要件の骨子は、
 ア 地方公共団体がタクシーでは十分なサービスが提供出来ないと判断し、関  係者を集めた運営協議会での協議を済ませた上で、NPO等から申請があれ  ば、運輸支局長が許可をする、
 イ 運送主体は、NPO、社会福祉法人等の非営利法人、
 ウ 使用車両は福祉車両(介護仕様車両を含む、以下同じ。)に限定、セダン  型車両は構造改革特区の認定を受けた場合のみ認める、
 エ 運転者は2種免許を有することが基本、これによりがたい場合は一定期間  運転免許停止処分のないこと、安全運転、ケア輸送サービス従事者研修の受  講等十分な能力、経験を有すること、
 等となっています。

 なお、NPO等の非営利事業者が事業許可を受けて旅客自動車運送事業者として介護輸送を行うことも可能です。

C ホームヘルパー持ち込み車両による有償運送  (道路運送法80条1項)

指定訪問介護事業者に登録されたホームヘルパー等が自分の自動車に要介護者を乗せて居宅から病院まで輸送し、乗降介助や身体介護の介護報酬を受け取っている事例も結構多いようです。取扱い方針及びこれに基づく通達ではこのような持ち込み車両により行う介護輸送についても規定しています。

 ア NPO等に持ち込む場合
   NPO自体が有償運送の許可を受けていますので、ホームヘルパー等の持  ち込み車両については運送主体のNPOとホームヘルパー等との間で事故、  苦情等の対応について運送主体が責任を負うこと等が明確化された車両の使  用契約があれば、持ち込み車両による介護輸送が認められます。この場合、  使用車両は本体のNPOと同様、福祉車両に限定されます。

 イ 旅客自動車運送事業者に持ち込む場合
   ホームヘルパー等が有償運送の許可を受ければ、持ち込み車両による介護輸送 が認められます。許可要件は、ケアマネージャーの作成するケアプランに基づくことと するほか、NPOの有償運送の許可要件に準じたものとなっていますが、地方公共団 体の判断、運営協議会の協議が不要である等かなり簡略になっています。運転者資 格もNPOの許可要件に準じていますが、2種免許を基本とするの文言はなくその代わ り「一定期間無事故」の要件が追加されています。許可申請は旅客自動車運送事業 者がまとめて行うことも可能です。利用者の混乱を避けるため、事前に自家用車の有 償運送であることを通知する必要があります。使用車両についてはセダン型車両も認 められます。(ホームヘルパー等が許可条件に違反したり事故をおこした場合の旅客  自動車運送事業者自体の道路運送法上の責任が明確でない等色々と問題の多い 取扱い方針だと思います。)     

   なお、トラック事業においては、年末年始や夏期の輸送繁忙期の百貨店貨物の配送対策として持ち込みの自家用自動車による配送がすでに許可されています。

3.施設介護の介護輸送の取扱い

 通所介護事業者、通所リハビリテーション事業者が通所介護等の介護報酬の送迎加算(1回470円)を受けて行う要介護者の送迎の介護輸送は、自家輸送とされました。「施設介護」とありますが、送迎加算は通所介護等の居宅サービスが対象ですので老人ホーム等の入所施設への送迎は含まれていません。原則は自家輸送ですが、輸送の安全確保の観点から、送迎輸送の旅客自動車運送事業者への委託を促進することとされています。
 この場合は上記2の@の患者等輸送事業者やAの特定旅客自動車運送事業者等にこの施設介護の介護輸送を委託することとなります。委託を受ける運送事業者が介護サービス事業者である必要はありません。
(要支援者も通所介護等のサービスが受けられ、送迎加算の対象にもなりますが、「法的取扱いの方針」等には「要介護者」としか書かれておらず、要支援者がここでいう介護輸送の対象になるのかはっきりしません。)

4.重点指導期間

 今回の取扱い方針により、道路運送法の許可を受けていない事業者は介護輸送をしても介護報酬を受け取れないことになりました。しかし、新しい方針の周知、許可を受けるための手続き等に時間がかかること等から、「重点指導期間」という準備期間が設けられています。何時までの期間か明確にはされていませんが「平成18年春に予定される新たな介護保険制度のスタートまでには重点期間を終えたい」(16年4月2日付け想定問答集)とのことです。

5.支援費制度における介護輸送に準じる輸送

 障害者を対象とする支援費制度においては、乗降介助は身体介護の類型とされていますが、この乗降介助をして支援費の支給を受け取った上で行う輸送についても上記の方針に準じて取扱うこととされていますす。

三 終りに

 今回の取扱い方針は、これまで道路運送法の許可を受けずに行われ、介護報酬を支払われてきた多くの介護輸送について、法律の網をかぶせて適正化しようとされたものです。有償運送の許可制度の運用についてタクシー業界の立場からは疑問もありますが、混乱状態にあったこの問題を明快に整理された両省の努力には敬意を表したいと思います。
 重点指導期間の間に道路運送法の許可を受けずに介護輸送を行っている介護サービス事業者全てが、旅客自動車運送事業の許可を受けられるか、あるいは、地方公共団体の主宰する運営協議会の協議を経て有償運送の許可が受けられるか等多くの課題が残されています。
 その心配はさておいて、タクシー事業者が、今回の通達で認められたケア輸送サービス従事者研修などを活用して、今後とも介護輸送にとどまらず、ケア輸送サービスの主要な担い手となることを祈念しています。
  



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