平成15年度以降の介護タクシーの取扱い
全乗連会報「全乗連ナウ15年4月号」より編集
(16年9月一部改定)


 今年の4月から、介護保険の報酬額の見直しが行われ、介護タクシーの取扱いや報酬額が改正されたと聞きました。改正の内容について説明して下さい。  また、今年の4月から実施された障害者の支援費制度の中では介護タクシーはどういう取扱いになっているのですか。

 15年4月から介護報酬全般の見直しが行われ、その一環として介護タクシーの取扱いも改正されました。ここでは、タクシー業界から見た問題点を中心に説明します。
 また、今年の4月から、障害者の支援費制度が創設され、その中でも介護タクシーが認められていますので、概要を説明します。

T 介護保険制度における介護タクシーの取扱い
 
介護保険制度は12年4月に発足しましたが、3年ごとに介護報酬額を見直すこととされています。15年4月からの改正を目指し、社会保障審議会から15年1月23日に介護報酬額等の見直しに関する答申が厚生労働大臣に行われました。
 厚生労働省はこの答申を得て、2月24日に指定居宅サービス費用算定基準告示及び基準制定に伴う留意事項通達の改正を行い4月1日から実施することとされました。

1.今回の改正の主な内容

(1)「乗降介助」(通院等のための乗車又は降車の介助)の新設
 これまで、介護タクシー事業者(指定訪問介護事業者の指定を受けたタクシー事業者)の行う乗降介助は、身体介護として扱われ、30分未満2,100円(利用者の負担は1割。介護保険について以下同じ。)等の介護報酬が支払われました。(なお、30分未満の身体介護の報酬額は、今回2,310円に改定)

 今回の改正で、乗降介助については身体介護とは別の項目として取り上げられ、1回1,000円の介護報酬が認められることになりました。この場合、身体介護の介護報酬は認められません。
 要件として
 @対象は、要介護1以上の認定を受けた利用者に限り、要支援者には算定しない。

 A移送即ち運転時間中は算定対象でなく、運賃は引き続き評価しない。

 B片道を1回と算定し、乗車、降車のそれぞれについて区分して算定しない。

 C具体的な介助行為が必要で、乗降時に車内から見守るだけでは算定対象としない。

 D車両乗降介助(自ら運転する車両への乗降介助)だけでは算定対象とされず、「車両乗降介助」プラス「乗降前後の屋内外の移動の介助」か「通院先や外出先での受診等の手続き、移動等の介助」が必要。それぞれの介助行為は一連のサービスとしてとらえ、屋内外の移動介助で2,310円、乗降介助で1,000円というように区分して算定しない。

 E「通院等」とは、通院、日常生活に必要な買い物、預貯金の引き下ろし等をいい、趣味、娯楽、遊興等のための外出は算定対象としない。

 F適切な判定(アセスメント)に基づき、ケアプランに乗降介助が必要な理由等が明記されていること。(従って、たまたま思いついてタクシーを利用するというのは認められません。)
  等があげられています。
 
(2)道路運送法等の遵守
 乗降介助の額の算定に当たっては、「道路運送法等他の法令等に抵触しないよう留意すること」とされました。
従って、乗降介助の報酬を請求できるのは介護タクシー事業者が原則ですが、構造改革特区の計画等に基づき有償運送の許可を受けたNPO等も指定訪問介護事業者の指定を受ければ可能です。

(3)相乗りの許容
 複数の要介護者を車に乗せ、乗降時に1人の利用者に対し1対1で乗降介助を行う場合はそれぞれ算定できることとされました。いわゆる相乗りが認められた訳ですが、実施する場合には道路運送法上の乗合タクシーの手続(貸切事業許可プラス乗合運送許可)が必要です。

(4)要介護4又は5の利用者の扱い
 自分で身の回りのことができない要介護度の高い利用者に対して乗降介助をする場合には、着替えの介助等通常かなりの時間と手間がかかります。そのような場合でも1,000円しか算定されないのではとてもコストに見合いません。

 このため、要介護4又は5の利用者に対し乗降介助に連続して相当の時間(20〜30分程度)手間のかかる身体介護を行う場合には、時間に応じた「身体介護」の報酬額(30分未満2,310円、30分〜1時間4,020円等)を算定できることとされました。この場合には、乗降介助の1,000円は算定できません。
 要介護度の高い利用者については、改正前と同じ扱いが認められたということです。
 
(5)2人介護の取扱い
 通院・外出の介助の際、一般のヘルパーとヘルパー資格を持ったタクシー運転者が2人で乗降介助を行い、一般のヘルパーが車両に同乗して移送中の介護を行う場合には、一般のヘルパーの身体介護は算定されますが、運転者の乗降介助は算定しないこととされています。少し厳しすぎる気がしますが、こういうケースでは、運転者は通常、そんなに大した介助をしないと判断されたようです。

(6)乗降介助と施設送迎
 通所サービスや短期入所サービスにおける居宅と施設との送迎は、特別な事情のない限り通所サービス等の送迎加算(利用者1人当たり470円、今回30円引き上げられました。)を算定し、乗降介助は算定しないとされています。

2.問題点

(1)介護報酬額および対象者
 介護タクシーは、介護保険制度を利用し、乗降介助と一体となったタクシー輸送を30分未満で実施し、介護報酬2100円を受け取り、運賃を無料とするサービスとしてスタートしたものです。運賃が無料と言う点について道路運送法違反ではないかとの指摘もありましたが、1割の210円の負担でサービスが受けられる利用者の、サービス存続に対する強い要望等も考慮し、当時の運輸省も「道路運送法上直ちに違法とはいえない」との解釈を示されました。

 この結果、運賃を受け取らない介護タクシーの運行が合法化され、各地で運行が開始されました。しかし、運賃を無料にしてもそのようなサービスが可能であるというのは2,100円と言う介護報酬額が高すぎるからではないかと各方面から指摘され、社会保障審議会でもそのような意見が出されたとのことです。

今回、乗降介助が独立の項目として認められましたが、介護タクシーを運行しても、介護保険からは1,000円しか受け取れなくなりました。運賃を無料とすることは困難となり、介護タクシー事業者は乗降介助と一体となったタクシー輸送を実施し、介護報酬1,000円プラス運賃(全部又は一部)を受け取るということになるでしょう。利用者の負担額は、これまで210円で良かったものが100円プラス運賃(全部又は一部)とかなり増加しますので利用が減ることも予想されます。
 今までのやり方での介護タクシーができなくなったということで、これまで介護タクシーを運行してきた事業者や利用者の立場からは、残念なことです。介護報酬は3年ごとの見直しもあることから、お客様を輸送して運賃を受け取るという、タクシー事業者の原点に立ち返って今後の方策を考えことが必要かなという気がします。

 要支援の利用者には認められなくなりました。実質的には要介護の状態に近いけれどその認定を受けるより要支援のままでいた方がいいという方も多いと聞きますので、制度としては要支援者にも認めた上で必要性の判断はケアマネージャーにまかせることとした方が良かったのにと思います。

 一方、要介護4又は5の利用者に対して、乗降介助に連続して相当時間手間のかかる身体介護を行う場合には、これまでと同様、身体介護の報酬額を受け取ることができます。この場合にはそういう介護サービスと一体となった輸送を行って2,310円(時間によっては4,020円)の介護報酬を受け取り運賃を無料とすることも可能です。但し、相当の時間手間のかかる身体介護をしていますので、運賃を完全に無料にして採算が合うとは思えませんが、2,310円と運賃の一部(従って利用者負担は231円プラス運賃の一部)を受け取る事業者は出てきそうです。
 なお、他の介護報酬の項目では、要介護1又は2の利用者と要介護3,4又は5の利用者で金額に差をつけています。要介護3の利用者にも同様のケースに身体介護の報酬額を認めて頂いた方が整合性が保たれたのにと思います。 

(2)サービス提供主体
 今回の改正により「乗降介助」が独立のサービス項目として認められましたが、指定訪問介護事業者、基準該当訪問介護事業者の制度には変更がありません。

 「乗降介助」を独立させたのだから、乗降介助だけやる事業者の存在を認めればいいと思いますが、それは基本的には認められていません。従って、乗降介助をして報酬を受け取るためには、都道府県から指定訪問介護事業者として指定を受けた上で、身体介護、生活支援について総合的なサービスを提供できる体制を整備することが必要です。但し、乗降介助だけやりたいと言うことですと、市町村から基準該当訪問介護の事業者の認定を受けて実施する途は残されています。基準該当事業者の乗降介助の報酬額は市町村によって決められますがおそらく、指定事業者の場合と同じ1,000円になると思います。

 この様に、サービス提供主体に関する制度は変更されませんでしたので、乗降介助に関する限り、同じような介護タクシーを利用したのに、これまでのように指定事業者と基準該当事業者で介護報酬額、更には利用者の負担額に差が出るかも知れないという問題は無くなると思います。

 指定事業者、基準該当事業者とも一定数のヘルパーを配置する必要があります。全乗連ではケア輸送サービス従事者研修の修了者(ケア輸送士)にもヘルパーと同じ資格を認めてほしいとお願いをしています。少なくとも、乗降介助に特化したサービスしかやらない基準該当事業者についてはケア輸送士の配置も認定の要件として頂きたいと思います。


U 支援費制度における介護タクシーの取扱い

1.支援費制度
 介護保険制度は、40歳以上の人から保険料を集めて65歳以上の要介護者等へ介護サービスを提供するシステムです。
 これに対し、身体障害者(児)、知的障害者(児)という障害者に対する福祉サービスの費用は、税金でまかなわれています。

 障害者に対する福祉サービスはこれまで、行政がサービスの内容を決定して提供する「措置制度」が実施されていましたが、15年4月から利用者がサービスを選択してサービス提供事業者と契約し市町村が支援費を支給するという「支援費制度」に移行しました。

 支援費制度における福祉サービスには身体介護、家事援助等の居宅介護サービスやデイサービス、ショートステイ等の通所サービス等があり、介護保険の介護サービスとよく似ています。
 サービス提供事業者が都道府県から指定を受ける必要があり、特化したサービスを提供する事業者には基準該当事業者の途があるというのも介護保険の場合と同じです。利用者や保護者の収入に応じた費用の一部負担制度もあります。
 厚生労働省では、介護保険制度と支援費制度の将来の統合について検討の動きがあると伺っています。

2.介護タクシーの取扱い
 15年3月5日の厚生労働省資料によると、身体障害者福祉法等の「居宅介護事業者の指定を受けている介護タクシー事業者が行う通院等の際の一連の介護(部屋からの移動、タクシー乗降の介護、院内での移動・受診等の手続等)は「身体介護」の類型として差し支えない。」とされています。単価は30分未満2,100円、30分以上1時間未満4,020円です。「乗降介助」1回1,000円というのは、支援費制度では認められていませんでした。
 その後16年10月1日から「乗降介助 1回1,000円」の単価が設定され、介護保険制度と」同じ取扱いになりました。移送中つまり運転時間中は対象とならないのも介護保険制度と同様です。
 
同様に、指定事業者は身体介護、家事援助のサービスを総合的に行わねばならず、乗降介助に特化したサービスを提供する場合には基準該当事業者として市町村の認定が必要です。
 なお、支援費制度の居宅介護には「移動介護」の項目もありますが、これはヘルパーがつきっきりで居宅−目的地−居宅の移動の介護を行う場合に認められるもので介護タクシーの乗降介助には適用されません。
 
V まとめ
 ケア輸送サービス従事者研修の推進などにより、高齢者、身体障害者に対するケア輸送の充実を図ってきているタクシー業界にとって、介護保険制度、支援費制度において介護タクシーが制度としてはっきり認められたのは喜ばしいことです。
 単価が引き下げられたこと、支給対象の要介護度が限定されたこと等の問題もありますが、今後色々な機会に更なる制度の拡充をお願いし、特に、タクシーによる移送に対する両制度の適用と両制度においてケア輸送士の資格が認められることを重点的に要望していきたいと考えています。 
        


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