ケア輸送サービス従事者研修とホームヘルパー研修の違い


 ケア輸送サービス従事者研修は、タクシー乗務員が高齢者や身障者などの移動に制約のある人達をタクシーで輸送する場合に必要な知識、技能を身につけるための研修です。

 平成12年度に厚生労働省が(社)シルバーサービス振興会に委託して作成した研修カリキュラムに基づいて、13年度にまずモデル的に第1回の研修が東京で実施されました。その結果を踏まえて、14年度以降全国各地で実施されることになっています。

 この研修は、既に広範に実施されているホームヘルパー2級研修と似た部分もありますので、両者の違いなどについてご説明します。

1.ケア輸送サービス従事者研修
 この研修は、全乗連、(財)全国福祉輸送サービス協会、(社)シルバーサービス振興会の3団体が実施主体ですが、研修の運営は、(財)総合健康推進財団に委託して実施されます。

 研修は、二種免許を持ったタクシー事業従事者(乗務員、運行管理者等)を対象に、22時間の通信教育と23時間(3日間)の集合研修により実施されます。

 約3ヶ月の通信教育では、この研修のため作成された専用テキストにより、福祉全般に関する基礎知識、医療・看護や疾病・障害さらには高齢者・障害者の心理に関する基礎知識、ケア輸送における接客・接遇等について学習し、その間に3回のレポートを提出します。

 集合研修では、通信教育部分の確認テストを実施した後に、車椅子、ベッド、トイレ、タクシー車両を実際に使用して、排泄、衣類の着脱、ベッドから車椅子への移動、タクシー車両への乗降等の身体介助技術の実技・実習が行われます。 研修修了者に対しては、修了証と乗務する車両に貼付するステッカーが交付されます。

 受講費用は5万円で、14年4月から教育訓練給付制度の講座指定を受けましたので、雇用保険の被保険者期間が5年以上あれば、申請により研修終了後、受講料の8割つまり4万円がハローワークから支給されます。
 
2.ホームヘルパー2級研修
 この研修は、個人の住宅へ出向いて介護を行ったり、老人保健施設や特別養護老人ホーム等で介護を行う人(ホームヘルパー)を養成するための研修です。

 研修は、3級から1級までに分かれています。このうち、3級は、ボランティアや家庭内で自分の家族を介護する人等を対象にした入門研修であり、ホームヘルパーとして、さまざまな介護の現場で働くには、2級以上の研修を受ける必要があります。1級の研修は、2級研修終了後1年以上ホームヘルパーとして活動したかなり高度のレベルの人を対象としていますので、ここでは2級の研修について説明します。

 ホームヘルパーには認定試験がなく、国家資格ではありません。しかし2級の研修修了者は、介護保険法の訪問介護員として、介護保険法に規定する介護サービスを提供することができます。また、介護保険の指定訪問介護事業者や基準該当訪問介護事業者になるためには、一定数の訪問介護員を配置しなければなりません。

 2級の研修は、地方公共団体、社会福祉協議会、民間団体、民間企業、専門学校等さまざまな機関で実施しており、通信教育もあります。
 通信教育の例を見ますと、講習時間は130時間で、期間は4ヶ月、その間に52時間の通信教育と48時間(8日間)の教室での実技スクーリング、さらには30時間(5日間)の現場での実習を受けることとされており、通信教育中4回、実技、実習中各1回のレポート提出が要求されています。

 研修内容は、介護に関するさまざまな基礎知識から入浴、洗髪、衣類の着脱、食事、排泄、車椅子移乗、歩行介助、口腔ケア、レクリエーション、ベッドメーキング等要介護者等の生活全般を支援する広範なものとなっていますが、自動車の乗降介助や運転時の配慮等輸送に係わる事項は含まれていません。
 費用は、8〜9万円で、研修機関の大半が教育訓練給付制度の講座指定を受けています。

3.両研修の比較
 ケア輸送サービス従事者研修は、高齢者や身障者を、自宅で着替えを手伝った後、ベッドから車椅子へ移動させ、さらには車椅子からタクシーへ乗車させ、タクシーを運転し、到着地でまた車椅子に移乗させ目的の場所までお連れするという、輸送及び輸送に関連する一連の作業に必要にして十分な知識、技能を習得させようとするものです。

 今のところ介護保険との関係はありませんので、交通バリアフリー時代を迎え、これから自社の乗務員にしっかりした研修を受けさせて、高齢者や身障者の輸送を積極的に推進したいが、色々と制約のある介護保険法上の訪問介護事業者の指定等を受けるつもりはないと考えておられる事業者及びその会社の乗務員の方々にはピッタリの研修だといえます。

 一方、ホームヘルパー2級研修は、研修期間が長く、要介護者等の生活全般を支援する広範な内容となっており、どこに住んでいても受講可能ですが、お客様のベッドから病院、施設等へのタクシーでの輸送という点では、不必要な項目が多い反面、乗降や運転時の配慮事項の研修がない等の問題があります。しかし、介護保険法の訪問介護事業者として乗降介助サービスを提供し、介護報酬を受け取るためには、事業所としての体制を整えるとともに、乗務員にこの研修を受けさせる必要があります。

 要するに、ケア輸送のうち、いわゆる介護タクシーをやるならホームヘルパー2級研修とできればケア輸送サービス従事者研修を、介護保険と関係なく高齢者や身障者の輸送をやるならケア輸送サービス従事者研修をということになろうかと思います。
 第1回のケア輸送サービス従事者研修受講者の中には、何人かのホームヘルパー2級研修修了者がおられ、また、アンケート用紙に、「今後ホームヘルパー2級等の勉強もしたい」と書かれた方もおられました。必要に応じ、それぞれの研修をうまく活用して頂きたいと思います。

4.今後の課題
 現在、要介護者をタクシーで輸送する場合、輸送自体は介護保険の対象にはなりませんが、前後の乗降介助については、一定の条件を満たせば、介護保険から介護報酬が受け取れます。

 但し、都道府県から指定訪問介護事業者の指定を受けて乗降介助を行う場合は、その提供するサービス時間のうち半分以上の時間を乗降介助以外の身体介護、家事援助の総合的なサービスに充てていないといけません。もし乗降介助に特化したサービスを提供するのなら、指定訪問介護事業者の指定は受けられず、市町村から基準該当訪問介護事業者として認めて貰う必要があります。

 いずれの場合も何人かのホームヘルパー2級研修終了者等の訪問介護員を配置する必要があります。
 この場合、指定訪問介護事業者として乗降介助サービスを提供する時には、総合的な介護サービスを提供する事業者という趣旨から、広範な内容の研修を受けたホームヘルパー2級研修修了者等を配置せざるを得ません。

 しかし乗降介助に特化したサービスを基準該当訪問介護事業者として提供する時は、むしろ乗降や輸送の際の介助に重点を置いたケア輸送サービス従事者研修の修了者を配置する方が適切だと考えられます。このため、ケア輸送サービス従事者研修修了者の数が増え、体制が整備されたら、乗降介助に特化したサービスを提供する基準該当訪問介護事業者の要件を、一定数のケア輸送サービス従事者研修修了者の配置等とするよう行政に対して要望していきたいと考えています。

5.さらなる夢
 全乗連では、介護保険制度が見直される際には要介護者等のタクシーによる輸送も介護保険の対象とするよう各方面に要望しています。その実現は容易なものではありませんが、ケア輸送サービス従事者研修はタクシー業界の高齢者、身障者の輸送に対する熱意を示すものとして評価頂けるものと思います。

 また、この要望が実現した場合には、どのタクシー事業者でもいいということではなく、介護保険の対象となるタクシー事業者についての要件が決められることになると思います。その際には、訪問介護員よりも、まさにタクシーによる高齢者、障害者の輸送を対象にしたこの「ケア輸送サービス従事者研修修了者」の配置をその要件として頂きたいと考えています。     
      


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