日本国憲法

担当:倉田原志(非常勤講師)

I. 法学入門

(1) 法とは何か

 流行(外見上の問題)・風習(外見上の問題を越えて存在する習慣)・ しきたり(集団内部での規律 ex. 武士道)・道徳(人間の良心を基板とした規律)とともに, 法は我々の行為規範となるものであるが,法は,主として国家権力が遵守を強く強制するという点において, 他の行為規範に比べて最も強い拘束力を有する(この場合,「法と正義」の問題が重要となる)。

(2) 法の形式(法源)

 法の形式(存在形式)を法源というが,この意味における法源としては成文法と不文法の2種類がある。

<1> 成文法(制定法):文章の形で表現されている法

●憲法
 国家の統治,運営方針や基本的人権を定めた,国家の基本法。 最高法規(憲法§98.1)であり,改正手続きは,一般の法律に比べて難しい。
 法律案は,通常,両議員の3分の1以上の出席で議決に付され,出席議員の過半数の賛成で可決される。 法律の改正も同様である(憲法§56)。 一方,憲法の改正は,各議員の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し,国民投票にかけて過半数の賛成によって可決される(憲法§96)。 このように,憲法改正手続きを,通常の法律改正手続きより難しくしている憲法を「硬性憲法」という。 硬性の程度の差はあっても,多くの国の憲法が硬性憲法である。
●法律
 通常,国会の議決を経て成立した法。 憲法よりも下位にある法源であり,裁判所が違憲立法審査権によって憲法の規定に反すると判断した場合には失効する(憲法§98.1)。
 法律には,民法・刑法・商法・刑事訴訟法・民事訴訟法(憲法を入れて六法と称される)といった大法典から, 「失火ノ責任ニ関スル法律」などのように1ヶ条からなる法律もある。 このような法律は,法規(規範)の存在およびその内容を国民に明示することに,その意義がある。 しかし,法律は,法規の内容を固定化する傾向があり,社会生活の変化や新たな需要に十分対応できないこともある。 この点では,法律の改正や,裁判所・研究者による法解釈が重要な意味を持つ。
●条約
 国と国の間で締結された国際的合意(国際法上の権利義務を定めた文書)。 国際機構もその設置を認めた基本条約の範囲内で条約締結権を持つとされる。 Treaty(条約)・Convention(協約)・Agreement(協定)・Declaration(宣言)・Protocol(議定書)・Charter(憲章)・Covenant(規約)など多種多様な名称があるが, 実質的に国家間の合意となっていれば,条約として当事国を拘束する。 なお,行政府(政府・省庁)が,その固有の権限に基づく事項について,あるいは既存の条約・国内法により授権された事項について, 外国の政府と締結する合意を「行政協定(administrative agreement)」といい(憲法§73.2),立法府の承認を必要としない簡略形式の条約であるが,これも法源となる。 実際には国会承認条約よりも数が多い。
●命令・規則
 国会以外の国家機関が制定する法規範。 特に命令とは,国の行政機関が制定する法規範のことをいう。 法律の執行のため(執行命令),あるいはある法律の委任に基づいて(委任命令),例外的に立法機関以外の国家機関にも立法の権限が与えられている (法律で細かいことまで定めてしまうと,法律改正手続きがそれほど容易ではないこともあって動きが取れなくなるため,特に行政法の分野などでは,命令に委任することが行われている)。 命令には,法律の委任がなければ刑罰を設け,または義務を課し,もしくは国民の権利を制限する規定を設けることができない(憲法§73.6但書)。
 現在,命令・規則として認められているのは,内閣が制定する政令,総理大臣が制定する総理府令,各省大臣が定める省令,会計監査院の会計監査院規則・人事院の人事院規則などである。 裁判実務に堪能な裁判所に任せた法が実際的であり,また,司法の自立性保持・強化に役立つとの観点から,最高裁判所にも規則を定める権限が与えられている(§77.1)。 さらに,国会も規則を定めることができる(憲法§58.2)。
●条例
 地方公共団体の定める法をいう。条例は,「法律の範囲内で」定めるべきものとされており(憲法§94),国の法令に違反しない範囲で効力を持つ(地方自治法§14.1)。
《法の上下段階構造》
法の上下段階構造  主権国家は,ある領土内を法によって統治するが,その際,下位の法律が上法を犯していないか,違憲立法審査権で審査する。 ここで大きな問題になるのは,「憲法と条約の効力はいずれが上位にあたるか」というものである。 憲法優位説と条約優位説があるが,憲法優位説が多数説である。 また,憲法と条約の優先に関しては,憲法(特に§9)を頂点とする法体系と,日米安保条約を頂点とする法体系という,平和主義に関する異なる2つの法体系の優位をめぐって議論が交わされている。
《後法は前法を廃する》
 時代的に後にできた法律の方が効力があるとするもの。
《特別法は一般法に優先する》
 一般に,適用範囲が広い法律を「一般法」,狭い法律を「特別法」という。
ex1. 消滅時効
 債権(人が人に対して持っている民法上の権利⇔物権:人が物に対して持っている民法上の権利)消滅までの期間に関して,民法と商法では規定が異なる。
民法§167.110年で消滅(但し,債権種類によって消滅時効は異なる。§170・§174)
商法§552商行為による債権は5年で消滅
 この場合,民法が国民全般を適用範囲とするため一般法であるのに対し,商法は商人間の売買に関して適用されるため特別法となり,民法規定に優先する。
ex2. 解約(解雇)告知期間
 労働者保護のため解雇を抑制することを目的に,合理的な理由のない場合は無効,正当な理由があった場合でも,一定の期間前に解約告知しなければ無効と規定している。 その期間について,民法と労働基準法では規定が異なる。
民法§6272週間(解雇者が採用の期限の定めを設けていない場合)
労働基準法§2030日(解雇者が採用の期限の定めを設けていない場合)
注)採用の期限は,原則として定めてはならないが,定める場合には1年以内と規定されている。 また,正当な理由があり,30日分の平均賃金を支払えば,即時解雇も認められている。
 この場合,特別法である労働基準法の規定が,一般法である民法の規定に優越する。

<2> 不文法:文章の形で制定されていない法

●慣習法
 人々の生活習慣上の慣習的行動のうち法的効力が認められるにいたったもの。 公序良俗に反しなければ,「法令ノ規定ニ依リテ認メタルモノ及ヒ法令ニ規定ナキ事項ニ関スルモノニ限リ法律ト同一ノ効力ヲ有ス」ることになっている(判例§2)。 法律が認めたものの例としては,入会権(民法§263・§294)である(入会権とは,一定地域の住民の団体がその団体の統制にしたがって, 一定山林原野の樹木の下枝,薪炭用雑木,自家消費用の建築用材などを共同で採取収益する慣習上の権利。 ただし,明治以降の経済構造の変化,近代的所有権制度の確立を経て,その権利内容は変化し続けており,その内容を一般的に説明することは困難である)。
 しかし,慣習法にどの程度の法的効力が認められるかは,各法分野によって異なる。 商慣習法は,民法に優越する(商法§1)。また,国際法においては国際慣行によって形成されてきた慣習法(国際慣習法)が,条約と並ぶ重要な法源となっている。 なお,法律行為については,事実たる慣習は当事者がこれに従う意志を有する場合には任意の法規に優越する(民法§92)。 これに対して,刑法の領域では罰刑法定主義の原理(「法律なければ犯罪なし,犯罪なければ刑罰なし」)により,慣習刑法は禁止されている。
●判例法
 一般に,以前に行われた具体的事件に対する裁判所の判断の中で,現在に模倣的拘束力を持つものを「判例」といい,アメリカ・イギリスのように,先例拘束主義をとっている場合には,裁判官は時代的に先に出た判決に拘束される。 この場合,判例は裁判の基準としての役割を果たすことになり,重要な法源とされることになる。これを判例法という。 ただし,当該事件を判断するにあたって裁判官が述べた意見のうちで,判決の結論を導くのに必要不可欠な部分を「レイシオ・デシデンダイ(ratio decidendi)」といい, 判決のこの部分のみが先例として後の事件に対して法的拘束力を持ち,それ以外の部分(「傍論」)は「オビタ・ディクタ(obiter dictum)」と呼ばれ,法的拘束力はない。
 大陸法系および日本においては,裁判所の判決は当該事件限りの効力しか持たず,他の事件を拘束する効力を持つものではないし,裁判官は憲法と法律にのみ拘束されるのであり,必ずしも先例に拘束される必要はない。 しかし実際には,同種事案につき形成・蓄積されてきた判例は,裁判にあたって重要な役割を果たしている。 判例自体は,法の解釈・適用という形でなされた具体的な事件の解決に過ぎないが,法律の解釈・適用にあたって,憲法およびその他の法律に具体性を付与し,欠けている部分を補ったり,新たな制度を形成したりすることがしばしばある。 法律は当初から変わっていないのに,その規律内容が変わってしまった場合などには,判例が大きな役割を有する。 例えば,民法分野での内縁保護,譲渡担保,労働法分野での解雇権乱用の法理など。 なお,最高裁判所の判例の変更は,最高裁判所の裁判官全員によって構成される大法廷によらなければならず(裁判所法§10.3),下級裁判所が最高裁判所の判例に反した場合には,上告理由となる(刑事訴訟法§405.2 や民事訴訟法§308.1)。

(3) 法と事実

sollen (=should) 「こうあるべきである」(価値判断)
事実sein (=be) 「現にこうなっている」(事実認定)

(4) 法と道徳

根本的相違:国家権力による強制の有無

法と道徳の関係
1.密接な関係法的義務付けと道徳的義務付けが一致する場合。⇒「法とは最小限の道徳である」
2.無縁法は,道徳よりも技術的でありかつ高度なもので,聖人君子を想定して規定されたものではない。
3.対立関係「ユダヤ人虐殺法や治安維持法のような悪法も法か」・「何を以て悪法というか」という問題の中で,法と道徳の対立関係が生まれる。

(5) 権利と義務

 権利とは,「意思」・「利益」・「法的な力」を基板として発生するものであり,一定の生活上の利益に関する法的な力である。 利益を得てはいるが法律で定められていない「反射的利益」とは区別される。 一方の義務は,権利に対して発生するもので,「作為義務」と「不作為義務」がある。

作為義務積極的な行為を求めるもの。「〜しなさい」
不作為義務消極的な行為を求めるもの。「〜するな」

 「憲法の人権規定は国家に対して不作為義務を課す」かどうかについて問題になることがある。

(6) 公法と私法

公法と私法
●公法:統治権・公権力の行使
憲法・行政法(内閣法・国家公務員法・行政訴訟法・警察法)・刑法・訴訟法(刑事訴訟法・民事訴訟法)・国際公法(条約・国際慣習法)
●私法
民法・商法・国際私法(法令・準拠法)
●どちらにも属さない法律
社会法(:私的自治を修正する:労働関係法・社会保障法)・経済法(:円滑な経済活動促進のために国家介入を規定:独占禁止法)

(7) 我が国の裁判制度

 司法権は最高裁判所および法律(=裁判所法)の定めるところにより設置される下級裁判所に属することになっている(憲法§76.1)。 司法権とは,紛争を解決するために法を事後的に適用する国家権力の作用をさすが,裁判所法の定める下級裁判所は,高等裁判所・地方裁判所・簡易裁判所・家庭裁判所の4種類である。

<1> 民事事件(:民法・商法・国際私法に関わるもの)

 民事事件の場合,訴訟を提起するものを原告,提起された相手を被告という(原告・被告の両者を当事者という)。 権利能力を有する人・法人は訴訟の当事者となりうるし,それ以外にも法人格を有しない団体(社団・財団)で代表者・管理者の定めのあるものは当事者になりうる。 どの,あるいはどこの裁判所に訴訟を提起するかという管轄の問題については,訴額(訴訟の目的の価額)が90万円以上なら地方裁判所,以下なら簡易裁判所の管轄となるという規定(裁判所法§24.1.1・§33.1.1), どこの地裁あるいは簡裁に訴訟を提起するかという土地管轄の問題は,民法に詳細な規定がある。
 民法上の紛争は,本来当事者間で自由に解決してよい権利ないし利益を巡る争いが手なものであり,また,当事者が一番事情を知っているはずであるから,訴訟の審理にあたっては当事者に事実ないし証拠の解明をゆだねる方がよい。 この点から,民事訴訟においては,訴訟の解決・審理の資料の収集を当事者の責任ないしは機能とする「弁論主義」(=「当事者主義」⇔「職権主義」)がとられている。 ただし,人の基本的な身分関係の確定・形成を目的とする人事訴訟など交易が関係する訴訟においては,弁論主義は大幅に排除されている。

<2> 刑事事件

 刑事事件においては,被害者の代わりに国家が被疑者を訴追し,刑罰権も独占している。 刑罰は,身体の自由や財産,生命などを制限するものであるため,ある種の人権侵害であるといえる。 このため,捜査過程における人権を守る規定として,憲法§31〜§40に刑事手続に関する人権保障規定(人身の自由)が定められている。 また,刑事罰を課すためには,構成要件該当性・違法性(阻却されることもある)・責任能力(ex. 刑事未成年14才未満:刑法§41)の3要件を満たす必要がある。
 刑事事件においては,職務質問(警察官職務執行法§3を根拠)・任意捜査(聞き込みや参考人からの聴取)・強制捜査(捜査令状による捜索・差押など)によって警察の捜査が行われ,犯人が特定されると,逮捕令状による逮捕となる (他に刑事訴訟法§213による現行犯逮捕,同§210による緊急逮捕などが認められているがいずれも憲法違反との指摘もある)。
流れ
 警察における被疑者は48時間以内に送検するか否かの決定が為され,送検された場合には24時間以内に裁判官の決定による拘留を請求するか否かの決定が為される(拘留は,罪証隠滅の恐れによる身体拘留の必要性による)。 拘留期間は10日(さらに10日の延長があり得る)である。 拘留場所は,本来法務省管轄の拘置所であるが,監獄法の規定により警察の留置場も認められる。 これを代用監獄といい,自白の強要や誤判,冤罪の温床であるとも言われる。
 被疑者を起訴するか否かの決定は,もっぱら検察官の裁量に委ねられている(起訴便宜主義)。 不起訴の場合,民間からランダムに選ばれた人が不起訴あるいは起訴相当の判断を行う検察審査会に見当を申し出たり,職権濫用罪などの場合に直接裁判所の審判に付す付審判請求が出来るが, 検察審査会の決定には法的拘束力がなく,付審判請求が認められることもまれである。 起訴は,検察官の起訴状の提出によって行われ,裁判官に予断を抱かせるようなものを付加してはならないことになっている(起訴状一本主義)。
 裁判は,被告人に対する人定質問,起訴状朗読,黙秘権の告知,罪状認否からなる冒頭手続に続弁護人(被告人)の最終弁論を経て判決にいたる。 裁判は原則公開で行われ,当事者(検察官・弁護人・被告人)の主張・立証を中心に行われるが,職権による証拠調もある。 有罪判決を出すためには,被告人が当該事件の犯人であることについて,裁判官が合理的な疑いを越える確信に至ることが必要で,そのような確信に達しない場合には,「疑わしきは被告人の利益に」の原則に従って無罪判決が言い渡される。 また,被告人は確定判決が出るまで無罪として扱われる。

<3> 行政事件

 行政事件では,行政の活動に関係する事件が扱われる。すなわち,行政庁の許認可・処分などの公権力行使に関する不服訴訟や公法上の法律関係に関する訴訟事件を言う。

<4> 控訴・上告など

 第1審で敗訴した当事者(控訴人)は,上級の裁判所に控訴することができ,控訴判で敗訴した当事者(上告人)は,さらに上告することができる。 例えば,第1審と控訴審では,法律問題(法律の解釈適用)と事実問題(事実認定)の両方が審理され(事実審),上告審においては事実審の行った裁判についてその憲法解釈の誤りの有無,その他憲法違反の有無が審査される。 従来,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反は上告理由とされてきたが,1996年の民訴法改正で,憲法解釈の誤りその他憲法違反がある場合に,最高裁への上告が制限され, 他方最高裁が法令の解釈に関する重要な事項を含むと認めた場合のみ,申し立てにより上告を受理する裁量上告制度が採用されるに至った。 なお,控訴を省略して上告を認める飛躍上告・跳躍上告の制度もある。 これは,例えば,民事訴訟では,当事者に事件の事実関係について争いがなく,法律問題についてだけ争いがあるような場合,速やかに上告審の判断を仰ぐことができるように認められた制度である。
 確定した裁判をもう一度やり直すことは原則として許されないが,一定の場合,すなわち,確定判決に問題がある場合と有罪判決を受けたものに有利な明らかな証拠がある場合,例外的に再審が認められている。 刑事事件の場合には,被告人に不利は再審は行われないことになっている。1979年以降再審無罪となった事件は,財田川事件・免田事件・松山事件・島田事件などであり,刑事裁判の運用の問題を提起した。

<5> 家庭裁判所

 婚姻,夫婦,離婚,相続の遺産分割など家族に関する事件は一般の民事事件と異なり,公開の法廷で白黒をはっきりさせることに馴染まない。 そうした紛争の処理にあたるのが家庭裁判所である。家庭裁判所は,家庭事件の審判・調停,少年保護事件の調査・審判を担当する(別表参照)。

II. 憲法学入門

(1) 憲法とは

 国家(ある一定の領土を基礎とし,固有の統治権のもとに,一定範囲の国民によって組織された組織的団体<=国家の三要素説>)という統治団体の存在を基礎づける基本法。

[性格]

  1. 自由の基礎法として自由主義(liberalism⇔福祉国家に否定的な自由至上主義とは異なる)に立脚する。
  2. 自由の最大の敵は,国家あるいは私人(企業・学校など)による人権侵害であることから,国家権力を制限するものとしての制限規範である。
  3. 自由を保障しているという点において最高法規性を有する。日本国憲法§98に明記され,法の階層構造の頂点に位置する。
  4. 国民の国政への参加と権力分立制の採用によって,国家の権力行使を抑制し,個人の私的な自由の領域ないし権利を確保しようとする近代立憲主義に基づいた近代憲法である。

(2) 日本国憲法の基本定理

1. 国民主権

●主権の意味
  1. 国家権力そのもの(国家の統治権)
    ex. 「国権の最高機関」(§41)「日本国の主権の及ぶ範囲」(ポツダム宣言8項)
  2. 国家権力の属性としての最高独立性
    ex. 「自国の主権を維持し,他国と対等関係に立とうとする」(前文3項)
  3. 国政についての最高決定権
    ex. 「主権が国民に存することを宣言」(前文1項)「主権の存する日本国民の総意に基づく」(§1)
●国民主権の意味するもの
  1. 権力性の契機:有権者(選挙人団)
  2. 正当性の契機:全国民(=権力行使を正当化する最終的権威は全国民)
●象徴天皇制(§1〜8)との関係
 象徴天皇(§1)と従来の天皇制の関係。従来の天皇制(統治権の総覧者)の確認かそれとも新たな制度か。 天皇の国事行為(§6・7)と天皇の私的行為(⇔公的行為)の関係。 国事行為は内閣の助言と承認に基づいて行われる(§3)が,この国事行為以外に何ができるのか,またできないのか。

2. 基本的人権の尊重

3. 平和主義(「戦争は立憲主義の最大の敵」)

(3) 日本国憲法の構成

1. 前文

 前文は裁判規範となりうるか,すなわち,前文を根拠にして裁判所に救済や訴訟を提起できるかが問題となる。 背景的権利となりうるとして平和的生存権を主張する説や法律的効力のない抽象的権利とする説,法律的効力を持つ具体的権利として裁判規範になるとする説がある。

2. 象徴天皇制(§1〜§8)

3. 平和主義と戦争の放棄(§9)

4. 権利章典(=人権カタログ:§10〜§40)

5. 統治機構(§41〜§99)

(4) 違憲審査制(§81)

 憲法は国の最高法規である(§98)であるから,憲法以下のあらゆる法規範は憲法に適合するものでなければならず,これに反する法律・命令などの「全部又は一部は,その効力を有しない」こととなる。 このような法律等の憲法適合性を判断する権限(違憲審査権)を憲法は裁判所に与えている。 その方法はアメリカと似ているが,日本独自の制度もある。 しかし,裁判の「民主的正当性」との関連で,立法機関である国会の議員は国民の代表であるのに対し,裁判官がそうでない以上,国民の代表が決めた法律を覆す権利がそもそも存在するのか否かという問題点も指摘されている。
 一般に,違憲審査制は,具体的な訴訟を前提として,通常の司法裁判所が審査を行う「付随的違憲審査制」と,特別な憲法裁判所を設置して具体的な訴訟事件を離れた審査を行う「抽象的違憲審査制」がある。 後者は独・仏・伊などで採用されている。日本がどちらに属するかは議論がある。 憲法は特に最高裁判所に対しドイツの憲法裁判所のような特別の権限を付与したものだと解する説もあるが,最高裁は警察予備隊違憲訴訟においてこの見解をはっきり否定している。 また元裁判官の伊藤正己のように,日本では違憲判決が少ない司法消極主義の現状から日本にも憲法裁判所を設けるべきだという意見もある。

★警察予備隊違憲訴訟(最大判 昭27.10.8)

 [事実] 当時の左派社会党委員長鈴木茂三郎は,国が昭和26年4月1日以降に行った警察予備隊の設置並びに維持に関する一切の行為が憲法9条に反して無効であることの確認を求める訴えを,直接最高裁に提起した。 鈴木茂三郎は,その際手続上の問題として,最高裁は憲法81条により一般の司法裁判所としての性格と,憲法裁判所としての性格を併有する,と主張したが,最高裁判所は訴えを却下した。
 [判旨] 諸外国の制度においては,司法裁判所が違憲審査を行う以外に,特別の機関を設けて,具体的訴訟事件と関係なく法律命令などの合憲性に関しての一般的抽象的な宣言をなし,それらを破棄・失効させる権限をもつものがある。 しかし,わが裁判所が現行の制度上与えられているのは司法権を行う権限であり,そして,司法権が発動するためには具体的な訴訟事件が提起されることを必要とする。 わが裁判所は具体的な訴訟事件が提起されないのに,将来を予想して憲法およびその他の法律命令等の解釈に対し存在する疑義論争に関し抽象的な判断を下すごとき権限を行い得るものではない。

●憲法判断の回避

 ひとつは,憲法判断をするまでもなく事件が解決する場合であり,恵庭事件がこれにあたる。

★恵庭事件(札幌地判 昭42.3.29)

 [事実] 北海道千歳郡恵庭町(現恵庭市)にある陸上自衛隊島松演習場付近の酪農民は,演習の爆音等によって乳牛に被害を受けたので,自衛隊に補償を請求したが,自衛隊法に補償規定がないことを理由に認められなかった。 そこで,牧場との境界線付近での射撃に際しては事前連絡するという紳士協定が成立した。 ところが,昭和37年12月11日,何の連絡もなくカノン砲の砲撃演習が開始されたので,Xら兄弟は現場に行って抗議したが,射撃が続行されたので,射撃命令伝達などのために敷設されていた連絡用の電話線を数カ所,ペンチなどで切断した。 この行為が,自衛隊法121条違反に問われたが,札幌地裁は無罪とした(確定)。
 [判旨] 一般に刑罰法規は,その構成要件の定め方において,できる限り,抽象的・多義的な表現を避け,その解釈運用にあたって,判断者の主観に左右される恐れの少ない明確な表現で規定されなければならないのが罪刑法定主義に基づく強い要請である。 本件罰条にいわゆる「其の外の防衛の用に供する物」という文言は,包括的・抽象的・多義的な規定方法である。
 本件罰条の文理的構造に照らすと,ひろく,自衛隊が所有し,または使用する一切の物件に対する損傷行為を処罰対象としているものではないことは明白であり, 「防衛の用に供する物」とは例示物件と法的にほとんど同列に評価しうる程度の密接かつ高度な類似性の認められる物件を指すというべきである。 Xらの切断した本件通信線がそれにあたるか検討してみると,前期例示物件との類似性の有無に関して実質的な疑問を差し挟む理由がある場合には, 罪刑法定主義の原則に基づき,これを消極的に解釈して,「防衛の用に供する物」には該当しないと考えるべきである。
 弁護人らは,本件捜査の当初から,自衛隊法全般ないしは自衛隊等の違憲性を強く主張しているが, 裁判所が一定の立法なりその他の国家行為について違憲審査権を行使しうるのは,具体的な法律上の訴訟の裁判においてのみであるとともに,具体的訴訟の裁判に必要な限度に限られる。 これを刑事事件に関して言うなら,当該事件の裁判の主文の判断に直接かつ絶対必要な場合にだけ,立法その他の国家行為の憲法適否に関する審査決定を為すべきことを意味する。 したがって,Xらの行為について,自衛隊法121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上,もはや弁護人ら指摘の憲法問題に関し,何らの判断を行う必要がないのみならず,これを行うべきでもない。

 もう1つは,政府・国会などの政治部門によってなされる国家行為をめぐって具体的な法的訴訟が提起され,しかも法的判断が可能であるにもかかわらず, その行為が高度に政治的であることを理由として,それに対する法的判断は司法権の外にある,という形で憲法判断が回避される場合がある。 いわゆる「統治行為論」である。苫米地事件判決によって採用されるに至るが,この統治行為論には諸説の指摘がある。

  1. 内在的制約説(司法権そのものに内在し,司法権を制約している)
  2. 自制説(司法権の範囲外だが,判断を自制している)
  3. 折衷説(1,2を折衷し,統治行為の内容を限定的に解釈する説)
  4. 統治行為否定説(統治行為論そのものを否定する説)

 「一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは」との留保付きの統治行為論にふれた判例として,砂川事件の最高裁判決,百里基地訴訟第1審判決,長沼ナイキ基地訴訟控訴審判決などがある。

★苫米地事件(最大判 昭33.6.8)

 [事実] 昭和27年8月に吉田茂内閣が行った衆議院の解散(いわゆる「抜打ち解散」)は,実質的にも手続的にも憲法違反であると考えた当時の衆議院議員苫米地義三は, まず,憲法81条からして最高裁は憲法裁判所としての権限を有するとして,直接に最高裁に本件解散の無効確認を求めて出訴したが,最高裁は,警察予備隊違憲訴訟の最高裁判決を用いて却下した。 そこで苫米地は,衆議院議員としての地位確認と任期満了までの歳費の支払いを求めて再び訴訟を提起した。 本件の主な争点は,本件解散は憲法69条に該当する場合でないのに単に憲法7条に依拠して行われたがゆえに無効であり, またそうでなくても,本件解散には憲法7条所定の内閣の助言と承認が適法になされたとはいえない,とする原告の主張の当否と, 衆議院の解散の適法性については裁判所は判断する権限がない(統治行為論)とする被告(国)の主張の当否であった。
 東京地裁は,憲法81条等を根拠として原則的に統治行為論を否定し,憲法7条による解散も違憲ではないが, 本件解散については,一部閣僚の賛成のみで適法な閣議決定があったとは言えず,内閣の助言があったとは言えないとして, 苫米地の主張を結論的に認め,歳費28万5000円の支払いを命じたが,東京高裁は,統治行為の否定に関しては第1審を支持しながらも,本件解散は合法・有効であったとして,第1審判決を取り消し,苫米地の至急を棄却した。 そこで苫米地は上告したが,最高裁は上告を棄却した。なお,本件解散については審査しうるとする4人の裁判官の違憲が付いた。
 [判旨] 現実に行われた衆議院の解散が,その依拠する憲法の条章について適用を誤ったがゆえに,法律上無効であるかどうか,これを行うにつき, 憲法上必要とさせられる内閣の助言と承認に瑕疵かしがあったがゆえに無効であるかどうかのごとこことは裁判所の審査権に服しないものと解すべきである。 憲法の三権分立制度の下においても,司法権の行使については自ずからある程度の制約は免れず,あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。 直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときは,たとえそれが法律上の訴訟となり,これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であっても, かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり,その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府,国会などの政治部門の判断に任され,最終的には国民の政治判断に委ねられていると解すべきものである。 この司法権に対する制約は,結局,三権分立の原理に由来し,当該国家行為の高度の政治性,裁判所の司法機関としての性格,裁判に必然的に随伴する手続上の制約にかんがみ, 特定の明文による規定はないけれども,司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきである。

●司法権の限界

 [部分社会論] 裁判所法§3により,裁判所は,憲法§55・§64等で定められた治外法権・国際法・衆参両院の自律権のようなものを除いて,一切の法律上の訴訟を裁判するとされているが, 自立的な法規範を持つ社会・団体内部での,一般社会に影響を与えない問題について裁判所は関知すべきでないとして,裁判所が法律上の訴訟について判断しない場合がある。 ただ,多様な団体を一括して部分社会とすることに批判も出ている。判例としては,村会議員出席停止事件,政党に対しては高度な自主性・自立性を認め,規約にのっとった除名は有効であるとした, 共産党袴田事件,日本新党繰り上げ当選無効訴訟,大学も一種の部分社会であり,単位認定などは一般社会に影響のない大学内の問題とした富山大学単位不認定等違法確認訴訟などがある。

★村会議員出席停止事件(最大判 昭35.1.19)

 [事実] 新潟県のある村の合併に伴う村役場の位置をめぐる対立の中で,村会議開会の劈頭へきとうに,これに反対する村会議員2名に対し, 議事を混乱に陥れているという理由により3日間の出席停止という懲罰動議が出されて,これが可決され,その後これら2名を除いて,村役場位置条例改正案が3分の2以上の賛成で可決された。 しかし,村会議の会議規則によると,懲罰事由は動議提出当日の事犯でなければならないとされており,出席停止処分を受けた2議員が,この決議及び該位置条例改正決議等の無効を争った。 第1審,第2審ともに裁判所は,3日間の出席停止処分は既に過ぎてしまっているから,原告に訴えの利益がないとして訴えを却下し,最高裁は上告を棄却した。
 [判旨] 裁判所法3条にいう「一切の法律上の訴訟」とは,あらゆる法律上の係争という意味ではない。 一口に法律上の訴訟と言っても,その範囲は広範であり,その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外に置くを相当とするものがあり,自律的な法規範を持つ社会ないしは団体にあっては, 当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ,必ずしも裁判にまつを適当としないものがある。本件出席停止のごとき懲罰はまさにそれに該当する (もっとも,議員の除名処分のごときは議員の身分喪失に関する重大事項で,単なる内部規律の問題に止まらないのであって,本件における議員の出席停止のごとく議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ずから趣を異にしている)。

 [宗教的紛争] 具体的な権利義務に関する法律上の訴訟であっても,その前提問題として宗教上の協議などの判断が不可欠な場合に裁判所は判断をしないことがある。 最高裁は,日蓮正宗管長地位不存在確認事件判決において,具体的な権利義務ないしは法律関係に関する紛争であっても,法令の適用により終局的に解決できない事柄については判断できないとした。その他には,「板まんだら」事件などがある。

●違憲判断の方法

 [合憲限定解釈] 合憲な憲法判断や憲法解釈を示す。

都教組事件
 地方公務員法§37.1項,§61.4号の規定は,文言通りには違憲の疑いがあるが,憲法との調和から限定的に運用するならば合憲。 国家公務員法における公務員の労働基本権の制限は,合理性の認められる最小限度に止められなければならないとした。
札幌税関検査違憲訴訟
 憲法§21.2の「検閲」の意味を定義。「検閲とは,行政権が主体となって,思想内容等の表現物を対象とし,その全部又は一部の発表の禁止を目的として, 対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に,発表前にその内容を審査した上,不適当と認めるものの発表を禁止することを,その特質として備えるものを指す」
福岡県青少年保護育成条例判決
 当該条例の「淫行」の意味を定義。

 [法令違憲] 法令の規定それ自体を違憲だとする手法。

尊属殺人重罰規定違憲判決
 刑法§201の尊属殺重罰規定が違憲。
森林法違憲判決
 §186が分割請求権を侵害しているとして違憲。
衆議院議員定数配分規定違憲判決

 [適用違憲] 法令自体を違憲だとすることを避け,むしろ法令が適用される事例の特殊性に着目して,法令の規定がこのような事例に適用される限りにおいて違憲とする手法。

猿払事件
 旭川地裁:労働組合活動の一環として,勤務時間内にあるいは国の施設・職務を利用して行われた政治的活動と認められるものに刑罰を課す国家公務員法§110.1項19号が,当該事件での被告に適用されることが違憲とした。

●法令違憲判決の効力

 [一般的効力説] 違憲判決の出た法令は法典から削除されるべきとする説
 [個別的効力説] 当該事件のみに適用されないのであり,法律の存在そのものには影響しないとする説(適用違憲に近い)
 [法律委任説]

III. 基本的人権

(1) 総説(「人権とは何か」)

1. 人権の概念

●固有性
 憲法や天皇から恩恵として与えられたものでなく,人間であることにより当然に有しているもの。人として元々持っている権利を憲法が明記することで確認している(§11・§97)。
●不可侵性
 原則として公権力によって侵されない。歴史的には,人権を侵害する最大のものは国家権力であったが,最近では,企業・メディア・労働組合などの社会的権力による人権侵害が問題となっている。 「自由は,他人を害しない全てのことをなし得ることに存する」(フランス人権宣言§4)
●普遍性
 人種,性,身分などの区別に関係なく,人間であるという,ただそれだけで当然に全て享有できる。

2. 人権の内容

●自由権
 国家が個人の領域に対して権力的に介入することを排除して,個人の自由な意思決定と活動を保障する人権。 「国家からの自由」(国家に対して不作為義務を課す)<精神的自由・経済的自由・人身(身体)の自由>
●参政権
 国民の国政に参加する権利。自由権の確保に仕える。「国家への自由」<選挙権・被選挙権・公職就任権>
●社会権
 資本主義の高度化に伴って生じた失業・貧困・労働条件の悪化などの弊害から,社会的・経済的弱者を守るために保証されるに至った人権。 国家に対して一定のサービスを求めるもの。「国家による自由」<給付請求権など>

3. 日本国憲法における人権の分類

  1. 包括的基本権・幸福追求権(§13:憲法の明文規定にない環境権やアクセス権のような保証されるべき人権の受け皿になる)
  2. 法の下の平等(§14)
  3. 自由権
  4. 受益権(国務請求権)[裁判を受ける権利(§32)・請願権(§16)]
  5. 参政権(§15)
  6. 社会権

4. 人権の主体

●外国人
 人権の享有主体性と国籍の関わりについては議論がある。人権カタログの第3章の章題は「国民の権利および義務」となっており,この国民と国籍の関係が問題となる。外国人の人権については次のような3説がある。
  1. 無適用説(国籍がなければ一切適用されないとする説)
  2. 文言説(「国民」の文言しかないものは国籍が必要であり,「何人」とあるものは外国人にも (印刷が欠けていたため解読不能)
  3.  (印刷が欠けていたため解読不能) とする説(最高裁は早くからこの説を支持)。

 一般には,参政権・社会権・入国の自由などは保障されず,保証される程度・限界は,例えば政治活動の自由のように,日本国民と全く同じというわけにはいかない。 国籍法§2では,出生のとき父母のいずれかが日本国民であればその子は日本国民であるとする血統主義を採用している(⇔出生地主義:国内で生まれれば国籍を取得できる)。 判例としては,入国の自由が争われたマクリーン事件がある。入国の自由は,自国の安全に関わる場合は勿論,基本的に入国させるか否かはその国の自由裁量であるとされた。 定住外国人の参政権が争われた定住外国人の選挙権事件もある。本来参政権は,国民が自分の属する国の政治に参加する権利であり,当該国民のみに適用されるものであるが,最近では,地方自治体レベルでは定住外国人の選挙権を認める説が有力である。 とはいっても,最高裁は,定住外国人に選挙権を認めることが憲法上要請されているとする要請説の立場には立たず,選挙権を与えることも許容されるとする許容説に立っている。 また,社会権については,原理的に認められないものではなく,財政的余裕があれば享有できるものとされ,最近では,難民条約や人権規約などによって,国籍条項の撤廃などを中心として,社会権が認められつつある。

★マクリーン事件(最大判 昭53.10.4)

 [事実] 上告人マクリーンは米国国籍を有する外国人で,1969年に在留期間1年の上陸許可を得て入国し,英語教師をしたりしていた。 その期間が切れる直前に,彼が1年間の在留期間の更新を申請し,出国準備期間として120日間更新が許可されたが, その後さらに1年間の更新を申請したところ,法務大臣は,在留期間中の無断転職と外国人べ平連などの政治活動を理由に許可しないとする処分を行った。 そこで彼は,この処分の取り消しを求めて出訴した。 東京地裁は訴えを認め,不許可処分を取り消したが,東京高裁は逆に,法務大臣の処分を認めて第1審判決を取り消し,申請を棄却し,最高裁も上告を棄却した。
 [判旨] 憲法22条1項は,日本国内における居住・移転の自由を保障する旨を規定するにとどまり,外国人が我が国に入国することに関しては何ら規定していない。 従って,憲法上,外国人は我が国に入国する自由を保障されているものではないことは勿論,所論のように,在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではない。
 基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き,我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきであり, 政治活動の自由についても,我が国の政治意思決定又はその実施に影響を及ぼす活動等,外国人の地位にかんがみこれを認めることが相当でないと解されるものを除き,その保証が及ぶと解すべきである。 しかし,我が国に在留する外国人は,法務大臣がその裁量により更新を適当と認めるに足る相当の理由があると判断する場合に限り,在留期間の更新を受けることができる地位を与えられているに過ぎず, したがって,外国人に対する憲法の基本的人権の保障は,右のような外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎないのであって,在留の許否を決する国の裁量を拘束するまでの保証, すなわち,在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に,消極的な事情として斟酌しんしゃくされないことまでの保証が与えられているものと解することはできない。

★定住外国人の選挙権事件(第三判 平7.2.28)

 [事実] Xら11名は,日本に生まれ大阪市内に居住する韓国籍の定住外国人であるが,平成2年9月1日登録の選挙人名簿に登録されていなかったので,Xらを名簿に登録するよう異議の申し出をしたが却下されたため, 公職選挙法9条2項が地方公共団体に関する選挙の選挙権を有するものの要件としている「日本国民」の中には,日本で生まれて日本で教育を受け,日本の社会に生活の本拠を置き,日本語を話し租税を納めているなど, ほとんどの点で何ら日本人と異なるところのない定住外国人を含むと解すべきであるなどとして,現行制度が憲法14・15・92・93条等に違反すると主張した。
 [判旨] 憲法15条1項の規定は,国民主権の原理に基づき,公務員の終局的任免権が国民に存することを表明したものに他ならず,憲法の国民主権の原理における国民とは,日本国民すなわち我が国の国籍を有するものを意味することは明らかであり, 憲法15条1項の規定は,権利の性質上日本国民のみを対象とし,右規定による権利の保障は,我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。 国民主権の原理及びこれに基づく憲法15条1項の規定の趣旨にかんがみ,地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素を為すものであることをも併せ考えると, 憲法93条2項にいう「住民」とは,地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり, 右規定は,我が国に在留する外国人に対して,地方公共団体の長,その議会の議員などの選挙の権利を保障したものということはできない。 しかし,憲法第8章の地方自治に関する規定の趣旨からすると,我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であって, その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められる者について,その意志を日常生活に密接な関係を有する地方公共団体の公共的事務の処理に反映させるべく, 法律を以て,地方公共団体の長,その議会の議員などに対する選挙権を付与する措置を講ずることは,憲法上禁止されているものではないと解するのが相当である。 しかしながら,右のような措置を講ずるか否かは,専ら国の立法政策に関わる事柄であって,このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではない。

●法人
●未成年

5. 私法関係と人権

 憲法特にその人権規定は,歴史的にいって,国家の権力行使に枠をはめて個人の基本的な自由を守るという思想に基づいている。 近代法は,私的な社会関係を原則的に私的自治による契約の自由に委ね,国家権力がこれに干渉することはできる限り避けるべきであるとしてきた。 しかし,現実の権利侵害は,必ずしも国家や公共団体の権力行使によってばかりではなく,学校・企業その他様々な私的団体の内部でも生じている。 したがって,これらの原則は,特に現代社会では全面的には妥当しないかもしれないが,日本国憲法の下でも基本的にはこれらの原理を維持しながら,いかに現代社会の諸問題を憲法の理念に沿うように解決するかが重要である。
 憲法の人権規定の私人(第3者)間効力については,次の3説がある。

  1. 無効力説:憲法の人権規定は私人間に適用されないとする説。
  2. 間接適用説:民法90条などの司法の一般条項を用いて,私人間の人権侵害に適用する説。
  3.  (印刷が欠けていたため解読不能) 

 最高裁は,三菱樹脂事件においては,企業の自由を広く認めて,憲法は企業と労働者のようないわばヨコの関係には,原則的に介入すべきでないという消極的見解を示していたが,日産自動車事件において間接適用説を採用している。

(2) 生命・自由及び幸福追求権(§13)

1. 包括的基本権としての憲法13条

 憲法の人権規定が全ての人権を網羅しているわけではない。そのため,新たな人権の根拠として,この憲法§13の規定が用いられることがある。しかしその場合,この規定の射程(保護領域)が問題となる。

  1. 人格的利益説:人格的生存にとって不可欠な利益を保護するとする説(2. よりも有力)。
  2. 一般的自由説:人のあらゆる生活活動領域の一般的な行動の自由を保護するとする説。

2. 幸福追求権の具体的内容

●外国旅行の自由
 旅券法に「日本国の利益・公安を害する恐れのある者には旅券を発行しない」とある規定をめぐって争った帆足計事件(最大判 昭33.9.10)がある。
●プライバシーの権利
 「ひとりぼっちで放っておいてもらう権利」:情報プライバシー権・自己情報コントロール権

 プライバシー権は元来,民法の不法行為を構成する観念の一つとして捉えられ,宴のあと事件でも,基本的に不法行為法上の人格権の一部として理解されている。 この事件は,三島由紀夫のモデル小説「宴のあと」が原告のプライバシーの侵害であるとして,三島と出版社に対する損害賠償と謝罪広告の請求が為されたものである。 裁判所は,いわゆるプライバシーの権利を「私生活をみだりに公開されないという法的保証ないしは権利として理解される」とし,プライバシー侵害に対して損害賠償などの法的救済が与えられるための三要件を初めて示して注目された (この事件では一方で,作家の表現の自由と,モデルとなった人物のプライバシーをどう調停するかが問題となっている)。 しかし,こうした私人間の紛争だけでなく,特に現代の情報化社会においては,公法的にも保護されるべき権利としての側面も重要になっている。 最高裁は,京都府学連デモ事件においては肖像権に関連して,憲法13条は,「国民の私生活上の自由が,警察権などの国家権力の行使に対しても保証されるべきことを規定している」とし, その具体的権利性を承認し,そのような私生活上の自由の一つとして,何人も本人の承諾なしに,みだりにその容貌・姿態などを撮影されない自由(これを肖像権と称するかは別として)を有すること, したがって,警察官が,正当な理由もないのに,個人の容貌などを撮影することは憲法13条の趣旨に反し許されないことを一般論は認めている。 また,前科紹介事件では,犯罪歴という,人が秘匿しておきたい情報の開示に関わる公権力の行使が問題となった。

●自己決定権
 憲法13条は,自己に関わる私的な事柄について,公権力による干渉を受けずに自ら決定し行動しうる権利(自己決定権)を保証しているとの理解が有力になっている。
[自己の生命]

 (印刷が欠けていたため解読不能) 生命維持装置による延命治療を拒否して,「人間らしい品のある死に方」(尊厳死)を選び取る自由を, 一定の条件下で許容すべきかどうかの問題や,いわゆる安楽死,特に死期を早める積極的な安楽死の問題である。 最近ではこれが「リヴィング・ウィル」の問題と関連させて論じられている。
 安楽死に関わる判例としては,山内事件(名古屋高判 昭37.12.22)と東海大学附属病院事件(横浜地判 平7.3.8)がある。
 山内事件においては,安楽死という行為の違法性を阻却する要件として,次の6要件を掲げた(いわゆる「福祉本意だ」)。 第1審では尊属殺人罪が適用されたが,第2審では嘱託殺人罪を認め,安楽死により無罪という弁護人の主張を退けた。

  1. 不治の病に冒され,その死が目前に迫っていること。
  2. 苦痛が甚だしく,何人もこれを見るに忍びない程度であること。
  3. 苦痛の緩和を目的として安楽死が行われたこと。
  4. 本人の真摯しんしな嘱託又は承諾のあること(病者の意識がなお明瞭であって,意志を表明できる場合)。
  5. 医師の手によることを本則とし,これにより得ない場合には,医師により得ないと首肯するにたる特別な事情があること。
  6. 安楽死の方法が倫理的にも妥当なものとして許容しうること。

 東海大学附属病院事件では,医師が,多発性骨髄腫の患者に対し,その妻及び長男の懇請に応じて,点滴を外すなど治療の中断をするとともに, 意識不明の状態にある患者に塩化カリウムを注射して死亡させたという事案につき,殺人罪が認められた。 そこでは,安楽死に関して4要件を示した。本件の場合には,患者にはすでに肉体的苦痛はなく,意思表示もなかったとされている。

  1. 耐え難い肉体的苦痛
  2. 死の不可避性と切迫性
  3. 代替手段の不在
  4. 患者の意思表示(間接的安楽死の場合は患者の推定的意思でも足りるが,積極的安楽死の場合には明治の意思が必要であるとした)

 また,尊厳死についても2要件を示した。

  1. 治療不可能で回復の見込みがなく末期状態にあること。
  2. 治療の中止を求める患者の意思表示があること(存在しない場合は,リヴィング・ウィル又は家族による本人の意思の推定も許される)。

 本件の場合は,患者の苦痛に関して家族は正確に理解しておらず,家族と医師の意志疎通も不十分であって,本人の意思を推定できないとされている。

[家族の維持・形成]
避妊
妊娠中絶
 優生保護法が改正されて現在は母胎保護法に基づいて行われている。諸外国では,一定期間の申し出なら事由を問わない期間型と一定の事由を満たす場合に限る適応型とがあるが,母胎保護法ではこの適応型をとっている。
夫婦別姓
[その他]
髪型・服装の自由
パーマ禁止校則事件
熊本男子中学生丸刈り校則事件
 丸刈り校則の強制が,§14(居住地・性別による差別禁止)・§21(表現行為)・§31(法定手続の保証)に違反しているか否かが争われた。 熊本地裁は,差別に該当しない,髪型や服装は表現行為に該当しない,校則は法定上適正手続だったとし,また校則の強制が校長の裁量権を逸脱しているとの主張も裁量権の範囲だとして退けた。
バイク規制
修徳学園バイク退学事件

(3) 法の下の平等

1. 総説

●平等の概念
  1. 形式的平等(機会の平等)
  2. 実質的平等(結果の平等:アメリカ等では,機会の平等確保だけでは不十分だとして,積極的差別是正措置をとることもある)
●自由と平等
 実質的平等確保のための自由侵害もあり得る(簡単には両立しない)。
●日本国憲法における平等原則
14条[法の下の平等]
15条3項[選挙権]・44条[議員及び有権者の平等]
24条[家族関係における両性の平等]
26条[教育の平等]

2. 法の下の平等の意味

●14条1項前段の意味
 「法の下の平等」が具体的に何を意味するのかは従来より議論がある。
  1. 法適用平等説(立法者非拘束説:行政・裁判所を拘束)
  2. 法内容平等説(立法者拘束説:行政・裁判所以外に立法者も拘束)
 概ね 2. が有力である。2. は,本状の趣旨は不合理な差別を禁止することにあり,不平等な方をいかに上手く運用しても結果は不平等とする立場に立っている (逆に言えば,合理的な差別は許容されることも説いている。ただ,何を合理的とするかについては議論がある)。
●14条1項後段の列挙事由(人種・信条・性別・社会的身分又は門地)
  1. 法適用平等(立法者非拘束)説:後段に列挙された者に関しては立法者も拘束され,これらの事項による差別は原則として絶対禁止だとする。
  2. 法内容平等(立法者拘束)説
    1. 同一内容説(法の下の平等を言い直して,後段の列挙表現は具体的に指示)
    2. 例示的列挙説(単なる例示にすぎない)
    3. 原則的禁止事項説(原則として差別が禁止されるべき事項の列挙)
●相対的平等
 <立法目的>・<立法目的を達成する手段>の両者について,別異扱いに合理性があるか否かを判断せねばならない(合理的差別は許容)。

3. 平等の個人問題

●性別による差別
  1. 労働関係における性差別
     判例上特に事例の多いのは,女子のみについて「結婚退職制」や「男女別定年制」を設けている企業の就業規則が問題となる場合である。 「結婚又は満35歳に達したときに退職する」旨の念書を提出させていた住友セメント事件では,東京地裁が,このような就業規則には合理的理由がないとし,結婚退職制は民法§90の公の秩序に反して無効であるとした。 日産自動車事件では,最高裁として初めて,年齢差が5歳を越える男女別定年制に関しても無効判決が出た。
     労働基準法§3では性別に関係ない均等待遇,§4では男女同一労働同一賃金を定めており,1979年の国連総会で採択された女子差別撤廃条約に刺激を受けて,1986年に施行された男女雇用機会均等法が制定された。
  2. 婚姻年齢(民法§731)
  3. 再婚禁止(待婚)期間規定(民法§733):再婚禁止期間違憲訴訟(最三判 平7.12.5)
●非嫡出子の法定相続分(民法§900.4号但書)
★非嫡出子法定相続分規定事件(最大決 平7.7.5)

 現行民法が法律婚主義を採用しているために,婚姻関係にある親から産まれた子とそうでない子とについて相続上の差を設けていることが,法の下の平等を定めた憲法14条に違反しないかが争われた。 最高裁は同条を合憲とした。これには,5人の裁判官の反対意見がついた。 平成の家族法改正の議論の当初には,本件規定の問題は取り上げられていなかったが,この抗告事件が出されたことで,非嫡出子と嫡出子の法定相続分を平等とするよう改正が行われることになった。
 [決定要旨] 本件規定の立法理由は,法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに,他方,非相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して, 非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分を認めることにより,非嫡出子を保護しようとしたものであり,法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図ったものと解される。 現行民法は法律婚主義を採用しているのであるから,右のような本件規定の立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり,本件規定が非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としたことが, 右立法理由との関連において著しく不合理であり,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできず,本件規定は,合理的理由のない差別とは言えず,憲法14条1項に反しない。

● (印刷が欠けていたため解読不能) 
★尊属殺人重罰規定(刑法§200)違憲判決(最大判 昭48.4.4)

 この最高裁判決では,本件規定の<立法目的>と<立法目的を達成する手段>が問題とされた。 判決は,15人中8人の裁判官が支持した手段違憲説をとったが,他6人は目的そのものが違憲とする目的違憲説をとり,1人は目的・手段ともに合憲であるとした。 つまり,判決によれば刑罰の加重の程度が極端でなければ合憲であることになり,その後の最高裁判決もこのことを確認したが, 刑法の平仮名化を目的とする1995年の改正で,尊属殺人罪を含む尊属犯罪重罰規定がすべて削除された。
 [判旨] 刑法199条の他に刑法200条を置くことは,憲法14条1項の意味における差別的取り扱いにあたるというべきである。 そこで,刑法200条が憲法の右条項に違反するかどうかは,このような差別的取り扱いが合法的根拠に基づくものであるかどうかによって決せられる。
 刑法200条の立法目的は,尊属を卑俗又はその配偶者が殺害することを以て一般に高度の社会的道義的批判に値するものとし, かかる所為を通常の殺人より厳重に処罰し,以て特に強くこれを禁圧しようとするにあるものと解される。 尊属に対する尊重思想は,社会生活上の基本的道義というべく,このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は,刑法上の保護に値する。 したがって,自己又は配偶者の直系尊属を殺害するがごとき行為をあえてした者の背倫理性は特に重い非難に値する。
 それゆえ,普通殺の他に尊属殺という特別の罪を設け,その刑を加重すること自体は直ちに違憲であるとは言えないが,刑罰加重の程度が極端であって, 立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失し,これを正当化すべき根拠を見出しえないときは,その差別は著しく不合理なものといわざるを得ず,かかる規定は憲法14条に違反して無効である。 このような観点から刑法200条を見ると,同条の決定刑は死刑又は無期懲役刑に限られている点において,普通殺人罪に関する同法199条の決定刑と著しい対照をなしている。 こうして見てくると,尊属殺の決定刑は,死刑又は無期懲役刑に限られている点において,あまりに厳しいものというべく,上記のごとき立法目的のみを以てしては, これにつき十分納得すべき説明がつきかねるところであり,合理的根拠に基づく差別扱いとして正当化できない。
 以上の次第で,刑法200条は,その立法目的達成のため必要な限度をはるかに越え,著しく不合理な差別取り扱いをするものと認められ, 憲法14条に違反して無効であるとしなければならず,尊属殺にも刑法199条を適用するほかはない。

●議員定数不均衡
★衆議院議員定数配分規定違憲判決(最大判 昭51.4.14・昭60.7.17)

 日本国憲法は15条1項で選挙権を,また3項で普通選挙を,そして4項で投票の秘密を保証しているほか,44条でも選挙権の平等を確保している。 ところが,人口の移動に即応して,議員定数が適正に更正されないために,いわゆる「一票の重み」すなわち投票が選挙結果に及ぼす影響力(投票の価値)に極端な不均衡が生じる場合がある。 これが,選挙の平等の問題として数多くの裁判で争われている「議員定数不均衡」の問題である。
 すでに1962年(昭37)年7月の参議院議員選挙に関して最大格差4.09倍という不均衡が問題とされていたが,最高裁は「立法政策の問題」として違憲の主張を退けていた。 1972(昭47)年12月の衆議院議員選挙の際の兵庫5区と千葉1区との格差4.81倍(最大格差は4.98倍)に対して,東京高裁は合憲判決を出した。 このため,これを不服とする原告の上告に対し,最高裁はこれを破棄自判し,衆議院議員定数配分規定違憲判決(最大判 昭51.4.14)において, 衆議院の議員定数を定めた公職選挙表の別表1を違憲としたが,行政事件訴訟法31条規定,いわゆる事情判決の法理を用いて,選挙自体は無効としなかった。 最高裁はその後も,1980(昭55)年6月選挙当時の最大格差3.94倍につき,投票の格差は違憲状態に至っていたことを認定しながらも, 合理的期間内に是正がなされなかったとの断定は困難であり,できるだけ速やかに改正されることが強く要望されると警告した(最大判 昭58.11.7)。 しかし,この「違憲状態」判決後の1983(昭58)年12月選挙の最大格差4.41倍に対する判決(最大判 昭60.7.17)では,再び上述のような事情判決の方法が採用された。 最近の判決としては,1992(平4)年改正による選挙法のもとで行われた1993年7月選挙の2.82倍について,上記の昭和58年判決を踏襲した合憲判決がある。 衆議院議員選挙は,従来いわゆる中選挙区制のもとで行われてきたが,1994年の改正により,小選挙区比例代表並立制が導入され,これに基づく初めての選挙が1996年10月20日に行われた。 しかし,この制度下でも1票の格差の問題は完全には解決されていない。
 他方,参議院議員の選挙区選出議員の定数配分規定(公職選挙法別表2)について,最高裁は従来,衆議院とは異なる参議院の特殊性を理由として,国会の有する広い立法裁量を認めて合憲とし(昭58), その後もこの判例が踏襲されていたが,6.59倍にまで拡大した格差を最高裁が初めて違憲状態であると認定しつつ,選挙の無効請求は棄却する判決が出た(平8)。 なお,公職選挙法は,地方議会の議員定数については,「人口に比例して」条例で定めるべきであると規定しており, 東京議会の議員定数について,公職選挙法違反であり違法とする最高裁判決もある(最一判 昭59・最三判 平3など)。

(4) 精神的自由権

1. 総説

 精神的事由と経済的自由の二重基準論に対しては,民主的な精神活動に優越的な価値を認める。

2. 思想・良心の自由(§19)

●その他の精神的自由との関係=内面における精神活動に対する統一的な条項。
●思想と良心(=諸外国では信教の自由と同一のものとして規定されている)
 良心が何を指すのかについても,信条説と内心説がある。
●思想・良心の自由の保障と効果
  1. 思想統制の禁止(公権力がメディア等を通じて特定の思想を流すことは許されない)
  2. 沈黙の自由(自分の信条の告白を国家によって強制されない)
  3. 思想・良心の推知の禁止
  4. 思想・良心を理由とする不平等取り扱いの禁止
★謝罪広告事件(最大判 昭31.7.4)

 [事実] 被告Yは,衆議院議員選挙に徳島県から立候補し,その選挙運動期間中にNHKラジオでの政見放送において,対立候補である原告Xが, 県副知事在任中に発電所の発電機購入に絡んで業者から800万円の斡旋料を受け取ったという虚偽の事実を公表し,また訴外Aは,徳島新聞紙上で公開状と称してYに釈明を求めた。 これに対し,Yが翌日の同紙上で先の事実を再び公表したので,Xは,これが事実無根であり名誉を著しく傷つけられたとして,名誉回復のための謝罪文のラジオでの放送と新聞史上への掲載を求める訴えを起こした。 第1審はラジオでの放送は認めなかった以外は原告Xの請求を認め,Yに対しラジオ放送や新聞記事が「真実に相違しており,貴下の名誉を傷つけご迷惑をおかけいたしました。 ここに陳謝の意を表します。」という文面の謝罪文を徳島新聞他3紙上に掲載することを命じ,高裁も原判決を支持した。 そこでYは上告し,自己の全然意図しない言説をYの名前で新聞に掲載せしむるのごときは,Yの良心の自由を侵害するものだと主張したが,最高裁は上告を棄却した。 しかし,「良心」の意味するところについて,1名の補足意見,1名の意見,2名の反対意見がついた。
 [判旨] 民法723条にいう「適当なる処分」として謝罪広告を新聞紙等に掲載すべきことを加害者に命ずることは, 従来学説判例の公認するところであり,またその掲載は我が国国民生活の実際においても行われている。 もっとも謝罪広告を命ずる判決にもその内容上,これを新聞紙に掲載するかどうかを謝罪者の意思決定に委ねることを相当とするものもあり, 時にはこれを強制することが責務者の人格を無視し著しくその名誉を毀損きそんし意思決定の自由ないし良心の自由を不当に制限することとなり, いわゆる強制執行に適さない場合に該当することもあり得るであろうけれど,単に事態の真相を告白し陳謝の意を表明するにとどまる程度のものにあっては,この強制執行もなし得る。 少なくともこの種の謝罪広告を新聞紙に掲載すべきことを命ずる原判決は,Yに屈辱的もしくは苦役的労苦を科し,又はYの有する倫理的な意志,良心の自由を侵害することを要求するものとは解せられない。

3. 信教の自由と政教分離原則

●総説
●宗教とは
●信教の自由(憲法20条前後)
  1. 信仰の自由:内心で信仰するあるいは信仰しない自由。信仰を告白するあるいは告白しない自由。
  2. 宗教的行為の自由
    ★加持祈祷事件

     精神障害の治癒を依頼されて,線香護摩による加持祈祷を行った結果,精神障害者を心臓麻痺で死亡させた僧侶が,傷害致死罪に問われた事件で, 最高裁は当該行為が「著しく反社会的」で「信教の自由の保障の限界を逸脱した行為」であるとして原審の有罪判決を支持した。

    ★種谷牧師事件

     窃盗などの事件の犯人として警察が追求していた高校生2人を教会内に宿泊させたとして,犯人蔵匿罪に問われた牧師の行為につき, 信教の自由の一内容としての牧会活動であるとして,被告人を無罪とした神戸簡裁の事例がある。

  3. 宗教的結社の自由

     宗教法人法は,宗教団体が法人格を取得する道を開いているが,§81では「法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」をしたこと等の事由が認められるときは,裁判所が当該法人の解散を命じることができるとしている。 最高裁は,宗教法人「オウム真理教」解散命令に関して,上記の加持祈祷事件の判決を引用して合憲とした(オウム真理教の解散問題に関しては,破壊活動防止法との関わりで議論がある)。

    ★オウム真理教解散命令事件(最一判 平8.1.30)
●政教分離原則(憲法20条後段)
 宗教団体が国から特権を受けたり政治上の権力を行使したりすることを禁止し,同条3項は,国及びその機関(地方公共団体を含む)が「宗教的活動」を行うことを禁止している。 これがいわゆる政教分離原則である。憲法89条はこれを財政的側面から裏付けている。この原則の法的性格を制度的保証と解することの是非ないしは意味については見解が分かれている。
 津地鎮祭訴訟において,名古屋高裁は「政教分離原則」の法的性格を徹底的分離と解し,津市が主催して行った起工式の合憲性について極めて詳細な検討を加え,本件起工式を合憲とした。 しかし最高裁は,一部破棄自判して,起工式を合憲とした(ただし,5名の裁判官が反対意見を書いた)。ここで用いられた議論が,いわゆる目的・効果基準を導入した相対的解釈である。 すなわち,本件起工式の目的は,建築着工に際し,工事の無事安全を願い,社会の一般的慣習に従った儀礼を行うという専ら世間的なものと認められ,その効果は, 神道を援助,助長,促進し又は他の宗教に圧迫,干渉を加えるものとは認められないのであるから,憲法20条3項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが相当である。
 このほか,政教分離原則に関わる重要な事件として,殉職自衛官合祀訴訟や,箕面市忠魂碑・慰霊祭事件がある。 前者では,自衛隊退職者の親睦団体である山口県隊友会が釜石市内で公務中に交通事故で死亡した自衛官を,その妻の意思を無視して護国神社の祭神として合祀申請手続した行為への,自衛隊山口地方連絡部の関わりが問題となった。 最高裁は,ここでも目的効果基準に言及しつつ,この申請手続は隊友会の単独行為であり,自衛隊職員の行為は事務的協力にとどまり,宗教的活動ではないとした。 後者では,自治体の公費による忠魂碑の移設と,その前で挙行される遺族会による慰霊祭が,政教分離に違反しないかどうかが争われた事件である。 最高裁は,(1) 忠魂碑が戦没者記念碑的な性格のものであり,特定の宗教との関わり合いは少なくとも戦後においては稀薄であること,(2) 遺族会は宗教団体ではないこと, (3) 忠魂碑移設行為の目的は専ら世俗的なものであり,慰霊祭への公務員の参列行為も相当とされる限度を超えるものと認められない,とした。
 信教の自由と政教分離原則が緊張関係に立つように見えることもある。神戸高専剣道実技許否事件はそうした典型的な事例である。

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