四日市弁小辞典

三重県四日市市を中心とする、いわゆる北勢地方にて使われている非常に興味深い言葉《四日市弁》をここに紹介したい。

 

 

 

 

 

         

 

四日市のシンボル?「万博オーストラリア館」

−カンピンタンの話−

真夏の太陽がギラギラと照りつける路上で、無惨にも車に轢かれてペッチャンコになってしまった大自然の生き物―――これはガマガエルに代表されなければならない―――のカラカラに干涸らびたミイラのような姿・状態を四日市では「カンピンタン」という。すり傷がかさぶたになった状態や食べ物がひからびてパリパリになったときもカンピンタンという。
数年前に、私が四日市に単身赴任した際に耳にした興味深い四日市特有のことばの中で、最も印象的な、何となくうれしくなる言葉が「カンピンタン」だったのだ。独断で漢字にすると「乾平反」とあててみたいと思う。この語源は、色鮮やかな絹布を、鈴鹿山系の清水で洗い、板に貼り付けて天日乾燥する洗い貼りの世界のような由緒のある言葉ではないかと思っている。
ここに私が経験して耳にしてきた四日市で日常的に使われていて、現在では関西や名古屋でもあまり一般的ではない興味深い四日市弁を私なりに集めて、「四日市弁小辞典」としてここにまとめてみた。

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                           【更新:2003/11/19】

四日市弁に関するご意見およびここに掲載されていない四日市弁がありましたら教えて下さい。  

   連絡先はこちらへお願いいたします

                           

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−カンピンタンの話 その2−

「カンピンタンは本当に四日市弁?」「カンピンタンの語源は?」「カンピンタンに相当する言葉は他にある?」等々といった疑問に答えるべく調査した結果を以下にまとめて報告する。
『日本語方言辞書』(藤原与一編、東京堂出版)や『広辞苑』などの日本語の辞典・辞書類にカンピンタンは載っていない。

『全国方言辞典』(東條操編、東京堂出版)には、なんと「カンピンタン」が以下のように載っている。
 かんぴんたん [名詞]ヾチ腓靴燭發痢(O重県南牟婁郡、奈良県宇陀郡)
             △海舛海舛砲覆辰燭發痢(賀県甲賀郡)
             やせっぽち。(新潟隙允城地方、和歌山県)

『日本国語大辞典』(小学館)
 かんぴんたん 寒貧短[名]全くお金がないこと。無一文。素寒貧。
        方言ヾチ腓靴燭發痢(三重県南牟婁郡、志摩郡、奈良県宇陀郡)
          △笋擦深圈△笋擦辰櫃繊(千葉県夷隅郡、新潟県錘踉城郡、
           和歌山県)

『京ことば辞典』(井之口有一・堀井令以知編、東京堂出版)
カンピンタン[名]よく乾燥したさま。例:「カンピンタンに乾いたチリメンジャ
コがほしいんやけど。」 

私の独断的意見:

三重県の最南端南牟婁郡や奈良県宇陀郡と四日市は地理的にかけ離れすぎていて、関連づけるには無理があるようだ。カンピンタンのルーツは京ことばにあると考えた方が、現在の北勢地域で使われているカンピンタンの優雅さにはぴったりくるのではないだろうか。
四日市弁のルーツとして考えられる言葉が関西(京都・大阪など)にあるものと、名古屋・岐阜などの中京地区にあるものが大半で、その他の地区から入ってきたものが少ないことがわかる。ここには日常的に使われている四日市の関西弁はもちろん入れていないので、全体が見えにくいかもしれないが、四日市のことばの85%は関西由来、10%が名古屋由来であり、残り5%が四日市独特の、あるいは四日市で育てられたものではないかと思っている。お伊勢参りで全国から人々が出入りしていたにもかかわらず、ほとんどのことばが関西由来のものであるのは、やはり北東側に3本の大河で隔てられた三重県のおかれた地理的な位置関係が影響しているのは明らかだろう。西に急峻な鈴鹿連峰を配し、ほとんどを海に囲まれたこの地への昔の文化の流入ルートは、関西から現在の国道25号や163号などとなっている奈良・京都ルートが一般的だったのかもしれない。近年になって橋ができて、名古屋からのルートでいろいろな名古屋弁が八丁味噌とともに入ってきたので、その両極端がうまく調和して今の四日市弁が完成したのではないかと思われる。
私の偏見かも知れないが、全体的に四日市弁は荒っぽい言葉として聞こえるのだが、これは前述した関西ルートからの河内・泉州方面の言葉と名古屋弁がうまく融合し、それに富田などの港町の言葉の影響を受けたためではないかと推測される。
「四日市弁小辞典」は私の独断と偏見にもとづいて列記しただけのものなので、おかしなものが多くあると思うが、勘弁してほしい。

ここで「源」として記述したのは、その言葉のもとがどの地域から生まれたかを示したつもりだが、詳細なチェックはできなかったので、間違っているかも知れない。

尚、この小辞典には現在四日市で日常的に使われているしんどいあほなどに代表される関西弁とタワケなどの名古屋弁は入れていない。

 

《アホ・バカ論争》

アホ・バカの地域分布の研究をしているグループがあり、言語学的にも参考になりそうなので、ついでに紹介しておきたい。

これはテレビ朝日が1990年頃から上岡龍太郎が司会の「探偵!ナイトスクープ」という番組で、アホとバカの境界線はどこにあるかというテーマを調査し、『全国アホ・バカ分布考―――はるかなる言葉の旅路』(松本修著、太田出版)という本にまとめたものである。それによると大きく分けて東日本のバカと西日本のアホに分割できるという。しかし、その間に名古屋弁のタワケという言葉が存在するという。このタワケ文化圏の東端は愛知県東部三河地区であり、西端が岐阜県関ヶ原らしい。この地域の挟んで東はバカ、西がアホというのも非常に興味深い。ちなみに北陸では別のダラ・ノクテの世界があり、また岡山・鳥取以西は再びバカが主流になるらしい。タワケは四日市でもたまに聞くことがあるが、これは木曽・長良・揖斐川を渡ってちょっとした隙間からこぼれてきたものだろう。前述の本に以下のような三重県の女性の便りが紹介されている。「タワケなどという下品な名古屋弁を使うのは三重県の北部だけです。三重県ではアホと言うのが一般的です。」
このタワケの境界こそ、きしめん・八丁味噌に代表される名古屋の食文化と共通のものであり、その僅かな隙間に四日市の八丁味噌の豚汁が存在し、同様にいくらかの名古屋弁が流入して、現在の四日市弁ができあがっているのではないかと思う。

尚、本編の名古屋弁の情報源として、名古屋銀行のホームページ「
名古屋弁セミナー」を参考にさせてもらいました。感謝をこめて付記させていただきます。

 本小辞典の大半は、 私が足で集めた成果であり、血と汗の結晶であることをご理解いただきたい。

 本小辞典に掲載すべきことばがありましたら、追加掲載させていただき、完成版にしたいと思いますので、下記へご連絡いただきたくお願い申し上げます。

      連絡先 Mail Address: ytama@mtj.biglobe.ne.jp